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第二話  パラパパッパッパパーー

 

            



 最初は人かと思った。


「うわ!」


 だから和斗は慌ててブレーキを踏んだのだ。

 しかし、車重13トンもあるマローダー改が直ぐ止まる筈がない。

 あっという間に20人ほどを次々と轢いてしまった。


「くそ、何で高速に人がいるんだよ」


 そう吐き捨ててから、和斗は今いる道が、アスファルトではなく石畳である事に気が付く。

 道幅は5メートルほど。

 左右には森が広がっている。


「おいおい、どうなってるんだ? さっきまで俺、高速道路を走ってたよな?」


 そう呟いた和斗の目に、引き倒した人達がユックリと身を起こす光景が飛び込んできた。

 しかしよく見ると、顔や体には致命傷と思われる、深い傷が幾つも口を開けている。

 ボロボロになった血塗れの服を纏ってノロノロと動くその姿は、映画やゲームに出て来るゾンビそのものだ。


「マジかよ、くそ!」


 とにかく逃げよう!

 と、和斗がマローダー改を発車させようとした、その時。

 

 ガンガンガンガンガン!


「助けて!」


 助手席のドアが叩かれ、焦った声が聞こえてきた。


「まさか人がいるのか!?」


 助手席に移動して窓の外を覗いてみると。


 バンバンバンバン!


「お願いだから助けて!」


 15、6歳くらいの少女が必死の形相でドアを叩いていた。


「早く入れ!」


 和斗が反射的にドアを開けると同時に少女が飛び込んでくる。

 が、その後を追ってゾンビの群れまでもが押し寄せてきた。

 映画じゃよくある光景だが、リアルだと心臓が止まるんじゃないかと思うほど怖い。


「うわわわわわ!」


 和斗は慌てて少女をマローダー改に引きずり込むと、大急ぎでドアを閉めてロックした。

 その直後。


 ゴンゴンゴンゴンゴンゴンゴンゴン!


 ゾンビの群れがマローダー改に体当たりを仕掛けてきた。

 しかし元々、軍用装甲車であるマローダー改は、ゾンビに体当たりされたくらいではビクともしない。 もう安心だ。


「はぁ~~~~~」


 和斗は大息をつくと、少女に視線を向けた。


 驚くほどの美少女だ。

 銀色に輝く髪をショートに整えた顔は、宝石のように整っている。

 簡素な服を身に纏っているが、それがかえって驚くほど細いウエストに可愛らしいお尻を強調している。

 胸は発展途上だが、それを差し引いても神レベルの美少女だ。

 美の妖精だ、と言われても、和斗は素直に納得しただろう。

 

 しかしその顔は真っ青で、ガクガクと震えていた。

 まあ、ゾンビの群れに襲われたのだから無理もない。

 同じ状況なら、和斗だって怖くて堪らなかっただろう。

 だから和斗は美少女を安心させる為に、出来るだけ優しい声で言い聞かす。


「怖かったろ、でも、もう大丈夫。このマローダー改の中なら安全だし、その気になれば簡単に逃げられるから」

 

 だが美少女はブンブンと首を横に振る。


「逃げる? ダ、ダメだよ! コイツ等をこのままにしておいたら、きっと他の人が犠牲になっちゃう! そしたらゾンビがドンドン増えちゃう! ゾンビを殺せるんでしょ? お願いだから、彼らを眠らせてあげて!」


