第百八十九話 3番でとどめを刺したり!
かなりの魔力を注ぎ込んで召喚したミノタウロスが壊滅。
この事実に妖狐達は青くなる。
「まさかミノタウロスが!?」
「ミノタウロス100匹といえば、国1つ落とせる戦力だぞ!」
「こんな辺境の地でミノタウロスを失うとは……」
「ここは1度、撤退して作戦を練り直すべきでは……」
3尾の狐が弱気な発言を漏らし出す中。
「うろたえるな!」
「我々はまだ、本気を出していない!」
「所定の位置に戻れ!」
4尾の狐達が厳しい声を上げた。
「よいか! ミノタウロスなぞ、たかが歩兵! 最強の火力を持つモンスターを召喚すれば良いだけだ!」
4尾の狐の指示で。
『は!』
3尾の狐はピタリと黙り込むと、再び召喚の魔法陣に魔力を送る。
そして魔法陣に魔力が満ちたところで。
「いでよ! 9つ首ヒドラよ!」
4尾の狐が叫び。
「「「「「「「「ゴァアアアアアア!」」」」」」」」
召喚されたヒドラが、8つの口で吠えた。
……のだが、そのヒドラを目にするなりリムリアが呟く。
「ねえカズト。なんかアレ、ボクの知ってる9つ首ヒドラと違う」
それは和斗も同感だった。
その姿を1口で言えば、背中から蛇の首が8つ生えたカエル。
蛇やカエルが嫌いな人が見たら、気絶しそうな外見だ。
和斗が今まで戦ってきたヒドラとは根本的に違う生き物に見える。
「俺もそう思う。ヒドラとは思えない見た目をしてるが……でも奈津達には強敵だろうな」
「うん、デカいもんね」
リムリアが頷いたように。
この世界のヒドラはリムリアの世界のヒドラより遥かに大きかった。
カエルの大きさは体育館くらい。
背中から生えている蛇の長さは40メートルほどもある。
頭の大きさはダンプカーくらいで、首の太さは3メートルくらい。
刀や弓では、倒すどころか傷を負わせる事すら出来ないだろう。
しかも8つの蛇は、炎まで吐けるらしく。
「「「「「「「「ゴォオオオ!」」」」」」」」
空に向かってファイヤーブレスをぶっ放した。
もしも威嚇のつもりなら、かなり効果的。
普通の人間だったら、恐怖で逃げ出していただろう。
なにしろ雲まで届く炎の柱が8本も発射されたのだから。
実際のところ。
「こらマズいで。想像以上の威力や」
そう呟いた雫の声は、わずかに震えていた。
優れた修験者だけあって、9つ首ヒドラの戦闘力を正確に把握したのだろう。
「エラいモン、召喚しくさったもんやで」
雫が9つ首ヒドラを睨みつけるが、その直後。
「「「「「「「「グロロロロロロロ……」」」」」」」」
8つの蛇の首は、その口を抵抗軍へと向けると。
「「「「「「「「「ゴォオオオ!!」」」」」」」」
先程を上回る威力のファイヤーブレスを吐き出した。
「アカン!」
炎の奔流が押し寄せるのを目にして雫が叫ぶが。
「飛刃剣」
和斗は顔色1つ変えずにカマイタチを放ち、ファイヤーブレスを消滅させた。
「はぁ~~、寿命が縮んだで」
ヘナヘナと膝から崩れ落ちる雫に、和斗は落ち着いた声で告げる。
「敵の攻撃は俺が防ぐ。そういう話だったと思ったが?」
「せやった、せやったな。カズトがおるんやさかい心配いらへんのやった。せやけど炎の威力があんまりやったさかい、つい息を吞んでもうたで。なあ、彩華かてそうやろ?」
「は! あ、ああ、あまりの事に息をするのを忘れていた」
どうやら彩華もダメだと思ったらしい。
雫に言われて、初めて我に返る。
「しかし本当にカズト殿が味方でよかった。心の底からそう思うぞ」
彩華がそう口にするが、その言葉の途中で。
ズズズズズズズズ。
9つ首ヒドラが地面を這うようにして前進を開始した。
本体部分がカエルなので、飛び跳ねたらどうしようと思ったが。
さすがにあの巨体でジャンプするのは無理らしい。
とはいえカエルが這う速度は、人が走るより速いうえ。
「ゴォオオオオオ」
「「「ゴォオオオオオ!!!」」」
「ゴォオ!」
「「ゴォオオオ!」」
散発的にファイヤーブレスを吐きながら進んでいる。
もちろん和斗が撃ち落とすので、ファイヤーブレスが塹壕に届く事はない。
だからだろうか。
9つ首ヒドラは、鉄条網から200メートル地点で。
「ゲコォオオオオオオ!」
カエルは大口を開けると。
ビュオッ!
