第二百六話 たまには、こんな魔法も使ってみましょう
ラスプーチンが真空魔法で攻撃してきたら、生き残る方法はない。
その現実の前に、イミョシェンコが決断したのは。
「全員突撃! ラスプーチンが魔法を発動させる前にブチ殺せ!」
特攻だった。
真空魔法を発動させる前にラスプーチンを倒す。
仮に真空魔法を発動されたとしても。
呼吸困難で死ぬ前に、ラスプーチンを倒せば生き残れる。
もちろん妖狐達にも被害が出るだろう。
しかしイミョシェンコが率いる妖狐の数は9万3千5百匹。
投入しているゴーレムの数は数百万体。
たとえ敵がフォックス連合最強の実力者でも倒せない筈がない。
とは思うが念には念を入れて。
「ガーゴイルを戦いに投入しろ!」
イミョシェンコは空からの攻撃を追加した。
ガーゴイル。
コウモリのような翼で空を飛び回る石像だ。
大きさと戦闘力は、製作者の魔力によって左右される。
そして今回生み出されたのは。
1メートル級のガーゴイルが1万体。
2メートル級のガーゴイルが3千体。
4メートル級のガーゴイルが8百体。
10メートル級ガーゴイルが50体だ。
地を埋め尽くすゴーレムに加え、空を埋め尽くす程の数のガーゴイル。
この数の暴力の前には、いくらラスプーチンでも勝つことは出来ないだろう。
とイミョシェンコは確信したのだが。
「重力10倍」
ラスプーチンがそう口にすると同時に。
ドガガガガガガガガガガガガガガガガァン!
空を埋め尽くしていたガーゴイルの半分が落下してゴーレムにブチ当たった。
もちろん落下したガーゴイルが無事な筈が無い。
ゴーレムとの衝突により完全に砕け散っていた。
なにしろガーゴイルは空を飛べる分、防御力は低い。
そして落下したのは防御力に秀でたゴーレムの上。
ガーゴイルが砕け散るのも当然だ。
一方、直撃されたゴーレムは、ほぼ無傷だったが。
ギギギギギギギギギギギギギギギ。
明らかに動きが悪くなっていた。
当たり前だ。
ラスプーチンが口にした様に重力が10倍になっているのだから。
仮にアナタの体重が50キロだったとしよう。
重力が10倍という事は、体重が500キロになる事を意味する。
つまりアナタは450キロの鎖を全身に巻き付けられた様なもの。
普通なら動くどころか圧死しても不思議ではない状況だ。
もちろんゴーレムと生物は違う。
並外れた頑丈さと桁違いのパワーを発揮する戦闘兵器。
それがゴーレムだ。
しかし10倍の体重で、今までと同じ動きが出来るゴーレムは少ない。
もちろんミスリルゴーレムやアダマンゴーレムは別格だ。
大量の魔力で製造したから、10倍程度の体重では動きが鈍らない。
100メートル級より大型のゴーレムも変わりなく動いている。
なにしろ身長が10倍になったら質量は1000倍だ。
その1000倍の質量を支える為に、とんでもない量の魔力が込められている。
だから巨大ゴーレムは、10倍の重力なら何の問題も無い。
そんなゴーレムを眺めてラスプーチンが呟く。
「なら重力100倍ならどうなるでしょうね」
この言葉にイミョシェンコは息をのむ。
そんな事が出来るのなら。
アダマンゴーレムや300メートル級でさえ動けなくなってしまうだろう。
もしもそんな事になったら。
妖狐達は盾を失い、体1つでラスプーチンと戦う事になる。
つまりレーザーバルカンやストーンバルカンの攻撃の直撃を受けてしまう。
ヘタしたら全滅しかねない事態だ。
と冷や汗を流すイミョシェンコに、ラスプーチンがほほ笑む。
「ですが、すでに発動させた魔法の上位版を使用するのも能が無いですよね。それなら最初から最上級の攻撃魔法を使えばよかったのだから。なのでココは別の魔法を披露しましょう」
ラスプーチンはそう口にすると、人差し指をゴーレムに向け。
「ウォータージェット」
そう口にした。
そしてラスプーチンが人差し指を右から左へと動かすと。
ゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトン。
2メートル級ゴーレムの、切断された首が地面に転がり。
ズシズシズシズシズシズシズシズシズシズシズシズシズシズシズシ。
3メートル級ゴーレムの、切断された上半身が地面に落下し。
ズシンズシンズシンズシンズシンズシンズシンズシンズシンズシン。
5メートル級ゴーレムが足を切断されて倒れ。
ズドォン、ズッドォン! ドドドォン!!!!
