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   第二百八話  とりあえず、攻撃させてもらいますよ!





 時は少し遡る。


「説明ありがと。でもイイの? 呑気に説明なんかしてて」


 リムリアの質問にラスプーチンが。


「はい。この程度の妖狐なんか余裕ですので」


 そう答え、レールガンで50メートル級ゴーレムを撃ち砕く。

 さらにファイヤーバルカンとストーンバルカンを発動させるのを見て。


「ふうん」


 リムリアが鼻を鳴らした。


「100メートル級ゴーレムを1秒で倒してる、か。かなりの戦闘力かな?」


 この呟きに奈津が顔をしかめる。


「そうね。この威力を連射されたら、ワタシでも手こずりそう」

「でも勝てない相手じゃありません」


 花奈の言葉に奈津が笑みを浮かべた。


「そうね。ワタシと花奈なら勝てるよね」

「はい」


 と、花奈が頷いたところで。


「レーザーバルカン」


 ラスプーチンがレーザーの槍を連射した。

 レーザーだから、その速度は当然光と同じく光速だ。

 このラスプーチンの攻撃を目にして。


「これは……」


 奈津は息をのんだ。


「ひょっとしたら、雷断の太刀でも斬り落とせないかも……」

「たしかに無理かも。1発か2発なら何とかなるかおしれませんが、あの連射力で放たれたら絶対にかけません」


 花奈の意見も奈津と同じだった。


 毎分6000発で発射されるレーザーの槍。

 今の奈津と花奈では勝てない。

 この事実に衝撃を受ける奈津と花奈の目の前で。


「バキューム」


 ラスプーチンが新しい魔法を発動させた。


「く。真空と超低温による同時攻撃ね。これも、どう対処したらいいのかワタシには分からないわ」

「そして迷っている間に、命を落としてしまうでしょうね。この魔法で攻撃されても致命的です」


 花奈がそう口にしたところで。


「重力10倍」


 ラスプーチンが重力を飛躍的に増やす魔法を発動させた。

 しかも100倍に増加させる事も不可能ではないらしい。


「100倍の重力……刀も体重も100倍になるってコトよね?」


 ゴクリと喉を鳴らす奈津に花奈が呟く。


「体重が100倍に……という事は奈津の体重は6000キロになるってコトですね? う~~ん、どうやっても動ける気がしませんね」

「そうね、ワタシの体重は60キロだから100倍になると6000キロに、ってワタシ、そんなに太ってないわよ!」

「仮に50キロでも体重は5000キロ。やっぱり動ける重さじゃありません」

「仮に、って何よ!」


 などと論点が微妙にズレている奈津と花奈だったが。


「ウォータージェット」

「レーザーソード」

「テンペストカッター」


 ラスプーチンの切断魔法を目にして黙り込む。

 そして数秒後。


「ウォータージェットとレーザーソードって言ったわよね? 技術以前の問題として、あの攻撃に刀が耐えられるかしら?」

「それよりカマイタチを10万も発生させていました。私の破軍の太刀など足元にも及ばない攻撃です」


 奈津と花奈は青い顔を見合わせた。

 直後に放たれた時間停止とレールガンを見て。


「これなら対処できるわね」

「な、なんとか……」


 少し落ち着きを取り戻す奈津と花奈だったが。


「メテオ」

「30連メテオ」


 マッハ20の隕石攻撃を目にしてフリーズしてしまった。


「何、あの魔法……速度はともかく、あの質量が生み出す威力は、私じゃ手も足も出ないわ」


 奈津がかろうじて声を絞り出すと。


