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   第百七十四話  実戦稽古





 実戦形式の稽古がしたいとリムリアが即答した翌日。

 和斗とリムリアは、突進斬の練習で更地になった牧草畑に来ていた。


「ほなら実戦形式で万斬猛進流の技を稽古したい、ちゅうこっちゃな? でもそうなるとウチが呪術で作り上げた式鬼と戦う事になるんやけど、それでエエか? あんま細かい制御できひんよって危険が伴うで」


 確認してくる雫に、リムリアが頷く。


「うん、大丈夫。防御力は変わってないから」

「なんや、防御力は神様相当のまんまかいな。ほなら安心して強力な式鬼を召喚出来る、ちゅうこっちゃな」

「うん、えんりょなく。ナンなら最強の、その式鬼とかいうの使ってもイイよ」

「そこまで言うんやったら、お言葉に甘えて。喝ッ!」


 雫が気合と共に呪符を放つと。


 がしゃがしゃがしゃがしゃ。


 身の丈20メートルもある骸骨が地面を突き破って表れた。


「いや、言葉に甘え過ぎ。ちょっと大きすぎじゃない?」


 ボソッと文句を口にするリムリアに。


「ガシャ髑髏や。強い妖怪が出没することで有名な大江山で、最強の妖怪やさかい気張ってや」


 雫はニヤリと笑うと。


「ほな、始めるでぇ!」


 高らかに稽古開始を告げた。

 と同時にガシャ髑髏が、その骨だけの右腕をリムリアに叩きつける。

 巨体のクセに、動きが速い。


「どうやリムリア、驚いたやろ。ガシャ髑髏は身体がデカい上に、カマイタチよりも速く動けるんや」


 雫がそう口にするが、リムリアの動きはもっと速かった。

 攻撃を躱すと同時に刀を抜き放ち。


「まずは……風切り!」


 ガシャ髑髏の右腕を、風切りの一太刀で切断した。

 ちなみに今回の稽古では真剣を使え、と不動明王に言われたので。

 和斗もリムリアも1億倍強化刀を装備している。


「よーし、イイ感じ! じゃあ次は飛刃剣だい!」


 続いてリムリアは、ガシャ髑髏の右足にカマイタチを放つ。


 ガシャン!


 ガシャ髑髏の足の骨は岩よりも硬く、大木よりも太い。

 その頑丈な足の骨を、リムリアの飛刃剣は見事に切断した。


 しかしガシャ髑髏は、倒れながらも残った左腕で殴りかかってくる。

 その瞬間。


「や!」


 リムリアはガシャ髑髏の左腕を綺麗に受け流す。

 万斬猛進流の技ではないが、戦いを有利に進める技の1つだ。


「へえ、1000人力と言われるガシャ髑髏の拳を楽々と受け流しおった! こら思った以上に刀を操れるようになっとるで!」


 感心する雫をちらりと見た後。


「操刃の太刀!」


 リムリアはガシャ髑髏の左腕に20ものカマイタチを放つ。

 そのカマイタチは全てガシャ髑髏の左腕に命中し。


 ガッシャァン!


 ガシャ髑髏の左腕を打ち砕いた。


「へえ、大した威力やな。なかなかのエエで」


 感心の声を上げる雫をチラリと見てからリムリアは。


「さて、後は止めを刺すだけかな」


 刀をゆっくりと振り上げた。

 しかし。


「あかんなぁ、リムリア。そこで気ぃ緩めたらあかんで」


 雫の声が耳に届いた時には遅かった。


「わ!」


 リムリアはガシャ髑髏の右腕による一撃を食らってしまい。


 ドガガガガガガガ!


