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   第百五十六話 クトゥルーの邪神……。






 チート転生者は消滅した。

 和斗に全身を千切り取られ、最後に残った頭をヒヨに飲み込まれて。

 その余りにも凄惨なチート転生者の最後に、誰もが息をする事さえ忘れた。


『一瞬で楽にするなど我慢できない』


 そう口にしたラファエルでさえも。


 が、そんな空気を読んだのか、読まなかったのか。


「これで全部、終わったんだよな」


 和斗は、まるで子供のように朗らかな笑みで振り向いた。

 と同時に、怖いほどささくれた空気が、一気に春の陽だまりに変わる。

 いつも通りの、穏やかな和斗だ。


 この緩んだ空気に、全員が大きく息を吐くなか。


「カズトさん、ありがとうございました」


 ルシファーが、和斗に頭を下げた。


「残念ながら、我々天使軍ではチート転生者を倒す事は出来ませんでした。そのチート転生者を倒して頂いた事、天使軍を代表して感謝します」

「いや、俺はリムの恨みを果たしたダケだから」


 慌てて両手を振る和斗に、ルシファーが微笑む。


「それでも、です。ありがとうございました。これでこの世界は救われました」

「そうかな」


 照れる和斗の背中を、リムリアがぺンと叩く。


「そうそう。素直に感謝されたらイイじゃん、カズト」


 と元気な声を上げるリムリアの後ろでは。


「しかしワシ等の見せ場がなかったのう。カズト親分のお蔭でアップしたワシ等の戦闘力の見せ場も欲しかったのう」

「そうですね。少し残念な気もします」

「アタシもカズト親分にイイとこ見せたかったぁ」


 オロチ、トライ、ステンノが賑やかな声を上げていた。

 これに。


「確かに暴れ足りない、ってのが素直な感想だな」

「我輩もなのである!」


 ムルオイもバオウも、エネルギーの有り余った声を上げる。

 が、その時だった。


 パキィン!


 いきなり空が割れたのは。


 これは比喩ではない。

 まるでガラスが割れるように空が割れた。

 そして、その割れた向こう側から。


 ぬるり。


 タコのカニと恐竜と猛獣をコネ合わせたような異形が現れた。


 身の毛がよだつ、という言葉がある。

 その言葉が、相応しい異形だ。


 しかもデカい。

 大陸に匹敵するのではないだろうか。

 その巨大過ぎる異形に、インフェルノ連合の幹部達すら言葉を失っている。

 いや、身動きさえ出来ないでいる。


 そんな、全ての音が消え去ったような沈黙が支配するなか。


「なにアレ!?」


 リムリアだけが、悲鳴のような声を上げた。

 その声に反応したのだろうか。


「クトゥルーの邪神……」


 ルシファーが震える声で漏らした。


(クトゥルーの邪神? それって地球でも聞いたコトあるような? って確かラヴナントカって人と、その仲間が考え出した、虚構の神話体系じゃなかったっけ? どういうコトなんだろ? やっぱ似てるだけで別のモンかな?)


 などと混乱気味の和斗の横で、リムリアがルシファーに詰め寄る。


「それって、どゆコト!?」

「ワタシも正確に理解しているわけではありませんが、あの存在が身に纏っている神霊力の量と質から判断して、クトゥルーの邪神と呼ばれるモノとしか考えられません」

「神霊力!? 邪神なのに神霊力を纏ってるの!?」

「神霊力とは現世を漂うエネルギーよりも高次元の力です。だから理論上、邪悪なモノでも力をつけ高次元の存在へと進化した結果、神霊力を纏うに至った存在だってあり得るのです」

「それがアレってコト!?」


 邪神を指差すリムリアに、ルシファーが無言で頷く。


「でもナンでその異世界の邪神が、いきなり現れたの!?」


 リムリアの問いに、今度はラファエルが悔し気な声で答える。


「チート転生者が生み出した植物系モンスターです。あの植物系モンスターは、この世界を侵食する為ではなく、邪神を異世界からこの世界に呼び寄せる為のエサだったのです。落ち着いて考えてみれば、この事に気付く手がかりは幾つもあったというのに、それを私は見逃してしまった……」


