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第二十五話  3分52秒です


  



 ワラキア領はドラクルが統治する国の東の端、つまりクーロン帝国との国境に位置する。

 そして今、ワラキア領はクーロン帝国軍1000万人の進攻を受けていた。

 

 そんなクーロン帝国軍に対して。

 ワラキア領は、正ドラクル20名が城壁の上から攻撃魔法を放って応戦していた。


 ワーウルフロード40名が城壁の外で戦闘力の高さを生かして遊撃を繰り広げ、ハイ・ワーウルフとワーウルフが城壁の上から、怪力を活かした投げ槍と弓矢で迎え撃つ。

 10万人程度の軍隊なら楽々と撃退出来る戦力だ。


 しかし1000万人もの戦力を前に、ワラキア領は苦戦を強いられていた。

 地球でファランクスと呼ばれる、長槍を持った兵士による密集隊形の突撃に、ワーウルフロードでさえ手を焼いている。

 しかもファランクスの突撃を、弓兵が矢を射かけてきて援護するのだ。

 同時に馬に乗った弓兵が機動力を生かして多方向から攻撃してくる。

 加えて、重装甲騎馬兵までもが突進してくる。

 

 ワラキア軍も反撃するが、ハイ・ワーウルフとワーウルフが放つ投げ槍と矢、そして正ドラクルが放つ攻撃魔法までもが、兵士が装備したアダマン製の盾によって防がれてしまっていた。

 しかも巨大な攻城兵器がジリジリと前進してきている。


 正ドラクルの魔力障壁なら攻城兵器くらい跳ね返せるが、クーロン帝国軍の攻城兵器の数は5000基もある。

 5000もの一斉攻撃を、いつまで食い止める事は不可能だ。

 このままではあと数時間でワラキア領は壊滅する。

 

 和斗とリムリアがワラキア領に到着したのは、そんな時だった。


「今まで何度もクーロン帝国軍を撃退してきた戦法が、通用してない……カズト、ワラキアは数の暴力に飲み込まれる寸前だよ……」


 弱々しい声を漏らすリムリアの頭に、和斗はポンと手を乗せる。


「でも間に合った」


 白銀ワーウルフからワラキア進攻を聞いた直後。

 和斗とリムリアは、ヴラドを回復させてゾンビ化現象を解決すると、可能な限りの速度でワラキアに向かった。


 ポエナリ城からワラキア領までは、かなり遠い。

 和斗がマローダー改を走らせる事ができる速度で走っていたら、何週間もかかっていただろう。

 そこで役に立ってくれたのがサポートシステムだ。


 白銀ワーウルフを倒す事によりマローダー改は62にレベルアップした。

 それに伴ってサポートシステムの能力もアップし、自動運転機能が追加された。

 その機能によりマローダー改は最高時速3370キロで走行し、そしてワラキアの危機にギリギリで駆けつける事ができたのだった。


「じゃあリム。準備はイイか?」

「うん!」


 リムリアは大きく頷くと、1000倍に強化したチェーンガンと200倍に強化したチェーンガンの2門を搭載した砲塔のコントローラーを握り締めた。


 このチェーンガンの砲塔の左右にはそれぞれ、ヘルファイア対戦車ミサイル4基を搭載している。

 そして和斗が握るのは、1000倍に強化した戦車砲と、200倍に強化した戦車砲の2門を搭載した砲塔だ。


 この砲塔の左右には、チェーンガンの砲塔に移したヘルファイアの替わりに、Ⅿ216ロケット弾ポッドを装備している。


「よし、食らえ!」


 そう口にすると、和斗はロケット弾を発射した。


 新しく装備したⅯ216ロケット弾ポッドは19発のハイドラ70ロケット弾を収納している。

 当然ながらこのハイドラ70ロケット弾も1000倍に強化しており、その殺傷圏内は500メートルにも及ぶ。


 ドッカァァン! ドッカァァン! ドッカァァン! ドッカァァン! 


「うわぁああああ!」

「な、何だ!?」

「何が起こっているんだ!?」

「ドラクルの魔法か!?」

 たった4発のロケット弾で大混乱に陥るクーロン帝国軍に、和斗は残っているハイドラ70ロケット弾の全てを撃ち込む。


 Ⅿ216ロケット弾ポッドには19発のハイドラ70ロケット弾が装填されているので、合計38発のハイドラ70ロケット弾だ。

 その38発のハイドラ70ロケット弾は、4万人を超えるクーロン兵を吹き飛ばした。

 しかし1000万人もいるクーロン帝国軍にとって、4万人の被害など微々たるモノ。

 すぐに冷静さを取り戻すと。


「敵の小型要塞だ! 一気に攻め潰せ!」


 マローダー改による攻撃である事に気付き、突撃してきた。


「リロード!」


 和斗はハイドラ70ロケット弾を再装填して再び全弾を発射しながら、リムリアに指示を出す。


「ロケット弾を近くに撃ち込むと爆煙で何も見えなくなるから、俺は出来るだけ遠くの敵にロケット弾を撃ち込む。リムは突撃してくる騎馬兵をチェーンガンで迎え撃ってくれ」

「了解!」


 ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ!


