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   第百九十七話  ああ、醜いな





「ぶぎぇええええ!」


 家畜のような悲鳴を上げるムンジェコフに構う事なく。


 ブチブチブチィ!


 ラシャダッキはムンジェコフの首の肉の、半分以上を食い千切った。

 その大きな傷口から正に噴水のように血が吹き上がり。


「ごばぁああああああ!」


 ムンジェコフが断末魔の悲鳴を上げるが。


 グチャ、グチャ、グチャ……ゴクン。


 ラシャダッキは平然と肉を租借し、飲み込んだ。

 そして。


「あ……うあ……」


 ビクンビクンと痙攣しているムンジェコフの首に。


 バクン!


 ラシャダッキは、もう一度、喰らい付く。

 そして首を、体から食い千切ると。


 ブチッ、バキン、ゴキン、ゴリリ、グキキキ、ゴクン。


 ムンジェコフの頭を噛み砕いて飲み込んだ。

 その血飛沫が飛び散りまくる光景に。


「うげ~~」


 リムリアが顔をしかめるが、ラシャダッキはそれを気にも留めず。


「お前らも力を得な」


 妖狐達にそう告げた。

 と同時に。


『ケ~~ン』


 最も妖気の強い狐達が一斉に、首を失ったムンジェコフに襲い掛かると。


 ブチン。

 ブキキキ。

 ブツン。

 グチャァ。


 我先に食い散らかしていった。

 そしてムンジェコフの体積が半分になったところで。


「次!」


 ラシャダッキが声で、食べる妖狐が交代。

 ムンジェコフの残った体が、さらに半分になったとこで。


「次!」


 再びラシャダッキの声。

 どうやら高位の妖狐ほど沢山食べる事が出来るようだ。

 そして最下層の妖狐が、ムンジェコフだった肉を食いつくしたトコロで。


「これでアタシ達は、ムンジェコフの体に宿させた邪神のオーラの力を取り込んで今まで以上に強くなった、ってワケさ」


 ラシャダッキは、凄みのある笑みを浮かべた。


 さっき妖狐達は、こう叫んでいた。

 贄、依り代、人柱、餌。

 これは邪神の力を宿らせる為の贄、依り代、人柱、餌という意味だったらしい。


 そしてムンジェコフは、邪神のオーラを身に宿して巨大化。

 その膨れ上がったムンジェコフを食って邪神の力を得たのだろう。


「吐き気がするな」


 和斗は呟く。

 ムンジェコフは嬲り殺しにする予定だった。

 しかいムンジェコフは、生きたまま貪り食われた。

 仲間だと思っていたフォックス連合の妖狐によって。


 結果として苦しみ抜いて殺されたのだから、文句を言う筋合いではない。

 のだが、さっきまで仲間だったムンジェコフを平気で食らう。

 そんな妖狐達に嫌悪を抱くのは和斗だけではないようだ。


「うわ~~、引くわ~~」


 リムリアは気持ち悪い、と態度で示す。

 しかしラシャダッキは、気にも留めない。


「なんだい、そりゃあ。ゴミを有効活用してやっただけだろ? 裏切り者を粛清したついでに、更に強くなれるんだ。それの何処が悪いってんだい?」


 平然と言い切るラシャダッキだったが。


「やっぱりケダモノね」

「そうですね。神経を疑います」


 汚いものを見る目を妖狐に向ける奈津と花奈を見て、表情が一変する。


「ところでアンタ達が着てるの……ひょっとしてそりゃあ、東の島国のキモノってヤツじゃないのかい?」


 声も口調も変わりない。

 いや、むしろ優しくなったかもしれない。

 が、その中には、何かザワリとしたモノが混じっていた。


「まさかアンタ等、東の島国の民かい?」


 この問いに対する返答次第で、いきなり襲い掛かってくる。

 そう確信した和斗は。


「そうだ。俺は島根ノ国からやって来た。それがどうかしたか?」


 奈津や花奈が答える前に返事を口にした。

 と同時にラシャダッキの妖気が一変。

 殺気と憎悪が入り混じった、凶悪なモノに変わった。


「どうかしたか、だってぇ?」


 ラシャダッキはカハァ! と毒を含んだ息を吐くと。


「妹の敵、討たせてもらうよ!」


 和斗の予想通り、稲妻の速度で和斗に襲い掛かってきた。


 普通の人間なら、自分の身に何が起こったか分からずに死を迎えただろう。