「切れない大きさではありませんが、切っても破片に巻き込まれて死ぬだけです」


 花奈もかすれた声で漏らした。


 相当ショックを受けたのだろう。

 もうピクニックモードは解除されてしまっている。


 と、そこで。


「土壁」

「鉄化」


 ラスプーチンが連続で魔法を発動させ。

 和斗達は高さ500メートルの鉄壁の中に閉じ込められたしまった。


「ええ!? なにコレ!? これじゃ逃げられないわ!」

「ど、どうしましょう! 私達まで閉じ込められちゃいました!」


 焦りまくる奈津と花奈に、和斗は余裕の声で答える。


「心配いらない。俺に任せろ」


 自信満々の和斗に、奈津も花奈も落ち着きを取り戻す。


「そ、そうですね。カズトさんが一緒なんだから、何の心配もいらないわよね」

「安心しました。カズト先生の事は、この世で1番信頼していますから」


 しかし、その直後。


「雷雲」

「轟雷嵐」


 逃れようのない数の稲妻が地に降り注ぐのを目にして。


「大丈夫。カズトさんならコレくらい全部斬り捨てるわ!」

「カズト先生にとって、こんなモノ物の数じゃありません!」


 奈津と花奈は自分に言い聞かせるように大声を上げた。


 実際とところ、数えきれない数の稲妻が吹き荒れるのを見て。 

 奈津と花奈は、身の毛がよだつほどの恐怖を感じている。


 しかし2人の、和斗への信頼は信仰レベル。

 和斗がオレに任せろと口にした以上、それを疑う事は絶対に無い。


 のだが。


「核爆発」


 この言葉により出現した地獄を目の当たりにして硬直する。

 もちろん鉄の壁の内側にいる和斗達にも爆風が襲い掛かるが。


「風切り」


 和斗が放った、大気を切り裂く斬撃が爆風を綺麗に両断。

 奈津も花奈も、そよ風程度の風すら感じなかった。


 が、和斗は目の前に出現した光景に。


「ち。まさか核兵器を持ち出すとはな」


 忌々し気に吐き出した。


「あの大馬鹿野郎が! 放射能汚染を引き起こしたら、どうする気なんだ!」 


 キレ気味の和斗だったが、そこに。


「放射能汚染? 私の魔法を見くびってもらっては困ります。質量を全て完璧に破壊力に転換しました。放射能など微塵も発生させたりしませんよ」


 ラスプーチンの声が響いた。

 どうやら防御魔法を展開したのだろう。

 あれほどの爆発だったのに、ラスプーチンは平然としている。


 いやそれだけではなかった。

 フォックス連合本部にも変わったトコロが見受けられない。

 防御魔法を広範囲に展開したラスプーチンの魔力。

 かなりのモノと考えるべきだろう。


 そのラスプーチンが、涼しい顔を和斗達に向ける。


「ところで貴方方、イミョシェンコ達の戦いを見物していたみたいですが、彼らの味方ですか?」


 この質問に、和斗より早くリムリアが答える。


「冗談じゃない、っての! ボク等はイミョンシェンコがカンウザーク一家とフッケンポフ一家を配下にする為に利用された挙句、時間停止の魔法陣に閉じ込められたんだよ! イミョシェンコに味方なんかするワケ無いじゃん!」


 が、この答えにラスプーチンの目が鋭い光を放つ。


「でもイミョンシェンコがカンウザーク一家とフッケンポフ一家を配下にする手伝いをしたのですよね? ならこの戦いと無関係とはいえませんよね?」


 ラスプーチンの口調は、丁寧で優し気だ。

 しかし、その内側には危険な臭いが充満している。


「フォックス連合は、全て一家を失って大打撃を受ける事となりました。その責任の一端は貴方たちにもあります。となれば、このまま大人しくお引き取り願うワケにはいきません」


