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   第百八十二話  敵襲





 彩華が案内した司令室は、寺を連想させる部屋だった。

 異部屋の中心には不動明王を祀った祭壇が据えられ。

 その前には5名の侍と、7名の修験者が座っている。


「抵抗軍の幹部と、情報戦を担当する者達だ。が、1人1人を紹介する時間すら惜しい」


 彩華はそう口にすると、直ぐに雫の正面に立つ。


「まずは現状の説明から始めようと思うが良いか?」

「せやな。まずは敵の情報を頼むわ」

「よし。松江の街は現在、完全にチャナビエトの支配下にある。我々の目的は敵の監視と、戦力の収集・分析だ。そして得た情報は抵抗軍の本部に送り、その情報を元に、本部はチャナビエトとの戦いに備えている」

「なるほど。で、敵の戦力は?」


 彩華の言葉に、雫がそう返した時だった。


「魔法使いの襲撃だ!」


 男が叫びながら飛び込んできたのは。


「まさかウチ等の事、気付かれたんか!?」


 叫ぶ雫に。


「いや、雫の隠形は完璧だった。雫が原因じゃない」


 彩華が即答するが、次の瞬間。


 ドッゴォン!


 池田屋が大きく揺れた。


「うわー、ヤバい雰囲気」


 星を撃ち抜くほどの攻撃を受けても怪我をしないからだろうか。

 リムリアが呑気な声を上げる一方。


「爆炎の魔法ちゅうことは、高位の魔法使いの襲撃やな。ち、敵の数は?」


 雫が冷静な、しかし緊張を含んだ声で彩華に尋ねた。

 その問いに、飛び込んできた男が答える。


「魔法使い2人です」


 その言葉に、雷心が反応する。


「数としては少ないでござるな。とはいえここで戦っても、すぐに増援の魔法使いがやってくると思われるでござる。彩華殿、ここは脱出するべきだと思うのでござるが、いかがでござる?」

「脱出する」


 彩華は迷わずそう答えると。


「敵に見つからないように、脱出通路を使う」


 雷心に壁の一部を指差す。


「この壁の裏側が脱出通路になっています。斬っていただけますか?」

「承知」


 雷心が目にも留まらぬ速度で刀を振るうと。


 パタン。


 綺麗に斬り抜かれた壁が倒れ、その先に脱出口が現れた。


「私に続いてください。では行きます」


 彩華が鋭く叫んで、壁に開いた脱出口から飛び出す。

 続いて雫、雷心、リムリア、和斗の順番で脱出通路を駆け抜ける。

 そして通路の先に路地裏が見えたところで。


「大通りに出て、次の拠点に向かいます」


 彩華が次の行動を説明した。

 しかし。


「待っていたぞ、反逆者ども」


 大通りの真ん中に、1人の魔法使いが仁王立ちで待ち構えていた。


「あれは確か、チントウとか名乗っていた魔法使いでござるな」


 雷心の声でリムリアが気付く。


「あ、コイツさっき侍を嬲り殺しにした魔法使いだ!」


 吐き捨てるようなリムリアの言葉に、和斗も思い出す。


「ああ、吐き気がするほど醜いクソヤロウだ」


 とはいえ和斗にとって、チントウ程度の戦闘力など微生物みたいなもの。

 その声には緊張感の欠片もない。

 しかし。


「く。まさかここでチントウが出てくるなんて」


 彩華の声には焦りが混じっていた。

 どうやらチントウの事を知っているみたいだ。


 まあ、公開処刑を行ったのだから、知らない筈がない。

 が、それ以外にも色々調べている筈。

 なにしろ松江の街に潜んで抵抗しているのだから。

 だから和斗は、彩華に尋ねてみる事にした。


「彩華さん。チントウとかいうヤツのことを知っているのですか」

「はい。松江の城下町は今、チャナビエトの魔法使い3000人によって占領されています。最初に攻めて来た五0人が最強の魔法使いで、こいつらは松江城にいます。そして実際に松江の街を支配しているのが、上位魔法使い1人が9人の下位魔法使いを指揮する巡回部隊です。チントウは、その上位魔法使いの1人です」

