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   第百四十二話 聞こえているでござる





 インフェルノ連合会が結成されてから、初めての朝。

 第5圏に転移し、枝打ちの訓練に向かう和斗に付き従いながら。


「しかしのう……」


 オロチは小さく呟いた。


「トツカの姉さんが、とんでもなく強いのは見ただけで分かる。ザガン兄さんもトツカの姉さんに迫る実力じゃ。ムルオイのアニキもバオウのアニキも儂より強いじゃろう。じゃが……」


 その呟きにトライが頷く。


「はい。カズト親分からは、強者のみが身に纏える研ぎ澄まされた気が全く感じられないのですよね」

「そうなのよね」


 オロチのトライのヒソヒソ話しにステンノも加わる。


「後ろから襲いかかったら、アタシでも倒せそうだわ。確かに盃を口にしたら強くなれたけど、カズト親分ってホントに強いのかしら?」


 オロチとトライとステンノは、和斗と親子盃を交わした。

 つまり和斗が親でオロチ、トライ、ステンノは子。

 だから和斗は親『分』で、オロチ、トライ、ステンノは子『分』だ。


 ちなみにトツカとザガンは自分達より先に子分になった。

 だから3人は、トツカの姉さん、ザガンの兄さんと呼んでいる。

 付け加えると、ムルオイとバオウはアニキだ。


 まあ、それはそれとして。

 オロチ、トライ、ステンノが囁き合っていると、そこに。


「おいおい、トツカの姉さんに聞かれたら、その場で打ち首にされちまうぜ」


 ムルオイが太い声を響かせた。


「いや、打ち首じゃ済まねえか。きっと怒り狂ったトツカの姉さんは、オマエ等の両手両足を斬り飛ばしてから地面に埋め、首をノコギリでジワジワと切り落とすだろうな」


 ムルオイの意見にバオウも同意する。


「うむ! トツカの姉さんはカズト親分に忠義を捧げて、いや自分の存在全てを捧げているのである! だからカズト親分に、ほんの僅かでも逆らう者は決して! 何があっても! 命と名誉に賭けて! 全身全霊を持って! 絶対に許さないのである!」

「そんなに大声出すんじゃないわい!」


 オロチが、大声を上げるバオウの口を慌てて塞ぐ。


「カズト親分に逆らう気なんぞ、これっぽっちも無いわい! なにしろ近くに居るだけで強くなれるのじゃからな。ただ、カズト親分自身は強いのじゃろうか、と疑問に思っただけじゃ」

「その通りです。なにしろカズト親分の後ろ姿は普通の人間と変わらないように見えますので」

「そうそう、カズト親分って弱いんじゃないかしら、って疑問に思っただけで、カズト親分に逆らう気なんて全くないわよ!」

「「はあぁ……」」


 ムルオイとバオウは深い溜め息をついてから、和斗へと目を向ける。


「あのカズト親分の強さが分からねェとはな」

「うむ、困ったモノなのである!」

「まあオロチもトライもステンノも、もっと強くなったら分かるだろうな」

「そう言われたら、確かにそうなのである。我輩たちだって、カズト親分の本当の恐ろしさが分かったのは最近なのである!」

「だろ?」


 そしてムルオイとバオウは、凄みのある笑みを浮かべた。


「まあ、カズト親分の枝打ちの訓練を見たら、そんな疑問、消し飛ぶだろうし」

「そうなのである! アホ面晒すのが楽しみなのである!」


 といった大幹部と幹部のヒソヒソ(?)話に。


「丸聞こえなんだって」


 ザガンが呆れ声で呟く。


「ホントにトツカの姉さんに聞こえたら、どうする気なんだよ」

「聞こえてるでござる」

「ひぇ!」


 飛び上がるザガンに、トツカが苦笑する。


「あんな大声、聞こえないワケないでござろう?」

「いや、まあ、そりゃそうなんですけどね……でも、ヤツ等のバカ話が聞こえていたのなら、ナンでトツカの姉さんは怒り狂わないんです? カズト様に対する、どんな無礼も許さないのに」