その大型バスすら一飲み出来そうなサイズの口から舌が撃ち出した。
カエルが舌を伸ばして虫を捕える映像を見た事がある。
今、目にしているのは、まさにそれと同じ光景だ。
しかしカエルの大きさに比例して、射出された舌も巨大。
直撃したら、鉄条網くらい吹っ飛ばせそうだ。
しかし、そうはならない。
ザン!
和斗が放ったカマイタチが、カエルの舌を断ち切ったからだ。
「ゲコォオオ!?」
「「「「「「「「シャギャァ!?」」」」」」」」
まさか舌を切断されるとは思っていなかったのだろう。
9つの首が同時に悲鳴を上げた。
カエルの痛みを、蛇の首も感じるのだろうか?
といった疑問は置いといて。
ここまで9つ首ヒドラが前進するのを放置していたのは理由がある。
「第1,第2,第3遠距離班! 1番弾で攻撃開始!」
「は!」
彩華の命令と共に、その理由=遠距離班が攻撃を開始した。
遠距離班が手にしているのはカールグスタフ。
自衛隊では84mm無反動砲Ⅿ4と呼ばれるロケットランチャーだ。
全長1130㎜で、重量は6・7キログラム。
様々な砲弾があるが、今回用意したのは。
HEAT 751対戦車榴弾。
HE 441B榴弾。
ADⅯ 401フレシェット弾。
の3種類だ。
しかしこの戦いで、わざわざこの呼び方をするメリットはない。
だから対戦車榴弾は1番弾。
榴弾は2番弾。
フレシェット弾は3番と呼ぶ事にした。
その方が、命令する方も命令される方も分かり易いだろうから。
ちなみに、Ⅿ16は強化した分だけ反動も大きくなってしまった。
しかしカールグスタフは無反動砲。
5倍に強化しても、普通の人間が運用できる。
だから使用する砲弾は5倍に強化したものだ。
ただし後方に噴射される爆風は5倍になってしまう。
だから遠距離班は、仲間から離れた位置に配置している。
その、本体とは離れた位置から。
ドォン! ドォン! ドォン!
遠距離班がカールグスタフを発射した。
もちろん使用しているのは、命令通り1番弾。
つまり5倍に強化された対戦車榴弾だ。
その5倍に強化された対戦車榴弾は。
ドッカァン!! ドッカァン!! ドッカァン!!
見事9つ首ヒドラに命中。
その体に大穴を開けた。
まあ、考えてみたら当たり前。
HEAT751対戦車榴弾の装甲貫通力は500ミリ。
その5倍だから、今の攻撃は2・5メートルの装甲を撃ち抜く威力を持つ。
いくら9つ首ヒドラが頑丈だろうと、耐えられるものではない。
しかし体に3つも大穴が開いたのに。
『ゲコォオオ!』
「「「「「「「「シャギャァアアアア!」」」」」」」」
9つ首ヒドラは倒れない。
倒れないどころか前進速度がアップした。
その巨体で押しつぶすつもりなのだろう。
ブレスも舌も通用しない以上、それしか手がないのかもしれない。
そして普通の人間相手だったら、実に有効な攻撃手段だったろう。
しかし今回は、間違いなく判断ミスだ。
なにしろ遠距離班は10の班に分かれているのだから。
つまりまだ、7つの班が待機している。
その7つの遠距離班は。
「全遠距離班! 1番弾、放て!」
彩華の命令と共に。
ドォン! ドォン! ドォン! ドォン! ドォン! ドォン! ドォン!
