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   第百四十九話 リムリエル






「こうしてルシファー様は、ベールゼブブとベルフェゴールの力を借りてチャレンジ・シティーを作ったのです。」


 そう話を締めくくったラファエルに、リムリアが尋ねる。


「ねえラファエル。ベールゼブブとベルフェゴールの力を借りて作ったってコトはケーコがルシファーってコト?」

「はい。最も偉大な天使の名前であるルシファーを名乗ると、色々面倒なコトがありますので、ルシファー様はケーコを名乗り、チャレンジタワーの最上階で暮らしているのです」

「もう1つ聞くけど……その命を懸けて報告した天使の名前がリムリエル。で、ボクの名前がリムリア。これって只の偶然だよね?」


 複雑な表情のリムリアに、ラファエルも複雑な笑みを浮かべる。


「そうですよ。と言いたいトコですけど、リムリアさん。アナタは間違いなく天使リムリエルの生まれ変わりです。ルシファー様が最も偉大な天使といわれた力でゾンビ化する前にリムリエルの魂を取り出して、ドラクルの1族であるアナタに生まれ変わらせたのです」

「そっか……何となく話の途中から、そんな気がしてたんだよね」


 リムリアは想像通りの答えに、少し考え込んでから。


「じゃあひょっとして……カズトを召喚出来たのも、ボクがリムリエルの生まれ変わりだからかな?」


 泣き出しそうな顔で、疑問を口にした。


「ゾンビに1人で戦いを挑む事になったのも、普通なら成功する筈のない召喚が上手くいってカズトを召喚できたのも、カズトがボクを助けてくれたのも、偶然じゃなくて、ルシファーが書いた筋書き通りに踊らされてたダケなのかな?」


 両手で肩を抱いて震え出すリムリアに。


「そんな事ないぞ」


 和斗はそう言って、肩を抱き寄せる。


「俺は俺の意思でリムリアを助けるって決めたんだ。ルシファーなんてヤツの思惑なんて関係ない」


 躊躇なく言い切る和斗に、リムリアがギュッと抱き付く。


「ホント? ホントにカズトの意思なの?」

「間違いない。絶対だ」


 という和斗の言葉にラファエルが頷く。


「その通りです。リムリアさんは自分の意思で召喚魔法を起動させたのです。そして召喚が成功したは、それ以前にリムリアさんがドラクルの1の魔力の持ち主なのは、リムリエルの魂が宿っていたからです。なにしろリムリエルは天使軍でも有数の天使なのですから。でも、それだけ。誰かに操られて召喚魔法を発動させたワケではありません」

「そ、そうなんだ」


 ホッとした表情になるリムリアだったが。


「ただ召喚されたのがカズトさんだったコトに関しては、ちょっとだけ、至高神様が関与してます」


 というラファエルの一言に。


「至高神が関与!?」


 リムリアは絶叫すると、ラファエルに詰め寄る。


「カズトを召喚できたのって、至高神の陰謀なの!? ルシファーの陰謀じゃなくって!?」


 思い詰めた表情のリムリアに、ラファエルは首を横に振った。


「いいえ、そんな大層なモノではありません。経験値を得る事によりレベルアップして、チート転生者を倒せるくらい強くなれる魂の持ち主。かつ、リムリアさんに一目惚れして、何の見返りもなしに力を貸してくれるお人好しが召喚されるようにしただけです」

「それって褒めてないよな?」


 ツッコむ和斗に、ラファエルは今までで1番の笑みを浮かべる。


「いいえ、最高の褒め言葉ですよ。実際のとこ、よくそんな人物が見つかったモンだと思いますよ。際限なく強くなれるけど、その強さに溺れる事なく自分の正義を貫き、弱者を見捨てない。カズトさん、アナタを召喚できて本当に良かった」


 そしてラファエルは、真剣な目をリムリアに向ける。


「リムリアさん。リムリエルは真面目で正義感に溢れ、しかし頑固で、何かあったらまず自分が動く天使でした。それはリムリエルの本質とも言えます。だから至高神様もルシファー様も、リムリアさんの行動には一切干渉していません。リムリエルの魂を持つアナタなら、いずれチート転生者のやり方を許せなくなり、敵対する事になるでしょうから」


 ここまで一気に語ると、ラファエルはニコリと笑う。


「まあ、あえて言葉にするなら……リムリアさんの魂を信じ、リムリアさんが心の赴くまま行動するのを、こっそり応援してた。その程度のコトです」

「じゃあ、今までボクは、自分の意思で行動してきた。そんなボクを邪魔するモノを排除するナイトとしてカズトが召喚されるようにしてくれた。というコトでイイのかな?」


 しつこく確認するリムリアに、ラファエルは笑顔で頷く。


「そうです」

「カズトがボクを助けてくれたのも、カズトの意思なんだよね?」

「その通りです」


 ラファエルが大きく頷くと。


「カズト!」


 リムリアは和斗の首に飛び付いた。


「よかったぁ……カズトが至高神に操られてボクを助けてくれてたのなら、どうしようかと思ったよ……至高神に操られているだけで、ホントはボクのコト好きじゃなかったら、どうしようかと思った……」


