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  第百六十一話 お気楽異世界旅行

ここからが 第7章(強くてニューゲーム編?) になります。





 チート転生者と異世界の邪神を倒した宴会の片隅で。


「いきなりだけどカズトくん。キミに頼みがあるんだ」


 至高神は真面目な顔で、そう切り出したのだった。


「ナンか嫌な予感がするね、カズト」


 和斗に耳打ちするリムリアに、至高神が微笑む。


「そんなに警戒しなくてイイよ。危険なんか全くないから」

「その笑顔が、かえって心配なんだけど?」


 かなり罰当たりな態度のリムリアに、至高神は笑みを深める。


「いやいや、ホントに簡単な事なんだ。ちょっと異世界に行って欲しいだけさ」

「異世界?」


 首を傾げるリムリアに、至高神が頷く。


「そう異世界。詳しく言うと、チート転生者をボクの世界に送り込みやがったバカヤローが統治する世界に行ってほしいんだ」

「チート転生者を送り込んで来たバカヤロー?」


 そのまま問い返すリムリアに、至高神がフンと鼻を鳴らす。


「この世界とは別の世界を統治する神の事さ」

「それってつまり、ボク達に異世界の至高神と戦えってコト? 出来るワケないじゃん、そんな強い相手と戦うなんて」


 アッサリと断るリムリアに、至高神が首を横に振る。


「いやいや、そんな野蛮なコトを頼む気なんか無いよ。ただ異世界に行って、普通に過ごしてもらったらイイ」

「それに何の意味があんの?」

「もちろん嫌がらせさ。マローダー改がレベルアップすると、神霊力もアップするだろ? その神霊力は、ボクがマローダー改に与えてたんだ。この世界を構成する神霊力の1部をね。そして重要なのはレベル140を超えた今、マローダー改はレベルアップした時、ボクでも制御できないほど強力な力で、強制的に神霊力を取り込むようになったコトなのさ」

「それってマズいんじゃないの?」

「マズいね、間違いなく。次にレベルアップした時に取り込む神霊力量は、ボクにとっても気楽に与えられる量じゃないから」


 清々しい笑顔でそう言った至高神に、リムリアは眉をひそめる。


「ならなんでマローダー改に、そんな力を与えたの?」

「そりゃさっき言ったように、この星の問題を解決した後、異世界の神に嫌がらせをする為さ」

「マローダー改を異世界でレベルアップさせて、その異世界の神霊力を大量に取り込め、ってコト? 至高神でも邪魔できないパワーで」

「その通り」


 パンと手を打つ至高神に、リムリアが冷たい目を向ける。


「でも、それってボク達にナンのメリットがあるの? それ以前に、異世界の至高神が腹立てて、攻撃してくるんじゃないの? 何度も言うケド、至高神と戦うなんてボクはゴメンだよ?」

「そんな心配、必要ないさ。戦闘力だけならキミ達の方が上なんだから」

「え? そうなの?」

「ああ、負けると分かってる戦いを挑んでくるワケがない。しかもマローダー改のレベルを1にする。ステータスはそのままでね」

「ステータスそのままでレベル1? それにナンの意味があんの?」


 首を傾げるリムリアに、至高神がニコリと笑う。


「僅かな経験値でレベルアップする。これがキミ達のメリットさ」

「なるほど」


 異世界の邪神を11柱も倒して得た経験値。

 それ以上の経験値を得られる敵など、簡単に巡り会えるとは思えない。

 しかしレベルが1になれば。

 ヘタすれば猛獣を1匹倒したダケでレベルアップするだろう。


 と納得するリムリアに、至高神は付け加える。


「そしてレベルアップしたらステータスも今までと同じようにアップする。同時に取り込む神霊力も、今までと同じような感じでアップする。だからキミ達がレベルを2~3上げるだけで、異世界の至高神は顔を青くする筈さ」

「でも逆に、レベルを1上げただけで気付かれて、この世界に送り返されるんじゃないの?」


 リムリアの質問に、至高神はニヤリと笑う。


「実はマローダー改がレベル10にアップした時、それまでの累計神霊力を一気に取り込むように設定してあるんだ。だから異世界の至高神は、マローダー改がレベル10になるまで、絶対に気が付かない」


 ここまで口にすると、至高神は悪い笑みを浮かべた。


「そして気付いた時には、とんでもない量の神霊力を奪われた上、戦闘力ではマローダー改の足元にも及ばない事を覚るのさ。絶望の中でね」

「1つ質問」


 シュッピ! と手を上げるリムリアに、至高神が頷く。


「1つと言わず、幾つでも」

「マローダー改が大量の神霊力を取り込んだら、その異世界、滅んじゃうんじゃないの? いくらチート転生者や異世界の邪神を送り付けられたからって、ソレはイヤだな」


 リムリアの言葉に、至高神の笑みは穏やかなモノに変わった。


「その心配はないよ。困るのは異世界の至高神と、その配下くらい。星々で生きているモノには影響は及ばない」

「なら、気楽な異世界旅行と思えばイイかな? なら行ってもイイかも。カズトはどう思う?」

「そうだな。異世界ってどんなトコか見てみたいとは思うな」

「じゃあお気楽異世界旅行、決定という事でイイね?」


 パンと手を打つ至高神に、リムリアが悪戯っぽい顔を向ける。


「でも、絶対にトツカ達も一緒に行くって言いだすよ」


 そのリムリアの言葉に、至高神も悪戯っぽい顔で返す。


「大丈夫。異世界から帰ってきたら、この時間軸に戻れるようにしておくから。つまり異世界で何年、何百年経過してもこの場所、この時に戻ってこれるんだ。だから気楽に行ってきたらいい」

「そっか」


 リムリアは大騒ぎしているトツカ達にチョット遠い目を向けた後。


「じゃあカズト。異世界ってどんなトコか見に行こうか」


 楽しそうな目を、和斗に向けた。


「ああ。楽しそうだと俺も思うよ」


 そう答える和斗に、至高神がワクワクした顔で口を開く。


「では異世界に送り込んでも良いですか?」


 この質問に、和斗とリムリアは一瞬、目と目を合わせると。


「「もちろん」」


 声を揃えた。


「じゃあ送り込むよ」


 至高神が満面の笑みを浮かべた直後。

 和斗とリムリアの視界は一変した。







「ここが異世界?」


 声を上げるリムリアと一緒に、和斗も辺りを見回す。


 日本では見たコトもないほど澄み切った青空。

 その真っ青な空に、地球と同じような太陽が輝いている。

 吹き渡る風が心地よい。

 もし四季があるなら、きっと初夏間近という頃だろう。


 そして今、和斗とリムリアが立っているのは。

 舗装されていないが、シッカリと踏み固められた道だ。

 しかも、直ぐ近くに。


『島根ノ国まで14里』


 そう刻まれた石が設置されていた。

 その4キロほど先には。


『島根ノ国まで15里』


 と刻まれた石が見て取れる。

 どうやら人が作り上げた道らしい。


 ただ道を舗装する文明レベルにないのか。

 それとも単に田舎道なダケなのか、それは分からない。

 そして道の右側には鮮やかな竹林、左側には草原が広がっている。

 なんとなくオリエンタルな、いや『和』の雰囲気が漂う景色だ。

 見ているダケで和んでくる。


 と同時に、不意に涙が零れそうになった。

 今まで思いもしなかったコトだが。

 ここまで懐かく感じるという事は、やっぱり日本が好きだったのだろう。

 などとシミジミとしている和斗の横で。


「あれ? 人が倒れてるよ」


 リムリアが声を上げた。





2022  オオネ サクヤⒸ

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