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   第百四十三話 カズト親分、万歳!!!





 ラファエルの説明によると。


 苗植えでは、苗木を1メートル間隔で植えた。

 最初はある程度、密集していた方が、樹の成長は良いからだ。

 しかし樹が成長してくると、1メートルでは間隔が狭くなってくる。

 そこで間隔が2メートルになるように木を斬り倒す。

 これを間伐という。


 が、その間伐の対象となるのは、ある程度成長した龍樹。

 その頑丈さはミスリルにも匹敵する。

 いや、アダマンタイト級の場合すらあるらしい。


 そんな堅牢な樹を切断できる、強靭な神霊力の刃を生み出す。

 これが間伐の訓練だ。


「間伐の訓練は、ヒドラ族が吐き出すブレスを斬ってもらいます。が、そのヒドラがブレスを吐くのは、この島から離れた位置です。つまり第6圏に吹き荒れる焔を斬り裂いた上で、更にヒドラのブレスを切断するだけの威力が求められるのです」


 ラファエルがそう言って指差した方向には。


「ヒドラが並んでる?」


 リムリアが口にしたように、ヒドラが50メートル間隔で並んでいた。

 ……マグマの海の中に。


「あれって大丈夫なのかな?」


 ちょっと心配そうなリムリアに、オロチが高らかに笑う。


「うわはははははは! 心配無用じゃ、リムリアの姉御。ヒドラ種は、このマグマの海で生まれるんじゃ。つまりこのマグマの海は、儂らヒドラにとってユリカゴみたいなもんなのじゃ」