足首を切断された100メートル級ゴーレムがひっくり返った。
ウォータージェット。
超高圧の水流にダイヤモンドの粉を混ぜて切断力を強化した攻撃魔法。
水と土の混合魔法だ。
2つの魔法を同時に使用して別の魔法を発動させる。
妖狐なら簡単に出来る技術だ。
そしてウォータージェットは比較的知れ渡っている。
オリハルコンを切断できる数少ない魔法だからだ。
しかし、それはあくまで加工技術の域を出ない。
数百体のゴーレムを両断する威力のウォータージェットなど聞いた事もない。
このあり得ない光景を目にしてイミョシェンコは。
「ウォータージェット!? この威力がウォータージェットだと!? あり得ない! あり得るかぁぁぁ!!」
絶叫する事しか出来なかった。
が、すぐにイミョシェンコは立ち直る。
ウォータージェットで完全に破壊されたゴーレムは1体もいない。
首を、胴体を、そして足を切断されただけだ。
なら少しの魔力を追加するだけで再生できる。
メンテナンスが簡単な事。
これもゴーレムが戦場で使用される大きな理由だ。
しかしイミョンシェンコがゴーレムの再生を命令するより早く。
「レーザーソード」
ラスプーチンの人差し指が、複雑な動きを見せた。
そしてその指から発射されたのは極細のレーザー。
ただしレーザーバルカンの10倍の魔力が込められている。
その超絶威力をレーザーはゴーレム達の体を何度も通過し。
バラバラバラバラバラバラバラバラ。
再生不可能なサイズにまで切り刻んだ。
「な!? これじゃあ……」
口をパクパクさせるイミョシェンコの目の前で。
「テンペストカッター」
ラスプーチンが新たな魔法を口にした。
ウィンドカッターの魔法は、鋭い切れ味のカマイタチを生み出す。
その威力は人間の首を簡単に斬り落とす。
その上位魔法がゲイルカッター。
大木すら両断するカマイタチを数個から数十も生み出す。
さらに上位の風属性攻撃魔法はトルネードカッター。
岩を切断するカマイタチを数百も射出する。
そしてテンペストカッター。
これは城壁を楽々と切り裂くカマイタチを数千も生み出す魔法だが。
ラスプーチンが撃ち出したカマイタチの数は約10万。
しかもカマイタチの1つ1つが、城を真っ二つにする威力を持っている。
その規格外の攻撃魔法が発射されたのは空。
正確には、まだ空を飛んでいるガーゴイルに向かって発射された。
このまさにオーバーキルの攻撃魔法に直撃されたガーゴイルは。
ココココココココココココココココココココココン。
サイコロサイズにまで切り刻まれ、地面に降り注いだのだった。
その小石の雨に打たれながら、イミョシェンコはしばし茫然としていたが。
「もういい! 最強戦力で攻めろ!」
そう叫んだ。
「300メートル級ゴーレムとアダマンゴーレムの防御魔法を展開! ついでに攻撃力上昇と速度上昇の補助魔法も展開! この2種類のゴーレムに全ての魔力を結集させろ!」
この命令に従い、妖狐達は魔力を振り絞ってゴーレムを強化する。
50体の300メートル級ゴーレムと、6体のアダマンゴーレム。
ただでさえ強力なゴーレムだが。
「これがオレの限界レベルの強化魔法だ!」
「防御魔法も最高のヤツだ!」
「これ以上出来ないレベルにまで強化したぞ!」
妖狐達は自分達のレベルで発動できる限界の強化魔法を展開した。
これにより300メートル級ゴーレムはアーマーゴーレムに進化。
アダマンゴーレムはバトルゴーレムに進化した。
分かり易く言えば、5倍のステータスを誇るゴーレムに進化した。
しかも、それだけではない。
全身を覆ったマジックバリアにより魔法耐性は20倍に強化。
対魔法戦の最終兵器と言っても良い兵器に仕上がっている。
「これならどうだ!」
イミョシェンコは、自分に言い聞かせる。
これはチャナビエト本国との全面戦争さえ可能な戦力だ。
いや、ちょっとした国ならアッという間に攻め滅ぼせる戦力だ。
いくらラスプーチンが桁外れの魔力を持った妖狐でも絶対に倒せる。
倒せない筈が無い!
