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   第百五十五話 食べれますぅ!






「口惜しいが認めよう。我の攻撃ではキサマを傷つける事は出来ないようだ。しかしキサマも我を殺す事は出来ぬ! つまりキサマにはワレを邪魔する事は出来ないという事だ! ぶひゃひゃひゃひゃひゃ!」


 狂気に染まった笑い声を上げるチート転生者に。


「まだ、そう決まったワケじゃないぞ」


 和斗は鋭い目で睨み付けた。


 が、実を言うと。

 どうやったらチート転生者を倒せるのか見当もつかない。


 殴って破壊しても。

 レーザーで蒸発させても。

 光速で殴って原子爆発を誘発させても。

 どうやっても元通りの姿で復活するのだから。


「でも、そうも言ってられないか」


 チート転生者に、直接の恨みはない。

 しかしチート転生者の眷属の所為で。

 リムリアたった1人で、ゾンビと戦う事になった。

 もしも和斗と出会ってなかったら、リムリアはゾンビと化していただろう。

 その事は許せないし、怒りを感じる。


 それだけではない。

 チート転生者の眷属だったクーロン帝国がやった事。

 これは万死に値すると言っても過言ではないだろう。


 そしてチート転生者が存在する限り、悲劇は繰り返される。

 だから絶対にここで、チート転生者を倒さねばならない。


「まあ、何をやっても肉体は復元するみたいだけど、とりあえず、こんなのはどうだ?」


 和斗は、そう口にすると、一瞬でチート転生者との距離をゼロにし。


 ブチブチブチ。


 チート転生者の左腕を引き千切った。

 この和斗のいきなりの行動に。


「ぶぎゃぁああああああ!!」


 チート転生者は悲鳴を上げた。


「へえ。痛みは感じるんだ」


 感心する和斗に、チート転生者が絶叫する。


「当然だ! 傷みを感じないという事は、快感も得られないという事! それでは生きている意味がないであろうが!」


 という事は。

 戦車砲を体に撃ち込まれた時は、やせ我慢していたのだろう。

 何をしても無駄だと演出する為に。

 しかし今回は、不意を突かれて思わず悲鳴を上げた、という事らしい。


「そういうコトか」


 和斗は納得の呟きを漏らすが、その目の前で。

 チート転生者の左手が、一瞬で再生した。

 この程度の怪我など、なんでもないらしい。


「なら実験だ」


 和斗はそう口にすると、チート転生者の足を払って、うつ伏せに転倒させ。


「よっと」


 チート転生者の背中に腰かけた。

 こうして和斗は、チート転生者を動けないようにすると。


 ブチブチブチ。


 今度は足を引き千切った。


「ぶぎゃぁあああああ!」


 またしてもチート転生者はブタみたいな悲鳴を上げるが。


「やっぱ瞬時に再生か」


 和斗は呟いたように、あっという間に元通りになった。

 が、和斗が注目したのは、千切った足が、ジュワッと消滅した事。

 そして足が消滅した後、千切った足が再生した事だ。


 そういえばチート転生者を2つに切断してアイスコフィンに閉じ込めた時。

 閉じ込めた体が消滅してからチート転生者は再生していた。


「ひょっとしたら、千切られた肉体が消滅しないと再生しないのか?」


 和斗は考え込む。

 もしも千切られた肉体が消滅しないと再生できないとして。

 どうやったら千切った肉体が消滅するのを防げるのだろう?

 破壊する武器なら、いくらもある。

 しかし消滅するのを防ぐ武器などあるワケがない。

 と、そこで。


「ん?」


 和斗の頭で、かつてラファエルが言った言葉が閃く。


『ベールゼブブは自分の力の1部を切り離しました。それがヒヨなのです』

(第百一話 参照)


 ヒヨはベールゼブブの《暴食》の力を切り離したもの。

 なぜベールゼブブは、そんなコトをした?

 ヒヨを、どうしてチャレンジタワーの1階に閉じ込めた?

