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   第二百七話  次は、ゴミ掃除といきましょうか





 1撃で300メートル級ゴーレム4体を消滅させる。

 そんな災害級の攻撃魔法を発動させた直後なのに、ラスプーチンは。


「おや。砕けたのは、たった4体ですか」


 事もなげにそう口にした。

 この言葉にイミョシェンコはワナワナと震えながら呟く。


「たった4体? たった4体だと? 魔法で強化した300メートル級ゴーレム1体あれば、どんな要塞だろうと攻め滅ぼせるんだぞ……それを4体も砕いておきながら、たっただと? オレは悪い夢を見ているのか? オレは自分でも気が付かないうちに悪夢に迷い込んでしまったのか?」


 茫然とするイミョシェンコだったが、悪夢はまだ終わらない。

 ラスプーチンは、イミョシェンコ達を涼しい目で見まわすと。


「30連メテオ」


 もっと過激な攻撃魔法を発動させた。

 30連メテオ。

 その言葉を耳にするなり、妖狐達は大混乱に陥る。


「30連?」

「今、30連メテオって言ったか?」

「まさかそれってメテオが30発って事か?」

「じゃ、じゃあ早く逃げないと!」


 しかし逃げる時間など無かった。


 キィン!


 マッハ20の速度で30の隕石が降り注ぎ。


 ドッドォォォォォォォォォォォォォォォン!!!!! ×30


 地面に激突した。

 その衝撃はのこった全ての300メートル級ゴーレムを撃ち砕き。


 ゴヒュゥウウウウウウウウウウウ!!!!


 物凄い暴風となって吹き荒れた。

 いや、暴風だけではない。

 その凄まじい風の奔流は、砕けたゴーレムの破片を周囲にまき散らし。


 ゴガガガガガガガガガガガガガガガガ!!!!!!!


 更に200メートル級ゴーレムまでも、粉々に撃ち砕いた。

 が、被害はそれだけではない。


 100メートル級ゴーレム1000体も爆風で全滅。

 残ったのは2メートルから5メートル程度のゴーレムばかりだ。


 しかし素材が丈夫だったからだろう。

 ミスリルゴーレムとアダマンゴーレムは破壊を間逃れていた。

 だがラスプーチンの攻撃は30連メテオで終わりではなかった。


「とりあえずデカいのは片付いたみたいですね。なら次は、ゴミ掃除といきましょうか。いえ、まずは準備からですね」


 涼しい顔でそう言うと。


「土壁」


 ただそれだけ口にした。


 土の壁を作り出して、どうなるんだ?


 ほとんどの妖狐はそう思ったが、その直後。


 ズズズズズズズズズズズズズズズズズン!!


 妖狐達を取り囲むようにして土が盛り上がった。


 いや、盛り上がる、という表現は正しくない。

 垂直に切り立った山脈が出現した、というのが正確な表現だろう。

 高さ500メートル。

 厚さ100メートル。

 今の妖狐達には、どうやっても超えられない高さだ。


 もちろん破壊する事など出来る筈もない。

 更にラスプーチンは。


「鉄化」


 山脈を鉄へと変質させた。

 これによりイミョシェンコ達は。

 脱出不可能な、鉄の壁の内側に閉じ込められたのだった。


 この絶望的な状況の中、イミョシェンコは。


「こうなったらフォックス連合本部を包囲するメリットはねぇ! カンウザーク! フッケンポフ! お前らは一家を率いてラスプーチンを襲撃しろ! ラシャダッキ一家! 逃げ道が無くなった以上、前に進んでラスプーチンを討ち取るしか生き残る道は無ぇ! 殺される前に殺せ!」