 何と一00メートル以上も吹っ飛ばされてしまった。

 もちろんリムリアに大きな怪我はなかったが。


「右腕!? な、なんで!? 確かに斬り落としたはずなのに!」


 叫ぶリムリアの目の前で。


 カタカタカタ。


 左腕に続いてガシャ髑髏の右足までもが再生していく。


「再生不可能なほどの斬撃を叩き込まんと、ガシャ髑髏を倒すことはできへんで」


 雫の声に反応したのだろうか。

 100メートル先で、ガシャ髑髏が笑ったような気がした。


 そして。

 ガシャ髑髏がスピードにものを言わせて突進しようとする。

 が、その瞬間を見切り。


「縮地斬!」


 刀を振り抜いたリムリアが、ガシャ髑髏の左肩に出現した。

 と同時にガシャ髑髏の首にパクリと切り口が現れ、頭蓋骨が地面に落下する。

 そしてズゴンと地面に激突した途端。

 ガシャ髑髏の頭がバラバラと縦に分かれて、20枚以上もの薄い板と化す。


「見事や。100メートルの距離を縮地で移動したんには驚かへんけど、縮地と同時に24回も刀を振るなんて、思いもせえへんかったで」


 笑う雫に雷心も笑みを浮かべる。


「全部数えた雫殿も、十分人間ワザじゃないござるよ」

「当たり前や。ウチは万斬猛進流を修行する侍に力を貸す修行僧やで。技の見極めくらい出来ひんと役に立たへんやろ」


 フンと鼻を鳴らす雫にリムリアが声をかける。


「まだ使ってない技があるからドンドン式鬼を出してよ」

「人使いの荒いやっちゃな。ま、エエわ、乗りかかった船や。望み通りドンドンいくさかい、覚悟はエエか、リムリア」

「いつでも!」

「エエ返事や。ほならコレや!」


 次に雫が召喚したのは、虎の体に猿の顔と蛇の尾という姿の妖怪だ。


「キメラ?」


 リムリアの呟きに雫が突っ込む。


「ヌエやヌエ! ま、名前なんぞどーでもエエわ。こいつも手ごわいで、しっかり気張りや」


 雫が言い終わるよりも早く。


 バリバリバリ!


 ヌエが体に雷を纏った。


「あ、言い忘れとったけど、ヌエは雷獣とも呼ばれるんや。その名の通り雷を操るさかい、気を付けや」


 雫の言葉にリムリアが叫ぶ。


「先に言え!」


 それを隙が出来たと判断したのだろう。


 ピッシャァン!


 ヌエがリムリア目がけて雷を放った。

 が、リムリアは、その稲妻を。


「雷断の太刀!」


 一刀両断。

 と同時に。


「突進斬!」


 百矢払いを行いながらヌエに突進。

 瞬時にバラバラにしてしまった。


 ちなみにスキル自主規制によるリムリアのステータスは。

 力  100

 体力 100

 速度  25


 つまり和斗と同じ。

 だからリムリアの突進斬は100メートル8秒台の速度だった。

 このリムリアの攻撃に、雫は感心の声を漏らす。


「う~~ん、こらホンマに修行を頑張ったんやな。見事なモンや」

「たしかに見事でござる。まだまだ荒削りな剣でござるが技のキレや剣速では拙者より上の技も幾つかあったでござる。これが才能というものでござるな。羨ましい限りでござる」


 溜め息をつく雷心に不動明王はほほ笑む。


「何を言うておる。和斗殿とリムリア殿は神の力を持つ方々。そんな和斗殿とリムリア殿相手に互角以上の剣技を操るお前の方が、よほど才能に恵まれておる。それより和斗殿とリムリア殿がお前に追いつくのに、これほどの日数を要した事を誇るがよい」

「有り難きお言葉でござる。なお一層、修行に励むでござる」


 と雷心が決意を新たにしたところで。


「リムリアの稽古は、ここらでちょい休憩するとして、今度はカズトがやってみいへんか?」


 雫が和斗に、興味深々といった様子で声をかけた。


「もちろんカズトの方がリムリアより上なんは分かっとる。でもどれくらい差があるんか、悔しいけどウチにゃあ、よう分からへんのや」


 雷心と行動を共にしてきた雫だ。

 万斬猛進流の技は熟知している。

 なのに和斗の底が見えない。

 今は神の力を人間並みに落としているらしいが。

 実力を測りきれない理由は、それだけではなさそうだ。


「ちゅうコトで、ウチの為にカズトの実力を測らしてぇな」


 パンと手を合わせて頼み込む雫に、和斗は顔を曇らせる。


「戦って相手を倒すと経験値を得てレベルアップするからなぁ……できればまだ目立ちたくないんだけど」


 歯切れの悪い和斗に、雫はニヤリと笑う。


「経験値なら稼げへんで。ウチの式鬼は、いわばウチの武器や。敵の武器を破壊したって経験値なんぞ得られる筈ないやろ」

「経験値が何なのか知ってるのか!?」


 驚く和斗に雫はドヤ顔で頷く。


「当たり前や。まあウチ等は『徳』って呼んどるけどな。何人かに1人は、戦って相手を倒すと急に強くなる。それを不思議に思って不動明王様に尋ねたら教えてくれはったんや」

