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第二十一話  あれがヴラドか


  



 長い廊下を進み、そして5分ほど歩いたところで扉の前に辿り着いた。

 ポエナリ城の城門と違い、ごく普通サイズの扉だ。


「この中にヴラドがいるんだな?」


 和斗の囁きにリムリアが緊張した顔で頷く。

「うん、間違いないよ」

「よし、じゃあリムの合図で俺が扉を蹴り破る。上手く不意打ちできればイイんだが……」


 そんな和斗にリムリアがフルフルと首を横に振る。


「無駄だよ。ヴラドだってサーチの魔法が仕えるんだから、ボク達がここに居る事なんて筒抜けだよ」


 言われてみれば、確かにそうだ。


「でも扉を開けた途端に攻撃魔法を食らうのはゴメンだな」


 そう漏らす和斗に、リムリアが微笑む。


「大丈夫。ボクが魔力障壁を展開するから。じゃあ行くよ」


 そう言うなりリムリアは扉を開け、スタスタと中に入っていった。


「おいおい」


 和斗が慌ててリムリアの後を追って部屋に飛び込むと、Ⅿ16を構える。


「アレがヴラドか」


 和斗はⅯ16の引き金に指をかけてヴラドを観察する。

 ローブを被っているので口元しか見えないが、それでも凄い美人である事は間違いない。

 身に付けているものも、高価なのが一目で分かる。

 しかし不思議なのは、ボロボロの布を被せた椅子に座っている事だ。

 豪華な室内にあって、この薄汚い椅子は明らかに異質な空気を放っている。

 何か目的でもあるのだろうか。


 そしてもっと気になるのは部屋の大きさだ。

 広さは20畳くらいで天井までは3メートルくらいしかない。

 こんな狭い所で魔法対決なんて出来るのだろうか。


 という和斗の心配は的外れなモノだったようだ。

 部屋全体がギシギシと軋み、空気がビリビリと振動している。

 もうとっくに魔力対決は始まっていたのだ。


 リムリアとヴラドの間の空間に、チリチリと肌が焼け焦げそうな熱気が発生したかと思ったら、次の瞬間にはキィンと骨まで染み込むような冷気が放たれる。

 そしてパリパリと部屋全体が耐電した直後、バキンと床が弾け飛んだ。

 おそらく魔力を押さえ込みながら反撃し、その反撃を魔力で押し返す、といった戦いが繰り広げられているのだろう。


「リムに任せるって言っちまったし、ここは見てるしかないか」


 和斗は小さく呟くと、いつでもⅯ16を撃てるように身構えながら、リムリアとヴラドの戦いを見守る。

 ちょっとでもリムリアがダメージを負うようなコトがあったらヴラドに向けて、即座に全弾を叩き込むつもりだ。

 

 と、そこで空気がバァンと弾け、衝撃波が発生した。

 どちらの攻撃で、どちらが押さえ込もうとしたのか分からない。

 が、和斗はその衝撃波によって壁に叩き付けられてしまう。


「う!」


 骨がギシッと軋み、体がバラバラになりそうな痛みが背骨を駆け上がってくるが、和斗が息を呑んだ理由は別にある。

 顔を隠していたローブが衝撃波によって吹き飛んで、ヴラドの顔が露わになったからだ。


「な!?」


 和斗が絶句したのも無理はない。

 ヴラドの額から上が頭蓋骨ごと剥ぎ取られており、脳が剝き出しになっていたのだから。

 と、そこでヴラドが座っている椅子からボロキレが床に落ち。


「ふふふ。驚いたかい?」


 ヴラドを膝の上に乗せた、白銀に輝くワーウルフが薄ら笑いを浮かべた。


「キ、キサマ! ヴラド姉さんにナニをした!」


 悲鳴のような叫び声を上げるリムリアの目の前で、白銀ワーウルフがヴラドの脳にグチュリと爪を潜り込ませる。


「正ドラクルの肉体的強度は低いけど、生命力は異常なほど高いだろ? だから脳に指を突き刺して操り、ワーウルフでは使えないハズの魔法を使ったのさ」


 その瞬間、ヴラドの胸の前に火の玉が出現した。


「この程度なら誰でも出来るだろうけど、もっと魔力を高めると……」


 白銀ワーウルフがズブズブとヴラドの脳に中指を食い込ませると、火の玉がオレンジ色から白色に変わり、最後には蒼白くなる。


「どうだ、分かるかい? ミスリルさえ溶かす、1万5千℃の焔だよ」


 ミスリルの融解温度がどれ程のモノかは分からない。

 しかし1万5千℃とは、少なくとも地球上の全て物質が蒸発する温度だ。

 どうやらヴラドの魔力を利用する事により、この白銀ワーウルフはバーニーなど足元にも及ばない強力な攻撃魔法を使えようだ。


「ふん、そんなモン!」


 リムリアは、そんな超高熱の焔の玉を一瞬で掻き消すと、殺気の籠った目で白銀ワーウルフを睨み付ける。


「優しかったヴラド姉さんが、ゾンビを操って大陸を支配しようとするなんてヘンだと思ってたんだ! それもこれも全部、キサマの仕業だったんだな!」

「その通り。色仕掛けでタラし込んでヴラドと結婚したおかげで、ワーウルフロードよりも遥かに強いオンリーワーウルフになれたよ」


 白銀ワーウルフはそこで言葉を切ると、顔をしかめる。


「しかしこの女、夫となったオレの命令に逆らいやがったんだ。絶対にゾンビ化の魔法は使わない、なんて言い張りやがってね。そこで脳を操作してゾンビ化の魔法を使わせたのさ」


