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   第百九十三話  おい、そこのクズ





 ドン! ×3


「「「ぐふぇ!」」」


 和斗に突き飛ばされた犯罪者3人は、面白いほど簡単に宙を舞い。


 ドガァン! ×3


 たまたま通りかかった馬車に派手に叩き付けられた。

 が、その直後。


「「「「え!?」」」」


 和斗、リムリア、奈津、花奈は驚きの声を上げた。

 叩き付けられた男達が狐の姿になったからだ。


「これって、まさか!?」


 大声を上げるリムリアの口を、和斗は慌てて押さえる。


「リム、目立つのは無しだ。とにかくここは、知らん顔して立ち去ろう。走ると目立つから、落ち着いて話でもしながら、な」


 和斗は自分に空手を教えてくれた先生の事を思い出す。


 先生は空手を極める為、チンピラ狩りをよくやったらしい。

 まだ昭和の頃だから防犯カメラもなく、警察に捕まる事はなかった、との事。

 しかし警察は存在するし、警察に通報する人もいる。

 だからチンピラを空手の技でブッ倒した後。

 口笛を吹きながら、悠々と立ち去ったらしい。


 堂々と立ち去った方が犯人とバレない、とは空手の先生の言葉だ。

 だから和斗はリムリア、奈津、花奈と談笑しながら立ち去る事にした。

 のだが。


「ちょっと、アンタ等! こっちに来な!」


 通りに並ぶ店から、オバさんに手招きされてしまった。


「早く隠れないと大変な事になっちまうよ!」

「何だろ?」


 首を傾げるリムリアに奈津と花奈が囁く。


「害意があるようには見えないわ」

「そうですね。どっちかというと、心配してくれてる様に見えます」

「ナツもトモコもそう思う? じゃあとりあえず言う通りにしてみようか。ねえカズト、それでいい?」

「ああ」


 和斗は頷くと同時に、リムリア達とオバサンの店に飛び込んだ。


 見回してみると、簡素なテーブルが4つ。

 カウンター席の向こう側から漂ってくる、美味しそうなに匂い。

 どうやら食堂のようだ。

 昼の仕込みをしていたのだろう。

 カウンターの奥には、火にかけられた鍋が見える。


「静かにしてるんだよ」


 オバサンは店の入り口に鍵をかけると、息を殺して外の様子を伺う。

 そして気絶した狐を、仲間らしき集団が回収したのを確認すると。


「ふう。行ったみたいだね」


 大きく息を吐くと、複雑な顔で振り返った。


「アイツ等をぶっ飛ばしてくれてスッとしたけど、アンタ等、この街のモンじゃないだろ? 悪い事は言わない、急いで街を出な」


 と言われても、和斗達が慌てる筈がない。

 和斗とリムリアは当然として。

 奈津と花奈も小さな国なら壊滅させる戦闘力の持ち主なのだから。


 とはいえ、わざわざトラブルを起こして、目立つのも避けたい。

 なのでリムリアは。


「え~~と、どういうコトか説明して貰ってもイイかな?」


 情報収集を始める事にした。


「さっきの男達、急にキツネに変わったよね。何アレ?」


 島根ノ国に攻め入ってきた魔法使いの正体は妖狐だった。

 そして島根ノ国を攻める拠点となるこの街に、人間に化けた狐がいる。

 無関係とは思えない。


「ひょっとしてチャナビエトの兵士なの?」


 リムリアは、そう推理したのだが。


「はぁ? チャナビエトの兵士ぃ? あははははははははははは! そんな筈ないだろ、まったく」


 オバサンに大笑いされてしまった。

 そしてオバサンは。


「ああ~~、笑わせてもらったよ」


 そう言いながら涙をぬぐうと。


「あいつらはフォックス連合って犯罪組織の下っ端さ。」


 と、想像の斜め上を行く言葉を口にした。


「フォックス連合って?」


 さらに尋ねるリムリアに、オバサンが続ける。


「ラシャダッキ一家、チェンシェンコ一家、カンウザーク一家、フッケンポフ一家って4つの犯罪組織が手を組んで作った広域犯罪組織さ。フォックス連合って名乗ってるのは全員が妖狐だからで、尻尾の数が多いほど偉いらしいんだよ」


