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   第百四十六話 カカカカカカカカカァン!





「カズト親分! アタシ、親分に惚れました! 今夜アタシを抱いてくれませんか!?」


 このステンノの声に。


「は?」


 おもわずカズトが、そう呟いた瞬間、身に纏った神霊力が消え。


 カカカカカカカカカカカカァン!


 装備した鎧にゴーゴンが放った煉獄力の刃が命中して派手な音を立てた。

 と同時に、ラファエルが苦言を呈する。


「カズトさん、この程度で集中力を乱しては困りますね。というより、何があっても身に纏った神霊力に変化がないようになってください」

「マジかよ」


 思わずボヤいてしまう和斗だったが、ラファエルの後ろでは。


「ステンノ! いったい今のは何のマネでござるか!?」


 トツカがステンノに詰め寄っていた。


「カズト殿への告白など、キサマぁ……」

「あら、アタシはラファエルが言った通り、カズト親分の集中力を乱そうとしただけよ」

「ぐ……」


 平然と言い返すステンノに、トツカは言葉に詰まっていたが。


「は! これはカズト殿に秘めた思いを告白する、千載一遇のチャンスでござるな!」


 変な方向にスイッチが入ってしまったらしい。


「カズト殿! 拙者の初めてを貰ってほしいでござる!」


 とんでもないコトを、トツカは口走った。

 その言葉と同時に。


 カカカカカカカカカカカカァン!


 またしても鳴り響く鎧の音。


 どうやら和斗の集中力を乱すコトには成功したようだ。

 が、黙って見てるリムリアではない。


「ちょっと! トツカもステンノも、何言ってんだよ!?」


 顔を真っ赤にして、トツカとステンノに詰め寄った。

 しかし。


「何を怒っているのでござる? カズト殿の心を乱す為の訓練に、協力してるだけでござる」


 トツカが真顔で言い返せば。


「そうそう。カズト親分、こういった話、苦手みたいよね? なら、訓練の為、涙を呑んで弱みを攻める。これも子分の務めよ」


 ステンノもキリッとした顔で、そう口にする。

 が、その声は弾んでいる。

 訓練にかこつけて、和斗に想いを告げているのは明白だ。


 というより、2人の目が語っている。

 あわよくば、和斗の恋人の座につきたい、と。


「くっそ~~、そっちがその気なら」


 リムリアはギリッと歯を噛み鳴らすと。


「カズトぉ! ボクを今夜、好きにしてイイよ!」


 カカカカカカカカカカカカカカァン!


 またしても、和斗の鎧がけたたましい音を上げた。


 ただ。

 今回の方が、少しだけ命中する攻撃の数が多い。

 それにいち早く気付いたトツカが悔しそうな声を上げる。


「こ、これは!? リムリアの姉御の言葉の方が、よりカズト殿が動揺させているでござるか!?」


 が、直ぐに別のスイッチが入ってしまう。


「うぬ、これは拙者も負けてられないでござる! カズト殿! 夜伽の相手は、ぜひ拙者に! カズト殿が満足まで、どんなコトでもしてみせるござる!」


 どんなコトでも。

 トツカがそう口にした瞬間。


 カカカカカカカカカカカカカカカカカァン!


 更に沢山の攻撃が、鎧に命中した。

 それを目にしたステンノが、負けじと声を張り上げる。


「カズト親分、アタシならどんなプレーにも応えてみせるわ! ありとあらゆる欲望を、アタシに吐き出して!」


 カカカカカカカカカカカカカカカカカァン!


 これにも沢山の攻撃が、和斗の鎧を鳴らせるが。


「ち! ここまで言ってもトツカの姉御と互角か。でもアタシは負けないよ! カズト親分、これ見て!」


 声を上げるダケでは勝利出来ないと思ったのか。

 ステンノは、バッと上着の裾を持ち上げた。

 そして露わになったのは、見事な形の大きな胸だ。

 その予想もしなかった行動に。


 カカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカァン!