 リムリアが1000倍に強化したチェーンガンでクーロン帝国軍を薙ぎ払った。

 チェーンガンが着弾すると、100メートル圏内をキルゾーンに変える。

 殺傷範囲はハイドラ70ロケット弾ほどではないが、連射力では遥かに上回るチェーンガンは、数百人単位でクーロン帝国軍兵を撃ち倒していった。

 

 が、その凄まじい威力を目にして、和斗はふと不安を覚える。


「なあリム。ワラキアの人達がチェーンガンの巻き添えを食ったりしないかな?」

「大丈夫! さっき父様に魔法で連絡しておいたから」


 確かに城壁の外で戦っていたワーウルフロードが全員、城に戻って弓矢や投げ槍を放っている。


「じゃあ安心だな。おっと、攻城兵器が前進速度を上げやがった。どうやら攻城兵器でマローダー改を攻撃する気みたいだな」


 レベル62になって、マローダー改の装甲は、鋼鉄26209メートル級になっている。

 たとえ攻城兵器の直撃を食らっても無傷なのは間違いない。

 だが、このまま前進されてワラキア城を攻撃されるワケにはいかない。


「ここは戦車砲の出番だな」


 和斗が戦車砲の照準を攻城兵器に合わせ、さっそく発射すると。


 ドッカァァン!


 轟音が響き渡り、周囲の兵士を巻き込んで攻城兵器が爆散した。


「よし、ドンドンいくぞ!」


 和斗が戦車砲で攻城兵器を兵士ごと吹き飛ばしていき、そしてリムリアがチェーンガンでマローダー改に向かってくるクーロン兵を撃ち倒していく。

 この調子なら楽勝だ、という考えが和斗の頭をよぎるが。


「カズト、クーロンのヤツ等、2手に分かれたよ!」


 リムリアが声を上げたように、マローダー改よりもワラキア城に、多くのクーロン兵が向かっていく。


「あの要塞よりもワラキア城を落とせ!」

「本丸さえ落とせば、クーロンの勝ちだ!」

「ワラキア城が盾になる位置に移動するんだ!」

「要塞は突進兵器に任せろ!」


 どうやらクーロン兵はマローダー改を要塞だと思っているらしい。

 もちろんマローダー改も攻撃の目標だ。

 装甲で覆った丸太に車輛を付けたものを、20人掛かりで押して突進してくる。

 しかも1台ではない。200台を超える数だ。


「なるほどな。マローダー改が要塞だったら、そんな戦法も有効だったかもな。でも……」


 和斗の言葉の続きをリムリアが口にする。


「うん。でもマローダー改は移動できるんだよね」


 ニッと笑うリムリアにニヤリと笑い返すと、和斗はマローダー改を、装甲丸太に向けて発車させた。


「な、なんだと!」

「動いた!?」

「ま、まさか!」

「要塞ではなかったのか!?」

「何という速度だ!」

「避けろ!」

「間に合わん!」

「ひぃ!」

「うぎゃ!」


 驚きの声を上げるクーロン兵士達を装甲丸太ごと撥ね飛ばすと、和斗はマローダー改をワラキア城の正門の前に横付けさせて、戦車砲をぶっ放す。


 ドッカァァン!


 戦車砲で狙ったのは攻城兵器だ。

 しかし戦車砲が引き起こした爆風は、正門に殺到していたクーロン兵も巻き込んだ。


『ぐわぁああああああ!」


 戦艦が主砲を発射する時、甲板にいたら砲撃の爆風で即死するという。

 それと同じ事。

 戦車砲の爆風に巻き込まれたクーロン兵が、ズタズタになって吹き飛んだ。


 ドッカァァン! ドッカァァン!


 和斗は砲撃を繰り返し、攻城兵器を破壊していくと同時に近づいてきた兵士を殲滅させていった。

 だが、攻城兵器の数は5000もある。

 それに対して和斗の砲撃速度は、1分間に30発。

 攻城兵器を全滅させるのに、単純計算で3時間近くかかってしまう。

 とても間に合わない。


「ち! ウジャウジャと……」


 和斗はまるで森のように乱立している攻城兵器を砲撃して潰していくが、進撃してくる攻城兵器の何基かに、ワラキア城を攻撃できる距離に入られてしまった。


「やったぞ! 撃て!」


 クーロン兵が叫び、50を超える巨石が攻城兵器から発射された。


「多い! これは魔力障壁じゃ防げないかも!」


 リムリアが叫ぶが、この状況は想定済みだ。


「サポートシステム! バルカン砲対空システムで撃ち落せ!」

「了解!」


 ブォォ! ブォ! ブォォォォ! ブォ!