 たしかにゾンビを放置したら誰かが犠牲になり、そして犠牲になった人間はゾンビ化して更に犠牲者を増やしていくだろう。

 しかしマローダー改なら、ゾンビごときを恐れる必要もない。


「そうか……分かった」


 だから和斗は美少女の頼み通り、ゾンビを全滅させる事にした。


「いくぞ! シートベルトを締めろ」

「え? し、しーとべ?」

「コレだよ。コレをこうして……後はどっかにしがみ付いてろ」


 和斗はキョトキョトしている美少女にシートベルトを締めてやると。


「いくぞ!」


 アクセルを思いっ切り踏み込んで、ゾンビの群れに突っ込んだ。


 13トンもの鉄の塊は、簡単にゾンビをなぎ倒す。

 が、グチャグチャになりながらもコッチに這い寄って来るゾンビが、10匹ほど残ってしまう。

 映画やゲームではよくあるシーンだ。

 しかし実際にこうして目にすると、身の毛がよだつほど気色悪い光景だ。


「やっぱりゾンビだな、簡単には死なないか」


 和斗はもう一度、マローダー改でゾンビに突っ込む。 

『ゾンビを殺すには頭を潰す』

 という映画やゲームのセオリーに従って全てのゾンビの頭を轢き潰すと、今度こそ動くゾンビはいなくなった。


「ふう、全滅させたか。しかし、一体どうなってんだ」


 ため息を漏らした和斗の目に、カーナビのモニターに並んだ文字が飛び込んでくる。


――ゾンビ23匹を倒しました。

  経験値23

  スキルポイント23

  オプションポイント23

  を獲得しました。

  累計経験値が20を超えました。


「何だ、これ?」


 和斗がそう呟いたところで。


――パラパパッパッパパ――!


 どこかで聞いたような電子音が響き、カーナビに新たな文字が表示された。


――装甲車レベルが2になりました。

  最高速度が110キロになりましました。

  加速力が10%、衝撃緩和力が25%アップしました。

  登坂性能が60度、車重が20トンになりましました。

  装甲レベルが鋼鉄20センチ級になりました。

  セキュリティーがレベル1になりました。

  オーナー以外の者が、ドアを開ける事は出来ません。

  ⅯPが15になりました。


「装甲車レベル? ひょっとしてマローダー改がレベルアップしたのか?」


 スピードメーターを見てみると、確かに最高時速が110キロに増えている。


「まるでRPGだな。でもコレって、主人公はマローダー改ってコトか?」


 複雑な顔で呟く和斗だったが、そこで美少女がいきなり頭を下げた。


「ごめんなさい!」

「は?」


 何でいきなり謝られたのか分からない和斗に、美少女が続ける。


「ゾンビに取り囲まれて絶体絶命だったから、ロクに使えもしない召喚術を発動させちゃったの。誰でもイイからボクを助ける力を持つモノよ、現れろって……」


 なるほど。

 和斗のコトを知らないくせにさっき『ゾンビを殺せるんでしょ』と言い切ったのは、そういうコトだったらしい。

 などと、納得している場合じゃない。


「おいおい、じゃあ俺、ゾンビだらけの異世界に召喚されたのか!?」

「ゴメンナサイ、ゴメンナサイ、ゴメンナサイ、ゴメンナサイ……」


 助手席で土下座する美少女に、和斗はため息をつく。


「はぁ……もういいよ、謝らなくても。でもゾンビを皆殺しにしたんだから、元の世界には戻してくれよ」


 和斗の言葉に、美少女の肩がピクンと震えた……この反応。悪い予感がする。


「ええと、まさかラノベでよくある、召喚は出来ても元に戻す事は出来ないなんて展開じゃないよな?」


 和斗は無理に笑顔を作りながら美少女に問いかけるが。


「何のコトか良く分からないけど、その通りだったりして……」


 美少女はテヘッ、と笑ったのだった。


「マジかよォォォォォ!」


 頭を抱える和斗に、美少女が慌てて声を上げる。


「あ、で、でも、ボクが正ドラクルになったら、元の世界に戻せるかも」

「ホントか!」

「う、うん、多分だけど」

「よし。じゃあ早く、その正ドラクルになってくれ」


 顔を輝かせる和斗に、美少女が言いにくそうに口を開く。


「そ、それが、ボクが正ドラクルになる為にはドラクルの聖地に行って、正ドラクル化の魔法陣を発動させないといけないんだ。でも、ドラクルの聖地は遠いし、そこまでの道のりにはゾンビが溢れてるし、でもボクにはゾンビと戦う力なんて全くないし……」

