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第十六話  受け答えまでレベルアップしてる!


  



 正ドラクルになったリムリアは、今までよりパワーアップしていた。

 どうやら正ドラクル化すると、力も強くなるらしい。

 が、それでもパワーではワーウルフの足元にも及ばない。

 やっぱり一人で行かせる訳にはいかない。


「リム。スキルポイント全部使ってマローダー改を思いっ切り強化して、ヴラドとの戦いに臨むぞ」

「うん。ありがと」


 リムリアが、和斗の胸に顔を埋めて呟いた。

 贅肉なんて1グラムもないようなスタイルをしているくせに、頼りないほど柔らかい。

 思いっ切り抱き締めたら壊れないかと心配になるほど華奢な体だが、それが堪らなく愛おしい。

 

 何があっても、絶対にリムリアを護り抜く!


 和斗がそう決意を新たにしたところで、サポートシステムの機械的な声が響く。


《ハイ・ワーウルフ12匹を倒しました。

  経験値12万。

  スキルポイント12万。

  オプションポイント12万を獲得しました。

  累計経験値が77万を超えました》


 そうサポートシステムが告げた直後。


 パラパパッパッパパ――! 


 レベルアップのファンファーレが鳴り響き、サポートシステムの声と共に、新たなステータスがカーナビに表示される。


  装甲車レベルが32になりました。

  最高速度が1000キロになりました。

  加速力が20%、衝撃緩和力が50%アップしました。

  登坂性能が101度、牽引力が920トンになりました。

  装甲レベルが鋼鉄132メートル級になりました。

  ⅯPが900になりました。


「やったぜ、ステータスが大幅にアップしてぜ! そして大量のポイントも手に入った! よーし、マローダー改を強化するぞ!」


 和斗が、さっそくサポートシステムに指示した、マローダー改の強化は。


 消費燃料減   95%。

 ⅯP自動回復  毎分1。

 全属性耐性   第10段階。

 Ⅿ2シールド射座・チェーンガン・戦車砲塔・ヘルファイアを200倍に強化。

 車体を6×20メートルにリビルド。

 だった。


《では実行しますか?》


 確認してくるサポートシステムに、和斗は暫く考えてから頷く。


「ああ、頼む」


《了解。実行しました》


 こうして可能な限りの強化が完了したマローダー改は、見た目は戦車砲を搭載した八輪装甲車だが、実質は陸上を走る要塞のようなものだ。

 これならどんな魔法攻撃も物理攻撃も跳ね返し、そしてどんな敵も撃ち滅ぼせるだろう。


「じゃあ、ヴラドと戦いに行くか。リム、どこに向かえばイイんだ?」


 和斗の問いに、リムリアは凛々しい顔で答える。


「この道を2000キロほど進んだ所に築かれたポエナリ城にヴラドがいる」

「よし。なら、さっそく、そのポエナリ城に向かうとするか」


 和斗はマローダー改のハンドルを握るとユックリとアクセルを踏む。

 今のマローダー改の最高時速は時速1000キロもあるが、そんな超高速で走らせる自信などあるワケがない。


「とりあえず時速100キロくらいで走らせるか」


 こうして和斗は最終決戦の地を目指したのだった。




 

「これは……」


 ポエナリ城へと出発してから1時間後。

 廃墟と化した大きな街を前にして、和斗は言葉を失っていた。


 元々は中世ヨーロッパ風の美しい街並みだったのだろう。

 しかし今は、戦争に巻き込まれたみたいにアチコチが崩れ、そして汚れていた。

 その汚れの大半は、飛び散った血や肉片だ。

 そして荒れ果てた街をヨタヨタと彷徨っているゾンビの大半は老人や女性、そして子供だった。

 

 その中の少女に、ふと目が止まる。

 年の頃は10歳くらいだろうか。

 元々は可愛らしかったと思われる顔は苦痛に歪み、喉には無残な傷が口を開けている。

 右腕は失われ、左手も千切れかけているが、その左手で人形を引きずりながら彷徨っている。

 

