表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

185/211

   第百八十五話  殺生石





 1000名の魔法使いを全て撃ち倒した後。

 おびただしい数の猫又と2つ尾の狐が地を埋め尽くしていた。

 チントウの時と同じく、撃ち倒した魔法使いが姿を変えたものだ。


 が、まだ人間の姿の魔法使いもいる。

 まだ生きている証拠だ。

 が、その魔法使いも。


「あ、あいつまだ人間の姿してる。とどめを刺せ!」


 タン!


 奈津達がⅯ16で狙撃していく。

 島根ノ国を虐げている実行部隊に、かける情けなど無いのだろう。


「大勝利やな」

「ああ」


 満足げな雫に頷いてから、彩華は和斗とリムリアに向き直った。


「和斗殿、リムリア殿。貴殿等のおかげで誰一人失う事なく勝利を収める事が出来ました。心より感謝します」


 深々と頭を下げる彩華に、リムリアが魔法使いだったモノを指さす。


「でもこれってチャナビエトの魔法使いが全部、猫又と2つ尾のキツネだってコトだよね? つまりチャナビエトってキツネと猫又の国ってコトかな?」

「たしかに実戦部隊は妖狐と猫又のようですが、国の支配者がキツネと猫又とは限らないと思います」


 彩華の答えに雫が頷く。


「せやな。ウチかて妖怪を使役する事あるさかい、人間が操っとった可能性かてあるやろな」

「う~~ん、そういえばそうだね。あ、やっぱ発生した」


 顔をしかめるリムリアの視線の先では、キツネから毒煙が噴き出ていた。


「ま、チントウの時がそうだったから準備万端だけどね」


 リムリアが言い終わるよりも早く。


 ヒュオォォォォォォ。


 風が渦巻いて毒煙を一か所に集めていく。

 それは最後の1匹が毒煙を噴き出すまで続き。

 最後には毒煙を圧縮して、真っ黒な石に変えた。

 その石に雫は駆け寄ると。


「思った通りや。殺生石に変わりおったで」


 そう言って黒い石に結界を張り巡らせた。

 と、そこで雫の言葉にリムリアが反応する。


「殺生石? ナニそれ」

「ああ、大昔に9尾の狐ちゅう大妖怪が退治された事があったんやけどな、その退治された9尾の狐は毒気を振り撒く岩に変わりよったんや。で、その近寄った生き物をミンナ殺してまう石を殺生石と呼んだんや。ちなみにそん時の殺生石は偉い坊さんが一括すると砕けてしもうた、ちゅう話や」

「ふ~~ん。けどつまり、あの毒気を集めた石、ああ殺生石だっけ? を何とかするには、偉い坊さんが必要ってコト?」

「いや、アレなら破毒の太刀で斬れるやろな。雷心、頼むで」

「承知。むん!」


 雫が口にするなり雷心が破毒の太刀を放った。

 その斬撃は


 キン。


 澄んだ音と共に殺生石を真っ二つにし。


 ぱさ。


 2つになった殺生石は、空気に溶ける様に崩れ去った。


「これで一件落着でござるな」


 ほう、と息を吐く雷心の後ろ頭を。


 パシーン。


 雫が平手でブッ叩いた。


「何をするのでござる?」


 ケロリとした顔でそう口にする雷心に、雫がズイッと顔を近づける。


「どこが一件落着なんや! チャナビエトの魔法使いを、たった1000人倒しただけや! 島根ノ国にゃあ、まだ2000も魔法使いが残っとるんやで! それだけやない! Ⅿ16の事をチャナビエト本国が知ったら、もっと沢山の戦力を投入してくるかもしれへんのや! 戦の本番は、こっからなんやで!」

「そういえばそうでござった」


 まくし立てる雫に、雷心はポンと手を打ってニコッと笑う。


「しかし今の我々ならば、勝てない敵ではござらぬ。そうでござろう? ならば今だけは素直に勝利を喜ぶでござる」

「むぅ。そりゃそうやけど……」


 思わず口ごもる雫だったが、直ぐに顔を引き締める。


「あかんあかん、また雷心につられてホッコリしてまうトコやったで。ええか、ウチ等はチャナビエトの魔法使い1000人を皆殺しにしたんや。このことは直ぐに松江城を乗っ取っとる上級魔法使いに知られてまうやろう。下手したら今日中にも残り2000人が攻めて来るで」


 しかし雷心は笑みを崩さない。


「いや、それはないでござろう。1000人の魔法使いが、我々に1人の被害を出す事すら出来ずに壊滅したのでござるぞ。何の対策も立てずに攻め入ってくるほど敵も馬鹿ではない筈でござる。情報を集め、戦力を整えるのに数日、ひょっとしたらそれ以上の準備期間が必要と拙者は思うのでござるが、雫殿はどう思われるでござる?」

