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   第百八十四話  これが最新式の火縄銃でござるか





 辿り着いたのは、町外れの寺だった。

 山門には竜雲寺と刻まれており、周囲を広い畑が取り囲んでいる。

 彩華によると、竜雲寺が所有する畑らしい。


「ここならユックリ話ができそうやな」


 ほう、と息をつく雫に彩華が頷く。


「ああ。この地形なら、接近してくる敵を見落とす事は無いからな。では中を案内しよう。敵の目が無い事は確認しているから、心配いらない」


 彩華はそう口にしながら歩きだす。

 なかなか広い寺だ。

 300人くらいなら、ここで生活出来そうだ。

 そして彩華に案内された本殿には、200名を超える人間が整列していた。


「この者達が抵抗軍の本隊238名だ」


 彩華がそう口にした瞬間、雫が言い放つ。


「はぁ? こないなモン、戦の役に立たへんで」


 和斗も同意見だ。

 なにしろ整列しているのは、中学生くらいの少年少女なのだから。


「この子ら元服前やろ。そんな子供集めて、どないすんねん」


 雫の言葉に、馬鹿にしたような響きはない。

 純粋に『戦えるだけの戦闘力を有してない』と指摘しただけだ。

 が、雫の言葉に。


「命と引き換えなら敵を倒せる筈です」


 1人の少女が悲壮な顔で声を上げた。

 彩華によると、鈴木奈津という名前らしい。

 キリリとした顔つきの美少女だ。


「裏密教には、生命力と引き換えに敵を討つ呪符があると聞きました。なら1人でも多くチャナビエトの魔法使いを道連れにしてみせます」


 奈津の言葉を耳にしたリムリアが雫をつつく。


「ねえシズク。それって自爆のコト?」

「まあ、そないな呪符もあるけど、この子が言うとるんは『鬼子母神の呪符』のコトやろな。強い力を貸してくれはる神様なんやけど、その貸してもらえる力は命と引き換え。自爆技いうたら自爆技やけど、凄まじい破壊力を発揮する斬撃を思った通りの場所で炸裂させるコトが出来る呪符や」


 雫の説明に奈津がコクンと頷く。


「鬼子母神の呪符で15以上の魔法使いを殺せれば、松江の地からチャナビエトを駆逐できます」


 整列している少年・少女の表情に迷いはない。

 全員、本気で命と引き換えにチャナビエトを討つ気だ。

 そんな奈津達の覚悟に、雫は彩華に怒りの籠った眼を向ける。


「彩華。アンタもこの子等に鬼子母神の呪符を使わせる気ィなんか?」


 雫の怒気を正面から受け止め、彩華が答える。


「鬼子母神の呪符は最終手段だ。が、逆に言えば他に打つ手がなかったら使う、という事だ」

「こないな子供の命を使うんか!?」


 雫の怒鳴り声に、彩華ではなく奈津が答える。


「父上は島根ノ国の侍として、立派に討ち死にしました。その父上の娘である私が蹂躙されている島根ノ国の為に命を差し出す。あたりまえの事でしょう?」

「万斬猛進流の里で修行して、十分に強くなってからチャナビエトと合戦したらエエやろ。なんでそないに死に急ぐんや?」


 雫の言葉に、奈津が迷いのない表情で即答する。


「チャナビエトに勝てるほど強くなるのに何年かかります? 1年ですか? 3年ですか? 10年ですか? その間、民は家畜として虐待され続けるのです。私たちの家族も。そんな事を許すわけにはいきません。だから私たちが命と引き換えにチャナビエトを駆逐します。万斬猛進流の里で力を蓄えるのは、私たちの弟や妹に託します」


 奈津の覚悟に和斗は言葉を失う。

 綺麗事を並べるのは簡単だ。

 命は地球より重い。

 戦争で得られるものなどない。

 暴力に頼らない方法を探すべき。


 が、そんな上滑りの言葉が何の役に立つ?

 島根ノ国は今現在もチャナビエトに蹂躙され続けている。

 奈津は命と引き換えにしても、そのチャナビエトと戦うと言っているのだ。

 部外者である和斗が口をはさんで良い事ではない。


 もちろん和斗がその気になればチャナビエトごとき皆殺しにできる。

 しかしそれで少女は喜ぶだろうか。

 この少女は自分の手でチャナビエトと戦いたいのだ。

 たとえ命を失う事になっても。


 そんな奈津達の想いに、雫はため息をついて続ける。


「さよか。ほんならまず、全員が生き残って幸せに暮らせる方法を考えよか。死ぬんは何時でも出来るんやさかい。それでエエやろ、彩華」

「もちろんだ。もしも生き残れる方法があるなら」

「ふむう」


 彩華の答えに雫は顔をしかめる。

 目の前に整列しているのは12歳から17歳くらいの少年少女。

 この戦力で、どうやって島根ノ国からチャナビエトを駆逐する?