 そう怒鳴るとラスプーチンに向かって走り出した。


 しかしやけくそになっている訳ではない。

 ラスプーチンの正面に位置する場所。

 そこにミスリルゴーレムとアダマンゴーレムを並べている。


 つまりラスプーチンがイミョシェンコへと攻撃魔法を放った場合。

 イミョシェンコに命中する前にゴーレムを直撃する事になる。

 仮にミスリルゴーレムとアダマンゴーレムを貫いたとしても。

 かなり魔法の威力は落ちるだろう。


 その威力の弱まった攻撃魔法なら防御魔法で防げる。

 そしてミスリルゴーレムとアダマンゴーレムが破壊される前に攻撃する。


 もちろんイミョシェンコとラシャダッキ一家だけだったら勝てない。

 しかしカンウザークとフッケンポフがいる。

 この2人はフォックス連合本部の背後を取り囲むように配置した。

 そして今までラスプーチンが攻撃したのは正面のみ。

 つまり攻撃を受けたのはラシャダッキ一家だけ。

 カンウザークとフッケンポフ達はまだ、ラスプーチンの攻撃を受けていない。


 この無傷の戦力に、ラスプーチンを背後から攻撃させる。

 そしてラシャダッキ一家が失ったゴーレムだけで、妖狐は全員無事だ。

 総勢9万3千5百匹の妖狐による、3方向からの同時攻撃。

 多大な犠牲が出るだろうが、これならラスプーチンを殺せる筈。

 これがイミョシェンコの目論みだったのだが。


「全組員による3方向からの総攻撃ですか。う~~ん、愚策ですねぇ。ま、いいでしょう。ちまちま戦うよりずっと効率的に始末出来そうですから」


 ラスプーチンは少しも慌てる事なく。


「雷雲」


 そう口にして右手を空に掲げた。

 その数秒後、水面に墨を落としたように、黒雲が急激に空一面を覆い。


「轟雷嵐」


 このラスプーチンの言葉と共に。


 ピッシャァーーン!!!


 バリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリ!!!!!


 文字通り稲妻の嵐が吹き荒れた。


 ドカンドカンドカンドカンドカンドカンドカンドカン!!!!!


 まるで絨毯爆撃のように科稲妻が地面に降り注ぐ。

 あらゆる物を撃ち砕き、吹き飛ばし、焼き尽くす。


 稲妻地獄というものが存在するかどうか知らない。

 しかしもしも稲妻地獄というモノがあるのなら。

 きっとソレは、こんな場所だろう。


 子供1人分の隙間すら無く地面に叩き付けられる稲妻が静まった時。

 鉄の壁の内側は黒焦げになっていた。

 これほどの破壊力が吹き荒れたのだから、生命など1つも残っていない。


 が、その中にあっても、まだ原形を留めているモノが。

 100体のミスリルゴーレムと6体アダマンゴーレムだ。

 全身が金属である為、自身が避雷針となったからだろう。

 いや、原形を留めているのはゴーレムだけではなかった。


「くそ……」

「イチかバチかだったが……」

「何とか生き残れたか……」


 ミスリルゴーレムとアダマンゴーレムの足元から這い出る妖狐の姿が。

 ゴーレムを避雷針にして、身を守る事に成功した妖狐達だ。


 生き残れたのはイミョシェンコ、カンウザーク、フッケンポフ。

 そして1000匹ほどの、高位の妖狐だけだった。


 ゴーレムを避雷針にする事を瞬時に決めた思考速度と決断力。

 決断した次の一瞬でゴーレムの足元に避難するだけスピード。

 ゴーレムだけでは防ぎきれない稲妻に耐える防御魔法を展開する魔力。

 これを持ち合わせた妖狐だけが生き残ったらしい。


「つまり9万2千5百の組員を失ったワケだね」


 いつも通り感情に乏しい声のフッケンポフに、カンウザークが笑みを見せる。


「しかし1番頼りになる連中が残っている。まだ勝機はある。そうだろイミョシェンコ」


 カンウザークの問いにイミョシェンコが頷く。


「その通りだ! レールガン。ファイヤーバルカンにストーンバルカンにレーザーバルカン。バキュームに重力10倍。ウォータージェットにレーザーソードにテンペストカッター。時間停止にメテオに30連メテオ。都市1つがはいる鉄の壁を作り上げたあげくの、轟雷嵐! これほどの超絶魔法を連発したんだ、もう魔力なんか残っていないに決まってる! あと一押しで勝てるぞ!」


