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   第百八十七話  2倍に強化しといたのは正解だったね





 新しい武器を装備してからの5日間。

 見張りはアパッチを操るサポートシステムに任せ、訓練に励んだ。


 ちなみにアメリカ軍の海兵隊の入隊教育機関は13週間ある。

 たった5日で戦える状態になる筈がない。

 しかし武芸18般を叩き込まれていた所為だろう。

 奈津達の基礎体力も精神力も、十分なレベルだった。


 だから、この短期間で。

 奈津達は軍としての戦い方を一応こなせるようになっていた。

 もちろん訓練内容は、とんでもなく厳しいものだったが。

 そして6日目のこと。


――2000名の魔法使いを発見しました。

  19分後に、ここから2キロ地点に到達します。


 サポートシステムの声が響き渡った。

 ここは寺に設けられた臨時指令室。

 和斗、リムリア、雫、雷心、彩華が寝泊まりしている場所だ。


 本来なら誰かが徹夜で万が一に備えるべきだが。

 サポートシステムの警戒は万全なので、安心して眠れる。

 だから全員揃って熟睡していたのだが。

 和斗もリムリアも雷心も雫も彩華も、高レベルの戦闘経験者。

 サポートシステムの警報に、即座に反応して飛び起きた。


 今の時刻は、夜明けまで1時間というところ。

 奇襲に1番適した時間だ。

 しかしそれくらい和斗だって知っている。

 敵が奇襲を仕掛けてくるとしたら、この時間帯だろうと思っていた。


 それ以前に。

 雫の裏密教の秘術により、チャナビエトの動きは把握している。

 もちろん今日、チャナビエトが襲撃して来る事も分かっていた。

 だから睡眠はとっていたものの、迎撃準備は整っている。


「雫」


 和斗の静かな、しかし鋭い声と同時に。


「敵襲や」


 雫は呪符を起動させた。

 音伝えの呪符だ。

 この呪符を抵抗軍238名、全員に配っている。

 だから雫の声に。


『……』


 238名全員が、物音を立てる事無く戦闘態勢を整える。

 そして。


「作戦通り、塹壕に隠れて迎え撃つで! 全員、所定の位置につき!」


 雫の命令で、238名が塹壕へと移動。


「第一小隊50名、位置につきました」

「第二小隊50名、位置につきました」

「第三小隊50名、位置につきました」

「側防班、位置につきました」

「遠距離班、位置につきました」


 すぐさま報告が入ってきた。

 ちなみに塹壕は、リムリアの魔法で改造&強化してある。

 前回より効率的に戦える筈だ。


 ついでにいうと。

 小隊は5つの分隊によって構成されていて、小隊長が指揮を執っている。

 そして分隊は10名で構成されており、指揮を執るのは分隊長だ。

 この報告を受けて、雫が呟く。


「よっしゃ! 全員、戦闘位置についたで」


 ここまで費やした時間は2分ほど。

 敵が2キロ地点に到達するまで、まだ17分もある。


「ふん。何を企んどるんか知らへんけど、えらいユックリ進んどるな」


 鼻を鳴らす雫に、雷心が答える。


「いや、薄暗い時間帯でござるから、慎重に歩いていて当然でござる。問題は、どのくらいの距離で広範囲殲滅魔法を構築するかでござる」


 ゴクリと鳴らす雷心に、リムリアが尋ねる。


「で、鳥取ノ国や岡山ノ国や広島ノ国や山口ノ国の軍を1人で壊滅させた高位魔法使いも襲ってきてるの?」

「もちろんや」


 リムリアの質問に答えたのは雷心ではなく、雫だった。


「裏密教の秘術で調べたんやから間違いあらへん。チャナビエトは総力戦を仕掛けてきとる。高位魔法使い50名も、キッチリ参加しとるで」

「そっか。かなりの強敵だね」

「ついでに言うたら、先の戦いから分析して、こっから2キロ離れたトコから強力な攻撃魔法を叩き込んでくる筈や」

「だから2キロ地点に辿り着くまで19分、ってサポートシステムが警告してくれたんだね」


 呑気に言い放つリムリアに雫が溜め息をつく。


「はぁ~~、ほんまリムリアは緊張しとらへんのやな」

「だって負ける気しないもん」


 何をあたりまえの事を、と言わんばかりのリムリアに。


「ははははは!」


 彩華が大笑いする。