 ザガンの疑問に、トツカは肩をすくめる。


「彼らは無礼なのではなく、単に無知なだけでござる。そしてこれからカズト殿の実力を、その目で確かめる事になるのでござる。そして思い知るのでござる。自分が如何に無知だったのか、を。ならば拙者がココで、ワザワザ何かをする必要など無いでござろう?」

「そうですね。っていうか、実はオレも楽しみなんです。カズト様の実力を目の当たりにした時、ヤツ等がどんな顔をするのか」

「まあ、本当の力ではないでござろうが、カズト殿の力の一部でも度肝を抜かれる事間違いなしでござるから、ザガンの期待通りの展開になるでござろう」

「はい」

「くくくく」

「くははは」


 トツカとザガンが悪い顔で笑う中。


「だってさ、カズト『親分』……ププッ」


 リムリアが笑いを押し殺しながら和斗の袖を引っ張った。


「もうカズトって、名実ともに巨大組織のドンだよね」

「いや盃を降ろす事を了承しただけで、組織のトップになると言った気は、全く無いんだけどな」

「いや親子盃を交わすってコトは、親分と子分になるってコトなんだから、カズトがトップに決まってるじゃん」


 なにを今さら。

 といった顔のリムリアに。


「言語から判断して、この結果は予想出来ました。カズト様も、気が付いていた筈ですが」


 キャスまでツッコまれてしまう。


 まあ、確かに日本で観た極道映画そっくりとは思ったんだけど。

 ここは異世界だから気のせいかも、って現実逃避しちまった。

 と、和斗が反省してると。


「分かってたですぅ!」


 ヒヨが元気な声を上げた。

 てか、ヒヨ。

 オマエ絶対分かってないよな?

 まあ、ヒヨの何も考えてない笑顔を見てると、どうでも良くなってきた。

 とりあえず訓練に集中するか。


 などと和斗が切り替えたトコで、訓練場に到着。


「ではカズトさん、枝打ちの訓練を始めましょう」


 和斗はラファエルに促されて闘技場の中心へと移動する。

 そして。


「では訓練要員200名! 所定の位置に付くのである!」


 相変わらず無駄に暑苦しいバオウの号令で。


 ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!


 闘技場の外壁の上を、200人のケンタウルスが走り出した。

 そのケンタウルスを目にして。


「何じゃ、あの速さは!」

「まさかあれは……1200キロ級!?」

「200人もいるのに、全員が1200キロ級だっていうの!」


 オロチ、トライ、ステンノの新入り3人衆が驚愕の声を上げた。

 が、その声は。


「ボウガン構え! なのである!」


 バオウの次の号令で、さらに大きくなる。


「20段のボウガンじゃと!?」

「ええ!? マッハ20の矢を使うのですか!?」

「1200キロ級200人が放つマッハ20の矢ですって!? 切り落とすどころか、躱す事すら不可能じゃない!」


 が。


「放つのである!」


 バシュシュシュシュシュシュシュシュシュ!!


 バオウの号令で放たれた200の矢が。


 ヒュン! ×200。


 まさに一瞬で切り落とされる光景に。


「「「えええええええええ!!!」」」


 オロチもトライもステンノも大口を開けた顔で固まった。


 そんな3人の目の前で。


「各自、可能な限り連射するのである!」


 バオウが吼え、和斗に大量の矢が降り注いだ。




 もちろん和斗にとって、矢を切り落とす事は簡単。

 だが、神霊力を身に纏いながら、その状態をキープするのが難しい。

 矢の切り落とす事に気を取られると、神霊力を纏うのが疎かになる。

 でも神霊力を身に纏う事に気を取ら過ぎてもいけない。

 というより意識する事なく神霊力を身に纏うのが目標だ。

 そうなるのに1番の方法は慣れる事。


 だから和斗は、ひたすら神霊力を纏った状態で矢を切り落とす。

 こうして枝打ち訓練を暫く続けた結果。


(……そろそろ昼かな?)

(……昼メシ、何かな?)

(……おや、ヒヨが居眠りしてる。やっぱ退屈なんだろな)

(あれ? オロチのトライとステンノがポカンと口を開けたまま、ピクリとも動かないぞ。どうしたんだ?)