 しかし和斗は万斬猛進流を習得している。

 稲妻程度の速度に反応出来ないワケがない。


「むん!」


 和斗は雷切りの太刀でラシャダッキを迎撃する。

 いや、迎撃しようとしたのだが。


「ふ~~、危ないねぇ。もうちょっとで首を切り落とされるとこだったよ」


 ラシャダッキは急停止。

 和斗の刃が届かない場所まで避難すると、ホウと大きく息を吐いた。


「口惜しいけど、凄まじい剣の冴えだねぇ。さすが妹を殺した国の侍だよ」


 顔を歪めるラシャダッキに、リムリアが言い返す。


「妹を殺された? あのね、島根の国を侵略してきたからⅯ16で撃ち殺されたんでしょ。まあカールグスタフで吹っ飛ばされたのかもしれないけど、殺されて文句を言うくらいなら、侵略なんて最初からしなきゃイイんだよ」

「撃ち殺された? 何の話だい?」

「へ? 妹って島根を侵略してきた妖狐の1匹じゃないの?」


 間抜けな声を上げたリムリアにラシャダッキが吠える。


「アタシの妹の名は玉藻! 700年前に島根の国に渡って殺された、9尾の狐がアタシの妹なんだよ!」


 そういえば雫が言っていた。


『大昔に9尾の狐ちゅう大妖怪が退治された事があったんやけどな、その退治された9尾の狐は毒気を振り撒く岩に変わりよったんや。で、その近寄った生き物をミンナ殺してまう石を殺生石と呼んだんや』


 と。


 その退治された9尾の狐がラシャダッキの妹という事なのだろう。


「大事な妹を殺されたんだ! 仇を取るとは当たり前さ!」


 叫ぶラシャダッキに、奈津が言い返す。


「妹の仇!? それって700年も前の事でしょ! そんな大昔の事、ワタシ達には何の関係ないじゃない!」

「関係あるね! お前たち島根ノ国の民は、妹を殺した修験者と侍の子孫! それだけで、抹殺するのに十分な理由になるのさ!」


 と、そこで和斗は疑問を口にする。


「そうか。でも何で今なんだ? なんで700年も経った今頃になって島根ノ国を侵略しようと思ったんだ?」

「そ、そりゃあ…………島根ノ国を亡ぼせるだけの戦力を集めるのに、700年かかったんだよ」


 急に歯切れの悪くなったラシャダッキに、和斗は質問を続ける。


「その戦力ってのは、ここに並んでいる妖狐達の事か?」

「そ、そうさ」

「なら聞かせてくれ。この妖狐達の腕にある刺青は何だ?」

「ラ、ラシャダッキ一家の構成員である印さ! なんか文句でもあるのかい!?」

「文句じゃないが、質問かな」


 和斗は整列している妖狐達を見回して口を開く。


「おい、お前ら。その刺青が、邪神の力をこの世界に召喚する生贄に刻まれるモンだって知ってるのか?」


 そう。

 妖狐の腕に刻まれた印。

 それは邪神の力を降臨させる依り代にする為のモノだった。

 神の眼の能力でこれを知り、和斗は顔をこわばらせたのだ。

 この和斗の指摘に、妖狐達は。


「え!?」

「まさか!?」

「そんな!?」


 愕然と立ち尽くす。

 そんな妖狐達に和斗は続ける。


「さっきお前ら、ムンジェコフを贄にしろと叫んでいたけど、お前ら、本当にムンジェコフを食って力を得たかったのか?」


 この質問に、妖狐達はざわめき出す。


「そういや……何でオレ、あんなに興奮してたんだろ?」

「ムンジェコフとは兄弟の盃を躱してたのに、どうしてオレは?」

「頭の中が熱くなって、ムンジェコフを食う事以外、考えられなかった」

「どうして仲間を平気で食えたんだろう?」


 などと口にする妖狐達に、和斗は語り掛ける。


「何か不思議な力に操られていたと思わないか? よく考えてみろ。思い当たる事があるんじゃないか?」


 妖狐達は、この和斗の言葉に。


「おい、まさか……」

「でも、前から思ってたんだ……」

「ああ、そうだな……」

「そんなはずない、って自分で自分を騙してきたけど……」

「やっぱりオレ達、ラシャダッキ様に操られてたよな……」


 互いに不安を口にしだした。

 そんな妖狐達に。


「あ、アンタ達、何言ってんだい! 裏切者を贄にして邪神の力を得るのはラシャダッキ一家結成当時から行ってきた事じゃないか! アタシ等の力は仲間の犠牲の上に成り立ってんだ! そうやってのし上がって来たんだろ!? それを忘れちまったのかい!?」