「まあ、この子らには雷心の後方支援に徹してもらうんが1番やろな。せやけど」


 雫に目を向けられ、雷心が腕を組む。


「そうでござるな。松江の町を徘徊している魔法使いを狙って倒していく事は可能でござるが、数名の魔法使いを斬ったところで気付かれて、全面戦争になるでござろうな。そうなった場合、この場にいる殆どの者は鬼子母神の呪符を使わざるを得ないでござろうな」


 そう口にした雷心に、リムリアが尋ねる。


「つまり全面戦争になったら、自爆技を使うしかない、ってコト?」

「その通りでござる」

「でも全面戦争は避けられないんだよね」

「その通りでござる」

「なら鬼子母神の呪符を使わないでチャナビエトに勝てればイイんだよね」

「その通りでござる」


 同じ事を繰り返す雷心にリムリアがニパッと笑う。


「じゃあ何とかなりそう。だよね、カズト」

「俺達でチャナビエトをなぎ倒す、って事か?」


 和斗の問いに、リムリアは首を横に振る。


「ううん。この子達は自分の手でチャナビエトを倒したいんじゃないかな。自分の手でやらないと、敵を討ちにならないもん」

「そういえばそうだけど、何かイイ考えでもあるのか?」

「それはね……」


 リムリアにコショコショと耳打ちされた和斗は。


「そりゃイイかも」


 満面の笑みを浮かべると。


「1つ提案があるんだが……」


 全員の顔をも回したのだった。








「ほう、これが最新式の火縄銃でござるか」


 驚嘆の声を上げた雷心が手にしているのは。


「そう。Ⅿ16だよ」


 リムリアが答えたようにアメリカ軍正式採用アサルトライフル=Ⅿ16だ。


「火縄銃よりはるかに高性能なⅯ16を使ったら、3000人の魔法使いが相手でも勝てるんじゃないかな?」


 リムリアの言葉に、奈津が気の乗らない声を上げる。


「武士の心得として銃を撃った事くらいありますが、魔法使いとの戦いで役に立つ代物とは思えませんが」


 武芸18般という言葉を聞いた事があるだろうか。

 所説あるが、剣術・弓術・馬術・槍術・抜刀術。

 短刀術・薙刀術・棒術・鎖鎌術・十手術。

 手裏剣術・含み針術・砲術。

 水泳術・柔術・取手術・忍び術・もじりさすまた

 

 これらの事を指す。

 

 つまり砲術がある以上、武士は教育として鉄砲も習う。

 が、この場合の鉄砲とは火縄銃の事。

 魔法使いとの戦いに役に立たないと思うもの無理ない。

 なので。


「見ればわかるよ」


 リムリアはそう言うと全員を外に連れ出すと。


 タン! タン! タン! タン!


 借りた甲冑をⅯ16で撃ち抜いた。


「連射できるのですか!?」

「甲冑を撃ち抜いた!?」


 リムリアは、少年少女の驚きの声にニタリと笑うと。


 タタタタタタタタタタタタタタタタタタン!