 更に多くの攻撃が和斗に命中した。

 が、それを黙って見ているトツカではなかった。


「うぬ! なら拙者は!」


 その場で服を脱ぎ捨てると。


「カズト殿、これがカズト殿に捧げる、拙者の全てでござる!」


 トツカは、何一つ身に付けていない姿で、両手を広げてみせた。


 美しい女性は沢山いるだろう。

 綺麗な女性だって、沢山いる筈だ。

 可愛い女性も。


 しかし今のトツカも、タイプこそ違うが、美しさの頂点の1つだった。

 ムキムキではないが、筋肉で引き締まった可憐なスタイル。

 ポニーテールが良く似合っている、整った可愛い顔。

 その頭をブン殴られるような美しさに直撃され。


 カカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカァン!


 和斗の鎧には、今までで1番沢山の攻撃が命中したのだった。

 が、これをリムリアが面白く思う筈が無い。


「ならボクだって! カズトを1番動揺させるのは、ボクだい!」


 今度はリムリアまで服を脱ごうとするが。


「そこまでです」


 ラファエルが止めに入った。


「さすがにこれ以上はR指定になりそうです。それに今度は、集中力を乱すというより油断を誘ってください」

「油断?」


 そのまま聞き返すリムリアに、ラファエルが頷く。


「はい。まあ油断というか、気が抜けた状態というか、神霊力を維持するコト以外に気を取られた状態ですかね。その状態でも神霊力を身に纏えるようになってもらいたいんですよ」

「むつかしいな」


 リムリアは目を泳がせるが、直ぐに。


「あ!」


 ポンと手を打つと。


「もってこいの人材がいるじゃん!」


 ニッと笑ってヒヨに駆け寄った。


「ねえヒヨ。カズトとユックリ話したコトないでしょ!」 

「ないですぅ!」

「話したいと思わない?」

「思うですぅ!」

「じゃあボクが許可するから、偶にはカズトとユックリ話したらイイよ」

「はいですぅ! ご主人様!」

「お、なんだ、ヒヨ?」


 リムリア、トツカ、ステンノの攻撃に動揺してたのだろう。

 和斗はホッとした顔をヒヨに向けた。

 が、その顔は。


「ってヒヨ、危ないぞ!」


 直ぐに強張った。

 当たっても平気なモンだから忘れていたが。

 今、和斗には煉獄力の刃が降り注いでいるのだ。 

 それに巻き込まれたら、大怪我をしてしまう。

 と、焦ったカズトだったが。


「平気ですぅ!」


 ヒヨはタンポポの綿毛のようにフンワカした笑顔で駆け寄ってきた。

 煉獄力の刃を弾き返しながら。


「ヒヨ、おまえ……」


 和斗は、そんなヒヨに呆然となってしまう。

 意識して神霊力を纏っているようには見えない。

 というか、何も考えてないような笑顔だ。

 なのにゴーゴンの攻撃を跳ね返すほど堅牢な神霊力を纏っている。


「はぁ……まさかヒヨが、こんなに完璧に神霊力を纏えるなんて、想像もしなかったぜ」


 和斗の落ち込み気味の呟きに、ヒヨが元気に答える。


「さっき思い出したですぅ!」

「思い出したのか。ハハ、そりゃ良かったな。で、他にも何か思い出したか?」


 それは何気ない一言だった。

 しかし。


「はいですぅ! ヒヨがチャレンジタワーにいたのは、『時獄』に封印された異世界のヒトを退治する手伝いをする為ですぅ!」


 というヒヨの一言で。


「なるほどな……って、おい!」


 カカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカァン!


 和斗が身に纏った神霊力が消え去り、ゴーゴンの全攻撃を浴びてしまう。

 それほどの驚きの発言だった。


「ヒ、ヒヨ! 『時獄』って何のコトだ? いや、それ以前に、チート転生者のコト、何か知ってるのか?」


 まくし立てる和斗に、ヒヨはタンポポの笑顔のままで答える。


「はいですぅ! 異世界の人は、ルシファーさんが自分の体を犠牲にして時間の牢獄に閉じ込めてるですぅ! で、ルシファーさんは、心の半分でチャレンジ・シティーを作ったですぅ! ヒヨはそこで、ご主人様を待ってたですぅ!」

「俺を待ってた? ナンで?」

「至高神様に言われたからですぅ!」


 カカカカカカカカカカカカカカカカカカァン!


