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   第百六十九話  本日の練習風景・その1





 斬撃は、振り下ろしだけではない。

 切り上げ、突き、薙ぎ払いなど多種多様だ。

 もちろん左からの斬撃も、右からの斬撃もある。

 その全てを、衝撃波もカマイタチも発生させずに繰り出す。

 という稽古を、和斗とリムリアは繰り返していた。


 もちろん、初日で風切りに成功している。

 しかし稽古を重ねれば重ねるほど。

 雷心の風切りには遠く及ばない事を痛感する。

 だからこの日の稽古が終了した時。


「あ~~、もう! ライシンの風切りと違い過ぎるよ!」


 リムリアは悔しそうに、そう叫んだのだった。

 が、稽古が嫌になったワケではないらしい。


「見てろよライシン! そのうちゼッタイ、追い抜いてやるからな~~!」


 嫌になったどころか、負けず嫌いを更にこじらせている。


「たった数日の稽古で追い付かれたら、拙者の面目が立たないでござるよ」

「む~~」


 苦笑する雷心に、頬を膨らませるリムリアだったが。


「しかしあらゆる斬撃を風切りで繰り出せるようになったでござるから、そろそろ他の技の稽古を初めても問題ないと、拙者は思うでござる。お師匠様、如何なものでござろうか?」


 雷心が不動明王に伺いを立てるのを聞いて、顔を輝かせる。


「ホント!? ホントに他の技を教えてくれるの!?」


 子犬のように駆け寄ったリムリアに、不動明王が頷く。


「うむ。雷心には及ばぬが、リムリア殿も、そして和斗殿の風切りも十分な技量に達しておる。よって次の段階に進む事とする」

「やった――!」


 リムリアは数回飛び跳ねると、ワクワクした顔を不動明王に向ける。


「で、ナニを教えてくれるの?」

「まずは初伝の技からだな」

「初伝? 前も言ってたけど、それナンだったっけ?」


 首を傾げるリムリアに、雷心が説明を買って出る。


「前も説明したと思うでござるが、難易度によって技を分類した呼称でござる。初伝が初歩の技。そして中伝が、初伝を習得した者が次に学ぶべき技でござる。奧伝とは最高難度の技でござるが、その奧伝を全て習得した先にある究極の技が、万斬猛進流の相伝技『森羅万象斬』でござる」


 雷心の説明によると。


 万斬猛進流は、1撃の威力を極めようとする万斬流と。

 全ての敵を斬り倒して突き進む猛進流が合わさって出来たモノらしい。


「という事で、次は初伝の技の1つ、『魔力切り』を稽古するでござる」

「魔力切り?」


 オーム返しに聞き返すリムリアに、雷心が頷く。


「そうでござる。本来、魔力とは目では捉えられぬものでござるが、見えぬ魔力を切る稽古でござる」

「そんなコト、出来るんだ」


 目を丸くするリムリアに、雷心がニコリと笑う。


「異国の魔法使いと呼ばれる者達は、刀が届く範囲の遥か遠くから魔法で攻撃してくるでござる。その魔法使いと戦う手段の1つが魔力切りでござる。まあ、攻撃魔法を使うのは魔法使いだけではござらぬが」

「前に雷心がやってた、縮地斬でイイんじゃないの? アレならどんな遠くから攻撃されても斬り捨てれるじゃん」


 アッサリと言い切るリムリアに、雷心は首を横に振る。


「いや縮地斬は奧伝の技。魔力切りより遥かに難しい技でござる。そして奧伝を習得する前に魔法使いと戦う事になるやもしれないでござる。なら少しでも早く魔法使いに対抗できる技を身に付けるべきなのでござろう? それに森羅万象斬を習得するのに必要な技でもござるので、やはり魔力切りの稽古は避けて通れないでござるよ」

「そういうコトなら、習得するしかないね」


 リムリアは直ぐに気持ちを切り替えると。


「じゃあ魔力切りを教えて!」


 元気な声を上げた。


「もちろんでござる。では雫殿、お願いするでござる」

「よっしゃ!」


 雷心の声で、雫が和斗とリムリアの前に立つ。


「カズト、リムリア。ウチ等修験者が使うんは神の力なんやけど、呪符を使えば異国の魔法も再現できるんや。せやさかい魔力切りの修行にはウチ等裏密教の修験者の協力が不可欠なんや」


 雫は胸を張ると、手にした呪符を構えて鋭い声を上げる。


「見ときや。火炎柱!」


 その直後。


 ごぉぉぉぉぉぉぉ!