 胸を張るオロチに、ラファエルが声をかける。


「ではオロチさん。ブルーホワイトのヒドラを集められるだけ集めてください」

「ブルーホワイト? ヒドラ一家以外のモンも合わせりゃ50人くらいは集められると思うが、全員かのう?」

「できれば」

「よっしゃ、ちょっと待っててくれるかのう」


 オロチはヤマタノオロチに姿を変えると。


「「「「「「「「シャギャァアアアア!!!!!!!!」」」」」」」」


 8つの首で吼えた。


 そして数分後。

 50メートル間隔で、52人のヒドラが整列したのだった。


「いやぁ、ヒドラ種で最強のブルーホワイト・ヒドラ52人の整列ですか。壮観ですねぇ」


 ラファエルはニコニコしながらオロチに向き直ると。


「ではオロチさんも、この列の最後に加わってください」


 オロチが想像もしなかった事を口にした。


「儂もか!?」


 思わず大声を上げたオロチに、ラファエルが微笑む。


「リムリアさんに、1分で終わると言ってしまいました。なので最初から最難関でいきましょう。ブルーホワイト全員とオロチさんのブレス、まとめて斬ってもらいます」

「それが間伐の訓練なのか?」

「はい。ではカズトさん、準備はイイですか?」


 ラファエルの確認に、和斗は頷く。


「つまりヒドラが吐くブレスを神霊力で切断する訓練って事だよな?」

「はい、その通りです」

「分かった、いつでもイイぞ」

「では始めますね」


 ラファエルは、和斗の返事に頷き返すと。


「ではオロチさん、よろしくお願いします。全員で」


 オロチに視線を向けた。

 が、そのラファエルの言葉に、オロチは。


「全員で、じゃと!?」


 自分の耳を疑う。


 第6圏に吹き荒れる火炎を斬り裂き、ブルーホワイトのブレスを切断する。

 それは間伐の卒業試験レベルの難問だ。

 しかもそれは、50メートル離れた位置のブレスを斬るのが普通だ。


 逆に言えば、普通の林業師には50メートルが限界ともいえる。

 そして52人が並んだ場合、1番遠い場所は2700メートルも先だ。

 そんな遠くのブレスを切った者など、今まで聞いたコトがない。


 その上、最後尾にオロチも並べという。

 確かに枝打ちの訓練で、和斗の実力は嫌と言うほど思い知らされた。

 しかしそれでも、出来る筈が無い、とオロチは思う。


 実際その言葉は、喉まで出かかった。

 が、親子盃を交わした以上、親分の力を疑うような発言は出来ない。

 だからオロチは、辛うじてその言葉を飲み込むと。


「了解じゃ」


 それだけを口にしてマグマの海に飛び込み。


「準備できたぞい!」


 ブルーホワイトの列の最後尾に並ぶと、声を轟かせた。

 それを見届けたトコロで、ラファエルは満足そうな笑みを浮かべると。


「それではいつもと同様、合図と同時に全員、ブレスを空に向かって吐いてくださいね。ではいきますよ。3! 2! 1! ハイ!」


 手慣れた様子で、合図を送った。

 と同時に。


 シュゴ! ×5  × 52


 52人分の、5つのブレスと。


 ドパァ! ×8


 オロチのブレス8つが空に向かって発射された。


(3キロ近く離れた距離から儂の10万度のブレスを斬り裂く事など、出来るんかのう? しかも50メートル間隔で発射された、52人のブルーホワイトが吐いたブレスを切断した上で)


 半信半疑、いや無理に決まっていると思うオロチだったが。


 シュパァン!


「「「「「「「「え?」」」」」」」」


 見事に断ち割られたブレスを目にして、マヌケな声を漏らした。


 それはブルーホワイト・ヒドラ52人も一緒で。


「「「「「は?」」」」」×52


 やはり間抜けな声を上げていた。

 そして53人のヒドラは暫くの間、呆然としていたが。


「さすがカズト殿でござる!」


 トツカが上げた賞賛の声に我に返ると。


「なんちゅう猛者じゃ」


 オロチは感動で、声を震わせたのだった。

 もちろん感動したのはオロチだけではない。


「スゲェ……」

「これがオレ達の親分の力か……」

「邪悪な手首を瞬殺したのって、ガセじゃなかったんだ……」


 ヒドラ一家のブルーホワイト達も、驚愕の声を漏らしていた。

 そして、それはやがて。


『おおおおおおおおおおおおおお!』


 マグマの海を揺らすほどの雄叫びに変わった。

 ヒドラ一家は勿論。


『うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!』


 ヒドラ一家の構成員ではないヒドラまで歓声を上げている。

 物凄い、大歓声だ。

 その中でも。


「カズト親分!!!」


 1番大きな声を上げているのはオロチだ。


「やはりカズト親分は、ヒドラ一家の忠誠を捧げるに相応しい御方じゃった! カズト親分、万歳!!!」

『カズト親分、万歳!!!!!!!!』


 期せずして始まった『カズト親分万歳コール』に。


「まいったな」


 和斗は困った顔で頬を掻いた。

 そんな和斗の元に、獣人へと姿を変えたオロチとヒドラ一家の組員たちは集まると。


「お力、感服いたしました!!」


 オロチの言葉と共に、全員が片膝を着いた。


 実を言うと、オロチが集合をかけたのはブルーホワイトだけではない。

 ヒドラ一家全員にも集合をかけていた。

 和斗の力を見せる為に。


 まあオロチ自身も不安があったものの、全員を集めたのは大正解。

 ヒドラ一家全員は。

『組長が決めたから和斗に従う』のではなく。

『和斗の力に漏れ込んで』忠誠を誓ったのだった。

 と、そこで。


「その力、我らグリフォン自警団の団長達にも見せて頂けませんか?」


 トライが丁寧だが、熱を帯びた声を上げた。


「ヒドラ一家はカズト親分の力を目にし、そして思い知りました。もちろんジブンも感動しました。と同時に思ったのです。グリフォン自警団の皆にも、同じ感動を体験して貰いたい、と!」