 オバサンの説明によると。


 チャナビエトは現在、西に位置するユークリアナ国に侵略中。

『1週間もあればユークリアナなど陥落させて見せる』

 そうチャナビエトの独裁者は豪語していたらしい。


 が、侵略されたユークリアナを周囲の国が支援。

 その膨大な支援によりユークリアナは、チャナビエトの侵略を食い止めた。

 チャナビエトがいかに嫌われ者だったか、を物語る話だ。

 だが、チャナビエトも引き下がらない、というより引き下がれなかった。

 独裁者というものは、自分が失敗したとは絶対に認めないものだから。


 こうして泥沼の戦争が始まったのだが。

 先に劣勢に陥ったのはチャナビエトだった。

 そして今では、チャナビエト本国すら危ういらしい。

 だからチャナビエトは国力の全てを戦争につぎ込んでいる。


 その結果。

 首都から離れた地域では犯罪を取り締まる事すら困難になった。


 そこに付け込んだのが妖狐の犯罪集団。

 フォックス連合を結成し、多くの街を裏から支配した。

 しかし元々、身勝手な犯罪者ばかり。

 捕まる心配がなくなった今、今度は勢力争いに必死らしい。


「そして自分が1番だ、と主張する為に、手柄争いしててさ。ラシャダッキ一家なんぞ、東の国を征服して自分達の国を作るって息巻いたのさ。けど手下を東の島国に送り出したものの、返り討ちにあったらしくてさ。それを知ったフォックス連合の会長から謹慎を食らったらしいよ」

「それで次の襲撃がなかったんだ。でもまさか襲撃してきたのがチャナビエトの正規軍じゃなくて犯罪組織だったとはね」


 ため息をつくリムリアの横では。


「本当ね。ワタシたちが戦っていたのが、チャナビエトの軍じゃなかったなんて思いもしなかったわ」

「でも1つの国を侵略しようする程の力を、犯罪組織が持ってるんですよね? そっちの方が驚きです」


 奈津と花奈が目を丸くしていた。


 それは和斗も同じだ。

 まさか島根ノ国を攻め滅ぼす寸前まで追い詰めた魔法使い達が。

 広域犯罪組織の構成員でしかなかったとは思いもしなかった。


「しかしそういう事なら、そのラシャダッキ一家って奴等がまた、侵略を再開するかもしれないな。永遠に謹慎してるワケじゃないだろうし」


 和斗の感想にリムリアが頷く。


「そうだね。そういうヤツに限って妙に執念深いんだよね」


 リムリアアは軽い口調でそう言ってから、顔を曇らせる。


「でも犯罪組織の方が厄介かも。国ならトップを潰せば終わりだけど、犯罪者を根絶やしにするなんて不可能だもん」


 そう呟いたリムリアにオバサンが心配そうな顔を向けた。


「なんの話をしてるんだか分からないけど、派遣した組員を失って以来、ラシャダッキ一家の連中は荒れててね。そのラシャダッキ一家の下っ端を、アンタ等はノシちまったんだ」


 そしてオバサンはリムリアの手をギュッと握った。


「その事がラシャダッキの連中にバレたら何されるか分からないよ。だから一刻も早く、この街から逃げ出しな。死にたくなかったらね」


 和斗とリムリアの戦闘力なら危険など全くない。

 でもオバサンの心配は、本当にありがたいと思う。

 だからこそ、このオバサンに迷惑をかけたくない。

 というコトで和斗は。


「分かりました、直ぐに逃げ出す事にします。ありがとうございます」


 オバサンに礼を言うと、店の裏口から外に出る事にした。

 しようとしたのだが、その瞬間。


 パリィン!