「そうだったな。よし! この戦いに1人の犠牲を出す事なく勝利して、チャナビエトが2度と侵略する気を起こさないくらい徹底的に叩き潰すぞ」


 これらの会話は音伝えの呪符によって抵抗軍全員に聞こえている。

 そして。


「これなら勝てそうね」

「いや、勝つんだ」

「そうだな、絶対に勝つ」

「さっさと攻めてこい」

「やるぞ!」

「チャナビエトに思い知らせてやる」


 緊張をほぐし、士気を高める事になったようだ。

 そんな中。


「雫。状況を報告してくれ」


 彩華が雫に命令した。


 雫は優秀な裏密教の修験者だ。

 虫、鳥、小動物などを操る力を持っている。

 雫はそれらを目や耳にして魔法使いを見張っていた。


「せやな。やっぱ2キロ地点を目指しとるみたいやで。そっから広範囲無差別破壊魔法をぶっ放してから突撃してくる計画みたいやで」

「なんだ、前回と同じだな。その戦法では我々に勝てないのを理解してないのだろうか。それとも、そう思わせておいて、何か秘策があるのだろうか」


 首を傾げる彩華に、雫が即答する。


「もちろん策を弄しとるに決まっとるやろ。あ」

「どうした?」

「奴ら、もう本性を現しよったで。2尾の狐が山ほどおる。こいつらが下級魔法使いやな。中級魔法使いらしき3尾の狐が100くらい。ほんでもって、4尾の狐が50匹。こいつ等が上位魔法使いちゅうこっちゃろな」


 雫の報告に、彩華が驚く。


「本性を現しただと? 妖狐に姿を目撃されたら反発が高まるだけ、という事が分からないのか?」

「いや、もう気付かれても気にせえへん段階に入った、ちゅう事やろな。妖狐である事を見せつけた上で、人間を家畜として扱う気や。ウチ等を圧倒的な力でねじ伏せた上でな」


 そして雫は音伝えの呪符に向かって怒鳴る。


「敵は本性を現しおった! 進軍速度も上がったさかい、予定より早く攻撃してくる筈や! 気合入ぇや!」

『……!』


 打ち合わせ通り、必要がない事柄に対して返事はしてこない。

 が、音伝えの呪符の向こう側から、決意の気配を感じられた。

 そして数分後。


「動きおった!」


 雫が魔力の高まりを察知して叫んだ。

 今、雫の目と耳は、夥しい数の虫、鳥、小動物とリンクしている。

 その無数の目と耳がとらえたのは、魔力を高める4尾の狐だった。


「魔力の特徴からして、コイツが鳥取ノ国を壊滅させた魔法使いやな。せやけど1匹だけの魔力で攻撃魔法を放つ気やないみたいやで。数百匹の手下から魔力を集めとる」


 雫の言葉に、リムリアが敵の魔力に意識を向ける。


「ふうん。構築してる魔法は、広範囲を火の海にする魔法だね。攻撃範囲はこの寺の敷地と畑全部。威力は鉄が蒸発するくらい。どうやらこの1発でボク等を壊滅させる気みたい」


 リムリアがそう口にした直後。

 寺の敷地全部が、魔法陣に包まれた。


「へえ、立体積層型広範囲無差別攻撃魔法かぁ。うん、4尾の狐1匹分と2尾の狐500匹分くらいの魔力が込められてる。このままだと、寺ごと蒸発しちゃうだろうね」


 その魔法陣を平然と分析するリムリアに。


「いや、そらエライこっちゃろ!」


 雫が焦った声を上げるが、その瞬間。


 パキィン!


 妙に澄んだ音を立てて、寺を包んでいた敵の攻撃魔法陣が切り裂かれた。

 その光景に、雫は


「はぁ~~、せやったで」


 大きく溜め息をついてから、和斗に目を向ける。


「敵の広範囲攻撃魔法はカズトが叩き潰す計画やったな。それは分かっとったんやけど、敵の攻撃がエライ大掛かりなモンやったさかい、焦ってもうたで。せやけど何度見ても驚きの技やな。巨大カマイタチによる魔力切りなんぞ、雷心かて使えへん技やさかい。ほんまカズトが味方で良かったで」


 雫は胸を下ろすと、音伝えの呪符を使って抵抗軍に語り掛ける。


「ちゅうコトで、敵の攻撃魔法はカズトが魔力切りで斬ってくれるさかい、ミンナは攻撃に専念できるで。安心せぇ」


 少年少女も焦りと恐怖を感じていたのだろう。

 雫の言葉に、音伝えの呪符から明らかに安堵の空気が漂ってきた。


 そんな中。

 今度は総司令である彩華が声を上げる。


「今のところ、計画通りに事は運んでいる。焦ることなく、戦いに備えろ」


 さて、最初の大規模攻撃は潰した。

 そして敵は、此方が迎撃態勢をとっている事にも気付いた筈。

 なら次はどんな攻撃を仕掛けて来るのか?