 和斗は他のコトを考えながらでも、矢を切り落とせるようになった。

 もちろん神霊力を身に纏ったまま。

 そして。


「ふわぁ……」


 アクビしながらでも出来るようになったトコで。


「もういいでしょう」


 ラファエルが声を上げた。

 その声で、オロチ、トライ、ステンノが我に返ると。


「こりゃあ、たまげた……」

「これがカズト親分の実力……」

「規格外過ぎなんて言葉じゃ表せないレベルだわ……」


 まるで夢を見ていたような顔で、囁き合う。

 その3人を眺めながら。


「くかかかか! ザガンよ、見たでござるか、あの顔!」

「はい、トツカの姉さん。期待以上のマヌケ面でしたね。かははははははは!」


 トツカとザガンが大笑いしていた。

 いやトツカとザガンだけではない。


「ふはははは! やっとカズト様の実力に気が付いたか!」


 ムルオイも大爆笑。

 バオウも笑いながら、3人をからかう。


「グワハハハ! どうであるかステンノ!? まだ後ろから襲いかかったら、カズト様を倒せると思うであるか!? 何ならオロチとトライの3人で襲いかかってみると良いのである!」


 この言葉に、ステンノ、オロチ、トライは青い顔で言い返す。


「なに恐ろしいコト言ってんのよ! カズト親分、1200キロ級のケンタウルス200人が放つマッハ20の矢をアクビしながら切り落とすのよ! そんな事したら瞬殺されるに決まってるじゃない!」

「そうじゃ! そんな事、考えるだけで足が震えてくるわい!」

「バオウのアニキ……己の未熟は痛感しているトコロなんですから、勘弁してくださいよ」


 冷や汗を流しながら声を上げる3人に、ラファエルはクスクスと笑いながら。


「カズトさん、かなり自然に神霊力を身に纏えるようになりましたよ。枝打ちの訓練は卒業です。では……昼ご飯まで、まだ2時間もありますね。では第6圏に移動して、今度は『間伐』の訓練をしましょう」


 転移の魔法陣を展開して、発動させようとする。

 が、そこでリムリアが。


「え~~~~? もう休憩でイイんじゃない?」


 見学には飽き飽きだ、と目で訴えた。

 そんなリムリアに、ラファエルはピッと指を立てる。


「そんなに時間はかかりませんよ。上手くいけば、1分で終わります」

「1分~~? ホントに~~?」

「本当です」

「じゃあ……ま、いっか」


 ハフウ、とため息をつくリムリアに、ラファエルが尋ねる。


「ところでリムリアさん。アナタはもう、神霊力を身に纏えるようになっていますよね?」

「当ったり前じゃん。カズトの訓練、見てるだけじゃ退屈なんだモン」


 そう。

 リムリアは退屈だったので、神霊力を身に纏う練習をしていたのだった。

 ちなみに。


「ワタシも対応済」

「ヒヨも出来ますぅ!」


 キャスもヒヨも、神霊力を身に纏えるようだ。


「では皆さん、神霊力を纏ってください。第6圏に転移します」


 そしてラファエルはにこやかな顔で、そう告げ。


「いきなり!?」


 リムリアが文句を口にした時には。


「ここが第6圏です」


 全員が第6圏に転移していた。

 もちろん7人の組長も一緒に。

 そして転移すると同時に、リムリアは。


「うへぇ……」


 顔をしかめた。


「なにココ? こんなトコで生き物、生存できるの?」


 リムリアがそう口にしたのも当然だろう。

 なにしろ第6圏は、その全域が炎に包まれていたのだから。

 というより、火炎が吹き荒れるマグマの海。

 それが第6圏だった。


 そのマグマの海に、小さな岩の島が点在している。

 和斗達が立っているのも、そんな小さな島の1つだった。


「第6圏の温度は最低でも1500℃。神霊力を纏えないモノは、瞬時に焼け死ぬでしょう。第5圏で神霊力を身に纏えるようになっている事が、ここ第6圏で訓練を受ける必須条件なのです……」


 ラファエルの話に、リムリアが割り込む。


「で、間伐の訓練って、ナニするの?」

「だから、それを説明するトコだったんですけど……」


 ラファエルは苦笑してから、説明を再開する。


「ヒドラのブレスを、神霊力の刃で断ち切る。それが間伐の訓練です」








2022 オオネ サクヤⒸ

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