 泣き出すリムリアの体は小さく華奢で、でもそれが堪らなく愛しい。

 だから和斗はシッカリとリムリアを抱き締めると。


「なら何度でも言うぞ。俺はリムリアが好きだ。リムリアが好きだから、この世界でリムリアと生きる事を選んだんだ」


 ハッキリと言い切った。

 そして最高の笑みを浮かべる和斗に。


「うんカズト。ボクも大好きだよ」


 リムリアも思いっ切り抱き返してきた。

 腕の中のリムリアは、華奢で、儚くて、でも子猫のように柔らかい。

 このまま、いつまでも抱いていたいと和斗は思う。

 それはリムリアも同じだったが。


「コホン。愛し合う2人の邪魔するのは非常に心が痛むのですが、そろそろ話を進めて良いでしょうか?」


 ラファエルの申し訳なさそうな声で、現実に戻ってくる。


「ちぇ! で、ナニ?」

「いえ、そんなロコツに嫌そうな顔しないでください」


 不機嫌そのもののリムリアに、ラファエルは和斗を指差す。


「とにかく、当初の目的は果たせたみたいですね」

「あへ? あ、そういやそうだったね。忘れてた」


 その言葉通り、リムリアは気にもしていなかったが。


 パパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパ!


 今もゴーゴン族が発射した神霊力の刃が、降り注いでいる。

 その攻撃の全ては、和斗に体に触れると同時に消え失せていた。


 ちなみに神霊力の刃が和斗の肉体を直撃してた場合。

 神霊力の刃は、砕け散っていただろう。

 そして砕け散った破片は、周囲をズタズタに斬り裂いていた筈だ。


 なにしろナイフクラスと言っても、そのナイフは神霊力を凝縮したもの。

 その威力はアダマンタイトすら撃ち抜く。

 だからナイフクラスのゴーゴンでさえ、経験値は4000万もあるのだ。

 そんな凝縮神霊力のナイフの破片だ。

 周囲に甚大な被害をもたらす。


 しかし降り注ぐ刃は、和斗の皮膚スレスレで消滅している。

 神霊力が周囲に被害を出さないように働いている証拠だ。


「ヒヨの言葉に驚いた時も、私の昔話の間も、そしてリムリアさんとイチャイチャしてる時も、カズトさんは神霊力を纏ったままでした。どうやら無意識状態でも神霊力を纏えるようになったみたいですね」


 そしてラファエルは、ステンノに視線を向ける。


「ではステンノさん。カズトさんが常時神霊力を纏えるようになったので、これ以上の訓練は必要ないのですが、それを承知の上でゴーゴン族渾身の攻撃を行ってもらえませんか? きっと他のゴーゴン族の人達も、カズトさんの力を体験したいでしょうから」


 その一言にステンノは。


「そ、そうですね! では!」


 顔を輝かせると、ゴーゴン連合の全構成員に招集をかけた。

 そして全員を闘技場の縁に整列させると。


「カズト親分の力、しっかり肌で感じな!」


 ステンノが、高らかに叫んだ。

 その声と共に。


 ブォオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!


 神霊力の刃が和斗に叩き付けられた。


 もちろんランスクラスだけではない。

 アロー、ジャベリン、キャノンも攻撃している。

 その神霊力の刃の攻撃は、まるで津波。

 天を覆い尽くすほどの数だ。

 この凄まじい攻撃に。


「これがゴーゴン族の一斉攻撃でござるか。これは流石に拙者でも防ぎ切れないかもしれないでござる」

「そうだな、トツカの姉さん。これほどのモンとは思いもしなかった。さすが経験値じゃインフェルノ1番なだけあるぜ」

「うむ。防御力ではインフェルノ1と自負していたが、アーマーミノタウルス最強の儂でも、耐える自信ないな」

「確かに凄まじい攻撃なのである! 我輩たちと各が違うから連合を名乗っていると聞いたコトがあるが、納得の攻撃力なのである!」

「1発1発の攻撃力は、ワシ等ヒドラ族の方が上かもしれぬが……この連射力の前ぬああ、正直敵わなんじゃろうな」

「それは我々グリフォン自警団も同じですよ。グリフォン族の最強の攻撃でも、ゴーゴン族の一斉攻撃と比べたら見劣りしてしまいます」


 素直にゴーゴン族の一斉攻撃に、感嘆の声を漏らしていた。

 もっともインフェルノ連合結成前なら、自分の方が上と言い張っただろうが。

 とにかく。

 それほどの攻撃だったのが。


 シュッボ!


