第二十九話 こっちから行くよ!
酒盛りは、そのままパーティーへと姿を変えた。
リムリアの父親の居城=タンカレー城での派手なパーティーに。
そのパーティーで和斗は、一族や重臣に紹介され、質問攻めにされる。
そんな日々が、何日も続いた頃。
「こんなに毎日パーティーを開いていて大丈夫なのかな?」
和斗は密かに呟いた。
今はまだ昼前。
にも関わらず、朝からパーティーは始まっている。
正確に言えば、ず~~っとパーティーは続いていた。
さすがに仕事をしなくてイイのか、と心配になってしまう。
そんな和斗の呟きに、リムリアがアッサリと言い切る。
「このくらい普通だよ。単純労働はゴーレムがやるから、必死に働く必要ないし」
「凄いな。日本より、ずっと豊かな生活を送ってるんだな」
感心する和斗に、リムリアが微笑む。
「でもカズトの世界のほうが、美味しいモノが多いけどね」
「ま、それは日本の取り柄だと思う」
和斗は、他の国に行った事などない。
だが、食べ物に関しては、日本は世界一と良く聞く。
少なくとも安くて美味しいモノなら、世界一だと思う。
あくまで日本の一般庶民のレベルで、の話だが。
などと和斗が考えていると。
「カズト、こっちから行くよ!」
リムリアが、急に声を上げた。
「ど、どうしたんだ、いきなり?」
ワケが分からない和斗に、リムリアが声を張り上げる。
「だって長老連中からの返事を待ってたら、本当に50年かかっちゃうモン」
姫の立場にあるリムリアの結婚には長老たちの許しが必要。
しかし、その許可が出るまで50年くらいかかるのが普通という。
そんなに待てないと言うのも、不思議ではない。
それにはそうかも、と和斗も思う。
確かにマローダー改とステータスを共有する事により、永遠に近い寿命を得た。
それでも50年は長すぎる。
「そうだな。でもそんな事して、リムの立場が悪くなったりしないのか?」
和斗だって今すぐリムリアと結ばれたいと思う。
でも。
リムリアが一族から悪く思われる事だけは避けたい。
そう心配する和斗に、リムリアがニッと笑う。
「大丈夫だよ。前例がないコトじゃないし」
「そうなのか?」
「うん。父様達だって、直談判して許してもらったんだし」
「そ、そうなのか!?」
同じ言葉を繰り返す和斗に、リムリアが頷く。
「47年待ったトコで我慢できなくなって、許可を貰いに行ったって聞いた」
なら心配いらないかも。
そう安心する和斗の背後から。
「それを言われると弱いな」
タンカレーが声をかけてきた。
「たしかに私も待ちきれなかった。リムの気持ちは、よく分かる」
そう口にしたタンカレーの隣で、女性が声を上げる。
「そうね、スゴくよく分かるわ」
リムリアの母、マティーニだ。
とんでもない美女で、20代前半にしか見えない。
「でもね、リム。父様と母様の場合、長老たちは許可する事を決めてたの」
「その通り。私達は、許可が下りる直前に、乗り込んで行ったダケなんだよ」
そう口にしたタンカレーに、リムリアがフンと鼻を鳴らす。
「だから直接会って、カズトの力を見せつけるんだい!」
和斗に視線を向けるリムリアにタンカレーが苦笑する。
「確かに彼の戦闘力を目にしたら、反対する者はいないだろうな」
「でしょ!」
目を輝かすリムリアの肩に、タンカレーがポンと手を置く。
「わかったよ、行くがいい」
そしてタンカレーは和斗に目を向ける。
「キミの戦闘力なら、道中の心配はいらないね」
「はい」
絶対にリムリアを護ってみせる!
