第百五十九話 ココは大宴会なんじゃない?
「宇宙を支配できる強さなんじゃない?」
リムリアの呟きに、和斗が。
「は、は、は。そうかもな」
渇いた笑いで答えた、その時。
「カズト殿ぉぉぉぉおおおお!」
天使の鎧を纏ったトツカが一直線に舞い降りてきた。
「流石カズト殿! あれ程の敵を瞬殺とは!! 感服いたしたでござる!!!」
まくし立てるトツカの後ろに、インフェルノ連合の幹部達が舞い降り。
「「「「「「感服致しました!!!!!!」」」」」」
6人も声を揃えた。
更に、その後ろに組員達も次々と舞い降り、一斉に膝を着く。
全員、どこにも怪我を負っていないようだ。
それを確認して、和斗はホッと息を吐く。
もし神霊力で組員を守る事に失敗したら。
或いはマローダー改のパワーによって組員達が負傷したら、と不安だったが。
どうやら全て上手くいったようだ。
そして、改めて組員達に目を向けると。
7つの組を構成する組員達は、見事なほど綺麗に整列していた。
「へえ、凄いね、和斗。ここまでビシッと並んでいると、見ていて気持ちイイね」
リムリアがはしゃいだ声を上げているが、それは和斗も思ったコトだ。
物凄い数の組員が、実に整然と並んでいる。
しかも整列しているのは、覇気に満ちた顔をした強者ばかり。
そして、その顔が語っていた。
和斗の為なら命も惜しまない、と。
改めてインフェルノ連合の組員達の心意気に感動する。
心というより、魂が震える光景だ。
だから和斗は、マローダー改から飛び降りると。
「ありがとう! 邪神に枯れたのはミンナが体を張ってくれたおかげだ! もう1度、礼を言う。ミンナ、ありがとう!!」
万感の思いを込めて、声を張り上げた。
その込めた思いの全てが伝わったかどうかは分からないが。
組員達は、一瞬静まり返った後。
『おおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!』
大気がビリビリと振動する程の雄叫びを上げたのだった。
と、その雄叫びが、一点から徐々に静まり返っていく。
その一点には。
「本当に皆、ご苦労様でした」
組員達から少し遅れて舞い降りた、ルシファーがいた。
「そうですね、お疲れ様でした」
あ、ラファエルも組員達に声をかけている。
ちなみに『ご苦労様』とは、上の者が下の者を労う言葉。
対して『お疲れ様』は、上の者に対する言葉使いだ。
ラファエルは天使なんだから『ご苦労』でも、言葉として間違っていない。
でも敢えて『お疲れ様』という言葉を組員達にかけた。
ラファエルの性格が隠れ見えてて、中々面白い。
いや、実にイイヤツだな、と思う。
なんて和斗の視線に気づいたのだろう。
「おや、カズトさん。なにニヤニヤしてるんです?」
ラファエルが和斗の元へとやってきた。
「いや、大団円ってヤツだな、と思ってな」
和斗がそう口にすると、ラファエルは遠い目になる。
「そうですね……正に大団円ですね……ここまで永かった…………ホントに永かった……」
声を詰まらせるラファエルの後ろから。
「ラファエル、苦労を掛けました」
ルシファーが声をかけた。
その目に、光るモノを湛えながら。
「アナタの忠誠心、きっと至高神様も褒めてくださるでしょう」
「いえ、天使軍の一員として当然の任務を果たしただけです。私などより褒められるべきはルシファー様です。永きに渡って、己を犠牲にしてチート転生者を封印し続けたのですから」
「いいえ、封印しか出来なかったのです。力の足りぬ無能と言われても、煩労できない失態です」
「そんな事を口にする者など、天使軍には1人もおりません!」
などと言葉を交わすルシファーとラファエルに、リムリアが割り込む。
「はいは~~い! ケーコもラファエルも、難しい話はそこまで! とにかく大きな戦いが終わったんだから、ココは大宴会なんじゃない?」