「たしかにそうやな。戦目付みたいな役目のモンが、どっからかさっきの戦いを観察しとった筈や。そしたら何が起こったか分析して、そして作戦を立ててからやないと攻めて来んわな。ま、見張りは立てなあかんやろけど、今日んとこはシッカリ休んで力を蓄えるべきやろな」


 雫が納得したところに、和斗が声を上げる。


「ならその見張り、俺が受け持つから、全員で休んだらいい」

「全員で休むやて? いやいや、いくら和斗はんでも1人で全方位を警戒するなんぞ出来るワケないやん? 冗談キツイわ」


 パタパタと手を振る雫に、和斗はニヤリと笑うと。


「ポジショニング」


 上空30メートルの高度に、アパッチ10機を呼び寄せた。


「こいつらが見張ってくれる」


 上空を周回するアパッチの迫力に雫はポカンと口を開けていたが。


「うはぁ……こらまたとんでもない式鬼やな。ひょっとしたらコイツ等だけでチャナビエトの奴らを皆殺しに出来るんやないか?」


 そう聞いてきた。


「自分で言うのもなんやけど、ウチは優れた修験者や。そのウチですら、身の毛がよだつ程の力を感じるで」


 この雫の言葉に、和斗より早くリムリアが答える。


「そりゃそうだよ。アレ1つで大陸を海に沈めることだってできるんだから。なんなら今すぐチャナビエトを地上から消し去ってあげようか?」


 リムリアが何を言っているのか、わからない。

 それがこの場にいる全員の心の内だったが。


「なんか反応が薄いな。じゃあちょっとだけアパッチの力を見せようかな」


 リムリアはアパッチを1機だけ操ると。


 ガガガガガガ!


 ちょっとだけチェーンガンを撃ってみせる。


 ところで、和斗が呼び出したのは1000倍強化アパッチだ。

 当然チェーンガンも、1000倍強化されたもの。

 その1000倍強化チェーンガンが撃った弾丸は、たった6発だったが。


 ドカドカドカドカドカドッカァン!


 1発で直径80メートルを更地にする大爆発が、6連発。

 広大な範囲を荒地に変えた。


「どう? 今使ったのはチェーンガンって武器。1万2千発撃てるし、リロードの魔法を使えば何度でも繰り返すせる。でもアレは1番弱い機体。1番強い機体はアレの10万倍の破壊力を持ってる。冗談でも例えでもなく、ホントに大陸を破壊できる力を持ってるよ」

「さっきのかて度肝を抜かれたゆうのに、10万倍やて? そんな化け物みたいな力があるんならチャナビエトを地上から消滅させる事くらい簡単やろうけど」


 そこまっで口にすると雫は奈津達へと視線を向ける。


「ミンナどないする? 和斗はんに頼んで、チャナビエトの屑共を皆殺しにして貰うか?」

「いいえ!」


 雫の問いに、奈津が即座に声を張り上げた。


「自分の手で守ってこそ、自分の国だと胸を張って言えると思います! もちろん和斗様の助け無しでは戦えないでしょう。いや和斗様から武器を貸与して頂けなければ全滅していたと思います。でもだからこそ、武器を手にして戦うのは私たちでありたいと思います」

「ちゅう事らしいで」


 雫がリムリアに視線を戻す。


「いや、ホンマにリムリアの申し出にゃあ感謝しとるで。出来る事ならリムリアにチャナビエトを壊滅してもらいたいと、心の底から思うで。せやけど、そこまで甘えるワケにはいかんのや。例え命を失う事になっても、コイツ等は自分の手で島根ノ国を取り返したいんや」


 雫の言葉に、奈津達が無言で頷く。

 その表情が、言葉よりも雄弁に語っていた。

 覚悟は出来ている、と。


「そっかぁ」


 リムリアはそれだけ口にすると、和斗にニカッと笑ってみせる。


「ならカズト。ボク達がやる事は1つだね」

「そうだな。1人も欠ける事なくチャナビエトを倒せるように、奈津達を訓練するしかないよな」


 和斗はそう答えると、奈津達に向き直る。


「Ⅿ16より威力が上の武器も提供するから、それらの使い方や、それらを使った戦法を教えたいと思う。それくらいの手助けなら構わないだろ?」

『はい!! よろしくお願いします!!!』


 和斗は声を揃える奈津達に笑みを浮かべると。


「なあリム。俺、少しワクワクしてきたよ」


 そう呟いたのだった。







次の投稿は12月の予定です。

今回は強くて「ニューゲーム準備編」というトコでしょうか。

次は「強くてニューゲーム無双篇」となる予定です。


2022 オオネ サクヤⒸ

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