 2基に増やしておいたバルカン砲対空システムが、飛来する家ほどもある巨石を簡単に撃ち砕いていく。

 さすが戦闘機を撃ち落すバルカン砲を1000倍に強化しただけあって、凄まじい威力だ。


「バカな!」

「攻城兵器が役に立たない!?」

「諦めるな!」

「もう一度、攻撃しろ!」


 攻城兵器の連射速度は遅い。

 しかしマローダー改は1台しかない。


 和斗とリムリアに危害が及ぶコトはないだろうが、このままではワラキア城は破壊されてしまうだろう。

 ワラキア城の人々と直接の面識はないが、リムリアにとって大事な人々だ。絶対に助けたい。


「どうしたらいい?」


 それは只の独り言だったが、和斗のその悩みに。


《バトルドローン10機を購入して100倍に強化すれば解決します》


 サポートシステムが答えてきた。


「でも、10機も操れないぞ!」


《10機ならワタシが操作できます。その替わりバルカン砲対空システムの操作は出来なくなりますが》


 バルカン砲対空システムが停止したら、攻城兵器による攻撃を撃ち落す事はできない。

 しかし、このままではジリ貧だ。

 どうしたらいいか、と悩む和斗にリムリアが提案する。


「カズト、これからボクはワラキア城に戻って、父様が力を合わせた魔力障壁を展開するよ! その魔法障壁なら、5分くらいなら攻城兵器に耐える事ができると思う!」


 そしてリムリアはサポートシステムに尋ねる。


「サポートシステム! 5分間で、攻城兵器を全滅させる事ができる?」

「5分も必要ありません。3分52秒で十分です」

「決まり! でイイよね、カズト」

「おう!」


 和斗は大急ぎでオプションポイント200万でバトルドローン10機を購入すると、スキルポイント645000を消費して100倍に強化した。


「これで任意の場所に設置したらいいだけだ。リム! リムがワラキア城に戻って魔力障壁を展開した瞬間に作戦を開始する。それでいいな」

「うん!」


 リムリアは引き締まった顔で頷いてからマローダー改から飛び降りると、正門の前で仁王たちになって怒鳴る。


「ボクだよ! 中に入れて!」

「姫様!? おい、急いで正門を開け!」


 正門を上のワーウルフロードが叫ぶと同時に正門が僅かに開き、リムリアが駆け込む。

 そして数秒後、魔力障壁がワラキア城を覆った。


「カズト、今だよ!」

「おう!」


 リムリアの合図と同時に、和斗はバトルドローンを、上空500メートル地点に設置する。


「サポートシステム、頼むぞ!」


《了解。攻撃開始します》


 そしてバトルドローン10機による攻撃が始まった。

 バトルドローンの正式名称はアパッチ・ロングボウD4。

 地球で最強と呼ばれる戦闘ヘリだ。

 その最強ヘリの武装はチェーンガン、Ⅿ216ロケット弾ポッド2基、ヘルファイア対戦車ミサイル8基。

 100倍に強化しただけだが、これはマローダー改10台に相当する戦果が期待できる。


 バシュバシュバシュバシュバシュバシュバシュバシュバシュバシュバシュ!


 ドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカン!


 ロケット弾が全弾発射され、ワラキア城に近い攻城兵器380基が、一斉に吹き飛んだ。

 これで当面はワラキア城を攻撃されるコトはないだろう。

 その直後。


 ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガがガガガガ!


 10門のチェーンガンが一斉に火を噴き、そして攻城兵器を見る見るうちに破壊していく。

 そして全ての攻城兵器が瓦礫と化すまでに要した時間は、3分52秒。

 サポートシステムが言った通りだった。


「これで、当面はワラキア城を直接攻撃されずに済むな」


 ほう、と息を吐いた和斗にサポートシステムが尋ねて来る。


《攻撃を兵士に切り替えますか?》


「ああ。全弾、ぶち込んでやれ。弾切れしたらⅯPがなくなるまでリロードしたらいい」


 サポートシステムにそう答えると100倍強化バトルドローン10機は、アパッチ・ロングボウ戦闘ヘリ1000機に匹敵する戦闘力を発揮し。

 ……僅か30分ほどでクーロン帝国軍1000万を全滅させたのだった。

 そして。


――クーロン帝国兵1000万匹を倒しました。

  経験値1000万。

  スキルポイント1000万。

  オプションポイント1000万

  を獲得しました。

  累計経験値が2065万を超えました。


 パラパパッパッパパ――! パラパパッパッパパ……。


――装甲車レベルが74になりました。

  最高速度が4820キロになりましました。

  加速力が20%、衝撃緩和力が50%アップしました。

  登坂性能が143度、車重が7550トンになりましました。

  装甲レベルが鋼鉄280420メートル級になりました。

  ⅯPが6200になりました。

 

 カーナビに、余りに大き過ぎてワケが分からない数値が表示され。


「ふう。これで戦闘は終わったんだな」


 和斗はマローダー改の運転席に体を沈めたのだった。







2020 オオネ サクヤⒸ

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[一言] アパッチをドローンとして使う、て。 もう無茶苦茶や(笑)
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