「つまり実働部隊を率いる指揮官の魔法使いか。その指揮官が、どうしてこんな所に1人でいるんです?」


 彩華に話しかける和斗の声が耳に届いたらしい。

 チントウが大声を張り上げる。


「吾輩ほどの実力者になると下位魔法使いどもは足手まといなのだ。だから池田屋は部下に任せ、吾輩はここで待ち構えていたのだ。反逆者が逃げて来るのをな」

「ち、避難経路を読まれていたか」


 彩華はチントウを睨みつけると、拳を固めて身構えた。


 良い構えだ。

 かなり鍛え上げたのだろう。

 そんな攻撃態勢の彩華にチントウが獰猛な笑みを浮かべる。


「ほほう。吾輩に戦いを挑むというのか? 吾輩に近づくこともできぬまま、蒸発するだけだぞ。抵抗するだけ無駄だ。諦めよ」


 50名の侍を一方的に蹂躙したからだろう。

 チントウは自信満々だ。


 それに対して彩華の方は、明らかに顔色が悪い。

 なぜなら、呪術が使えないからだ。

 というより、神の力を行使すれば敵に察知されてしまう。

 そうなると敵の主力部隊が押し寄せかねない。


 彩華達の役目は情報収集して抵抗軍へと知らせる事。

 まだチャナビエトと全面戦争をするワケにはいかないのだ。

 つまり敵に戦闘を覚られない為。

 彩華は武術だけでチントウを倒さねばならない。

 だから彩華は覚悟を決めると。


「行くぞ、チントウ!」


 一声吼えて、全身にギリッと力を込める。


「ふむ、やる気か」


 チントウは楽し気に口元を歪めると、魔法を唱えた。


「電光鞭」


 チントウの右手から伸びた電撃の鞭が、凄まじい速度で空気を切り裂く。


「かかって来るがよい。お前等抵抗軍の情報を聞き出すまで殺しはしない。この電光鞭で手足を切り落としてから、じっくりと尋問してやろう」


 チントウが、恐ろしいことをさらりと言う。

 が、彩華はそんなチントウを前に、動けないでいた。


 チントウとの距離は三0メートルほど。

 しかし実は、彩華はまだ縮地が使えるレベルに達していない。

 これは彩華が弱いからではない。

 雷心と雫のレベルが高すぎるのだ。


 まあ、それは置いといて。

 今の彩華がこの距離を駆け抜け、チントウに一撃入れるには。

 鍛え抜いた武道の技をもってしても1秒は必要だ。


 そして先ほどの、雷光鞭の速度から判断して、その1秒で。

 20回以上の斬撃が彩華を襲うだろう。

 彩華がチントウに勝てる確率は、ハッキリ言って無きに等しい。


「どうした、来ないのか」


 優位な立場から弱いモノを痛めつけることが楽しくて仕方がないのだろう。

 チントウは残忍な笑みを浮かべている。


「来ないのなら、こちらから行くぞ」


 チントウの言葉と同時に。


 ピシャァン!


 電光鞭が彩華に襲いかかった。


「ヤバい!」


 リムリアが思わず声を上げるが。


 バチイ!


 彩華は何とか電光鞭の一撃を防いだ。


「え? 防いだ?」


 意外だ、という顔のリムリアに、雫が自慢げに胸を張る。


「彩華かて裏密教明王派の修験者や。1流の体術を身に付けとるうえ、装備した金剛力士の腕輪が、攻撃力と防御力を上乗せしとる。あの程度の攻撃やったら何とかなるで」


 その雫の声が聞こえた筈だが、チントウは余裕の態度を崩さない。


「ほほう、我が一撃を防いだのは、お前が初めてだ。大したものだ、素直に認めてやろう。お前は今まで吾輩が倒してきたサムライどもよりも強い。ではその強さに敬意を払って、次は2連撃だ。簡単に死んで吾輩をガッカリさせるでないぞ」


 ピッシャァン!


 言葉通り放たれる、電光鞭の2連撃。


 バチバチィ!