 そして白銀ワーウルフは、邪悪な笑みを浮かべた。


「なにしろ我が国では人間の脳を操る実験を遥か昔から研究してたからね」

「そんな非道な事を遥か昔から? ま、まさかキサマの国は!」


 息を呑むリムリアに、白銀ワーウルフが邪悪な笑みを濃くする。


「そう。この大陸の東を支配するクーロン帝国さ。我が祖国は、今まで何度もこの大陸を制覇する事を何度も試みてきた。が、その度にお前等ドラクルの一族に邪魔されてきただろ? そこで今回は、色仕掛けを得意とする工作員を送り込む事にしたのさ」

「それがキサマか!」


 悔しさにギチギチと歯ぎしりするリムリアに、白銀ワーウルフが静かに首を横に振る。


「違うよ。オレはクーロン帝国の第13皇子だ。クーロン帝国では熾烈な跡目争いに勝ち残った者が、次の皇帝になれるんだ。しかし第13皇子であるオレは、他の皇子にかなり差を付けられていた」


 白銀ワーウルフは悔しそうに床に目を落としてから、ガバッと顔を上げた。


「そこで一発逆転を狙って、ヴラドに接近する事にしたんだ。そしてオレは見事に成功した。後はボロボロになったドラクルの国を占拠して、跡目争いのトップに躍り出る、って計画さ」

「その為のゾンビか」


 納得する和斗に、リムリアが視線を向ける。


「どういうコト?」

「元気な国に軍隊で攻め入ったら、激しい戦いになるだろ? そうなったらクーロン帝国兵も戦死するだろうし、ドラクルの国だってボロボロになる」

「当たり前じゃん」

「でもゾンビなら人間を襲うだけ。建物や農作地は、殆ど無傷で残るだろ? 全員がゾンビになったとこでゾンビ化を解除すれば、何もしなくても国が手に入る」

「あ!」


 目を丸くするリムリアにフンと鼻を鳴らしてから、白銀ワーウルフが和斗に目を向ける。


「よく気が付いたね。ドラクルの国は作物も豊かだし、建築物のレベルも極めて高いから、出来るだけ無傷で手に入れたいと思っていたんだよ」


 そう言いながら白銀ワーウルフは、ヴラドをグイッと引き寄せた。


「だからゾンビ化の魔法を使えるヴラドを騙す事にしたのさ。そしてオレは最強のオンリーワーウルフになれた。間もなくドラクルの国も手に入る。誰もオレが次の皇帝になる事に反対できないだろうさ」

「まだ手に入れてないだろ」


 冷静にツッコむ和斗に、白銀ワーウルフが勝ち誇る。


「手に入れたも同然さ。民の多くはゾンビと化し、生き残った者も生き延びる事に必死だ。そしてドラクルの一族も、その多くを捕らえて無力化した。後はオマエ達さえ殺せば、邪魔者はいなくなる!」


 白銀ワーウルフが叫び、そして魔法の事など何も分からない和斗でさえ感じ取れるほど凄まじい魔力が立ち昇った。


「負けない!」


 白銀ワーウルフに対抗してリムリアも魔力を高める。

 そして白銀ワーウルフとリムリアの間で魔力が渦巻き、圧縮され、弾け、そして。

 

 ドォン!


 床が崩れ落ちた。


「マジかよ!」


 下に広がる洞窟を目にして和斗は叫んだ。

 高さが五0メートルほどもある上、先の尖った鍾乳石が乱立している。

 このままじゃ間違いなく死んでしまう。

 そう悟った和斗はリムリアに手を伸ばして抱き寄せる。


「俺が下敷きになってクッションになる!」

「バカ言わないで! ウインドボム!」


 リムリアは、地面に激突する寸前で空気の爆発を発生させて落下スピードを殺した。

 そしてフンワリと着地してから、リムリアは和斗を怒鳴りつける。


「自分が下敷きになるなんて、どういうツモリ!?」

「いや、反射的にリムの無事を最優先にしちまった。ま、即死さえしなければ、メディカルで回復できるだろうし」

「即死しないって保証、ないでしょ!?」


 そこで急に涙目になると、リムリアはキュッと和斗に抱き付く。


「カズトを犠牲にしてボクだけ助かったって何の意味もないんだから……」


 そんな可愛らしい事を口にしながら鼻をスンスンといわせているリムリアが無性に愛おしくなって、和斗もキュッと抱き締め返す。


「悪かった」

「反省しろォ……」

「分かったって」

「見せつけてくれるね」

『!』


 いきなり聞こえてきた声に、和斗とリムリアがバッと振り返ると。


「キミ達、今の状況分かってる?」


 鍾乳石の上に白銀ワーウルフが立っていた。


「どうやらソコのお嬢ちゃんとヴラドの魔力は互角みたいだ。これじゃ中々勝負が付かないから……」


 そう言いながら、白銀ワーウルフは右腕を頭上に掲げ、そして。


「今度は純粋に戦闘力勝負といこうか!」


 一声吼えると、右手を一閃させた。


 ピュン!


 ゴトン。


「な!?」


 真横にあった鍾乳石が斜めに切り落とされて地面に転がるのを目にして、和斗は言葉を失ったのだった。





2020 オオネ サクヤⒸ

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