「なるほど。そういう事ならイイか。よし、俺も戦ってみる」

「よっしゃ! ほなら取って置きの式鬼や、楽しんでや!」


 雫が張り切って飛び出したのは巨大な鬼だった。

 が、透けて見えるので普通の鬼ではなさそうだ。


 しかし考えている暇はない。

 呼び出された鬼は、いきなり和斗に襲い掛かってきた。

 その鬼に和斗は。


「ひゅ!」


 飛刃剣で生み出したカマイタチを放つ。

 大木すら斬り倒す威力の斬撃だ。

 ……のだが。


「む!?」


 鬼の体をカマイタチが素通りするのを見て和斗は眉を顰める。


「怨霊と化した鬼を呪符で捕まえて使役できるようにした呪術鬼や。霊体やさかい普通の攻撃は通用せえへんで」

「なるほど」


 雫の説明で和斗は納得する。


「零体相手に物理攻撃なんか通用する筈ないよな」


 和斗は呟きながら霊断の太刀を繰り出そうとするが。


「これじゃ芸がないよな」


 そう口にすると。


「おりゃ!」


 1000のカマイタチを呪術鬼に放った。


「せやさかい、仏の攻撃は効果あらへんて言うとるや。破軍の太刀を使いこなしとるんは見事やけど……ええ!?」


 雫が上げた呆れ声は、途中から驚きの声に変わる。

 1000のカマイタチが呪術鬼を跡形もなく切り散らすのを目にして。


「な、なにしたんや!? たしかに破軍の太刀は強力やけど、霊的存在の呪術鬼には効果ない筈や! カズト、あんた一体なにしたんや」


 目を丸くしている雫に、和斗は事も無げに言う。


「カマイタチを霊断の太刀に変えて放っただけだが?」

「霊断の太刀に変えたやて!? 1000ものカマイタチを!? 剣技に別の剣技を重ねるなんちゅう離れ業、聞いたコトあらへんで!」


 雫の叫びに、和斗はポリポリと頬を掻く。


「そんなに大したコトか? あ、ついでに言っておくとカマイタチを霊断の太刀に変えたうえ、雷断の太刀で超高速化もできるぞ」

「な、なんやて……そ、それ見せてくれへんか?」

「かまわないぞ」


 和斗が答えると同時に、雫は呪術鬼を再召喚。

 その呪術鬼に和斗は。


「し!」


 霊断の太刀のカマイタチを雷断の太刀の速度で発射した。

 その雷を斬る速度で打ち出された1000の霊断のカマイタチは。


 バッ!!!!


 一瞬で呪術鬼を消滅させた。


「こら、たまげたで……」

「……」


 言葉を失う雫の後ろで、雷心も絶句している。

 そんな雫と雷心を和斗がのぞき込む。


「どうしたんだ、雷心さん、雫さん? 固まってるな。よし、じゃあリムリアの真似してデコピンでも……」


 和斗がデコピンをカマそうとした瞬間。


「ちょい待ちぃ!」

「それには及ばないでござる!」


 雷心と雫はデコを抱えて大声を上げた。


「いや、そんな大げさに反応しなくても、今の俺の力は人間並みですよ」


 不思議そうな顔の和斗に、雷心と雫はブンブンと首を横に振る。


「いやいやいや、あないな無茶な技を繰り出す和斗や! たとえデコピンでも、とんでもない威力を発揮するかもしれんやろ!」

「いや発揮すると拙者は確信しているでござる! 今のデコピンには命の危険を感じる何かがあったでござる! 幾多の戦場を駆け抜けた拙者のカンが、食らってはならぬと告げていたでござる!」

「いや、たかがデコピンですよ」


 苦笑する和斗に不動明王が告げる。


「いや和斗殿。今のデコピンが命中したら鬼の頭でも砕け散っていたぞ」

「本当ですか? 力なんか入れてないですけど」


 首をかしげる和斗に不動明王がため息をつく。


「その力を入れない動作こそ、万斬猛進流の技に通じるもの。今のデコピンは素手による万斬猛進流の技だ。人間を即死させる威力がある。早く今の体が発揮する威力に慣れるがよかろう。死人が出る前に」

「はい」


 不動明王の言葉に素直に頭を下げる和斗の後ろでは。


「あ、危なぁ。もうちょっとで、頭カチ割られるトコやったで」

「やはり拙者のカンは正しかったでござる。もうすこしで三途の川を渡るところだったでござる」


 雷心と雫がカタカタと震えながら呟いていたのだった。





2022 オオネ サクヤⒸ

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