 どれほど痛かっただろうか。

 どれほど怖かっただろうか。

 両親はどうしたのだろうか。


 そんな事が頭の中を渦巻く和斗の目からは、自分でも気が付かないうちに涙がこぼれていた。


「なありム。これもみんな、ヴラドの仕業なのか?」


 怒りを滲ませた声を漏らす和斗に、リムリアが無言で頷く。


「そうか……」


 リムリアから聞いてはいたが、ヴラドがどんな酷い事を行っているのか、和斗はピンとこなかった。

 しかし人形を引きずっている少女だけでなく、このゾンビ達全員が悲惨な最後を迎えたに違いない。

 人の数だけ惨劇があったに違いない。


 それを肌で感じ、和斗は身が震えるほどの怒りを感じたのだった。


「ねえカズト。生きた死体のままじゃ可哀そうだよ。眠らせてあげよう?」


 リムリアに言われるまでもなく、そのつもりだ。

 しかし、いくらゾンビ化しているとはいえ、少女や少年をマローダー改で轢き潰す気にはなれない。


「リム。せめて一発で楽にさせてあげてくれ」

「うん」


 沈んだ声で答えると、リムリアはⅯ2シールド射座のコントローラーに手を伸ばし。


「ごめんね」


 小さく呟いてから、狙撃を始めた。


 ド! ド! ド! ド……


 何だかんだ言っても今までゾンビは、和斗にとって経験値をゲットできる獲物でしかなかった。

 しかし和斗は今、ゾンビを殺す事に初めて吐き気がするほどの嫌悪感を抱いていた。

 そして。


「こんな辛いコトをリム一人に任せておく訳にはいかないよな」


 和斗は呟くと狙撃スペースに入り込み、Ⅿ16でゾンビを射殺していく。

 ゲームのようにボタンを押して殺すのではなく、この手で葬る為に。


「すまない。きっと仇は討つからな。すまない……」


 何度も何度も何度も…………引き金を引く度に謝りながら、和斗はゾンビの頭に銃弾を撃ち込んでいく。

 ゾンビに痛みや苦しみが残っているのか、それは分からない。

 しかし、せめて一発で楽にさせる。

 それが和斗にできる、精一杯だった。


 タン! タン! タン! タン! タン! タン!


 ド! ド! ド! ド! ド! ド! ド! ド!


 廃墟に銃声だけが響き渡る。

 と、その時。


「ギャギャギャギャ!」


 不気味な声と共に、何かが狙撃スペースに飛びかかって来た。


「うわ! な、なんだ!?」


 思わず声を上げる和斗に、リムリアが叫ぶ。


「気をつけて、デビルゾンビだよ!」

「デビルゾンビ? これが……」


 頭には角、ビーストゾンビよりも長く鋭い爪、背中にはコウモリのような翼、そして先が尖った尻尾。

 まさに和斗がイメージする悪魔の姿をしたゾンビが、そこにいた。


「くそ!」


 すぐさま和斗はⅯ16の銃口を向けるが、それよりも早くデビルゾンビは飛び立ってしまう。


「逃がすかよ!」


 和斗は、飛び去るデビルゾンビを狙撃しようとするが。


「マジかよ!」

 ヒラヒラと舞い落ちる枯葉のように不規則な動きで飛び回るので、上手く照準を合わす事ができない。


「リム! デビルゾンビを狙撃できるか!?」

「無理だよ! Ⅿ2シールド射座じゃ、デビルゾンビのスピードに対応できないよ!」

「チェーンガンならどうだ!?」

「やってみる!」


 リムリアがチェーンガンを掃射するが、無駄だった。

 チェーンガンの弾丸は広い範囲に破片をばら撒いて敵を殺傷するが、それはあくまで弾が何かに命中した時の事。

 空中で身を躱されてしまったら、チェーンガンの弾はその特性を発揮できない。

 

 その上、チェーンガンの発射音を聞きつけたのか、デビルゾンビの数がドンドンと増えていく。

 今の時点で100を超えているだろう。


「ち! どうしたらいい?」


 和斗が舌打ちした直後、サポートシステムの声が響く。


《バルカン砲対空システムなら対処可能です》


 そういえば新しく購入できるようになった搭載武器に、そんなモノがあったような気がする。


「それならデビルゾンビを射ち落とせるのか?」


 和斗に質問に、サポートシステムが淡々と答える。


《音速の戦闘機を撃墜する為の、20ミリバルカン砲・レーダー・コンピューターによる射撃管制システムですから、デビルゾンビごとき簡単に射ち落とせます》

「なら購入する!」

《オプションポイント3万を消費しますが、よろしいですか?》

「頼む!」

《了解しました。どこに設置しますか?》


 サポートシステムの声が響くと同時に、和斗の脳裏にマローダー改の全体図が投影された。


「こ、これは……驚いたな、レベルが上がったおかげで、こんなコトもできるようになったのか」


 そう感心しながら和斗は、戦車砲塔の後ろにバルカン砲対空システムを設置する事にした。


「これで自動的にデビルゾンビを射ち落としてくれるのか?」

《いえ、デビルゾンビを標的とするようにコンピューターに入力しなくてはなりません》

「そんなコト、俺に出来るワケないだろ!」


 思わず怒鳴ってしまった和斗に、オートサポートシステムが相変わらず冷静な声で答える。


《心配いりません。ワタシが操作します。だからマスターはバルカン砲対空システムでデビルゾンビを撃て、と命令するだけでいいのです》

「そりゃあ助かる! じゃあサポートシステム。バルカン砲対空システムでデビルゾンビを撃ち落してくれ!」

《了解》


 ブォォ! ブォ! ブォォォ! ブォ! ブォォ!


 余りにも射撃速度が速い為、バルカン砲の射撃音は野獣の唸り声にしか聞こえない。

 そんな野獣の唸り声が響く度に、デビルゾンビがバタバタと落下してくる。


「よし、リム! Ⅿ2シールド射座でデビルゾンビの頭を撃ち抜いて、止めを刺してくれ!」


 和斗はリムリアにそう頼むが、そこにサポートシステムの声が響く。


《デビルゾンビの頭部を狙撃しています。その必要はありません》

「驚くほど優秀だな」

《恐れ入ります》

「戦闘能力だけじゃなくて、受け答えまでレベルアップしてる!」


 などと和斗が驚いている間に、サポートシステムが操るバルカン砲対空システムは、デビルゾンビを全滅させたのだった。






2020 オオネ サクヤⒸ

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