「え! ゾンビって、さっき殺したダケじゃないのか!?」


 和斗は考え込む。

 よく分からないが、そのドラクルの聖地に、この美少女を送り届けたら、日本に帰る事が出来るらしい。

 そしてマローダー改なら、ゾンビごとき恐れる必要ない。

 なら、やる事は決まっている。


「分かった。俺がそのドラクルの聖地とやらに連れてってやる。そしたら正ドラクルになれるんだろ」


 そう口にした和斗に、美少女が目を丸くする。


「え? いいの?」

「まかせろ」


 おずおずと見上げて来る美少女に、和斗はドン! と胸を叩いてみせる。

 美少女を前にすると、ついカッコを付けてみたくなるのは、男の習性みたいなもんだ。


「お前が正ドラクルになれないと、俺は元の世界に還れないんだろ? だったらしょうがないじゃないか。それに、このマローダー改ならゾンビごとき簡単に蹴散らせる。ドラクルの聖地に辿り着くのも難しいコトじゃないさ」

「ホント? ここからドラクルまで4000キロはあるんだけど、大丈夫?」

「え?」


 美少女の問いに、和斗の顔が強張る。

 満タンにした状態でのマローダーの行動距離は700キロ。

 装甲車としての性能としては上出来だが、この世界でマローダーの燃料が手に入るだろうか。


「な、なあ。軽油って知ってるか?」


 ゴクリと喉を鳴らしてから問いかける和斗に、美少女が首を傾げる。


「ケーユ? 何、それ?」

「じゃ、じゃあ、この世界の自動車は、何で動いてるんだ?」

「ジドウシャ?」

「今、俺達が乗ってる、コイツみたいなモノの事だよ」

「よく分かんないケド、遠くに行く時は馬か、飼い慣らしたワイバーンに乗るよ」

「馬にワイバーン……やっぱりファンタジーの世界かよ。って事は、確実にドラクルの里に辿り着く前にガス欠って事だよな。しかしマローダー改なしじゃ、間違いなくゾンビの仲間入りだ。困ったァ……」


 和斗は頭を抱えるが、大きく深呼吸してから、自分で自分に言い聞かせる。


「まずは現状の確認だ和斗。今の状態を正確に把握してから、何が最善かを考えるんだ」


 そして和斗はカーナビに目を向けると、モニターに手を伸ばす。


「そういやさっきカーナビにはⅯP15って表示されてた。って事は、ⅯPを消費して何かできる筈だけど……」


 操作はタブレットと同じみたいなので、さっそくⅯPについて調べてみると。



ⅯP                 

エンジンを止めて5時間で全回復


   ⅯP効果


  燃料満タン(1)          =燃料を満タンにする

  消費アイテム回復(1)       =搭載している飲食料を補充

  レストア(2~~20)       =故障や破損を修理

  リロード(個人装備1、搭載武器5) =武器の弾丸を補充

  メディカル(1、3、6、10、20)=搭乗者の病気や怪我を治療

  クリーニング(1)      =武器や衣類、室内の清掃、室内空気の浄化

  ポジショニング(1)     =ひっくり返っても、起き上がった状態に

  だった。


「やったぜ!」


 和斗は燃料満タンという文字を発見してガッツポーズを取る。


 おそらく(1)というのが消費ⅯPだろう。

 ⅯPは15あるから、これでガス欠の心配はなくなった。

 しかも消費アイテム回復を使えば飲食料まで補充されるらしいので、食べ物や飲み物の心配も必要ない。

 それにクリーニングがあるから衣服や体も、清潔に保つ事ができる。

 これなら文明的な生活を送れるだろう。


「これで何とかなりそうだな」


 和斗は心の底からホッとしたのだった。




2020 オオネ サクヤⒸ

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― 新着の感想 ―
[良い点] 何故か車の方がレベルアップする点(笑) ミリオタじゃ無い人にも分かり易い説明。 [一言] 2話目で星5つ付けた作品は初めてです。 これからの展開が楽しみです
[一言] 装甲レベルが鋼鉄20センチ級 となってますが、実際に20㎝あるのではなく それと同等の強度 って事ですよね?
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