第十九話 いきなり総力戦かよ
ポエナリ城とは、ヴラドの力を誇示するような、巨大で禍々しい建造物だと思っていた。
が、ダンジョンの最深奥に造られているワリには普通の城だった。
しかし只の城とは思えない。なにしろラスボスの城なのだから。
「多分、アレが本当のポエナリ城だよ。ここから城まで敵はいないけど、城の中で50匹のワーウルフロードが待ち構えてる」
そう告げたリムリアに、和斗は表情を引き締める。
「そうか。なら、いくしかないな」
「うん!」
周囲を警戒しながらポエナリ城へと向かうが、リムリアの言葉通り、ポエナリ城の入り口に辿り着くまで何の襲撃もなかった。
こうして城門に辿り着いたところで、和斗は大きく息を吐き出す。
「はぁ~~。リムの魔法は信じてるけど、行き成り敵が現れそうな気がして心臓に悪いな」
和斗はもう一度大きく息を吐いてから、城門を見上げる。
「しかしデカい鉄扉だな。高さ30メートルくらいあるぞ。こんなの、どうやって開けたらイイんだ?」
そして和斗はリムリアに目を向けた。
「リム、どうする? こっそり忍び込むか?」
「ボク達の事はとっくにバレてるんだから、コッソリは無理があると思うな」
リムリアが苦笑すると同時に、鉄扉が地響きを立てて開いていく。
「ほら。さっさと入れ、ってさ」
「そっか。じゃあ行くか」
「うん」
鉄扉を潜ると、そこはサッカー場2つ分ほどもある大広間になっていた。
そして大広間の向こう側には、50人ものワーウルフが整列していた。
ハイ・ワーウルフより格が上である事がヒシヒシと伝わって来るコイツ等が、ワーウルフロードなのだろう。
「いきなり総力戦かよ」
冷や汗をながす和斗に、リムリアが緊張した声で囁く。
「ワーウルフロードは、ハイ・ワーウルフを瞬殺できるほどの戦闘力を持ってるから、そのつもりで」
「マジかよ。しかしマズいな。数じゃ圧倒的に不利だ」
「数だけじゃなくて、スピードでも圧倒的に不利だよ。どうする? 1度ダンジョンに引き返して、追って来るトコを1人ずつ撃退する?」
そうリムリアが口にすると同時に、入り口の鉄扉がズズンと重々しい音を立てて閉じてしまった。
「逃がす気はない、って事か」
和斗の呟きに、思いもしない方向から声が帰ってくる。
「その通り」
和斗とリムリアとは反対側、つまりワーウルフロードが整列している壁に設けられたバルコニーからだ。
「ヴラド!」
リムリアの叫びに、和斗はバルコニーに立つ人物を凝視した。
ローブによって隠されているので顔は見えないが、その身体つきは間違いなく女性のものだ。
「ヴラドって女なのか⁉」
和斗が思わず大声を上げるが、ヴラドは気にするそぶりも見せずに鉄のような声を発する。
「殲滅しろ」
その声で、1人のワーウルフロードが和斗へと歩き出した。
「1人だけ? どういうツモリだ?」
和斗が漏らした言葉に、こちらに歩を進めるワーウルフロードがニヤリと笑う。
「キサマ等ごとき、このオレ、ガルダン様1人で十分って事だ」
「舐めやがって。でも好都合だ!」
Ⅿ16は、
引き金を引く度に1発だけ発射するセミオート。
引き金を一度引く度に3発の弾丸を発射するバースト。
引き金を引いている間、連続して弾を発射し続けるフルオート。
に切り替える事ができる。
そのフルオートを選ぶと、和斗はガルダンごと整列しているワーウルフロード達を薙ぎ払った。
タタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタン!
弾倉1つ分、つまり30発の弾丸を発射したのだから、最低でも10人くらいは撃ち倒せる筈。
なにしろ1000倍に強化したⅯ16なのだから。
和斗は、そう考えていたのだが。
「マジかよ……」
和斗は30発の弾丸全てを躱したワーウルフロード達に、驚きの目を向けながら呟いた。
そんな和斗を、ガルダンが嘲笑う。
「その武器は敵に向けた後でないと攻撃できないのだろう? ならその武器を向けられる前に躱せばよいだけだ」
確かに銃口を向けた方向にしか銃弾は飛んでいかない。
そして1000倍に強化されたⅯ16であっても、その銃口をワーウルフロードに向ける操作を行うのは普通の人間でしかない和斗。
つまり人間の速度で銃口を向けようとしても、銃口を向ける前にワーウルフロードに身を躱されてしまう、という事だ。
「なら……これならどうだよ!」
バゴン!
点の攻撃を躱すのなら面の攻撃にすればいい。
そう考えた和斗はⅯ26ショットガンをぶっ放した。が。
「おっと、そうだったな。攻撃範囲が若干広い武器もあるようだが……少し大きく躱せば何の問題もない」
そう口にしたガルダンの姿をユラリと揺らめいたように見えた、その直後。
ザシュ!