 血が滲むほど気唇を噛むラファエルを、リムリアが問い詰める。


「でもチート転生者は倒したんだよ! なのにナンで邪神が現れるんだよ!?」

「おそらく、すでに邪神を呼び寄せていたのでしょう。そしてチート転生者は、その呼び寄せた邪神を、自分自身の体で栓をする形で異世界に止めておいたと思われます。その言わば異世界との通路を塞いでいたチート転生者を消滅させた為、邪神がこの世界に侵入してきたのでしょう」

「そ、そんなぁ……」


 なさけない顔で邪神を見上げるリムリアに、ラファエルが続ける。


「感じますよね? あの邪神は、この世界の全てを食らい尽くすつもりです。リムリアさん、そしてカズトさん。我々の敵はクトゥルーの邪神、すなわち異世界の神なのです……」


 ラファエルの言葉を途中で。


 パキィィィン!


 空が完全に砕け、そして邪神がコキュートスに落下してきた。

 このままでは全てのモノは、邪神の巨体によって押し潰されてしまうだろう。

 当然ながら、和斗達も。

 だから。


「装鎧解除!」


 和斗はマローダー改を装甲車へと戻すと。


「みんなマローダー改に乗れ!」


 一声、怒鳴った。

 その一喝に、インフェルノ連合の幹部7人は我を取り戻すと。


『うわわわわわ!』


 大慌てでマローダー改に飛び込む。

 もちろんルシファーもラファエルも、そしてヒヨとキャスもだ。

 それを確認してから、和斗はリムリアの一緒にマローダー改に乗り込んだ。


「ひょっとして観光に来たダケ、なんてオチないよね!?」


 リムリアの言葉にルシファーが青ざめた顔で答える。


「ありえません。一応ワタシは最も偉大な天使と呼ばれる身。あの存在がまき散らす悪意は、間違いなく、この世界を食い散らかそうというものです」

「そっか。異世界の神との戦いかぁ。で、勝てそうなの?」

「私では勝てません」


 リムリアの質問にルシファーが即答した。


「異世界の神が出現した瞬間、ワタシはラファエルと供に、行使できる最強の攻撃を邪神に叩き込みました。その結果がコレです。邪神は傷一つ負う事なく、この世界を蹂躙しようとしています。天使の力では倒せない、いえ傷つける事すら出来ないレベルに、あの邪神は進化しています」


 暗い顔で言い終えるルシファーに、和斗がノンビリした声を上げる。


「ま、とりあえずマローダー改の武装を試してみるか」


 そして和斗は、1億倍強化戦車砲に意識を繋ぐと。


「レーザー砲を除けばマローダー改最強の武器だ。これを食らっても無事でいられるかな?」


 呑気な声で呟きながら。


 ドッカァァァァン!!!


 1億倍強化戦車砲をぶっ放した。

 戦車の1番の敵は戦車。

 だから戦車砲は、敵の戦車を戦闘不能にする破壊力を備えている。


 ナニが言いたいか、というと。

 1億倍強化戦車砲は、1億台の戦車を破壊する力を持っている、というコト。

 そのとんでもない破壊力は異世界の邪神に命中し。


 ドコォ!


 邪神の体に大穴を開けた……のだが。


「ギョロロロロロロロォ」


 邪神は小さく唸っただけだった。

 その光景に、リムリアが目を丸くする。


「ええ!? 1億倍強化戦車砲を食らったのに無反応!?」


 とはいえ。

 よく考えてみたら、邪神の体は大陸サイズ。

 戦車砲で打ち抜かれても、その穴など予防注射された程度なのだろう。

 いや、それ以下かも。

 というコトで和斗は。


「じゃあ連射だったら、どうかな」


 ブォォォォォォォォォォォォォォ!


 1億倍強化バルカン砲を発射した。

 いや、発射したのはバルカン砲だけではない。


 ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ!