 ゴーゴン連合の総力が、和斗に触れた瞬間、一瞬で消え失せた。

 なんの余波も生まず、まるで最初から存在してなかったように。

 しかし、これ程の事を成したのに和斗の表情には、何の変化もない。

 まさに自然体。

 呼吸をしているレベルで神霊力を纏っている。

 そんな和斗に。


「これがインフェルノ連合の支配者の力……」

「体の震えがとまらないわ……」

「この震えは感動したから? それとも怖ろしいから? それとも……」

「自分でも分からないわ……」

「でも、これだけは言えるわ。カズト親分は最高の親分よ」


 ゴーゴン達が、震えながらもキラキラした目を向ける。

 が、その目は直ぐに熱く潤んだモノに変わる。

 そして。


「ああ、こんな強者に巡り合えるなんて……」

「ゴーゴン族につりあう他種族の男なんて、居る筈ないと思ってたけど」

「見つけたわ! 理想の漢を!」

「正妻の座はリムリアの姉御が居るけど……」

「愛人の座なら、まだ開いてるわよね!」

「それはステンノ連合長も狙ってるわよ?」

「戦闘力ならステンノ連合長だろうけど、愛人に戦闘力は関係ないわ!」

「そ、それもそうね!」

「よーし、絶対に愛人の座を射止めてやるんだから!」

「あら、愛人の座を射止めるのは私よ!」

「ワタシだわ!」

「私だって負けないんだから!」


 ゴーゴン達は、今までとは違った反応を見せたのだった。

 が。


「アンタ達、アタシを差し置いてカズト親分に言い寄る気なの?」


 殺気を孕んだステンノの言葉に、ゴーゴン達はピタリと黙り込む。


「ふん!」


 こうしてシンと静まり返ったゴーゴン達を一睨みすると、ステンノは。


「カズトおやぶぅん!」


 まるで別人のように艶やかな目を和斗に向けた。


「カズトおやぶぅん、ゴーゴン族の殆どは女で、しかも美人揃いですけどぉ、1番イイ女はアタシですから! だから愛人が必要だったら、まずアタシに声をかけてくださいねぇ♪」


 そしてステンノは、恋する乙女のように胸の前で手を合わせるが。


 シャキン。


 そんなステンノの首すじに、トツカが伸ばした刀身がピタリと添えられた。


「あ、あら、トツカの姉御……」


 ステンノは、その刀身の主に凍りついた笑顔を向ける。

 たしかに基本的な経験値は、トツカよりステンノの方が遥かに上。

 しかしトツカは、和斗の神霊力の影響により、凄まじい戦闘力を得ている。

 つまりトツカの戦闘力は、ステンノより遥かに上だ。

 その次元が違う戦闘力を秘めた刃を首に充てられて。


「え~~と……」


 ステンノは必死に、言葉を捜す。


 どうしよう?

 何を口にしたら、この場を切り抜けられる?

 しかし出て来たのは。


「どうして、そんな怖い顔してるのか、ステンノ分かんない~~」


 人格が崩壊したとしか思えないような言葉だった。

 なんとか意表を突いた言葉で誤魔化せないか、とステンノは思ったのだが。


「拙者の目の前でカズト殿を誘惑するとは……命などいらないと解釈して良いでござるな?」


 トツカは、そんなステンノに絶対零度の視線を向けた。

 と同時に、トツカからどす黒い殺気が立ち昇り。


「ひ!」


 ステンノは死を肌で感じ、呼吸する事すら忘れた。

 先程のステンノの殺気は、ゴーゴン達を黙らせるに十分なモノだった。


 しかし今、トツカが身に纏っている殺気は、ステンノの殺気の比ではない。

 和斗への忠誠と憧れと恋心と独占欲が、狂気レベルで渦巻いている。

 言葉を間違ったら、即、斬首。

 ステンノの人生で、最大の危機だ。

 この絶体絶命の状況に、ステンノは必死に言い訳を考え、そして。


「そんな筈、無いじゃないですかぁ。カズトおやぶんの隣に相応しいのは、カズトおやぶんを誰よりも愛しているトツカの姉御しかいません!」


 褒め殺しを選んだらしい。

 まったく心の籠っていないセリフを並べた。

 その白々しい言葉に。


「何てミエミエな……」


 ザガンは苦笑を浮かべ。


「ふむ、恐怖に負けたか……」

「トツカの姉御の前でカズト親分に告白するなど、困ったヤツなのである!」


 ムルオイとバオウは、深い溜め息をつき。


「愚かじゃのう……」

「こうなる事くらい、最初から分かってたでしょうに……」


 オロチとトライは呆れた声を漏らしたのだった。









2022 オオネ サクヤⒸ

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