 その答えは既に、ヒヨから聞いている。

 だから和斗は。


「ぶぎゃぁあああああ!」


 もう1度、チート転生者の足を引き千切ると。


「ヒヨ!」


 その千切った足をヒヨに見せて尋ねる。


「これ、食べれるか? なんかバッチくてマズそうだけど」


 その問いにヒヨは。


「食べれますぅ!」


 春の陽だまりのような笑顔で、そう答えた。


「そうか。なら頼む」


 和斗がそう口にすると。


「はいですう」


 ヒヨは、カパッと口を開けた。

 そして。


 パウッ。


 ヒヨの口から発射された光がチート転生者に命中し。


 しゅぱ。


 チート転生者の足は、ヒヨの口に吸い込まれた。

 あんなデッカイ足、どうやって食べるのかと思っていたが。

 ヒヨの口の手前で小さくなってから吸い込まれたように見えた。

 これが『暴食』なのだろう。


 ならヒヨは、どんなに大きなモノでも食べられるのかな? 

 などという疑問は後にして。


「さて、今度はどうだ?」


 和斗はチート転生者を見つめた。

 千切った足は、また生えてくる?

 こない?

 どっちだ?

 結果は。


「どうやら上手くいったようだな」


 和斗が呟いたように、チート転生者の足は千切れたままだった。

 チート転生者も、足が再生しない事に気づいたらしく。


「キサマ、我に何をしたぁ!」


 顔色を変えて叫んでいる。


「我は、何をされても滅ぶ事のない肉体を手に入れたのだぞ! どんなダメージからでも回復・再生・復元する体になったのだぞ! なのにどうして我の体は、元に戻らないのだ!?」


 喚くチート転生者に、キャスが説明を始める。


「ヒヨは食べた物を体内でエネルギーに変換し、圧縮して貯蔵しています。つまり食べた物を素粒子単位まで分解し、そしてブラックホール理論に基づいた……」

「キャス、ストップ、ストップ。チート転生者、話しに付いて来れてないから」


 リムリアがキャスの説明を遮るが、もちろん彼女も理解できてない。


「そうですか。では、またの機会に」


 微妙に残念そうなキャスに、和斗は尋ねる。


「キャス。それってつまり、ヒヨに食べて貰った部分は再生しないってコトでイイんだよな?」

「そうです」


 キャスの答えに、和斗はニヤリと笑う。

 もちろん和斗も、理由は分からない。

 しかしチート転生者の肉体をヒヨに食べさせれば再生しない。

 それだけは分かった。

 そして、それだけで十分だ。


「なら、やる事は1つだな」


 和斗の言葉から感情が消え失せた。

 どうしたらチート転生者を倒せるか、見当もつかなかった。

 しかも油断したら反撃してくる。

 狡猾、かつ周到に心理の裏側を突くような攻撃、つまりゾンビの奇襲で。

 あるいは周囲にどんな被害を出す事も厭わない隕石攻撃で。


 だがもう、どうやってチート転生者を倒せるか頭を悩ませる必要はない。

 肉体を適当な大きさにして、ヒヨに食べさせたらイイ。

 これはもう戦いではない。

 単なる作業だ。

 だから和斗、ベッドのシーツを整える程度の気楽さで。


「よっと」


 チート転生者の、もう片方の足も引き千切った。

 続いて。


「ブヒィィィィィィ!」


 悲鳴の上げるチート転生者を無視し。


「ヒヨ、これも頼む」

「ハイですぅ!」


 パウッ。


 しゅぱ。


 ヒヨにチート転生者の足を食べて貰った。


「大丈夫だよな?」


 ちょっと不安になるが……やはりチート転生者は足を失ったままだ。

 和斗は、それを確認すると。


「よし。ドンドンいこう」

「ぶぎゃぁあああああ!」


 チート転生者の両腕を、まとめて引き千切った。


「ヒヨ、急がなくてもイイから、これも頼む」

「ハイですぅ!」

「ああ……我の腕がぁ……」


 チート転生者が情けない声を漏らすが、そこで和斗は考え込む。


「残りは胴体と頭か。でもこの肥満体を1度で食べるのは、いくらヒヨでも、さすがに無理かな?」


 チート転生者の腹は、大きく突き出てパンパンだ。

 こんな巨大なモンが、ヒヨの口に入るだろうか?