 しかし彩華は、これも何とか防ぐ。

 が、ここでチントウがネットリとした笑みを浮かべる。


「くくく、愉しませてくれる。では3連撃ならどうだ」


 チントウには分かっていた。

 今の2連撃を防ぐのが、彩華の限界であることが。

 そして次の3連撃で、彩華の手足を切断できることも。

 

 そしてそれは、彩華本人が一番よくわかっていた。

 手足を切り落とされて地面に転がる自分の姿が、鮮明に頭に浮かぶ。

 そしてそれが数秒後に現実になることを、彩華はハッキリと悟っていた。

 しかし。


「なら、こういう攻撃はどうだ?」


 彩華が小さく笑うと同時に。


「「きえぇぇぇ!」」


 物陰から飛び出した侍が、左右からチントウへと斬りかかった。

 しかし和斗は、その2人の侍に冷めた目を向けて呟く。


「不意打ちなのに、気合いを出してどうするんだよ」


 そう。

 意識していない場所、タイミングで襲い掛かるから不意打ちなのだ。

 声を上げて自分の存在を教えるなど、愚行以外の何物でもない。

 こんなお粗末な奇襲攻撃など失敗するに決まっている。


 と思ったのだが。

 左右から斬りかかる侍に気を取られているチントウの頭上から。

 刀を構えた2人の忍者が襲いかかる作戦であることに気づく。

 2人の侍は、本命の忍者による攻撃を成功させる為の囮、捨て駒だったのだ。


「凄いな、これが侍か」


 死を覚悟した2人の侍の行動に、和斗は尊敬の念を抱くが。


「ちえい!」


 チントウが気合い一閃。


 ピッシャァン!


 電光鞭が激しく踊ると。

 侍だけでなく、忍者までもが切り裂かれてしまった。


「この程度の不意打ちが吾輩に通用するとでも思ったか。戦いの時、優れた魔法使いは常に探査の魔法を発動させているものだ。故に貴様らが、どれほど巧みに姿を隠そうと簡単に発見できるのだ。このようにな」


 チントウはそう言うと、斜め後ろの建物の2階に右手を向ける。

 そして。


「炎熱砲」


 ドン!


 撃ち出された火球が、建物の壁を撃ち抜いた。


 その光景に彩華は唇を噛む。

 建物には、次の奇襲を仕掛ける為、5人の忍者が身を潜めていたからだ。

 実は忍者2人による奇襲すら捨て石。

 奇襲を撃破して隙が生まれた瞬間を狙う作戦だった。


 が、それも無駄に終わってしまった。

 9人もの犠牲を出したというのに、だ。


「さて。次はどうする? 策を練っているのなら見せるが良い。さあ早く。我輩をもっと楽しませるのだ。それとも、もう終わりにするか?」


 チントウが遊んでいるのは明白。

 なにしろ、いつでも爆炎の魔法を使えるのに使っていないのだから。


 しかしだからこそ、まだ勝負は分からない。

 彩華は覚悟を決めると、捨身の構えを取った。

 と、そこに。


「悪いが選手交代でござる」


 雷心が呑気な声を上げて、庇うように彩華の前に立つ。


「チントウとやら。ここからは拙者がお相手するでござる」


 1000倍強化日本刀を抜き放つ雷心に、チントウが目を輝かせる。


「ほう、素晴らしい業物だ。お前を殺して我が愛刀とするか」


 ゲスな笑みを浮かべるチントウに雷心が言い放つ。


「残念ながら、それは無理でござる。というより、其方程度の魔法使いがどうしてそんなに偉そうなのか、拙者にはサッパリわからないでござる」


 この雷心の挑発に、チントウは面白いほど激高した。


「其方程度だとぉ! キサマは一息では殺さぬ! 手を吹き飛ばし、脚を切り落とし、生きたまま焼いてや」


 急にチントウの声が途切れたと思うと。

 チン、と抜いた刀を鞘に納める音が響き、雷心がチントウの後ろに出現する。

 と、同時にチントウの頭が地面に転がり。

 そしてその後を追うようにして、チントウの体がゆっくりと崩れ落ちた。


「こ、これが縮地斬ですか。噂には聞いていましたが、凄まじい技ですね」


 彩華がとても現実とは思えない光景を目にして、目を丸くする。


「もし縮地斬を抵抗軍の侍が使えるようになったら、チャナビエトを島根ノ国から叩き出せるのでしょうが……」


 続いて残念そうに言葉を濁す彩華に、雫も残念そうな声で返す。


「せやな。縮地斬は万斬猛進流の奥義の技や。今から修行しても間に合わへん」

「ああ。十分に理解している」


 彩華が溜め息と共に、そう漏らした直後。


「チントウ様!」

「チントウ隊長!」


 池田屋を襲った2人の魔法使いが現れた。











2022 オオネ サクヤⒸ

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