第三話 スキルポイントとオプションポイント
ガス欠や食料不足といった、当面の心配がなくなって安心した和斗だったが、それはそれとして。
気になる事がある。
カーナビに表示された『リロード』という言葉だ。
武器の弾丸を補充するからには、その弾丸を使用する武器があるはずだ。
そして個人装備と搭載武器に分かれているのも気になるトコだ。
「装甲車のステータスに、武器は表示されてないな。って事は、スキルポイントとか、オプションポイントとかだろうな」
カーナビを操作して調べてみると、スキルポイントを消費する事により。
消費燃料減 1~~8段階
装甲性能アップ
防水性能。 1~~8段階
属性耐性アップ 1~~8段階
リビルド。
ⅯP自動回復。
をマローダー改の性能に追加できるようだった。
「消費燃料減か、こりゃあイイや。でもⅯPを消費したら燃料は満タンにできるんだから、今すぐにスキルポイントを消費して消費燃料減のスキルを習得しなくてもいいし……しっかり考える必要があるな」
という事で、オプションポイントも調べてみることにする。
「オプションポイントで出来るのは、武器購入か」
武器購入
@個人装備武器
ベレッタ 10
Ⅿ500 15
Ⅿ16 20
Ⅿ700 30
バレット 60
ツェリスカ 200
カールグスタフ 1000
@キャンピングカー搭載武器
Ⅿ2重機関銃 240
120ミリ戦車砲塔 20000
ヘルファイア4基 10000
チェーンガン 20000
レーザー砲 800000
「とんでもないモノまで買えるんだな……」
そこで和斗は、アメリカ軍が実験用に、レーザー砲を2基160億円で購入した事をネットで見た事を想いだした。
120ミリ戦車砲は、防衛省の発表によると8500万円だった気がする。
「それを参考にしてみると……1オプションポイントが100ドルか、1万円くらいに相当する感じかな?」
武器を購入できるのは心強い。
しかし今すぐ武器が必要な状況でもなさそうだ。
それに今、スキルポイントもオプションポイントも23しかない。
何に使うか、しっかりと考えなければならないだろう。
「え~~と、なにコレ?」
そこで美少女がモニターに表示されたベレッタをチョンと突っつくと、アメリカ軍の正式採用拳銃であるベレッタのデータが写真付きで現れる。
ベレッタⅯ9
レーザーポインター装備 予備弾倉10個、ホルスター付。
購入しますか? イエス/ノー
「おい!?」
和斗が止める間もなく美少女がイエスに触ってしまう。
と同時に、美少女の目の前にレーザーポインター付ベレッタと、予備弾倉10個が現れた。
なぜか宙に浮いているベレッタだったが、美少女が触れるとスコンと落下する。
「アイタッ!」
ベレッタに直撃された可愛らしいオデコを抱え込む美少女を無視して、和斗はベレッタに手を伸ばしてみた。
硬い感触にズッシリとした重さ、そして何よりも精巧な造り。
「どうやら本物の拳銃みたいだな。しかし、ここでオプションポイントを使っちまったか……」
和斗の言葉に含まれた非難を敏感に察知した美少女が、ただでさえ小さな体を一層小さくする。
「ご、ごめんなさい……」
「やっちまったモンは仕方ないけど、これからは勝手に触らないでくれよな」
「はい……」
美少女はシュンと俯いてしまった。
その様子は捨てられた子犬のようで、とんでもなく酷い事をしたかのような気分になってしまう。
そんな罪悪感に負け、和斗はホルスターを使ってベレッタを装備しながら美少女に話し掛ける。
「別に怒った訳じゃないから、そんな顔すんな。ええと、そういやお互い名前も知らなかったな。俺は寺本和斗だ」
「テラモト カズト? ボクはリムリア・トエル・ワラキア・ドラクルだよ」
「リムリア・トエル・ワラキア・ドラクル? 長い名前だな」
「リムでいいよ。そのかわりボクもテラモトって呼ぶから」
「せめてカズトにしてくれ」
「分かった。じゃあカズト、これから宜しくね」
元気を取り戻したリムリアにホッとしながら和斗は頷く。
「ああ。ドラクルの聖地に連れていってやるから、俺を元の世界に戻してくれよ」
「任して!」
胸を張るリムリアに、和斗はふと思いついて聞いてみる。
「ところで危険なのはゾンビだけか?」
「うん。疾走ゾンビにビーストゾンビにデビルゾンビ、ゾンビドックやゾンビタイガーやゾンビブルやゾンビベア、ゾンビバットにゾンビイーグルといったゾンビ化アニマル。他にはゾンビグリフォンにゾンビマンティコア、ヒドラゾンビにドラゴンゾンビとかかな? とにかく危険なのはゾンビだけだよ」
「そりゃゾンビだけって言わねーー!」
思わず大声を上げてから、和斗は考え込む。
疾走ゾンビや動物のゾンビなら、マローダー改の敵ではなさそうだ。
しかしデビルゾンビとは、どんなゾンビなのだろう。
それにゾンビグリフォンにゾンビマンティコア。
和斗が知っている通りなら、どちらも翼を持っているモンスターだ。
もしもゾンビ化しても空を飛べるとしたら、轢き殺すしか攻撃手段をもたないマローダー改では倒す手段がない事になる。
ただしゾンビグリフォンとゾンビマンティコアと戦っても、マローダー改に立て籠もっていれば被害を受ける事はないだろう。
マローダー改の装甲なら、グリフォンやマンティコアの爪や牙で傷つく事はないだろうし、20トンもある車重は体当たりも跳ね返してくれるだろうから。
しかしゾンビヒドラやゾンビドラゴンとなると、マローダー改でもひっくり返されるかもしれない。
となると、ドラゴンを倒せる武器が必要となってくる。
ドラゴンの強さがどれほどのものか分からないが、少なくともベレッタ一丁で太刀打ちできる相手じゃなさそうだ。
「万が一のコトを考えると、強力な武器を手に入れておいた方がよさそうだな。ナニを買うかは後で考えるとして……」
そこで和斗は、いつの間にかマローダー改を取り囲んでいたゾンビの大群に視線を向ける。
「とにかくゾンビを殺せばポイントが貯まるみたいだから、まずはコイツ等を轢き殺してポイントを集めるか」
そう呟いてから和斗はマローダー改を発車させて、周囲を取り囲んでいるゾンビを轢き殺していく。
これはどんな車でも同じだが、狙った通りの場所にタイヤを通過させる事はかなり難しい。
しかし苦労しながらも和斗は、全てのゾンビの頭を轢き潰す事に成功した。
「さてと。どれだけポイントを稼げたかな?」
和斗がドキドキしながらカーナビのモニターに手を伸ばして操作すると。
――ゾンビ387匹を倒しました。
経験値387
スキルポイント 387
オプションポイント 387
を獲得しました。
累計経験値が100を超えました。
そう表示されていた。
続いて。
パラパパッパッパパ――!