 と和斗が悩んでいると。


「ねえヒヨ。あのデブ、1度に食べれる?」


 リムリアが直球な質問をヒヨにぶつけた。


「はいですぅ!」

「……無理しなくてイイよ?」


 自分でも無茶だと思っていたのか。

 リムリアが、そう尋ねるが。


「大丈夫ですぅ! 原爆よりズット小さいですぅ!」


 ヒヨは元気一杯に答えた。


 そういやそうだった、ナンで忘れてたんだろ。

 チャレンジ・シティーにクーロン帝国が進攻してきた時。

 ヒヨは、クーロン軍が持ち込んだ原爆を吸い込んでいた。

 原爆の重さは5tほど。

 その原爆を幾つも飲み込んだヒヨだ。

 チート転生者の超肥満体でも平気で飲み込んでくれるだろう。


「なら心配ないな。じゃあヒヨ、コイツを……」


 一気に飲み込んでくれ。

 そう和斗が言う前に。


「では少しずつ、ヒヨに食べてもらいましょう」


 ラファエルがいつもの口調で。

 しかし、その奥にぞっとするほど冷たいモノを潜ませた声を漏らした。


「今までコイツの所為で、どれ程の人々が地獄を見て来た事か。その数え切れないほどの苦しみを撒き散らせてきたコイツを一瞬で楽にするなど我慢なりません」


 普段のラファエルからは想像もできない程、過激な発言だった。

 が、その気持ちは痛いほど分かる。

 たった1人でゾンビとの戦いに挑むリムリアを、その目で見た和斗には。

 だから和斗は。


「そうだな。リムリアの苦しみを、コイツにもシッカリ味わわせないとな」


 ラファエルよりも冷たい声を上げると。


 グリッ。


 チート転生者の体に指を食い込ませ。


 ブチィ。


 その掴んだ肉を千切り取った。


「ぶぎゃぁあああああ!」


 喚くブタに、和斗は冷たい目を向けてから。


「ヒヨ」

「はいですぅ!」


 ヒヨに、チート転生者の薄汚い肉片を飲み込んでもらった。

 が、もちろんこれで終わりにする気などない。


 ブチン。ブチブチ。ブキキ。ブチィ。


 和斗は、まるでオートメーション機器のようにリズミカルに肉を千切る。

 その度に。


「ぶぎゃ! ぶぎゃばば! ぎゃば! ギャァ!」


 チート転生者が、血を吐きながら悲鳴を上げる。

 もちろんチート転生者は、余りの痛みに身を捩り、暴れまくる。

 だが和斗は、チート転生者をガッシリと押さえ込み。


 ぐちゃ。ぶちゃ。ぐちぃ。


 リズミカルに引き千切る手を止めない。


「ぶひぃ! も、もう止めてくれ! お願いだから止めてくれェェェ!」


 チート転生者が鼻水を垂らしながら懇願するが。


 グチャ。ブチィ。ブチン。ブチブチブチ。


「ぶぎゃばばばばば!」


 和斗は鋼鉄の表情の表情で、チート転生者を引き千切り続ける。

 リムリアにした事への怒りは、それほど大きかったのだ。

 が、そんな和斗の背中を見つめながら。


「あ――、子分で良かった! ホントに子分でよかったぁ!」


 ステンノが、心の底からの言葉を吐き出していた。

 そしてそれは。

 言葉にこそ出していないものの、この場に居る全員の心の叫びだった。

 そんな畏怖の目が見つめる中。

 ついにチート転生者は首だけになり。


「た、助けてぇ……」


 その言葉を最後に、ヒヨの口へと消えていったのだった。









2022 オオネ サクヤⒸ

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