 そう口にすると同時に、ラスプーチンの体から魔力があふれ出た。


「とりあえず、攻撃させてもらいますよ!」


 ラスプーチンは高らかに宣言すると。


「レールガン」


 超音速の弾丸を放ってきた。

 だが、50メートル級ゴーレムを軽々と撃ち砕く、この攻撃を。


「ふぅん」


 和斗は物憂げな1撃で破壊する。

 本気の欠片も出していない、気の抜けた斬撃によって。

 そんな和斗の様子に、ラスプーチンが目を細める。


「おやおや、レールガンを事も無げに切り捨てるとは……これは久しぶりに楽しめそうですね」


 嬉しそうなラスプーチンを無視して、和斗は奈津と花奈に視線を向ける。


「あいつが、どんな魔法を使ってくるか分からない。俺ならどんな攻撃を受けても平気だが、奈津と花奈が怪我すると困る。リムと一緒にマローダー改の中に避難しててくれ」


 奈津と花奈が怪我すると困る。

 この1言で奈津と花奈が、心の底から嬉しそうな笑顔を咲かせた。


「カズトさんが心配してくれるのなら喜んで!」

「カズト先生の言葉なら、どんな事にも私は従います! 例えこの場で死ねと言われても即座に!」

「いや、絶対にそんなコト、命令しないから」


 和斗が若干引いている間に奈津と花奈はマローダー改に乗り込む。

 そして運転席の窓越しに手を振る2人にほほ笑んでから、和斗は。


「リムもマローダー改に乗っててくれないか?」


 そうリムリアに頼み込んだ。


「え? ボクも?」


 以外そうな声を上げるリムリアに和斗は硬い表情で頷く。


「リムに危険なんか無いのは分かってる。でもアイツだったら万斬猛進流の修行の成果を心置きなく試せそうな気がするんだ。リムも腕試ししたいだろうけど、今回は俺に譲ってくれないかな?」

「う~~ん、仕方ないなぁ。でも次はボクにも万斬猛進流を試させてね」

「ああ、約束する」


 和斗はリムリアに笑顔で答えてから、表情を一変させて。


「じゃあ、やろうか」


 ラスプーチンに冷たい視線を向けた。

 それも当然。

 奈津と花奈をマローダー改に避難させる間。

 ラスプーチンはレールガンを何度も放って来たのだから。

 奈津と花奈を狙って。


「か弱い女の子を狙うようなクズに、容赦は必要ないよな?」


 和斗の怒りの声に、ラスプーチンが肩をすくめる。


「出来ればクズ呼ばわりは勘弁してもらえないでしょうか。貴方がレールガンを切り捨てる事を前提にして発射したのですから」

「切り捨てられると分かってるんなら、撃つ必要ないだろ?」


 まだ声に怒りが残る和斗にラスプーチンが悪びれもせず言い返す。


「いえ、貴方が彼女達と会話を交わしながら、どんな剣撃を披露してくれるのか興味があったので」


 この答えに、和斗は毒気を抜かれてしまう。


「へえ、そうか。で、期待に応えられたかな?」


 この問いに、ラスプーチンが良い笑顔で頷く。


「はい。期待以上でした。なので……もっと楽しませてください、ね!」


 ね! と同時にラスプーチンは。


「ファイヤーバルカン。ストーンバルカン」


 炎の弾丸と、岩の弾丸を撃ち込んできた。

 が、和斗は相変わらず物憂げな動作で。


「百矢払い」


 超高速連撃を繰り出して、全弾を斬り落とす。


 ちなみに炎の弾丸の大きさは大木ほど。

 土の弾丸の大きさは直径1メートルほどで、重さは約1トン。

 イミョシェンコ達に撃ち込んだ弾丸より遥かに高威力の弾幕だった。


「ほう。さっきの10倍以上の威力で放ったのに、余裕で斬り落としますか。いや本当に楽しくなってきました」


 ラスプーチンは笑みを深めると。


「でもあなたは退屈そうですね。なら取り敢えず、真剣になった貴方が見れるように頑張りましょうか」


 そう呟き。


「レーザーバルカン。レーザーバルカン」


 右手と左手でレーザーバルカンを発動した。

 毎分6000発で撃ち出されるレーザーが2つ。

 今までどんな強敵も打ち倒してきたラスプーチンの必殺の魔法だったが。


「百矢払い」


 和斗は連撃の速度を跳ね上げて、これも全て斬り落とした。


「凄いですね。しかしその気になれば永遠に連射できます。気を緩めた瞬間が貴方の最後になりかねませんよ」


 と口にしているが、レーザーバルカンなど小手調べ。

 そう思っている事が見えみえのラスプーチンに。


「なら少しは期待に応えるか」


 和斗はニヤリと笑ってみせると。


「魔力切り」


 百矢払いの剣撃に魔力切りを乗せて、カマイタチとして放った。

 その斬撃はラスプーチンへと超音速で迫り。


 パキィン!


 レーザーバルカンの魔法式を撃ち砕いた。


「驚きましたね」


 ラスプーチンは、魔法式を砕かれて目を丸くするが。


「まさかあれほどの高速で斬撃を繰り出しながら、魔力破壊の斬撃を飛ばしてくるとは想像もしませんでした。これは本当に楽しくなってきました」


 そう言って、心の底からの笑みを浮かべたのだった。








2023 オオネ サクヤⒸ

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