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   第百八十四話  魔法 対 Ⅿ16






 Ⅿ16の訓練を初めて3日目の朝。

 チャナビエトとの決戦の場は、ここ=竜雲寺に決定。

 リムリアの魔法と、雫と彩華の呪術で地形を戦闘用に変える。

 こうして準備が整ったトコで。


「じゃあライシン。松江の街でチャナビエトの魔法使い共を斬って斬って斬りまくって、上手くここに誘導してね」


 リムリアが無邪気な笑顔を雷心に向けた。


「ライシンならどんな戦場からでも生きて帰ってこれるから、簡単だよね」

「いや、リムリア殿が考えているより遥かに困難な任務でござるが……」

「でも無理じゃないんだよね」


 リムリアの揺るぎ無い笑顔に負けたのだろう。


「行ってくるでござる」


 雷心は小さく溜め息をつくと、松江の街へと向かったのだった。

 そして約1時間後。


「戻ったでござる!」


 雷心が駆け戻ってきた。

 その雷心の後方1キロ地点に見えるのは、1000名ほどの魔法使い。

 しかし何かの罠だと気づいているらしく、その足取りは慎重だ。


 が、逆に進軍がユックリなのは有り難い。

 コッチもユックリと余裕をもって準備できるから。


「ちぇ。一網打尽にしてやろうと思ったのに、たった1000か。ま、Ⅿ16初体験には丁度イイ数かな」


 リムリアは小さく呟いてから、声を張り上げる。


「皆! 配置について!」


 その声で、奈津達は塹壕に飛び込む。

 雫と彩華が呪術で作り上げた、深さ1メートルの塹壕だ。

 ちなみにリムリアの声は、魔法によって全員に伝えられている。


「射撃用意!」


 続く指示で、用意しておいた砂袋を塹壕の前に置き。

 その上に構えたⅯ16を乗せる。

 手で支えるよりⅯ16が安定するから、より精密な射撃が出来るからだ。


 と同時に砂袋は、敵の攻撃魔法に対する遮蔽物としても役立つ。

 だから落ち着いて狙撃できるハズだ。


「もっと敵が近づいてくるまで発砲しないように!」


 リムリアの命令で、塹壕は微妙な緊張に包まれる。


 Ⅿ16は、本当に魔法使いを撃ち倒せるのだろうか? 

 魔法で攻撃される前に、撃った方がイイのでは?

 もしも引き金を引いても、弾が出なかったらどうしよう?


 様々な不安が胸の奥を駆け巡る中。


「火縄銃や弓の有効射程は100メートル前後。それは世界共通のはず。なら魔法使いは火縄銃の射程距離に入るまでは油断してると思う。多分200メートルくらいまで無防備に近づいてくるんじゃないかな? だから敵が200メートル地点に到達したトコで一斉射撃の合図をするからね」


 リムリアは全員に、そう言い聞かす。

 やはり的は近ければ近いほど良い。

 だから敵が戦闘態勢に入る直前まで、魔法使いの進軍を邪魔したくない。

 と考えていたのだが、敵は300メートル地点に達したトコで。


「「「「「爆炎!」」」」」


 無詠唱で魔法を放ってきた。

 その爆発系攻撃魔法は。


 ドカンドカンドカンドカン!


 塹壕の前に着弾。

 派手に土煙を巻き上げた。


「爆発を煙幕替わりにした!?」


 リムリアが目を見開いた次の瞬間。


『炎熱砲』


 今度は炎の砲弾が襲い掛かってきた。


「皆、隠れて!」


 リムリアの叫びは何とか間に合い。

 全員が塹壕に身を潜めたところで。


 ズドンズドンズドンズドンズドン! 