7発の対戦車榴弾を9つ首ヒドラに撃ち込んだ。
9つ首ヒドラは、3発の対戦車榴弾を食らっても前進をやめなかったが。
さすがに対戦車榴弾10発には耐えられなかったらしい。
「ゲコォ……」
カエルが弱弱しい声を上げると地面に突っ伏し。
「「「「「「「「シャァァァ……」」」」」」」」
蛇の首も力を失って、ダラリと垂れ下がった。
「どうやら倒したようやな。せやけど、こっからが本番やで!」
雫が気合の入った声を上げると同時に。
『ケーン!』
倒れた9つ首ヒドラの影から妖狐の群れが飛び出した。
4尾の狐が50匹に、3尾の狐が98匹だ。
「9つ首ヒドラを盾にして攻め入るつもりやったみたいやけど、その盾を失ったさかい、突撃してきおったな」
現代戦において。
歩兵だけで突撃しても、敵の榴弾砲や機銃で打ち倒されるだけ。
だから歩兵が前進する為には戦車の援護が不可欠だ。
当然ながら妖狐が、そんな事を知っている筈がない。
しかし今までの戦いで、学んだのだろう。
9つ首ヒドラの陰に隠れて銃撃を避け。
鉄条網の手前まで攻め入って来た、というワケだ。
もちろん9つ首ヒドラの影に妖狐が隠れていた事は分かっていた。
雫の呪術で。
だが、妖狐達は予想外の行動に出る。
「連続灼熱砲!」
「爆炎連撃!」
攻撃攻撃魔法を、鉄条網の下の地面に撃ち込むと。
出来た大穴を潜って突進してきた。
「うわぁ、まさかゼロ距離から地面に攻撃魔法を放つとは思ってなかった。こりゃあ油断したな」
敵の魔法を斬り損ねて和斗は反省する。
味方に向かって放たれた魔法を斬る事にのみ集中し過ぎた。
その上、ステータスを人間並みにしていた事を忘れていた。
自主規制で速度を下げてなかったら、余裕で反応出来ただろうに。
いや、今はそんな事を考えている場合じゃない。
鉄条網に開いた穴の数は10以上。
その穴から妖狐達があっという間に侵入してきている。
が、こんな事態も想定内。
彩華は焦る事なく命令を下す。
「全小隊、撃て!」
その声と同時に。
タタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタ!
150丁のⅯ16が火を噴いた。
のだが。
「ち、動きが早くて命中しない!」
彩華が舌打ちしたように。
4尾の狐と3尾の狐の動きは早く、殆ど当たらない。
しかも。
「命中しても弾かれとる? 魔法障壁か防御力強化の魔法を使うとるな!」
雫が叫んだように、命中してもダメージを与えていなかった。
が、直ぐに雫の口には笑みが浮かぶ。
「ま、これも想定通りや。ほなら遠距離班、2番弾をブチかましたれ! 全小隊は塹壕に隠れぇ!」
2番弾=HE441B榴弾。
800発の鉄球を爆発と同時に周囲にばら撒く、広範囲攻撃砲弾だ。
もちろん5倍に強化されている。
こんなものを人間が食らったら、即死間違いなし。
だから抵抗軍は雫の命令と同時に、一斉に塹壕の中に身を隠す。
その直後。
ドッカァン!!!!!!!!!!
10の榴弾が着弾、8000個の鉄球が妖狐に襲い掛かった。
そして砲弾だけあって、その威力はⅯ16とは桁違い。
3尾の狐を全てが、全身を穴だらけにされて地面に転がる。
しかし。
『ケーン!!』
血まみれになりながらも、50匹の4尾の狐は立ち上がった。
「すごい生命力やな。せやけど、これで終わりや。遠距離班、3番でとどめを刺したり! 撃て!」
榴弾を食らいながらも生き残る可能性も想定済み。
張り巡らせた地下通路を使い、遠距離班は塹壕に移動させている。
そして雫の命令で3番=ADⅯ401フレシェット弾が発射された。
ADⅯ401フレシェット弾。
1100発の鉄の矢を撃ち出す砲弾だ。
もちろん、これも5倍に強化してある。
その10発分=11000もの鉄の矢の雨に撃たれ。
『ケーン!』
4尾の狐は全滅したのだった。
2022 オオネ サクヤⒸ