 今度はフルオートでぶっ放した。


「な! 甲冑が粉々に!?」

「これほど早く連発できるとは!」

「こんなの撃ち込まれたら、ひき肉になってしまいます……」

「何発撃てるというのだ……?」

「あれ1丁で小隊1つに匹敵するのでは?」

「いや、それ以上だ」

「ひょっとしたら鬼子母神の呪符を使うより多く敵を倒せるんじゃ?」


 リムリアは、大騒ぎしている少年少女の前に立つと。


「どう、納得した?」


 輝くような笑みを浮かべた。

 そしてそれは、少年少女にとって希望の輝きに見えたのだろう。


『はい!』


 全員が声を揃えてビシッと敬礼したのだった。


「じゃあ全員に使い方を教えたいと思うけど、どこかイイ場所ある? 全員で銃の練習をしたら、銃声でバレてしまうから」


 とリムリアが口にすると。


「そらウチに任してや」


 雫が防音の結界を境内に張り巡らせた。


「これでなんぼ大きな音立てたかて、誰にも聞こえへんで」

「よし。じゃあ全員にⅯ16を配るね」


 という事で。


 和斗がポジショニングでマローダー改を呼び出すとⅯ16を購入。

 10個の弾倉と共に、全員に手渡した。


「じゃあ説明を始めるね! あ、その前に、引き金には許可があるまで絶対に指をかけない事! いいね!」

『はい!』


 リムリアの説明に全員が真剣な顔で聞き入る。

 その中には雫と彩華の姿も。


「裏密教の技を使う2人には、Ⅿ16なんか必要ないのでは?」


 思わず尋ねた和斗に、雫が楽し気に笑う。


「こないな面白そうなモン見せられてじっとしとられるワケあらへんやろ。ウチかて使うてみたいわ」

「部下が使うものを上官が分からない、などという醜態を晒すわけにはいかないだろう?」

「ま、戦力が増えるからイイと思うけど。でも雷心さんは、Ⅿ16の練習をしないのですか?」

「拙者は万斬猛進流の技以外で戦う気はないでござる。その為に今まで修行に打ち込んできたのでござるから」

「そうですね」


 などと和斗が話している間にもリムリアの説明は続き。


「それじゃあ1列に並んで的を狙って! まずはⅯ16に慣れよう!」

『はい!』


 そして少年少女が射撃練習を始めると。


「カズトもボクと一緒に指導して!」


 リムリアに声をかけられた。

 まあ考えてみたら、教える人間は多い方がイイに決まっている。

 だから和斗は。


「了解」


 そう答えると少年少女の後ろを歩き回り。

 様々な事を教え込み、指導し、悪いトコは直してやる。

 そして全員が弾倉の弾を打ち尽くしたところで。


「はいはーーい! じゃあ弾倉の取り換え方を説明するね! 交換の速さは生死の分かれ目になるから、少しでも早く出来る様になってね!」


 リムリアが説明しながら弾倉を交換した。

 それを真似して、全員が弾倉を取り換える。

 もたつく者もいたが、どうにか全員が弾倉交換を終えたトコで。


「じゃあ射撃訓練、再開!」


 リムリアの合図で、再び練習が始まる。

 もちろん撃ち尽くす度に、弾倉交換の練習。

 そして10個全ての弾倉を撃ち尽くすと。


「リロード!」


 和斗の一言で弾丸を自動再装填。

 そして射撃訓練を繰り返す。


 まあ、全員が超一流のスナイパーになる必要はない。

 魔法使いに大量の弾丸を浴びせれば、何発か当たるだろう。


 そして射撃の上手い者には、狙って撃つように指導する。

 弾幕を張る者と、スナイパー役とを明確に分け、うまく運用すれば。

 3000人の魔法使いが相手でも互角以上に戦える筈だ。

 いや、圧勝しないとⅯ16を提供した意味がない。


 ちなみにチャナビエトを駆逐したら返却してもらう約束になっている。

 Ⅿ16は、この世界ではオーバーテクノロジー過ぎるから。


 武芸18般に砲術、すなわち狙撃術があるからだろうか。

 少年少女達は、見る見るうちに上達していった。

 そして1日が終わる頃には300メートル先の的を狙えるまでに上達した。

 500メートル狙撃に成功した者すらいる。


「射撃訓練は大成功だね」


 上機嫌のリムリアに。


「リムリア殿、和斗殿、感謝する」


 彩華が頭を下げた。


「戦いで生き残れる可能性が出てきた。いや、上手くいけば1人の犠牲を出す事なくチャナビエトを殲滅できるだろう」

「せやな。Ⅿ16いうたかいな。こら、とんでもない武器や。ひょっとしたら世界を征服できるくらいのモンやで。ホンマおっとろしいモン持っとるな」


 真剣な顔でそう口にした雫に、リムリアがニンマリと笑う。


「この程度で驚いてたら、和斗の本気見たら気を失うよ」

「ははは、まさか」


 冗談だと思ったのか、雫は大笑いするが。


「……まさか冗談やのうてホンマなんか?」


 リムリアの表情に、だんだん顔色が悪くなっていく。

 彩華など、最初から冷や汗を流している。

 が、そんなことお構いなし。


「Ⅿ16が撃てるようになったから。次の特訓に取り掛かろうかな」


 リムリアの訓練は続くのだった。








2022 オオネ サクヤⒸ

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