「「は?」」
ルシファーとラファエルは、リムリアの提案に間の抜けた声を上げるが。
「そうね……そうでしたね」
「はい、それがチャレンジ・シティーの流儀でしたね」
直ぐに吹っ切れた笑みを浮かべると。
「インフェルノ連合の皆さん! 辺獄に戻って宴会をしましょう!」
「今から林業師の大食堂を河相法します。とにかく飲んで騒ぎましょう!」
2人揃って弾んだ声で宣言した。
最初は何を言われたか分からなかった組員達も。
「マジで?」
「物凄い数の料理が食べ放題っていう、林業師の大食堂を解放?」
「そりゃスゲぇ! 一度でいいから見てみたかったんだ!」
「ああ。俺らなんか足を踏み入れれるトコじゃないからな!」
「やったぜ!」
言われたコトを理解すると共に歓声を上げた。
ルシファーは、そんな組員達に嬉しそうな目を向けてから。
「では皆さん。転移しますよ」
全員と共に大食堂へと転移した。
正確に言えば、大食堂の前に設置されたお祭り会場だ。
広さはサッカー場の10倍くらい。
その巨大広場に、食べ物や飲み物のブースが無数に設置されている。
いつの間に用意したんだ?
とも思うが、今はそんなコト、気にする必要もないだろう。
そして。
「さあ皆さん、好きなだけ飲み食いしてください! なにしろタダなんですから!」
このラファエルの一言と共に。
「おおおおおお!」
「すげ―――!」
「よし、食うぞ!」
「呑みまくりだ!」
大宴会が始まった。
その一画で。
「カズト殿! ぜひ拙者の盃を!」
誰よりも速く、トツカが和斗にグラスを差し出す。
「カズト殿、大戦の後の宴会でござる。ここは羽目を外して呑みまくる場面でござるぞ!」
そう言いながら和斗に体を預けるトツカを、リムリアが押しのける。
「カズトにはボクがお酌するから、トツカは組員を労ってきなよ!」
「なにを言ってるでござる! 何を置いても親に尽くすが子の務め! いや、この業界の掟! よって拙者がカズト殿にお酌するのは当然のコトでござる!」
「親と子もカンケーより恋人同士のカンケーの方が上だもん! だからカズトはボクが独占するんだい!」
「うわ、清々しいほど本音を言い切ったでござる! ならば拙者だって……恋人という事は、まだ結婚していない、という事! ならば拙者にだって勝機はあるでござる!」
「業界の掟はドコ行ったの!?」
「そんな建前など忘れたでござる!」
「うわ、言い切ったよ……」
トツカの言葉をそのまま返すリムリアだったが、そこに。
「まあ、めでたい席での無礼講という事で、大目に見てあげましょうよ」
ラファエルが、酒のボトルを手にして乱入してきた。
「うわ、ラファエル酒臭い! 呑み過ぎだろ!」
「タマにはイイじゃないですか~~。こんなにメデタイ日なんて、人生でも滅多にないんですから~~」
完全に出来上がっているラファエルに、リムリアのデコに青スジが浮かぶ。
「この酔っ払いが~~」
ラファエルを張り倒す寸前のリムリアだったが。
「あ、ルシファー! この酔っ払い、どうにかしてよ!」
リムリアはルシファーを見つけて声を張り上げた。
「まったく天使軍の兵士にあるまじき醜態じゃん! ルシファーからも厳しく言ってやんなよ!」
が。
「えへへへへぇ~~。リムリアしゃんじゃん~~」
酔っ払いが1人、増えただけだった。
「よひ、トツカもノメ~~」
「え、ルシファー殿、そ、その拙者は……」
「うるひゃい、しゃあノメ~~」
「あ、そ、そんなごムタイな……ごぶごぶごぶ……」
ルシファーがトツカの口に瓶を突っ込むのを見ながら。
「ああ、もう! どこが最も偉大な天使なんだか! 至高神が見たら泣くよ!」
リムリアは、口をへの字に曲げた。
が、そこで。
「まあ大目に見てやってくれないかな? 彼女達はホントに良くやってくれたんだから」
どこかで聞いたような声が、小さく響いた。