 オバサンの店のガラス戸を突き破って小さな壺が飛び込んできた。

 壺は天井に当たるとガシャンと割れて、液体をまき散らし。

 その液体に厨房の火が引火、オバサンの店は一瞬で炎に包まれた。


「ああ! 店が!」


 オバサンは悲壮な声を上げると、火を消そうとする。

 が、店は既に火の海。

 ここまで火が広がったら、オバサン1人で消火できる状況ではない。

 だから和斗は。


「俺に任せろ」


 そう口にすると。


 シュピ。


『風切り』で空気を切り裂き、真空状態を作り出した。


 物が燃えるには酸素が必要だ。

 その酸素が無くなったのだから、火は嘘のように消え去る。

 が、火事になった事まで無かったことには出来ない。

 オバサンの店は、とても営業できる状態ではなくなっていた。


「ああ、アタシの店が……」


 オバサンは黒焦げの店を目にして立ち尽くしていたが。


「ま、命があっただけ、マシってもんさ」


 和斗達にこわばった笑顔を向けた。

 悔しさ、怒り、憎しみ、恨み、悲しみ、恐怖、諦め、嘆き、無力感。

 様々な感情が入り混じった笑顔だ。


 そんなオバサンの笑顔に、和斗はギリッと歯を噛み鳴らす。

 これが和斗を狙ったモノだったら、反射的に迎撃していただろう。

 標的がリムリアや奈津、花奈だったとしても同じだ。


 しかし飛来したのは、ただの壺。

 しかも狙いは店の天井だった。

 だから反応が遅れてしまった。

 和斗なら店が燃える前に、何とか出来たのに。


 と後悔する和斗の耳に。


「これで分かったろ?」


 下品な声が飛び込んできた。


 その声の方向に目をやると、凶悪な顔をした男が立っていた。

 和斗より頭一つデカい、ムキムキの男だ。


「オレはラシャダッキ一家、ホイコー組の幹部、ムンジェコフってモンだ。おいバアサンよ。ウチの組員に手を出した野郎を庇うなんて馬鹿な真似するから、こんな目に遭うんだぜ」


 このムンジェコフの脅しに。


「ぐぅ……」


 オバサンはうめき声を漏らしながら、それでも目を逸らさなかった。

 オバサンに出来る、精一杯も抵抗だ。

 が、そんなオバサンが気に食わなかったのだろう。


「ああん!? なんだその目は!」


 ムンジェコフは声を荒げて、オバサンの胸ぐらを掴んだ。


「まだ分からないらしいな。ホイコー組の恐ろしさを骨まで叩き込んでやるぜ」


 そしてムンジェコフが、オバサンを殴ろうとした瞬間。

 和斗の中で、何かがブチ切れた。

 そして和斗の体の底に、マグマのように熱い怒りが沸き上がり。

 同時に、永久凍土のように冷たい殺意が吹き荒れた。


「こんな感情は、いつ以来だろうな」


 和斗はフシュウ、と熱い息を吐くと。


「おい、そこのクズ」


 それだけ口にした。

 この一言に。


「ああん? まだホイコー組の恐ろしさが分からねぇ馬鹿がいるのか?」


 ムンジェコフは怒りの声を上げるが、そこで。


 ぼとん。


 オバサンを掴んでいたムンジェコフの手首が、突然床に転がった。


「はぇ?」


 ムンジェコフは手首から先がなくなった左腕を不思議そうに見つめてから。


「オレの左手?」


 床に転がった手首に目を落とした。

 何が起こったのか理解できないのだろう。

 しかし。


 ブシュ!


 手首を失った腕から血が噴き出したところで。


「オ、オレの手がぁああああああ!」


 ようやく事態を理解したらしく、ムンジェコフは絶叫を上げた。


「手ェ! 手ェ! オレの手ェェェェ!!」


 ゴポゴポと血があふれ出す傷口を押さえて喚くムンジェコフを。


「なんだ? あんだけエラそうにオバサンを脅してたクセに、手首を失っただけで泣きわめくのか? ホイコー組って根性なしの集まりか? その程度でホイコー組の恐ろしさを教えてやる、なんて言葉を吐いたのか? お笑いだぜ」


 和斗は、汚い言葉で挑発した。


「ま、俺はお前らクズと違って、弱い者いじめは嫌いなんだ。弱っちいクズはサッサと逃げ帰れ」


 この更なる挑発に。


「弱っちいだと! ホイコー組幹部、ムンジェコフをナメてんじゃねェぞ!」


 ムンジェコフは怒りの目を和斗に向けると。


「おおおおおお!」


 大声をまき散らしながら殴りかかってきた。

 が。

 

 かくん。


 ドッシィン!


 ムンジェコフは急にバランスを崩して、床に激突する。


「な、なんだぁ!?」


 ムンジェコフは、そう怒鳴りながら立ち上がろうとするが。


「ふえ?」


 そこでやっと気付いたようだ。

 右足の足首から先が無い事に。

 その直後。


 ブシュゥゥ!


 左手に続き、右足からの大量の血が噴き出し。


「ひぎぇええええ!」


 ムンジェコフは情けない声を上げながら、今度は怯えた目を和斗に向ける。


「キサマ、ホイコー組にたてついて、どうなるか分かってるんだろうな!?」


 それでも脅しを口にするムンジェコフの顔を、和斗は覗き込む。


「どうなるか? 全く分からん。ぜひ今ココで教えてくれ」


 そして和斗が獰猛な笑みを浮かべた瞬間。


 ぼとん。


 ムンジェコフの左手の肘から先が床に落下し。


「ぶぎゃぁああああ!」


 ムンジェコフは家畜のような悲鳴を上げたのだった。





2022 オオネ サクヤⒸ

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