第二十六話 ずっとボクを護ってね
「カズト!」
戦いが終わり、ワラキア城の中にマローダー改を乗り入れた和斗に、リムリアが飛び付いてきた。
「リム、終わったな」
「うん、カズトのおかげだよ」
ギュッと抱き締め返す和斗にリムリアが可憐な花のような笑みを浮かべるが、その背後で。
「ゴホン! ウォッホン! ゲホン! ゴホッ、ゴホッ、ゴホホッ……」
ワザとらしい咳払いをして、最後には本当に咳き込む人物がいた。
見た目は30歳くらいに見える。
質実剛健な鎧に身を包み、ワーウルフロードを引き連れた、品の良い男性だ。
その品の良い人物にリムリアが唇を尖らせる。
「何だよ父様、カンドー的な場面なのに……」
「父様!? こんな若い人がリムの父さんなのか!?」
目を丸くする和斗に、リムリアが頷く。
「うん。ドラクルは全盛期のままの姿で永遠を生きるんだよ……クエ!」
品の良い人物は、当たり前、とばかりに答えるリムリアの襟首を掴んで引き寄せると、和斗と向かい合う。
「助けてもらった礼がまだだったね。ワタシはタンカレー・トエル・ワラキア・ドラクル。このワラキア領の領主として、カズト殿に感謝の意を表する。ありがとう」
「あ、いえ、俺は頼まれたから力を貸しただけで、1番頑張ったのはリムです。リムを褒めてあげてください」
「ありがとう。娘を褒めて貰えて嬉しいよ」
タンカレーは父親の顔で微笑んだ後、その顔に厳しい表情を浮かべた。
「しかし、キミ達2人の仲を認める事は出来ないのだよ」
「父様! 何を言い出すんだよ!」
顔を真っ赤にして大声を上げるリムリアをジッと見つめてから、タンカレーは諭すように言葉をかける。
「リムだって分かっているだろう? ドラクルは全盛期の姿で永遠を生きるが、カズト殿は100年ほどで命を終える人間だ。そんな人間と、大事な娘との付き合いを認める事など出来る訳がない」
「そ、それは……カズトをボクのオンリーワーウルフに変えればいいだけじゃないか!」
「確かに、そんな方法もあるな。が、ワラキアの姫であるリムに、永遠の伴侶を簡単に決める事は出来ない。一族に認められた者しかオンリーワーウルフに帰れない決まりだから」
「なら一族に認められたらイイだけじゃないか!」
「その通りだ。カズト殿が一族に認められるまで生きていられるならな」
「あ!」
言葉を失うリムリアに、タンカレーが続ける。
「ワタシが結婚の許しを得るまで50年かかった。そして50年後となると、カズト殿は寿命を終える寸前だろう。そんな付き合いを認める事など父親として出来る訳がないだろ?」
「で、でも……」
食い下がろうとするリムリアを手で制すると、タンカレーは和斗に向き直った。
「カズト殿、元の世界に帰る最後のチャンスです。ハッキリ言えば、リムとキスした時点でカズト殿はこの世界の生き物となり、元の世界との繋がりが切れて戻れなくなります」
日本に帰る最後のチャンス。
というタンカレーの言葉に、和斗は自分でも意外なほど心が動かなかった。
だから和斗は素直に心の内を言葉にする。
「元の世界に帰るより、リムと一緒に居られる方が、俺にとって遥かに価値があります」
迷いなく言い切った和斗に、リムリアがパアッと顔を輝かせた。
「ボクもだよ! カズトと一緒ならワラキア領の姫じゃなくなっても構わない。このまま旅に出よ! マローダー改があれば、困る事なんかないから!」
和斗の腕を引っ張ってマローダー改に乗り込もうとするリムリアに、タンカレーが大声を上げる。
「リム、そんなこと許されるわけがないだろ! よく考えるんだ、カズト殿はドラクルから見たらアッという間に年老いて死んでしまうのだぞ!」
と、そこにサポートシステムの声が響く。
《マスターはマローダー改とシンクロしていますので、マローダー改が消滅しない限りマスターは今の姿のままです》
「そ、そうなのか!?」
誰よりも早く驚きの声を上げた和斗に、サポートシステムが続ける。
《はい。そしてマスターは以前から、マローダー改のステータスの一部を共有しています。でなければⅯ500を片手で撃てる訳がありません》
そう言われて、和斗はビーストゾンビを狙撃スペースから射殺した時の事を思い出す。
あの時は夢中で気が付かなかったが、巨体のアメリカ人が両手で撃っても反動で怪我する事があるⅯ500を、片手で楽々と撃つなど普通じゃあり得ない。
「じゃ、じゃあ……」
期待に目を輝かせるリムリアに、サポートシステムが言い切る。
《時間に関して、マスターに不都合などありません》
「やった――!」
リムリアはガッツポーズをとると、タンカレーに詰め寄った。
「なら何の問題もないよね!」
「う、あ、そ、そうだな……そういう事なら付き合いを検討しても良いかも……」
「やった! カズト、これからズット一緒だよ!」
ムギュ~~ッと和斗に抱き付くリムリアの後ろで、タンカレーが騒ぐ。
「いやリム、まだ正式に交際を許した訳じゃ……なあリム、ワタシの話を聞いてくれないか?」
聞いてない。
リムリアは幸せそうな顔で和斗に囁く。
「ねえカズト。ボクのオンリーワーウルフになってくれるよね」
「ああ。リムを護るのは俺だ。他のヤツに、その役を譲る気はない」
「うん。ずっとボクを護ってね」
今までで1番可愛らしい顔でそう口にしたリムリアを、和斗はキュッと抱き締めたのだった。
とりあえず、この話で一区切りです。
いつか再開したいと思いますが、今は書きたい話が幾つかありますので、それを書かせていただきます。
申し訳ありません
2020 オオネ サクヤⒸ