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   第百七十一話 スキル・自主規制





「今の稽古じゃダメだな」

「ナニが?」


 いきなりそう呟いた和斗に、リムリアが尋ねた。


「稽古は順調だと思うけど?」

「いや、例えば百矢払いだけど、さっき俺は百矢払いの稽古として、99段の弓矢を切り落としただろ? でもそれが出来たのは速度のステータスが高かったからで技術としての百矢払いじゃない。雷心さんの百矢払いと明らかに違う」

「そういやライシンのステータス、常人並みモンね。ま、常人と比べたら、ちょっと高いケド」

「だろ? つまり俺達も常人並みのステータスで同じ事が出来ないと、技術をマスターした事にならないんじゃないか?」

「そう言われたらそうだけど、どうやったらイイの? 本気で稽古しなきゃ意味ないし、本気で稽古したらステータス通りの力と速度を発揮しちゃうよ?」

「そうなんだよなァ」


 和斗がため息をついた、その瞬間。


――自主規制のスキルを創造して装備する事を推奨します。


 サポートシステムの声が響いた。


「なんか久しぶりにサポートシステムの声を聞いた気がするな。って、それより自主規制のスキルを創造? そんなコト出来るのか?」


 聞き返す和斗に、サポートシステムの声が続ける。


――マスターは神の力をもっています。どんなスキルも創造出来ますし、この世界をゲーム仕様に変え る事だって可能です。

「それって職業特性があったり、スキルで強化されたり、ステータスが表示されるような世界に変えるコトが出来るって意味か?」

――そうです。

「それは凄いな。面白そうと言えば面白そうだけど……」


 和斗はそれだけ口にすると考え込む。

 これは迂闊な事をすると大変なコトになるヤツだ。

 プロが作ったゲームでもバグがあったりする。


 ましてや和斗はゲーム制作のド素人。

 思い付きで世界をゲーム仕様にしたりすると、絶対にヤバい事になる。

 だから和斗は、自分にだけ有効なスキルを作ることにする。


「サポートシステム。さっき言ってた自主規制のスキルの作りたいんだけど、どうやったらイイんだ?」。

――ゲームウィンドを創造して、その数値を自由に変化させたいと思うだけで自主規制のスキルを習得できます。ですが変更できるのは力と速度だけで、防御力は変更できません。そして危機に陥った場合、反射的にステータスが元通りになる場合があります。もちろん、望めば瞬時に元のステータスに戻ります。


 なるほど。

 防御力まで常人並みに設定してしまうと、即死する可能性がある。

 だから自分を危険にさらす事は出来ないようになっているのだろう。

 同じ理由で、危なくなったら自動的に元に戻ることもある、と。


 なら、何の心配もないだろう。

 ということで、和斗は決断する。


「よし。じゃあ、その自主規制ってスキルを創造しいてみる。う~~ん、これでイイのかな? サポートシステム、確認してくれるかな?」

――了解。成功しています。直ぐに装備しますか?

「頼む」


 そう答えると同時に、和斗の目に。



 自主規制ステータス

 力       xxxx

 体力      xxxx

 速度      xxxx

 数値を入力してください



 というウィンドが表示された。


「よし、じゃあ入力するか……って、常人並みのステータスって、どんな数値なのか教えてもらえるかな?」

――一般人の力は10。トップクラスなら50くらいです。体力、つまりスタミナも一般人で10くらいでトップクラスなら50くらいです。速度なら一般人で10。トップクラスで15といったところでしょうか」


 オリンピックの重量挙げの選手なら常人の5倍の力。

 短距離走の選手なら常人の1・5倍の速度で走れる。

 こんなトコかな。

 ならちょっとだけ強くして。


 力  100

 体力 100

 速度  25


 と、和斗は設定した。


「これでトップアスリート並みではあるけど、人間の範疇のステータスになったってワケだ。よし、本気で技術の習得に励むぞ!」


 この声を聞きつけ、雷心が笑みを浮かべる。


「確かに力に物を言わせる剣は、技とは呼べないござる。宇宙を破壊できる力を封印してまで学ぼうとする姿勢、感服いたしたでござる」


 そんな雷心に、不動明王も声を上げる。


「和斗殿の、本気で万斬猛進流を習得したいという熱意を再認識した。実に嬉しい限りだ」

「ではカズト殿。一般人と変わらぬ能力となった今、普通の矢から百矢払いの稽古をやり直すでござる」

「お願いします」


 という事で、初伝の百矢払いに挑戦する和斗だったが。


「ま、まあ、結果はわかっていたさ」


 当然ながら稽古は困難を極めた。

 が、そのくらい覚悟の上。

 それに時間だけは無限にある。


「絶対に真の技術を習得してやる!」


 和斗は呪文のように繰り返しながら稽古に没頭する。

 そんな和斗の姿に、リムリアも。


「ねえカズト、ボクも自主規制のスキルを装備したい。ライシンと同じ条件で、万斬猛進流を学びたいんだ!」


 と言い出した。

 もちろん和斗に異論などない。

 すぐにリムリアにも自主規制のスキルを作動させる。


「ふぅん。これが一般人のステータスかぁ。うん、たしかにすごく弱くなった気がするね。けどライシンはこの力と速度で、百矢払いを成功させてんだよね。マッハ4の矢で。ならボクもガンバルしかないよね!」