 彩華が息を殺して敵の出方を伺う中。


「はぁ? 突撃して来おったで」


 雫が意外そうな声を上げた。


 全ての2尾の狐が、こちらに向かって突撃してきたからだ。

 その1900匹近い2尾の狐の先頭を走る妖狐だけ、尾が3つある。

 きっとこの3尾の狐が突撃の指揮を執っているのだろう。


「しかし敵さん、ナニ考えとんのやろ? 数は前より多いみたいやけど、前回の反省を全然生かしとらんやないか。ま、何を企んどるんか知らんけど、倒せるモンは全部倒したろやないか。なあ彩華!」


 雫が怒鳴ると同時に。


「もちろんだ。総員、戦闘態勢!」


 彩華が音伝えの呪符に向かって怒鳴り。


 カシャカシャカシャ!


 第一小隊、第二小隊、第三小隊の150名がⅯ16を構えた。


 ところで。

 フルオートでⅯ16をぶっ放す映画やアニメを見た事は無いだろうか?

 しかし実際の戦場で、そんな場面は殆どない。


 例えば自衛隊の場合。

 豊和89式5・56m小銃というアサルトライフルを使用している。

 このアサルトライフルの発射速度は毎分650~850発。

 それに対し、自衛官が持ち歩く予備弾倉の数は6個。

 弾倉に装填されている弾の数は30だ。

 つまり1人の兵士が持っている弾丸の数は180発しかない。

 だからフルオートで撃ちまくった場合。

 弾倉交換の時間を無視すれば、たった17秒で弾を撃ち尽くしてしまう。


 Ⅿ16も同じようなモノ。

 アメリカ兵が携行するのは30発の弾が装填された弾倉6個。

 まあ最近は7個になったという話も聞くが、それは置いといて。

 やはりフルオートを続けたら、30秒もしないうちに弾は無くなる。


 戦いがいつまで続くかなど、誰にも分らない。

 そんな状況では、180発を多いと思う人は少ないだろう。

 だから実際の戦場では、フルオートで撃ちまくる場面など殆どない。

 例外は、全軍による突撃。

 この時だけはフルオートで撃つまくりながら前進するのだ。

 

 話を元に戻そう。

 今、抵抗軍は10個の予備弾倉を身に付けて配置についている。

 つまり330発の弾を携行しているわけだ。

 それでもフルオートで撃ち続けたら30秒で弾がなくなる計算になる。

 それ以前に、重さ約4キロしかないⅯ16をフルオート射撃した場合。

 反動で銃が暴れまくり、狙った場所に弾は飛んでいかない。

 だから1発1発、しっかり狙って撃つよう和斗は訓練してきた。


 その訓練通り。


「てェ!」


 彩華の号令と同時に。


 タン! タン! タン! タン! タン! タン! タン! タン!


 抵抗軍は慎重に狙いを定めてⅯ16を発射した。

 敵との距離は800メートル。

 この遠距離からの狙撃に。


「ふん。この距離では我らを倒せる威力など無い事は調査済みだ」


 先頭を走る、3尾の狐がフンと鼻を鳴らした。

 2尾の狐の突撃を指揮する妖狐だ。

 

 Ⅿ16が使用する5・56×45mNATO弾という。

 この弾丸は高速で発射される為、殺傷能力は高い。

 だが800メートルを超えると人を倒すには力不足となる。

 しかも動物は人間より遥かに高い耐久力を持っている。

 つまり妖狐を倒すには、かなり近くから撃つことが必要だ。


 そして前回の戦いで、妖狐はその事に気付いていた。

 だから抵抗軍との距離が800メートルを超える今。

 たとえ命中しても倒される事はないと判断していた。


 本当に危険なのは300メートルくらいから。

 その距離に踏み込むまでは軽く流し、そこから全力で駆ける。

 妖狐達はキッチリと前回の戦いを検証し、戦法を練って来ていた。

 のだが。


『ケーン!』


 100匹を超える2尾の狐が体を撃ち抜かれて地面に倒れた。

 この思いもしない事態に。


「なにぃ!?」


 先頭を走る3尾の狐は目を見開いた。

 致命傷を負った妖狐は少ない。

 が、それでも10匹を超える妖狐が絶命している。

 重傷を負った妖狐は20くらいか。

 つまりたった1回の攻撃で、30匹が戦闘不能にされた事になる。


「何故だ!? まだ安全な距離の筈! なのに何故、致命傷を負う!?」


 3尾の狐の疑問の答えは。


「やっぱしⅯ16を2倍に強化しといたのは正解だったね」


 リムリアが口にしたように、2倍に強化しておいた事だった。

 










2022 オオネ サクヤⒸ

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