 そしてトライは和斗に深々と頭を下げる。


「カズト親分、このまま第7圏に向かい、伐採の訓練も行っていただけないでしょうか?」


 というトライの願いに。


「ええ~~~~~~~~~~?」


 全身で嫌だ、と主張したのはリムリアだ。


「間伐の訓練が終わったら休憩するんじゃなかったのぉ~~?」


 もう駄々っ子モードに突入しているリムリアだったが。


「リムリアさん。訓練は、グリフォン自警団が集まった瞬間に終わります」


 ラファエルが説得を試みる。


「ホント? ホントに一瞬?」


 リムリアの疑いの視線に、ラファエルは笑顔で頷く。


「本当です。だからもうちょっとだけ付き合って上げてくれませんか?」

「はぁ~~~~。仕方ないなぁ。でも!」


 リムリアは大きなため息をついてから、ラファエルに人差し指を突きつける。


「伐採の訓練が終わったら、休憩だからね! 絶対だよ!」

「はい、約束します」

「なら早く行こ!」


 即決するリムリアに苦笑しながらも、ラファエルは魔法陣を発動。

 和斗達一行は第7圏に転移したのだった。






 転移した先は岩山の頂上だった。

 広さはテニスコートくらいで、端っこに移動すると。


「うわぁ……」


 足元には雲海が広がっていた。

 その雲海から幾つもの岩山が突き出しているのが見下ろせる。

 ラファエルの説明によると、この岩山の標高は10000メートル。

 第7圏で1番高い山らしい。


「まさかインフェルノで、こんな光景を見る事が出来るなんてな」


 和斗は雲海と岩山に、暫し見入る。

 おそらく地球にいたら、目にする事の出来なかった絶景。

 思わず背筋が伸びてしまうような、澄み切った厳しさと美しさだ。

 その光景に、和斗が見とれていると。


「グリフォン自警団、集合しました」


 トライが遠慮がちに声を上げた。

 気配で気付いていたが、目を向けると上空には500ほどのグリフォンが集まっている。


「あ、ああ」


 現実に戻る和斗に。


「これがグリフォンという種の一覧です」


 いつもの様に、ラファエルが紙を差し出す。



              グリフォン種


 アイアンウィング  (魔獣)          1000万

 スチールウィング  (獣人化可能)       3000万

 ミスリルウィング                7000万

 アダマンウィング               23000万

 オリハルコンウィング             42000万

 組長=トライヘッド・グリフォン(トライ)   98000万



「グリフィン種は、鉄の翼を持つ魔獣です。しかし進化に従い、その翼は鋼鉄、即ちスチールとなり、そしてミスリル、アダマン、オリハルコンと進化します。そして翼が強力になると同時に戦闘力も跳ね上がります。そしてグリフォン自警団はミスリルウィング以上のグリフォンで構成されています」


 そしてラファエルは。


「まあ、この一覧表はカズトさんが盃を降ろす前ですので、今の参考経験値は、この数倍ですけど」


 そう付け加えると、和斗に指示を出す。


「ではカズトさん、神霊力の刃を伸ばしてください。最大威力で」

「最大で? イイのか?」

「はい。是非とも全力で」

「分かった」


 答えると同時に、和斗は右手から神霊力の刃を伸ばした。

 星を切断できるサイズに伸ばす事も、今の和斗なら可能だ。

 いや、恒星を切断する事すら、難しいコトではない。


 しかし和斗は、あえて刀身の長さを10キロほどに抑える。

 そしてその分、神霊力を極限まで凝縮して作り上げた。

 その神霊力の刃を目にするなり。


『おお!!!!!!!!!!!!!!』


 この場にいる全員が、思わず声を漏らした。


 ヒドラのブレスを斬り裂く和斗に、心が震えたのは僅か1分前の事。

 伐採訓練の神霊力は、それほど凄まじいモノだったのだが。


「まさかカズト殿の全力が、これ程でござったとは……」


 トツカが驚愕の声を漏らした様に、目の前の神霊力は遥かな高みにあった。

 目の前の神霊力の刃が、世界最高峰の神峰とするなら。

 ヒドラのブレスを切った刃は、子供が砂場に作った砂山程度。

 それ程の圧倒的、いや次元が幾つも違う神霊力だった。


「これは訓練の必要など無いように思えますが、それでも自身で体験するのは貴重な財産になるでしょう。ね、トライさん」

「はい、そうですね」


 トライはラファエルの言葉に素直に頷くと、団員に向かって声を張り上げる。


「自警団! 総員、全身全霊で訓練態勢!」


 その号令で団員達は、和斗が伸ばした神霊力の刃を、螺旋状に取り囲む。

 続いてトライも、その螺旋に加わると。


「訓練、開始!」


 鋭い声で命令を下した。

 その直後。


 バァン!!!!!!!!!!!!!!!!!!


 グリフォン達は大気を操り、神霊力の刃に叩き付けた。

 それは煉獄力を込めて鋼鉄以上の硬度にまで圧縮した大気の渦。

 巻き込んだ物をねじ切り、へし折り、粉砕する攻撃だ。

 しかも。


 ズザザザザザザザザザザザザザザザザザザザ!


 その大気の渦に乗せて、翼の羽を手裏剣のように発射したのだった。








2022 オオネ サクヤⒸ

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