 という事で和斗とリムリアは。

 人間のステータスで、人間の限界を超える稽古に打ち込むコトになった。


 しかし神経速度や思考速度はそのまま。

 和斗とリムリアは気付いていないが、圧倒的に有利な条件での修行だ。

 なので、万斬猛進流の稽古は、常人の10倍もの早さで達成されていった。

 そんな和斗とリムリアを眺めながら不動明王が呟く。


「ほう。すさまじき速度で万斬猛進流を自分のものにしておるな。が、雷心が今の腕前に至るのに費やした年月は1000年。和斗殿とリムリア殿が雷心に追いつくには100年は必要であろうな」


 雷心は気づいていないが、万斬猛進流の里は現世と霊界との間にある。

 仙界と呼ばれている場所といった方が分かり易いかもしれない。

 そしてこの地では、時間がユックリ進む。

 具体的には、現世での1日で1年分の修行が出来る。


 もちろん肉体的には1日しか経過しない。

 だから雷心は1000年の修行をしたのに、3歳しか年を取っていない。

 しかし修行した年月は1000年相当。

 いくら和斗とリムリアでも、追いつくのに100年必要だろう。

 今のペースならば。

 しかし。


「ふむ、和斗殿とリムリア殿の習得速度はドンドン早くなっておる。このままなら想像以上に短い時間で万斬猛進流を習得するであろうな」


 和斗とリムリアの稽古を眺めながら不動明王は呟いた。


 くどいようだが、不動明王は理解している。

 和斗とリムリアが星雲級の破壊神であるコトを。

 そして星雲級の破壊神が、どれほど規格外の存在であるかも。

 その規格外の存在が、全身全霊で修行しているのだ。

 きっと不動明王ですら予測できない速度で習得するに違いない。


「が、それも楽しみな事であるな。万斬猛進流を生み出すのは困難を極めた。試行錯誤を繰り返し、何度も諦めかけた。が、その分、万斬猛進流には大きな思い入れがある。この万斬猛進流を全て伝授できる者が現れるとは、この上ない喜びだ。これも仏の導きかもしれぬ。有り難き事よな。では和斗殿、リムリア殿。儂を驚かせてくれる事、期待しておるぞ」


 という不動明王の望みに応えるように。


「おりゃあああああ!」

「たあああああああ!」


 和斗とリムリアは1日中、修行に打ち込んだ。

 もちろん百矢払いだけではない。

 風切り、魔力切り、そして音速剣。

 どれも人間並みのステータスで、稽古をやり直す。


 そんな稽古に明け暮れる、ある日。

 リムリアは、ふと思いついて雷心に尋ねる。


「そういやライシンの剣の威力って山断ちって言ってたけど、そんな長さの刀で山を切れるの?」


 この問いに、雷心がパタパタと手を振る。


「もちろん無理でござる。刀身より長い物を切る事など出来るわけがござらん」

「でも山断ちって山を切るんだよね?」

「それは山よりも長い刀で斬るからでござる」

「山より長い刀? そんな刀なんてあるの?」


 目を丸くするリムリアに、雷心は雫に目を向ける。


「その為の修行僧でござる」

「ワケ分かんない」


 アッサリと考える事を放棄したリムリアに、雷心がほほ笑む。


「論より証拠。その目で見た方が早いでござるな。雫殿、お願いできるでござるか」

「よっしゃ。たまにゃ全力ださな腕がなまるさかい」


 雫はニヤリと笑うとパンと手を打ち合わせ。


「不動明王様! その降魔の利剣を、我が身に降臨させ給え! ノウマク サンマンダ バサラダン カン!」


 凛とした声を張り上げた。

 直後。


 ゴォオオオオオオオオオオオ!!


 雫の体から灼熱の炎が迸り、そして。


「ええ!? 雫が刀に変わった!?」


 リムリアが叫んだように、雫は1振りの神々しい刀に姿を変えた。

 この刀が、さっき雫が口にした『不動明王の降魔』の利剣なのだろう。

 その降魔の利剣は。


「来たれ」


 雷心がそう口にして右手を突き出すと。


 ばひゅん!


 凄い速度で、雷心の手に収まった。

 と同時に雷心は、降魔の利剣を構え。


「こぉおおおお!」


 気合を高めた。

 すると。


 ヒュオ!