 和斗とリムリアの前に、高さ3メートルほどの火の柱が出現した。


「へえ、シズクって魔法も使えるんだ」


 感心するリムリアに、雫が笑う。


「不動明王様の力を借りた炎呪に比べたら遊びみたいなモンやけどな。せやけど魔力切りの稽古にゃあ十分やろ。あ、言うとくけど切るんは焔やないで。その焔の元になっとる魔力を切るんや」


 今、目の前にあるのは魔力によって生み出された焔の柱。

 その焔の柱を切るのは難しいコトではない。


 いや、切る以前に。

 和斗が普通に木刀を振っただけで、風圧で消え去ってしまうだろう。

 万斬猛進流でいうところの音速剣だ。


 しかし今、稽古すべきは魔力を切るコト。

 つまり焔の柱を生み出している魔力の流れを断ち切る事だ。

 普通の人間にとって、かなり難易度の高い修行なのだと思われるが。


「あ、コレを斬ったらイイんだね」


 ぴぅ!


 リムリアはアッサリと魔力を斬り裂き、焔の柱を消し去ってしまった。


「な、な、な、なんちゅうこっちゃ……まさかいきなり魔力切りを成功させるやなんて……」


 言葉を失う雫にリムリアが事も無げに言う。


「あ、ボク魔力なら世界一と言われたドラクルの一族なんだ。だから魔力を感知するのは得意なんだ」


 元々リムリアは優れた魔法使いだ。

 魔力を感知する事など、呼吸するのと変わらないくらい簡単だろう。

 が、雫がそんなコトを知っている訳がない。


「ドラクルの一族ってなんのこっちゃ分からへんけど、異常なほど魔力の扱いに慣れとる、ちゅうコトだけは分かったわ」


 目を丸くして感心していた。

 そして雫は雷心に、肩をすくめてみせる。


「こら魔力切りの稽古、Ⅰ発終了やな。せやろ雷心」

「その通りでござる。しかしまさか、初撃で魔力を斬ってしまうとは……拙者、感服したでござる」


 雷心が溜め息交じりにそう口にした横では。


「こうか」


 ぴう!


 和斗も魔力切りに成功していた。


 風切りもそうだったが。

 切る対象を良く見極めれば、そう難しいコトでない。

 そして『神の眼』なら、魔力を見極めるコトなど朝めし前だ。

 だが神の眼の能力には、もっと色々な使い方がありそうだ。


「もっと詳しく説明してくれたら助かったんだけどな。今さら至高神に文句を言っても始まらないし、もっともっと自分が持っている能力を使いこなす為の訓練が必要だな。ま、万斬猛進流の修行は神の力を使いこなす訓練にもなりそうだから、一石二鳥ってヤツかな」


 という和斗の呟きを耳にして、不動明王が考え込む。


「ふむ。和斗殿とリムリア殿には、思った以上に早く万斬猛進流の全てを伝授できそうだ。ならば、稽古も普通とは違う方法で行う方が良いだろうな」


 そして不動明王は雷心に視線を向ける。


「雷心よ。お前は音速剣と百矢払いを、どこまで取得した?」

「音速剣なら破軍の太刀まで、百矢払いは3段まででござる」

「うむ、良く精進しておる。ならば雷心よ。和斗殿とリムリア殿にも、破軍の太刀と百矢払いを伝授しなさい」

「承知でござる」


 不動明王に頭を下げる雷心に、さっそくリムリアが質問する。


「なに、そのハグンのタチにヒャクヤバライって? どっかで聞いたような気がするんだけど」

「破軍の太刀とは音速剣から派生する中伝の技でござる」


 雷心はそう口にすると、木刀を構えた。


「前にも説明したと思うでござるが、『音速剣』は何の工夫もなく、ただ剣を振るだけでござる」


 雷心がそう言って木刀を振り抜くと。

 巨大なカマイタチが、刀身から伸びた。

 もちろん空気の刃であるカマイタチが目に映る筈が無い。


 しかし神霊力を使いこなせるようになっているからだろうか。

 和斗とリムリアは、カマイタチをハッキリと感じ取る事が出来た。


 さっき雷心は、こう口にした。

『何の工夫もなく、ただ剣を振るだけ』と。

 しかし今の1振りは、極めに極めた達人の斬撃だった。


「そしてカマイタチを1つではなく複数生み出すのが乱刃剣でござる」


 雷心がそう口にしながら、ふたたび木刀を振るうと。


 バヒュヒュヒュヒュヒュヒュヒュ!