 炎の砲弾が着弾。

 盛大に炎をまき散らした。


「不味いでリムリア! 先手を打たれてもた! こないに攻撃されたら塹壕から顔を出して撃つなんぞ出来るモンやないで」

「それに爆炎がまき散らす土煙で敵が見えない! これでは銃を撃てたとしても、敵に命中させる事など不可能だ!」


 焦る雫と彩華の説明によると。

 中級魔法使1人が下級魔法使い9名を率いるのが魔法小隊だ。

 その魔法小隊が100を集めたものが、今攻めて来ている敵の構成らしい。


 そして現在。

 下級魔法使いが爆発系の魔法を連射し。

 中級魔法使いが、強力は魔法砲撃を仕掛けている状況だ。

 という中。


「ま、イザとなったらカズトとボクがどうにかするから心配いらないよ。とはいえ出来れば奈津達には自分の手で敵を討たしてあげたいな。ライシン!」


 リムリアは平気な顔で雷心に声をかけた。


「な、何でござる?」

「万斬猛進流の技で何とかならない? ほら、あの神の力を借りて放つ阿修羅斬と千か手観音斬で」

「いや、人と人との戦で神の技を使う事は禁止されているでござる。まあそれ以前に力を貸していただけないでござろうな」

「うわぁ、役に立たない……じゃあ魔力斬りや破軍の太刀は?」


 リムリアの罰当たりは言葉に雷心は苦笑しながら答える。


「そうでござるな。拙者に飛んでくる魔法なら魔力斬りで消滅させる事は可能でござるが、ここまで広範囲の攻撃を切り落とすのは無理でござる。そして破軍の太刀でござるが……」


 そして雷心は、そう口にするなり。


「むん!!」


 破軍の太刀を放った。

 が、雷心が放った1500のカマイタチは。


「あ。魔法をすり抜けちゃった」


 リムリアが口にした通り、攻撃魔法を素通りしてしまった。


「拙者が破軍の太刀で放つカマイタチでは魔法を斬る事は出来ないのでござる。そして!」


 雷心が再び破軍の太刀を放つ。

 今度のも標的は1000人の魔法使いだ。

 しかし。


『爆炎!』


 爆発系の魔法により、カマイタチを吹き散らされてしまった。


「この距離では、威力の速度も落ちてしまうので、魔法を切り裂いて敵を斬る力は残っていないのでござる」

「そっかぁ」


 リムリアは小さく呟くと、和斗に目を向ける。


「どうするカズト? もうボク達の力でプチっと潰しちゃう?」

「う~~ん、そうだなぁ……」


 そう口にしながら和斗は思考を加速させる。

 1000人の魔法使いなど、和斗にとって粉雪以下。

 手をかざしただけで消滅してしまうだろう。

 しかしそれをすると、10以上にレベルアップしてしまう。

 念のためサポートシステムに確認すると、


――1000名を倒した場合、22にレベルアップします。


 との事。

 つまりレベル10を超えるので、大量の神霊力を吸収してしまう。

 そうなると、当然この世界の至高神にも気付かれる。

 下手したら、そのままこの世界の至高神と揉める事になるだろう。


 和斗の戦闘力は至高神より上らしいから、被害を受けないかもしれない。

 だが鬱陶しい事になるかも。

 いずれレベルアップして、その問題に直面する事になるだろう。

 でも、もう少しのんびり旅行を楽しみたい。

 という事で和斗は。


「よしリム。俺は援護に徹する。敵の攻撃魔法は俺が何とかするから、リムはその隙に射撃を支持してくれ」


 こう決断した。

 和斗がするのは、あくまで敵の攻撃を無力化する事のみ。

 魔法使いを倒すのは奈津達に任せる。

 これなら和斗はレベルアップしない筈だ。

 そこで。


「じゃあ、まずは攻撃魔法を打ち消すか」


 和斗は破軍の太刀を放った。

 それを目にして雷心は。


「いや、破軍の太刀は攻撃魔法には無力でござるが」


 そう言いかけるが。


 シュバッ!


 和斗が放った1000のカマイタチは、1000の攻撃魔法を切り裂いた。


「「「ええ!?」」」


 破軍の太刀の性質を熟知している雷心・雫・彩華が声を上げるが。


「いや破軍の太刀に魔力斬りを上乗せしたらイイだけのコトだろ?」


 和斗はアッサリと言い切った。

 もちろん顎が外れるほど驚いたのは雷心達だけではない。


「何が起こった!?」

「確かに魔法を放ったぞ!」

「なぜ魔法が消えた!?」


 魔法使い達は大混乱に陥っていた。

 だが。


「狼狽えるな! 攻撃を続けろ!」


 中級魔法使いの叫びで、すぐに冷静さを取り戻し、直ぐに攻撃を再開する。

 いや、再開しようとしたが。


「千手観音斬!」


 和斗は魔法使いの魔法を、放たれる寸前で切り裂く。


「な!? 阿修羅斬も千手観音斬も1つの敵に複数の斬撃を叩き込む技! その斬撃を複数の敵に振り分けるなど聞いた事がないでござる!」

「千手観音斬を人間に対して使おう思たかて、千手観音様は近田を貸してくれへんハズ! やのに何で千手観音斬を使えるんや!?」


 雷心と雫の絶叫に、またしても和斗がアッサリ答える。


「ああ、千手観音から個別攻撃できる千手観音斬を習った。あと、今の千手観音斬は俺が自力で放った技で、千手観音の力を借りた技じゃない。だからいつでも好きな時に千手観音斬を繰り出せるんだ」