 降魔の利剣は雲まで届くのではないか、と思うほど長く伸びた。


「リムリア殿。この降魔の利剣は拙者の望むまま、その刀身の長さを変えるのでござる。山を切断したいと思えば、山を切れる長さになるのでござるが、山を切れるかどうかは拙者の技量次第でござるな」


 同田貫という刀がある。

 加藤清正が。

『甲冑ごと敵を斬り倒せる刀を作れ』

 と命令して作らせた刀だ。


 しかし誰での同田貫を持てば甲冑ごと敵を斬れるわけではない。

 強力な武器を装備した瞬間、攻撃力が上がるのはゲームだけ。

 稽古を重ねて高い技術を習得した侍だけが、同田貫で甲冑を斬れるのだ。


 降魔の利剣も同じ。

 山を切断するには、どんでもない腕前が必要となるだろう。

 事実。


「借りてもイイかな。ボクも山断ちに挑戦したい」

「よいでござるよ」


 雷心から降魔の利剣を借りたリムリアは。


「や!」


 遠くに見える岩山へと降魔の利剣を振り下ろすが、その刃は。


 がす。


 山を半分ほど切り裂いたところで止まってしまった。


「あれ~~?」


 首をかしげるリムリアに、雷心が切断面を指さす。


「リムリア殿の太刀筋は、途中で曲がっているのでござる。それゆえ不必要な抵抗が刀身にかかってしまい、切断の途中で刃が山に挟まって、動かなくなってしまったのでござる。これが岩断ち程度なら問題ない誤差でござるが、その僅かな誤差が山断ちでは大きな太刀筋の狂いとなってしまうのでござる」


 雷心に言われてリムリアは山をジッと見つめるが。


「曲がってるように見えない」


 頬を膨らませた。


 リムリアは真っ直ぐに刀を振り下ろせたと思っている。

 そして山に刻まれた切り跡も、真っ直ぐに見えるからだ。

 そんなリムリアに雷心が丁寧に説明する。


「リムリア殿。山は均等な塊ではござらん。岩もあれば、地中奥深くに水が流れている事もござる。それらを刃が通り抜ける時、どうしても抵抗の少ない方向に太刀筋は曲がってしまうのでござるよ。山を切ったとき、何か違和感がなかったでござるか?」

「そう言えば、わずかだけど振動を感じた」

「それが、太刀筋が曲がった原因でござる」

「ちぇ~~。失敗か~~」


 唇を尖らせるリムリアに、雷心がニコリと笑う。


「何を言っているでござる。大成功でござる。その違和感が分かるという事は、何を直せばよいか分かっているという事でござろう? ならば直すべきところを直すだけでござる。ちゃんと得るものがあった以上、今回の試みは大成功と言ってよいと拙者は思うでござる」

「そっかぁ……そうだよね! よ――し、やるぞぉ!」


 張り切るリムリアだったが。


「しかし岩山を練習台にするのはダメでござる。この稽古はあくまで自分の稽古の成果を試すものでござる故」

「む~~」


 唸るものの、リムリアだってわかっている。

 岩山を斬れるまで繰り返すなんて、ただの自然破壊という事を。

 だから。


「分かった。今まで通りの稽古をする」

「それが1番でござる」


 リムリアが差し出す降魔の利剣を受け取る雷心に。


「俺もやってイイかな」


 今度は和斗が尋ねた。

 今の和斗は自主規制のスキルによって一般人並みのステータスしかない。

 実は超人レベルなのが、それでも人間の範疇ではある。

 だから人間のステータスである自分のレベルを知りたい。

 そう思っての発言だったのだが。


「その必要は無いでござろう」


 雷心はアッサリとそう口にした。


「カズト殿の目には、綺麗に切断された岩山が見える筈でござる。それが見えるのならば、それは現実に起こる事でござる。結果の分かった自然破壊をする必要はないでござろう?」


 和斗は空手を学んでいた。

 その空手の稽古に試し割というものがある。

 板、瓦、レンガ、ブロック、自然石。

 様々な物を手や足で叩き割るのだが、何度も行っていると。

 見たダケ、あるいは手に取っただけで割れるかどうか分かるようになる。


 それと同じで、和斗は岩山が切れる事を感じていた。

 まあ、本当に切ることが出来るのか試したい気持ちもあるが。

 雷心の言うように、自然を破壊する事もないだろう。

 そう和斗は思い直すと。


「じゃあ俺も稽古に励むか」


 それだけ口にして、今まで通りの稽古に打ち込むのだった。

 そんな和斗の後ろ姿に。


「しかし和斗殿は、身体能力を常人並みにしているはず。その状態で斬れた映像が見えるとは、末恐ろしいな」


 不動明王は呟くが、それは誰の耳にも届かなかった。





 


2022 オオネ サクヤⒸ

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