 1億倍強化チェーンガンも同時に撃ち込む。


 毎分6000発撃ち込まれるバルカン砲弾。

 そして毎分625発撃ち込まれるチェーンガンの炸裂する弾丸。

 もちろん単発の威力は戦車砲の方が上。

 しかし総合破壊力では、バルカン砲の方が遥かに上。

 邪神は、この遥かに上の破壊力に晒されたワケだが。


「ギョロロロロロロロォ」


 やはり邪神は、小さく唸るだけ。

 どうやらバルカン砲もチェーンガンも、ダメージを与えられないみたいだ。


「ちぇっ! どんだけ丈夫なんだよ!」


 リムリアが舌打ちするが、丈夫というより、その巨体ゆえだろう。

 デカいというコトは、それだけで強い。

 ましてや邪神は大陸サイズ。

 今の攻撃など、蚊がぶつかった程度なのかもしれない。


「なら、やっぱココはレーザー砲の出番だよな」


 和斗はレーザー砲の照準を、邪神のど真ん中に合わせた。


 今のレーザー砲の最高焦点温度は7京℃。

 1万の太陽系くらいなら瞬殺する温度だ。

 その宇宙規模の破壊力を撒き散らす兵器を。


「食らえ」


 和斗は邪神に向かって発射した。

 正確に言えば発射しようとした、その瞬間。


「?」


 目の前から邪神の姿が消えた。


「どうなったんだ?」


 和斗は戸惑った声を上げた。

 そこに。


「後ろ!」


 ルシファーの鋭い声。

 と同時に和斗はマローダー改を最高速度で発車させた。

 その直後。


 ドゴォッ!


 マローダー改が停車していた地面が炸裂した。

 何が起きたのか分からない。

 が、立ち込める土煙が、衝撃の凄まじさを物語っている。


「ナニが起きたの?」


 リムリアが眉をひそめた時。

 マローダー改は、500キロ離れた地点に移動していた。


 ……ここまで離れて、やっとで何が起こったのか分かる。

 邪神が、空中から触手を振り下ろしたのだ、と。


「どうやらマローダー改を見て、落下に巻き込んで潰す事が出来ないと判断したんだね。だから触手攻撃に切り替えたんだ」


 呟くリムリアに、ルシファーが難しい顔で指摘する。


「それより問題なのは、邪神がレーザー砲を発射する直前、姿を消した事です。あれほどの巨体でありながら、転移を使って」

「ええ!? アイツ転移したの!? ってか、そんなコト出来るんだ!」

「はい。非常に厄介な能力です」


 ルシファーは苦々しく吐き出すと、更に顔をしかめる。


「しかもマローダー改の武装ではダメージを与えられない。そして今の状況ではレーザー砲を当てるのは難しい。その上、敵は空中に浮かんでいるからマローダー改で体当たりもできない。厳しい戦いです」


 ルシファーが口にした通り、マローダー改は空を飛べない。

 だから光速の10倍の速度による体当たりが当たらない。

 加えて、レーザーも転移で躱される。

 つまりマローダー改の最大の威力を誇る2つの攻撃が通用しないのだ。

 そして通常兵器ではビクともしない。


「ならコレだよな。ポジション!」


 この状況の中、和斗は迷わずF15を呼び寄せた。

 邪神の背後に、最高速度で。


 ちなみに、レベル24に強化したF15の質量は1500万トン。

 最高速度は秒速30万キロメートル、つまり光速。

 そして強度は1億キロメートルの鋼鉄相当。

 しかも全長は20・04 メートルもある。

 ちなみに全幅は13.04 メートル。

 全高は5.66メートルだ。  

 つまりマローダー改よりも、F15は大きい。


 戦車砲よりも遥かにデカくて強力な砲弾。

 それがF15だ。


「さて、この攻撃を受けて、平気でいられるかな?」


 和斗はそう呟くと。

 50機のF15を邪神へと撃ち込んだ。

 のだが、その瞬間。


 バヒュ!


 邪神の姿は、またしても消え去ったのだった。


「ち! また転移で避けられちゃった」


 悔しそうに顔をしかめるリムリアに、和斗は首を横に振る。


「いや、転移なんてしてない」

「え?」


 どういう事? と目で問うリムリアに、和斗は重々しい声で告げる。


「転移したんじゃなくて、邪神のヤローは、単に身を躱したダケだ」

「え? それって……」


 信じられない、といった顔のリムリアに和斗は頷く。


「そうだ。邪神は、光速よりも速く動けるみたいだ」


 そう答えてから、和斗は小さく呟く。


「マジでヤバいかも」


 同時に。

 和斗は背中に嫌な汗が流れるのを感じたのだった。

 







2022 オオネ サクヤⒸ

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