心の中でそう叫ぶイミョンシェンコが見守る中。
300メートル級アーマーゴーレムとバトルゴーレムが突進する。
進化しただけあって速い。
300メートル級ゴーレムは巨体なので動作は遅く見えるかもしれない。
しかし巨体ゆえ、その1歩もまた大きい。
だからユックリと歩いていても、その速度は馬より遥かに速い。
ましてや今、300メートル級ゴーレムは疾走している。
その速度は音速に迫る。
そしてバトルゴーレムに至っては、音速を超えていた。
ドン! と音速を超えた証拠の衝撃波を発生させながら突進している。
この速度なら数秒でラスプーチンを押しつぶせる筈。
イミョシェンコは、そう確信したのだが。
「時間停止」
ラスプーチンがそう呟くと同時に、ゴーレムがピタリと動きを止める。
「音速で迫る56体のゴーレムですか。さすがに厄介なので動きを止めさせてもらいました」
朗らかな顔でそう口にするラスプーチンにイミョシェンコが叫ぶ。
「300メートル級のゴーレムだ、質量も尋常じゃない! そして、そのとんでもない質量の時間を永遠に止めれる筈がない! だから時間停止の魔法を維持できなくなった時が、オマエの最後だ!」
「確かに永遠は無理でしょうが……この程度の魔法でよければ1万年くらい維持してみせますよ」
「な!?」
目を見開くイミョシェンコに、ラスプーチンが楽し気な目を向ける。
「でも私、けっこう気が短いので、さっさと始末しちゃいますね」
そう言うとラスプーチンは右手を上げ。
「レールガン」
攻撃魔法を口にした。
と同時に。
ゴカァ!!!!
300メートル級ゴーレムの胴体が吹き飛んだ。
しかも1体ではない。
その後ろにいた3体のゴーレムの体も一緒に砕け散っている。
「おや、たった4体しか貫通しませんでしたか。けっこう頑丈ですね」
ラスプーチンはそう口にすると。
「なら本気のレールガン」
15体の300メートル級ゴーレムを破壊した。
この想像を絶する光景に。
「このままレールガンってヤツを放たれ続けたら、ゴーレムは全滅するぞ」
「ヤバいんじゃないか、それ」
「ああ、あの攻撃を直接受ける事になる」
「盾であるゴーレムを失ったら突撃どころじゃないぞ」
「その通り! 盾無しの突撃なんて自殺行為だ!」
「いや、それ以前に、盾として役に立ってないぞ」
「どうすんだよ!」
全ての妖狐が大騒ぎするが。
「あれ?」
「次の攻撃は?」
レールガンの3発目は、放たれなかった。
「ひょっとして連射できないのか?」
イミョシェンコが希望を口にするが。
「貴方たちも、同じ魔法ばかり使われたらつまらないですよね?」
ラスプーチンはちょっと考え込むと。
「たまには、こんな魔法も使ってみましょう」
ポンと手を打ち。
「メテオ」
隕石を召喚した。
そのサイズは直径約5メートル。
大きいと思う者もいれば小さいと思う者もいるだろう。
が、召喚された隕石の落下速度はマッハ20。
極超音速ミサイルよりも遥かに速い。
だから隕石は。
キィン!
眼で捉える事すら出来ない速度で落下。
ドッドォォォォォォォォォォォォォン!!!!!
地を震わせる轟音と共に地面にクレーターを作り出し。
半径1キロメートル内のゴーレムも消滅させた。
2023 オオネ サクヤⒸ