そんな思いを込めた一言を口にした和斗に、タンカレーとマティーニが微笑む。
「では、娘を宜しく頼む」
「新婚旅行と思って、楽しんでらっしゃい」
「か、母様……」
リムリアは顔を真っ赤にすると、ギクシャクした動きで和斗の手を引っ張る。
「さ、カズト! 出発するよ!」
「え! 今からか?」
「善は急げだよ!」
和斗と一緒にマローダー改へと盛り込むリムリアに、夫妻が笑みをこぼす。
「からかい過ぎたんじゃないか?」
「いいんですよ。リムが言った通り、出発は早い方が良いですから」
「それもそうか」
こうして和斗とリムリアは、長老に認めて貰う旅に出る事になったのだった。
マローダー改で旅に出てから数日後。
「新婚旅行か……」
和斗の何気ない呟きに、リムリアが真っ赤になる。
「え!? カ、カズト……え~~と、そ、それは……」
言葉にならないリムリアに、和斗はフッと笑みを漏らす。
「いや、俺はこの世界の事、何も知らないと思ってな」
「?」
首を傾げるリムリアに、和斗は続ける。
「この世界がどんなトコなのか、見て回りながらの旅も悪くないと思ってな」
「そ、そうだね。和斗はゾンビだらけの領地しか知らないもんね」
ちょっと考え込んでから、リムリアは笑みを浮かべた。
「うん、旅を楽しみながら長老のトコを巡るのもイイね」
考えてみたら、この世界に来て以来、戦いっぱなしだった。
でも、もう戦う必要はない。
……多分。
なら、この世界のコトを、もっともっと良く知りたい。
綺麗な場所が、沢山ある事だろう。
美味しいモノだって、沢山ある事だろう。
50年は待てないけど、かといって無理に急ぐ事もない。
リムリアと一緒にノンビリ旅行だ。
などと、和斗がほのぼの考えていると。
「あ!」
リムリアが大声を上げた。
「ど、どうしたんだ、リム?」
「やられた~~。コレ見て、カズト!」
リムリアが差し出したのは、1通の手紙。
そこには。
――長老に直談判する時は、家からの支援は一切ないのが決まりだ。
だから旅費も自分で稼ぐんだよ。
パパより
「あんのクソ親父~~! つまんない事しやがって~~!」
バンバンと椅子を叩いてるリムリアに、和斗は尋ねる。
「ま、今さら、何を言っても遅いさ。でも、どうやって稼ぐのが普通なんだろ?」
マローダー改に乗っていれば衣食住に不自由する事はない。
しかし!
それぞれの土地の名物料理も食べたいし、美しい風景も楽しみたい。
そのために必要なのは、言うまでもなく金。
だからこの世界の金を稼ぐ必要がある。
「そ、そうね。旅しながらお金を稼ぐのは、冒険者が1番じゃないかな?」
『冒険者』
その一言に、和斗の胸はドクンと跳ねた。
やっぱり異世界といったら冒険者だよな!
この世界に来て、初めてワクワクしてきたぜ。
ニンマリしてしまう和斗に、リムリアが不思議そうな目を向ける。
「どうしたのカズト。何だか嬉しそうだよ?」
「あ、いや、そういうのもイイかな、と思って」
「なんで?」
「だって人の役に立ちながら旅できるんだろ? サイコーじゃん」
リムリアは和斗の言葉に、一瞬キョトンとした表情になるが。
「きゃははは! そうだね。人の役に立って、しかも儲かるんだもんね。じゃあ次の街に到着したら、さっそく冒険者ギルドに行ってみようか」
というコトで。
最初の街で、和斗とリムリアは冒険者ギルドへと向かう事に決めたのだった。
最初の街は、かなり大きな街だった。
というか、今まで見た街の中では1番大きい。
この大きな街の名は、ボルドーというらしい。
マローダー改2台が楽々と通れる広さのメインストリート。
そのメインストリートの両側に並ぶ数々の店。
どの建物も中世ヨーロッパ風だが、どれもシッカリした造りのものばかり。
ほとんどの建物は2階建てだが、3階建のものも少なくない。
そして道を普通の人間、獣人、魔族など、多種多様に人々が歩いている。
ちなみにドラクルの一族は、自ら『魔族』を名乗っているらしい。
「へえ。この街は賑やかだな。ゾンビの被害はなかったのかな?」
「あ、この辺りは、ゾンビ被害が出た地域とは、ちょっと離れたトコだから」
「へぇ、そんなモンなのか」
などと話している内に、冒険者ギルドの前に到着した。
ガッチリした3階建の建物だ。
「へえ。ここが冒険者ギルドかぁ」
「さ、行こカズト」
助手席から飛び降りるリムリアに続いて和斗も跳び下りると。
「おい、鉄の塊から人間が出て来たぞ」
「ナンだ、あの動く鉄の塊は?」
「見た事もない形をしているぞ」