 ラシャダッキは叫ぶが。


「裏切り者? それだけじゃないだろ?」


 この和斗の一言で、ラシャダッキはピクンと体を震わせた。


「何が言いたいんだい?」


 ゴゴゴゴゴ、と戦闘力を高めていくラシャダッキに。


「お前の洗脳に気付きそうになった者や、反抗的な者。そいつらも邪神の贄にして力を得たろ? 組員に知られないよう、こっそりと」


 和斗は神の眼で知った事を、次々と口にする。


「邪神の力は強大だ。でも1度に大量に摂取すると邪神に精神を乗っ取られる。だから少しずつ体に取り入れる事にした。ムンジェコフの頭だけしか食べなかったのも、それが理由だ。そして残った力は手下に与える。そしてお前の、邪神への抵抗力が上がったトコで、手下を食ってさらなる力を得るつもりだろ?」

「…………」


 黙り込むラシャダッキに、和斗は続ける。


「そして最終的には、邪神の力を降ろした裏切り者を食わせて戦闘力を高めた妖狐全員を食って得た力で、フォックス連合を乗っ取る気だ」


 和斗はそう言い切ると、再び妖狐達を見回す。


「つまりお前らはラシャダッキの餌として飼われている家畜なんだ。お前らは騙されていたんだよ!」


 この言葉で、この場にいる全員が口を閉ざした。

 そしてシーンと静けさが場を支配する中。


「く、くく、くくくくくく。バレちゃあしょうがないねェ」


 ラシャダッキは妖狐達に濁った目を向けた。


「こうなっちゃあ、もう洗脳は効かないねぇ。ああ、もったいない。せっかくここまで育てたのに。はぁ、仕方ないね、こうするとしようか」


 ラシャダッキが、そう口にすると同時に。


 シュバッ!


 妖狐達の刺青が全身に広がり。


「なんだ!?」

「これは!?」

「う、動けねぇ!」


 全ての妖狐を拘束した。


「総長……?」

「姉さん……?」

「ウソですよね……」

「オレは家畜なんかじゃないですよね……?」


 と、儚い望みを口にする妖狐達に。


「お前たち、もうわかってんだろ? お前たちはアタシが強くなる為の踏み台でしかないんだ」


 ラシャダッキは残酷な笑みを浮かべた。


「洗脳が解けて理性を取り戻し以上、逃げられちゃあ困るからねぇ。このまま保存食にしてやるよ。アタシがもっともっと強くなる為のね」


「オレは本当に一家の為なら死んでもイイと思ってたのに……」

「一緒に一家を大きくしてきたじゃないですか……」

「抗争で怪我した仲間を魔法で治療した姉さんは、もう居ないんですかい……」

「ラシャダッキ一家に、姉さんに命を捧げたのに……」

「それじゃあ不足だったんですか……」

「一家の為に死んでいった者達は、何のために……」

「姉さんと一緒にフォックス連合の頂点に立つのが夢だったのに……」


 涙をポロポロと零す妖狐達に、ラシャダッキが残酷に言い切る。


「養豚場の豚を食べるのに、躊躇うバカなんぞ居ないだろ? 手間暇かけて豚を育てるのは食う為だろ? アンタ等も同じさ。ラシャダッキ一家という養豚場で飼育された食用豚なんだよ」

『くう……』


 悲しみの涙を悔し涙に変える妖狐達をラシャダッキがあざ笑う。


「アンタ達だって、ラシャダッキ一家の名前で、随分と好き勝手な事して楽しんできたんだろ? 食い殺される寸前まで楽しい夢を見られたんだ、アタシに感謝しながら死んでいきゃあイイのさ。ひゃははははははは!」

「ああ、醜いな」


 言葉を吐き出す和斗に、リムリアが頷く。


「そうだね。こんなに醜いヤツ、めったにいないよ」

「めったに、どころか初めて見たわ」

「はい。空気を吸わせるのも、もったいない外道です」


 奈津と花奈も同じ思いらしい。

 汚物を見る目をラシャダッキに向けている。

 そんな和斗達に、ラシャダッキはユックリと振り向くと。


「さてと。せっかくアタシが苦労して大きくしたラシャダッキ一家を台無しにしてくれたんだ。楽に死ねると思わない事だね!!!」


 今までとは比べ物にならない程の殺気を放ってきた。










2023 オオネ サクヤⒸ

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