和斗は、右腕を斬り裂かれてしまった。
「カズト!」
リムリアが悲鳴を上げるが……大丈夫、深い傷ではない。
「リム、心配いらない。包帯でも巻いておけば1週間で治るさ」
そう口にした和斗に、ガルダンが目を細める。
「ほう。その腕、切り落としたつもりだったが、掠り傷だけとは驚いたぞ。ワーウルフロードの爪を防御する服など初めて見た」
どうやら1000倍強化シリーズを購入しておいて命拾いをしたようだ。
しかしガルダンは、直ぐに余裕の態度を取り戻す。
「なら、服のない場所ならどうだ?」
その瞬間、和斗は無意識にアームプロテクターで首を隠した。
と同時に。
ギャリ!
アームプロテクターに深い傷が刻まれた。
もちろんガルダンの爪だ。
「ほう、なかなか良い反応だ。が、マグレだろ? おそらく次は躱せない」
「く……」
ガルダンの言葉に、和斗はギリッと歯を噛み鳴らす。
確かに防御できたのは偶然だ。
次は絶対に躱せない。どうしたらいい?
必死に考える和斗をガルダンが嘲笑う。
「ヴラド様に逆らうには力が足りなかったな」
ゴキン。
ガルダンの言葉と共に鈍い音が響き、そして和斗はバランスを崩して尻餅をついてしまう。
「なんだ?」
和斗は右脚に視線を落として、そこで初めて自分の脚が有り得ない方向に曲がっている事に気が付いたのだった。
暫くの間、自分に何が起きたのか理解できないでいた和斗だったが。
「痛ぇえええええええええ!」
足をへし折られてしまった、という事実に気が付くと同時に、和斗の全身を凄まじい痛みが貫いた。
「カズト!」
「来るな!」
駆け寄ろうとするリムリアを必死の形相で止めると、和斗はⅯ16でガルダンを撃ちまくる。
タン! タタン! タン! タタタン! タタン!
しかし引き金を引く直前、ガルダンは視界から消えてしまう。
「無駄だ」
ボキン。
ガルダンの声が響き、和斗は左足まで折られてしまった。
スピードが絶望的に違う。
ガルダンがその気になれば、いつでも和斗を殺せる事は間違い。
明らかに遊ばれている。
「チクショウ……」
痛みに耐えながら唇を噛む和斗を、ガルダンが見下ろす。
「抵抗は無駄だ。ハイ・ワーウルフ程度なら、そんなトロい動きでも倒せたかもしれないが、ワーウルフロードには通用しない」
そう言いながらも油断せず、和斗が落としたⅯ16を遠くに蹴り飛ばしたところが、ガルダンの戦士としての経験値の高さを物語っている。
戦闘力に圧倒的な開きがあるのに隙を見せない。嫌になる程の強敵だ。
しかし、諦めるワケにはいかない!
和斗は一か八か、ツェリスカを引き抜いてガルダンに向けようとするが。
バキン。
右腕までへし折られ、ツェリスカを地面に落としてしまった。
「カズトぉ!」
リムリアが、泣き叫びながら和斗に駆け寄ろうとするが。
「は、放せ!」
いきなり背後に現れた、金色に輝くワーウルフロードに羽交い絞めにされてしまった。
「リム!」
両足と右腕をへし折られた和斗は叫ぶ事しか出来ない。
ガルダンは、そんな和斗の首を掴んで持ち上げて牙を剥く。
「ヴラド様に逆らった事を後悔しながら死ぬがいい」
そう言ってガルダンは、和斗の首を噛み砕いた……と思われた瞬間。
「待ってたぜ!」
和斗はガルダンの口に左手を突っ込んだ。
「ふ。愚かな」
そんな事でダメージを負う事などありえないと分かっているガルダンは、ニヤリを笑うと和斗の腕をグシャリと噛み砕く。
その瞬間だった。
ドッカァン!
ガルダンの口の中で、大爆発が起こったのは。
「どうだ、チェーンガンの弾丸の味は!」
形成炸薬を使用した小型榴弾であるチェーンガンの弾丸は、爆弾と同じ。
そのチェーンガンの弾丸を200倍に強化したものは、見事ガルダンの頭を消し飛ばした。
「ぐえ!」
頭部を失ったガルダンの手から解放された和斗は、地面に投げ出されて妙な声を漏らしてしまう。
それでも和斗は、地面に激突した痛みに耐えながら満足そうな笑みを浮かべる。
「へへ、やったぜ……」
「確かに驚いたぞ。まさかガルダンを倒すとはな。しかし、そんな自殺まがいのムチャが通用するのは1度限り。そしてまだ49人のワーウルフロードが残っているのに瀕死の重傷で動く事すらできないのだろう? キサマ等の負けだ」
リムリアを羽交い絞めにしたまま、金色ワーウルフロードが淡々と告げるが。
「サイクロンブレード!」
「ぐはぁぁぁ!」
リムリアが自分の周囲だけに発生させた、鉄すら切り裂くカマイタチが金色ワーウルフロードをコマ切れにした。
「やったよカズト! これでハイ・ワーウルフ12人とワーウルフロード2人を倒したね!」
「ああ、やったぜ!」
血塗れで笑う和斗の頭の中で、サポートシステムの声が告げる。
――ワーウルフロード2匹を倒しました。
経験値20万
スキルポイント20万
オプションポイント20万
を獲得しました。
累計経験値が467万を超えました。
そして。
パラパパッパッパパ――!
レベルアップのファンファーレが、高らかに鳴り響いたのだった。
2020 オオネ サクヤⒸ