「それに馬が引いているワケでもないのに動いてるぞ」
「初めて見たな」
ヒソヒソと話す声が、アチコチから聞こえてきた。
「目立ち過ぎたかな?」
和斗は居心地の悪さを感じるが。
「いいんじゃない? どうせボクの身分を明かしたら目立つんだから」
リムリアは気にした素振りも見せず、和斗の腕を引っ張る。
「さ、それより早く冒険者の登録をしよ!」
こうして和斗は、冒険者ギルドの入り口を潜ったのだった。
中は、広い待合室だった。
昼過ぎといいコトもあって、人はそれ程多くない。
それでもテーブルを囲んでいる人間が、6組ほどいる。
「ふん、見慣れない顔だな」
「へっ。こんな真っ昼間にギルドに来るのは、超ベテランかド新人だぜ」
「いや、超ベテランってコトぁないだろ」
「流れ者かもしれないぞ」
「どっちにしても可愛らしい嬢ちゃんと若造だ。新人だろ」
「違ぇねぇ!」
『ぎゃはははははははは』
馬鹿笑いしている男達を無視して、リムリアはカウンターに向かう。
「いらっしゃいませ、冒険者ギルドにようこそ。御用は何でしょうか?」
カウンターの向こうで、綺麗な女の人が笑顔で応対する。
きっと、受付の人なのだろう。
見事な営業スマイルだ。
「冒険者になりたいの。手続きを、お願い」
そうリムリアは口にした瞬間。
「ぎゃははははは!」
「新人どころか冒険者ですらなかったぞ!」
「おい、笑い過ぎだ」
「そうそう、誰にでも初めてはあるんだ」
「でも、見た目通り過ぎだろ!」
「いや、こりゃあ参ったぜ!」
6組の冒険者達が、更に騒ぎ出した。
「ちょっとイラッとしてきた」
可愛らしいオデコに青筋を浮かべるリムリアに、受付嬢がコソッと囁く。
「中途半端な腕の冒険者が言うコトです。相手にするだけ時間の無駄ですよ」
「……綺麗な顔してるのに、辛辣だね」
ニッと笑うリムリアに、受付嬢もニッと笑い返す。
「礼儀正しい人には礼儀正しく。礼を尽くすに値しない人には、それなりに対応しているダケです」
「気に入ったわ。じゃあ、手続きをお願いします」
やや言葉を丁寧に変えたリムリアに、受付嬢は書類を見せる。
「ではコレに、必要事項を書き込んでください」
必要なのは名前と年齢と得意なコト。
それだけだった。
「これだけでイイの?」
拍子抜け気味のリムリアに、受付嬢が厳しい顔になる。
「冒険者ギルドへの登録は簡単です。しかし登録自体は簡単なのですが、実際に冒険者として活動する前に、試験を受けてもらう必要があります」
受付嬢の説明によると、冒険者の評価は2つ。
戦闘力を表す『級』
そして冒険者ギルドへの貢献度を表す『レベル』だ。
戦闘力は。
F 級……一般人並み
E 級……1分隊(10人) に匹敵する戦闘力
D 級……1小隊(50人) に匹敵する戦闘力
C 級……1中隊(250人)に匹敵する戦闘力
B 級……1大隊(1千人) に匹敵する戦闘力
A 級……1連隊(3千人) に匹敵する戦闘力
S 級……1師団(1万人) に匹敵する戦闘力
SS 級……1軍(5万人) に匹敵する戦闘力
SSS級……一国の軍隊 に匹敵する戦闘力
に、分類される。
そしてギルドのレベルは、累計ポイントでアップしていく。
例えば。
薬草収集は 2ポイント
ドブ掃除は 3ポイント
ゴブリン退治 1匹 1ポイント
素材売却 金貨1枚分で1ポイント
累計50ポイントでレベル1に昇格。
累計250ポイントでレベル2に昇格。
といった具合だ。
そしてギルドレベルが高いと。
武器屋、アイテム屋、宿屋、食堂などを利用した時の割引率がアップする。
ギルドの施設を優先的に使用できる。
引退する時、退職金の額が多くなる。
などといった特典がある。
つまり戦闘力が高いほど、報酬が高い依頼を受けられる。
しかし戦闘力が低くても。
コツコツと誠実に依頼を受けていれば、それなりの生活を送れる。
というシステムのようだ。
「へえ。真面目に仕事をしてれば、ちゃんと評価して貰えるんだ」
感心するリムリアに受付嬢が頷く。
「冒険者ギルドは、例え戦闘力が低くても、勤勉に仕事をこなしている人、誠実に仕事をしている人を、正当に評価します。戦闘力が高い人だけが、価値ある人間であるワケじゃないですから」
「気に入ったわ! で、試験って何をするの?」
「まず級を決める為に、攻撃力を見せてもらいます。そして、その攻撃力を見た上で、実戦的な試験を受けて貰って戦闘力を決めます」
そう言うと、受付嬢は立ち上がったのだった。
2020 オオネ サクヤⒸ