「ダレ?」
リムリアが周りを見回すと。
「こっちこっち」
この場に不釣り合いな子供が、お祭り会場の端っこから手招きしていた。
「ずぅ~~とチート転生者を封印してきて、やっと倒せたんだ、ちょっとくらいハメを外させてやってよ」
そこでリムリアは、この声が誰のモノだった気付いて駆け寄る。
「もしかして至高神?」
「大正解」
悪戯っぽく笑う至高神に、リムリアは大声になってしまう。
「至高神がこんなトコにいてイイの!?」
「し――! 声が大きいって! 内緒なんだから!」
慌ててリムリアの口を塞ぐ至高神に、リムリアが冷たい目を向ける。
「で、チート転生者を放置してた至高神が、今さらナニしに来たの?」
物怖じしないリムリアに、至高神が苦笑する。
「気持ちイイくらい遠慮がないね。逆に感心するよ。まあイイ。放置してたんじゃなくて、ルシファー達への試練を兼ねていたのさ。そしてまだ気付いてないけど彼女達はこの試練を乗り越えるコトにより、1つ上の存在に進化したのさ」
「彼女達ってルシファーとラファエルのコト?」
「もちろんその2人もだけど、ベールゼブブやベルフェゴール、そしてトツカ達インフェルノ連合の組員も含めてさ」
ニコリと笑う至高神に、リムリアが尋ねる。
「それってカズトもカンケーあるの?」
「あるどころか和斗くんの影響によって進化したんだよ」
「その為にカズトをこの世界に呼び寄せたの?」
「その通り。まあボクの考える条件に1番当てはまるのが彼だった、ってダケなんだけどね」
「ま、なんにせよカズトと出会わせてくれたコトには礼を言うよ」
「なんてそんなに上から目線なんだか……」
またしても苦笑する至高神に。
「で、本当は何しに来たんだ?」
いつの間にか後ろに立っていた和斗が尋ねた。
「まさか至高神ともあろう者が、何の目的もなくココに来るワケないよな」
「いやぁ、本当に大した用事じゃないんだけど、まず1つ目は、試練とはいえ苦労をさせた者達が嬉しそうに騒ぐ姿を見たかったコトかな」
「じゃあ2つ目は?」
この和斗の質問に、至高神は真面目な顔になる。
「今回の1番の功労者にご褒美を上げる為だよ」
「ごほうび?」
首を傾げるリムリアに、至高神がニヤリと笑う。
「レベルアップと、新たな武器さ」
「新たな武器?」
オーム返しに聞き返すリムリアに、至高神が頷く。
「そうさ、新たな武器さ。異世界の邪神にレーザーを躱されるしまったろ? だからレーザー砲を進化させる。マローダー改の最高速度の50倍の速度で撃ち出すようにね。これでもう2度とレーザー砲が躱されるコトは無いと思うよ」
「50倍!?」
和斗は目を丸くする。
マローダー改の最高速度の50倍。
それは時速30キロで走れる人間にとって、時速1500キロに相当する。
到底躱せる速度ではない。
と驚く和斗に、至高神は更に続ける。
「しかも発射するのがレーザーだけじゃツマラナイから電磁波砲にしておくね。つまりレーザー砲は、50倍速電磁波砲に変化したワケさ」
これで邪神もイチコロだよ、と笑う至高神に、和斗は質問する。
「よく分かんないけど、それってかなりの強さなんじゃないのか? もし俺がチート転生者みたいな悪事を働いたらどうする気なんだ?」
と心配する和斗に、至高神は心の底から楽しそうに笑う。
「そんな心配があるモノは、そんなコト聞かないよ。それにどれほど強くなっても力に溺れない者を選んだと自負してるよ。だからボクは、そんな心配なんかしてない。だから和斗くんも心配しなくてイイよ」
「そんな立派な人間である自身はないけど……この力は良いコトにしか使わないようにするよ」
真摯な目で答えた和斗に、至高神が頷く。
「それでイイさ。そして、それで十分だよ。じゃあレベルアップいこうか」
至高神がそう口にすると同時に。
――パラパパッパッパパーー!