 このイミョシェンコの檄に。


「おう! テメエ等、最後のひと暴れ、派手に行くぞ」

「フッケンポフ一家。やるよ」

『おう!』


 カンウザークとフッケンポフが組員に気合を入れるが、そこに。


「魔力が残ってない? 何を根拠にそう言い切れるんでしょう?」


 ラスプーチンの穏やかな声が響く。


「まさかこの程度で私の魔力が枯渇するとでも? 困りますね、あまりに私を過小評価し過ぎです」


 そしてラスプーチンは、子供の様な無邪気な笑みを浮かべた。


「ま、口で言うより見た方が早いでしょう。せっかくだから、そのミスリルゴーレムとアダマンゴーレムごと消滅させてあげましょう」


 そしてラスプーチンは足元に視線を落とすと。


「そうですね。1グラムもあれば十分だと思うんですが……ま、ちょっと大きめですが、コレでも使いますか」


 そう呟いて、小石を3つ拾い上げた。

 いや、小石というより砂利。

 1粒という表現の方が相応しいサイズだ。

 重さは5グラムもないだろう。


「何だアレ?」

「砂利だろ?」

「いや、そのくらい見ればわかる。何をする気か、だ」

「おいおい、オレに聞かれても分かるワケ無いだろ」

「しかし本当に砂利だよな」

「間違いない。足元に転がってた砂利だ」

「今更そんなモンで何が出来るってんだ?」


 全ての妖狐が首を傾げた直後。


「浮遊」


 ラスプーチンが魔法を起動させた。


「ひ!?」

「く!?」

「何が起こる!?」


 反射的に身構える妖狐達だったが。


「あれ?」

「何も起きない?」

「いや、よく見ろ! 砂利が浮かび上がった」

「この状況で、砂利を浮かべたダケなのか?」


 妖狐達が口々に叫んだように、3粒の砂利は空に舞い上がっただけだった。

 そしてその砂利はユックリと移動を開始。

 3つの一家の上空へと到着した。


 空を飛ぶ直径数ミリの小さな砂利を眼で捉える。

 こんな事は、人間だったら不可能だったろう。

 しかし妖狐の視力は人間の比ではない。

 上空に位置する砂利をハッキリと視認している。

 が、この状況に至っても、まだラスプーチンの意図が分からない。


「砂利が真上に来たな?」

「ああ。ちっぽけな砂利が、な」

「で、結局何がしたいんだ?」


 その余りにも意味不明な状況に、おもわず全妖狐が砂利を見上げる中。


「核爆発」


 ラスプーチンの声が響いた。

 と同時に。


 ピカッ!


 目を閉じていても眼球を焼くほどの閃光が放たれ。


 ドカァァァァン!!!!!!!!!!!!!!!


 鼓膜が破れるほどの大音響が地を揺らした。


 どうやらとんでもない規模の爆発が発生したようだ。

 そして爆発が起きれば、当然ながら爆風が発生する。


 しかも普通の爆風ではない。

 この世界が体験した事の無い、想像を絶するレベルの爆風だ。

 その凄まじい爆風が。


 ドパッ!!


 全てのモノを薙ぎ払った。


 爆風の温度は数万度。

 地球上の全ての物質が蒸発する温度を、余裕で超えている。

 この超高温が、ミスリルゴーレムもアダマンゴーレムを瞬時に蒸発させる。


 しかも爆風の衝撃は、高層ビルを撃ち砕くほど。

 ゴーレムが蒸発した跡地を、更に蹂躙していく。

 この爆風を浴びて生き残れる生物が存在するとは思えない。


 だがまだ終わりではない。

 爆風が吹き荒れた中心部では空気を吹き飛ばした為、気圧が大低下。

 そこに向かって周囲から物凄い勢いで風が吹き込む。

 もしも生き残ったモノがいたら、中心部へと吸い寄せられる。

 そしてその中心部では、あまりの高温で空気がプラズマ化して膨張。

 強烈な上昇気流が発生して吸い寄せられたモノを上空に巻き上げる。

 俗にいうキノコ雲だ。


 そう。

 ラスプーチンが用いた魔法。

 それは『熱核爆発』の言葉通り、核兵器だったのだ。


 ちなみに広島に投下された原子爆弾。

 あの破壊力は、たった1グラムの放射性物質が起こしたモノだ。

 もちろん放射能も、多大な被害をもたらした。

 爆発事態より、こっちの方が遥かに恐ろしいと言える。


 だが放射能被害は意図した結果ではない。

 狙ったのは核爆発により強大な破壊力だ。

 その破壊力を発揮するのに必要な質量は1グラム。


 そしてラスプーチンが使った、砂利の重さは5グラムほど。

 つまり原爆15個が炸裂したのと同等の破壊力がまき散らされたのだ。

 3つの一家による下剋上は、ここに完全に潰えたのだった。










2023 オオネ サクヤⒸ

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― 新着の感想 ―
[一言] まさにゴミ掃除でしたね、汚物は消毒とばかりに焼滅。 裏切らず一緒に戦えば勝てたろうに。 裏切り者は誅せれど助ける義理はないよね、自業自得だ。
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