 刀身が、数え切れないほどのカマイタチを纏う。


「生み出すカマイタチの数は技量によって変化するでござる」

「前にも聞いたような気がするけど、これが本物の音速剣かぁ。ねえカズト。やっぱライシンって超1流の剣士なんだね」

「ああ。見事なモンだ」


 リムリアの囁きに、そう和斗が答えたトコで。


「次は、発生させたカマイタチを飛ばす技、『飛刃剣』でござる」


 雷心はそう口にすると、再び木刀を振るう。

 先程と同様、無数のカマイタチが発生するが。


 ピュオオオオオオオオオッ!


 発生したカマイタチは木刀から撃ち出され、空へと消え去った。

 そのカマイタチを見送りながら、雷心が続ける。


「カマイタチの飛距離は使い手の技量により変わるでござる。しかし飛刃剣は、カマイタチが勝手に飛び出していく技。手当たり次第に敵を倒すのならば有益な技でござるが、敵味方入り乱れる乱戦では使えないでござる。そこで」


 雷心が、またしても木刀を振るう。

 今回も無数のカマイタチが木刀から撃ち出されるが。


「へえ。さっきは入り乱れて飛んでいったカマイタチが、今度は綺麗に並んで飛んでいったな」


 和斗が呟いたように、カマイタチは正確な間隔で撃ち出されていた。


「複数のカマイタチを正確に操る『操刃の太刀』でござる。言い換えれば『操刃の太刀』を習得して初めて、味方と供に戦える腕前と言えるでござる。だから飛刃剣と乱刃剣は初伝、つまり初心者が最初に習得すべき技で、『操刃の太刀』は中伝の技なのでござる」


 風切りや魔力切り、音速剣といった『切り』『剣』という名称の技。

 これらは初伝の剣技らしい。


 そして『操刃の太刀』のように『○○の太刀』という呼び方の剣技。

 これは中伝の技、と雷心は説明すると。


「そして『操刃の太刀』でござるが、その撃ち出すカマイタチが1000を超えると『破軍の太刀』と呼ばれるのでござる」


 今までとは比べ物にならないほどの気合いを漲らせ。


 ゴヒュゥッ!


 木刀を振り抜いた。

 と同時に。


 シュゴォッ!!!!


 1000を超えるカマイタチが空へと放たれる。


「ま、今の拙者では1500のカマイタチを放つのが精一杯でござるが」


 そう口にして微笑む雷心に、リムリアが思わず大声でツッコむ。


「いやいやいや、神霊力も使わず剣の技術だけで1500も斬撃を飛ばすなんて普通じゃないよね!?」


 が、そのリムリアの心の底からの叫びに、雷心は微笑んだまま。


「別に驚くほどの技ではござらん。和斗殿とリムリア殿の剣速ならば、音速剣は当然として、飛刃剣と乱刃剣も簡単に出来るでござろう。よって、そのカマイタチを自由自在に操る『操刃の太刀』の稽古から始めるでござる」


 そう言ってのけると。


「とはいえ、思い通りの数のカマイタチを生み出すのは、なかなか難しいのでござる。しかし好きな数だけカマイタチを生み出せるようになる。これもカマイタチを操る技術、すなわち『操刃の太刀』の稽古でござる」


 雷心はそう付け加え、空を指差した。


「とりあえず空に向かってカマイタチを発生させるでござる」

「なるほどね。空に向かってなら、万が一、カマイタチが飛んで行っても誰にも迷惑かけないモンね」


 リムリアは納得すると。


「えい!」


 空に向かって木刀を振るった。

 と同時に、空に浮いた入道雲が、真っ二になる。


「遠くの雲を切るコトが出来たんだから、これが『飛刃剣』でイイのかな?」


 リムリアの呟きに、雷心が首を横に振る。


「なんという威力でござろう。拙者の方が弟子入りしたいほどでござる。しかしリムリア殿、今のは刀身から伸びたカマイタチが巨大だっただけで、飛んでいったワケではござらぬ。よって今のは飛刃剣ではござらん」

「う~~」


 リムリアは難しい顔で唸り声を上げるが、そこに。


「なんだ、今のカマイタチは!?」

「空が割れたぞ!」

「あんな威力のカマイタチ、初めて見たぞ!」

「お師匠様の手本か!?」

「それなら納得だが……」

「まさか雷心じゃないだろうな?」

「おいおい、勘弁してくれよ」

「これ以上、差を付けられちゃあ、堪らないぞ」


 そう口にしながら、10人ほどの男が裏庭に入ってきた。



 




2022 オオネ サクヤⒸ

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