恒例のファンファーレが鳴り響き。
――累計経験値が2000兆になりました。
装甲車レベルが140になりました。
最高速度が秒速1500万キロになりました。
質量が6000兆トンになりました。
装甲レベルが鋼鉄150兆キロメートル級になりました。
ⅯPが2億になりました。
装鎧のⅯP消費効率がアップしました。
1ⅯPで28分間、装鎧状態を維持できます。
サポートシステムが操作できるバトルドローン数が8500になりました。
ドローンのレベルアップが第25段階まで可能となりました。
神霊力が恒星5500億個級になりました。
耐熱温度 55該 ℃
耐雷性能 5500該 ボルト
になりました。
武器強化が10億倍まで可能になりました。
超光速電磁波砲の焦点温度が200京℃までアップが可能になりました。
サポートシステムがアップしたステータスを告げた。
相変わらず理解できない数字だが、そこで。
「ふうん。ご褒美のワリには1つしかレベルアップしないんだ」
リムリアが詰まらなさそうな声を上げた。
「どうせなら、10くらいアップさせて欲しかったな。なにしろ邪神を11も倒したんだから」
罰当たりレベルのセリフに至高神が苦笑しながら答える。
「残念ながらボクの力じゃ、ここまでしかレベルを上げられないんだ。星雲を統治するレベルまでしかね」
「星雲を統治? どゆコト?」
「1つの星雲を破壊できる力を持つ神、ってコトだよ」
「……よく分かんないけど、それってとんでもないコトなんじゃ?」
「あたりまえさ、カズトくんは星雲級破壊神になったんだから」
「破壊神に!?」
「正確には星雲級破壊神と同等の存在に、だけどね」
ふふ、と笑う至高神に、リムリアが声を張り上げる。
「カズト、神になったの!?」
「カズトくんだけじゃないよ。リムリア、きみもさ」
「ボクも!?」
「その通り。カズトくん、リムリア。神の座へようこそ」
「「……」」
あまりにも想定外の出来事に、言葉を失う和斗とリムリアに。
「まあ、神の先輩であるボクが、いろいろ教えるから安心してよ」
至高神は、無邪気な笑みを浮かべた。
「まあ、取り敢えずマローダー改の武装やドローンを強化したら?」
「なんでいきなり強化の話になるか分からないケド、ま、そんじゃ遠慮なく」
和斗はさっそくサポートシステムを呼び出すと。
3連装戦車砲 100倍強化
10万倍強化
10億倍強化
3連装チェーンガン 100倍強化
10万倍強化
10億倍強化
3連装バルカン砲対空システム 10倍強化
10万倍強化
10億倍強化
3連装M2重機関銃 ノーマル
5倍強化
20倍強化
マローダー改の武装は、このように設定する。
ドローンも買い足し、F15は100機、アパッチは200機に。
そして全機を25段階まで強化。
加えてアパッチの武装は。
50 機 300倍強化
50 機 1万倍強化
50 機 10万倍強化
30 機 100万倍強化
10 機 1000万倍強化
5 機 1億倍強化
5 機 10億倍強化
と設定した。
「とりあえず、こんなコトかな」
と、和斗が強化を終えたトコで。
「じゃあ強化も終わった事だし、そろそろ本題に入ろうかな。じゃあ、いきなりだけどカズトくん。キミに頼みがあるんだ」
至高神は、真面目な顔で、そう切り出したのだった。
これで第6章は終了となります。
次回、第7章は「強くてニューゲーム」的な話になります。
8月投稿予定です。
出来ればお付き合いのほど。