ファンファーレが響き渡った。
そしてカーナビに。
――装甲車レベルが3になりました。
最高速度が120キロになりましました。
加速力が10%、衝撃緩和力が25%アップしました。
登坂性能が61度、車重が25トンになりましました。
装甲レベルが鋼鉄40センチ級になりました。
ⅯPが20になりました。
と表示された。
が、それで終わりではなかった。
――累計経験値が400を超えました。
パラパパッパッパパ――!
驚いた事に、続いてもう一度ファンファーレが響き渡った。
どうやらレベルが2つも上がったらしい。
――装甲車レベルが4になりました。
最高速度が130キロになりましました。
加速力が10%、衝撃緩和力が25%アップしました。
登坂性能が62度、車重が30トンになりましました。
装甲レベルが鋼鉄60センチ級になりました。
セキュリティーがレベル2になりました。不法侵入者を拳銃レベルで排除します。
ⅯPが25になりました。
敵を倒すとポイントが手に入り、一定量が貯まるとレベルが上がり、ステータスが強化される。
これは正にロールプレイングゲームだ。
しかし残念ながら、ステータスが上がるのはマローダー改だけ。
和斗は普通の人間のままだ。
「ち。普通、レベルアップするのは、異世界召喚された主人公である俺だろ、まったく」
グチる和斗だったが、レベルアップしないものは仕方ない。
「でもマローダー改がレベルアップするダケでもラッキーと思うべきか」
和斗はそう自分に言い聞かせて溜め息をついた。
ところで。
話は変わるが、和斗が好きなゲームの一つに、サバイバルホラーの名作ゲームがある。
新しい武器を手に入れながらゾンビを倒して、ストーリーを進めていくゲームだ。
そのゲームに、経験値を稼いでレベルアップしていくRPG要素まで加わったのが、現状といえなくもない。
そしてマローダー改に乗っている限り、ゾンビごときナンの危険もないコトを考えてみると、視覚効果が素晴らしいホラーゲームをやっているようなモンだ。
そう考えると。
「なんだか楽しくなってきたぜ」
和斗はアップしたマローダー改のステータスに目をやると、ニンマリと笑ってからリムリアに目を向ける。
「よし。目に付いたゾンビを全部倒してポイントを稼ぎながら、ドラクルの聖地を目指す事にするけど、それでいいか?」
「うん。この不思議な乗り物の事はボクには分からないから、カズトの指示に全面的に従うよ」
と、そこでリムリアのお腹がクウ、と可愛らしい音を立てた。
「え、あ、いや、これは……」
真っ赤になるリムリアに、和斗は後部のキャンピングカールームを指差す。
「食料なら山ほど用意してある。俺も腹が減ったから、昼メシにしよう」
和斗は大型冷蔵庫を開けると3種類のサンドイッチと、ミルクティーのペットボトルを取り出した。
カツサンド、ハムカツと玉子のサンドイッチ、ハムと野菜のサンドイッチを座席に並べると、ペットボトルをリムリアに渡す。
「好きなだけ食べたらいい。いくらでもあるから」
和斗がラップを剥がしてカツサンドに噛み付くと、リムリアもマネしてサンドを口にして顔を輝かした。
「美味しい! こんなの初めて食べた!」
「そうか、どんどん食え」
「うん!」
リムリアの幸せそうな顔を見ていると、和斗まで幸せな気分になってくる。
やっぱり可愛らしい女の子と一緒だと、食べ慣れているサンドイッチだというのに物凄く美味しく感じてしまう。
やはり美少女は偉大だ。
「さて、と」
和斗はサンドイッチを食べ終わったとこでトイレに行きたくなる。
が、マローダー改にはトイレは作っていない。
スペースが限られている上、トイレは道の駅やコンビニで借りるつもりだったからだ。
「しかたないな。リム、ちょっとココで待っててくれ」
和斗はマローダー改のドアを開けると、跳び下りてリムリアから見えない場所に行って用を足そうとするが。
ガシ!
いきなり脚をガシッと掴まれてしまった。
2020 オオネ サクヤⒸ