 もう驚きの連続だ。

 まさかヒヨとの出会いが、至高神の仕業だったとは。


「至高神様から頼まれて、ヒヨの本体は、異世界のヒトを退治する為の力を集めてヒヨにしたですぅ! そしてヒヨは至高神様に言われて、強い武器を手に入れるチャンスを捨ててもヒヨを助けてくれる人を待ってたですぅ!」

「ちょっと待ってくれ。ちょっと頭を整理する」


 和斗は大きく深呼吸してから、考え込む。

 今まで、RPG感覚が抜け切れてなかったのだろう。

 最後にラスボスが待ち構えているコトに、何の疑問を抱かなかった。


『急ぐ必要は無い』


 至高神やラファエルの言葉すら、そんなモンかと受け入れてきた。

 しかし、よく考えてみたら、そんな筈ない。

 和斗がレベルアップするのを、チート転生者が喜ぶ筈がないのだ。

 もし和斗がチート転生者だったなら。

 驚異となる前に、さっさと和斗を排除している。


 なのにチート転生者は、手首を送り込んできただけ。

 確かにとんでもない戦力だったが、本体は襲いかかって来なかった。

 その方が、より確実なのに。


 その理由が、時間の牢獄に閉じ込められている、という事なのだろう。

 ルシファーが、その身を犠牲にする事によって。


「でもルシファーって、地球のルシファーと同じなのかな?」


 和斗の記憶によると。

 ルシファーとは天使の中で最も位の高い大天使長だった筈。

 その名は『明けの明星』『暁の子』『光を運ぶ者』といった意味を持つ。

 1番神に近く、神にも1番愛された存在だった。


 しかしルシファーは神に反逆する。

 結果、神の怒りを買って地獄に落とされてしまう。

 そして悪魔達に君臨、地獄の王サタンと呼ばれるようになる。


 しかしサタンと呼ばれず、ルシファーと呼ばれているという事は。

 この世界のルシファーは、神に1番愛されている大天使長なのだろうか?

 と、そこまで考えてから、和斗は重要なコトに気付く。


「おいおいヒヨ、ルシファーの半分がチャレンジ・シティーを作ったてって、どういうコトだ?」


 和斗の質問に、ヒヨが何も考えてない笑顔で答える。


「ケーコさんは、1番偉い大天使長ルシファーさんの心の半分ですぅ! だからヒヨの本体もベルフェゴールさんも、ケーコさんを手伝ってるですぅ!」


 今の和斗の心を言葉にすると、こうなるだろう。

 全ての謎は解けたぜ。


 やっと話が繋がった気がする。

 ルシファーは、その身を犠牲にして、チート転生者を『時獄』に封印。

 心を分離してケーコという存在を生み出しチャレンジ・シティーを作った。

 チート転生者に対抗する人材を育成する為に。


 しかしケーコはルシファーの心の半分だから力が足りなかったらしい。

 だからベールゼブブとベルフェゴールの力を化したのだろう。

 しかし、分からないコトもある。


「でもヒヨ。もし初めて会った時、俺がヒヨをチャレンジタワーから連れ出さなかったら、どうするつもりだったんだ? 絶対に俺がヒヨを連れ出すなんて保証、無いだろ? いや、それ以前に、俺がチート転生者を倒すかどうかすら、分からないんじゃないか?」


 そう。

 和斗がヒヨをタワーから取れ出したのは偶然だと思う。

 ヒヨを連れ出さない可能性も、充分にあった筈だ。

 という和斗の質問に、ヒヨはキョトンとした顔になる。


「至高神様は間違わないですよ?」


 ヒヨの何の疑いもない、純粋な眼差しに。


「いや、それは……」


 和斗は苦笑した。

 それは結果論に過ぎない。

 リムリアが言いださなかったら、ヒヨを連れ出してないかも。

 という和斗の心を知った筈もないが。


「至高神様は『ヒヨを見捨てない、優しい心の持ち主に、異世界のヒトを退治できる力を与えた』って言ってたですぅ!」


 またしても、ヒヨは純粋な笑顔でそう言った。

 かなり照れ臭い話だけど。

 とにかく自分は、至高神がそう判断する程度には、誠実な人間なのだろう。

 と、少し嬉しく思う和斗の耳に。


「人が何を言っても、自分が正しいと思う道を行く変わり者。そして弱い者を見捨てる事の出来ない、お人好し。チート転生者を倒す力を与えるのは、そんな者が相応しいのでしょう」


 ラファエルの声が飛び込んできた。








2022 オオネ サクヤⒸ

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