「もう何でもありでござるな……」

「むちゃくちゃや……」


 雷心と雫が言葉を失うが、そこで。


「溜め息ついてる場合じゃないよ! 全員、射撃準備!」


 リムリアが怒鳴り。


『はい!!!』


 その命令を耳にするなり奈津達はⅯ16を構えた。


「敵の攻撃は全部、カズトが切ってくれてる! 落ち着いて敵を狙え!」


 そしてリムリアの指示通り、呼吸を整えて狙いを定め。


「てェ!」


 タン! × 238


 リムリアの号令で狙撃を一斉に発砲した。

 もちろん全弾命中なんて都合の良い話は無い。

 しかしそれでも174名に命中し、132名を即死させた。

 その想像もしなかった事態に。


「な!?」

「突然、死んだぞ!」


 多くの魔法使いが混乱し。


「ぎゃあ、痛ぇぇぇ! 何が起こったんだ!?」


 被弾しながらも絶命しなかった魔法使いがのたうち回る。


「今の音は火縄銃か!?」

「馬鹿な! この距離で火縄銃が命中するものか!」


 大騒ぎする魔法使いたちだったが。


「騒ぐ暇があったら攻撃しろ!」


 中級魔法使いの号令で、攻撃を再開しようとした。

 が、もちろん。


 ザッシュッ!


 和斗の千手観音斬により魔法は切り裂かれ。


 タンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタン!


 絶え間ないⅯ16の狙撃により、魔法使いはドンドン数を減らしていく。

 そんな中。


「総員、魔力を全て身体強化に回せ! お前らの魔力量なら、最低でも人間の100倍の戦闘力を得られる筈だ! その人間を遥かに超える力で人間どもを引き千切ってやれ!」


 中級魔法使いが叫び、全魔法使いは肉体強化。


『うおおおおおおおおお!』


 その人間の100倍もの力を振り絞って突撃してきた。

 しかし、やみくもに突撃してきたワケではない。

 照準を合わせ難いよう、ジグザグに走っている。


 動いている的を銃で狙うのは難しい。

 ましてや人間の100倍もの身体能力を駆使する敵を撃つのは至難の業だ。

 たった2日しか練習していない奈津達が狙撃に成功するワケがない。


 タン! タン!   タン!  タン!


 発砲する者もいるが、その弾は全て外れている。


「よし、このまま敵陣に雪崩れ込むぞ! 同士討ちを恐れて銃は撃てない! 塹壕に飛び込んだら、素手で首を千切ってやれ! 100倍に強化された我らの肉体なら簡単な事だ!」


 先頭を切って駆け抜ける魔法使いが叫ぶが。


「残念だったね。そのくらい想定済みなんだよ」


 リムリアが呟き。


「うわ!?」


 先頭を駆ける魔法使いは見事にすっ転んだ。


「な!?」


 そこで魔法使いは気付く。

 足元に無数の穴が掘られている事に。


「「子供だましを……」


 魔法使いは唇を噛むが、直ぐに立ち上がろうとする。

 が、そこに後続の魔法使いが次々と転び、それに巻き込まれてしまう。


「足元に注意! 油断すると転ぶぞ!」


 先頭を走っていた魔法使いが叫ぶが、もう遅い。

 突撃してきた魔法使い全員が足を取られて転んでしまった。

 あるいは倒れた仲間により突撃の足が止まってしまう。

 塹壕から僅か30メートルの距離で。

 もちろん、こんな好機を逃す筈もない。


「全員、フルオート掃射!」


 タタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタン!


 238丁のⅯ16が、ありったけの弾丸をばら撒き。

 チャナビエトの魔法使い1000名は、ここに壊滅したのだった。













2022 オオネサクヤⒸ サクヤⒸ

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