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   第百四十一話 関節キスのお蔭





「チェイスト!!」


 トツカは鬼気迫る気合いと共に剣を振り下ろした。

 と同時に。


 ズパァ!


 オロチの体は、深々と斬り裂かれた。

 その致命傷と言っても過言ではない傷に。


「な!?」


 オロチは、痛みよりも驚きで目を見開く。

 が、それも当然だろう。

 トツカが剣を振り下ろしたのは、30メートルも離れた場所。

 どう考えても、刃が届く距離ではない。


「なぜじゃ!? なぜ儂は傷を受けたんじゃ!?」


 信じられない、といった顔のオロチに、トツカが声を張り上げる。


「トツカノツルギは地を裂き天すら割る剣! 拙者の実力では、まだその力の全てを引き出すこと敵わぬが、30メートル先の相手を切り捨てるくらい朝めし前でござる!」

「うぬぅ……」


 オロチはトツカの言葉に唸り声を上げるが、そこで。


「いや、それよりも儂のブレスを受けたのに、何で平気な顔をしとるんじゃ?」


 オロチは衝撃の事実に気が付く。


「直撃しなかったとしてもキサマは10万度の高温に晒されたた筈じゃ。なのに何で蒸発しとらんのじゃ!?」


 確かにトツカの斬撃はオロチの体を斬り裂いた。

 しかしオロチのブレスもトツカを捉えた筈。

 仮にブレスを躱していたとしても、10万℃の熱までは躱せない。

 なのに、どうしてトツカは無傷なのだろうか?

 10万度の高温に耐えれる筈もないのに。


 というオロチの疑問に。


「トツカさんが、カズトさんの力の一部を得たからですよ」


 そう答えたのは、ラファエルだった。


「どういう事かいのう?」


 鋭い目を向けて来るオロチにラファエルが呑気な声で続ける。


「トツカさんがパンデミック・ウィードに寄生された事は知ってますよね? そしてそのパンデミック・ウィードを、カズトさんが『苗植え』の技術によって消滅させた事も」

「当然じゃ。辺獄の情報に耳が早くなけりゃあ、組を維持していく事なんぞ出来んじゃろうが」

「その時ですよ。カズトさんの神霊力を体に撃ち込まれる事により、カズトさんの力の一部を得たんです」

「そうだったんでござるか!?」 

「「「「「ええ!?」」」」」



 驚くトツカと5強に、ラファエルは楽しそうに付け加える。


「あ、それとカズトさんと盃を交わしたからですね。カズトさんとの関節キスのお蔭とも言えますけど」

「気持ち悪い言い方すんな!」


 和斗の抗議を無視してラファエルが続ける。


「カズトさんとの関節キスにより、カズトさんの神霊力の影響を受けたのです。神霊力を体に撃ち込まれた程ではないですが、それでもステータスは何倍にも上昇したのです」

「それでザガンも最近、強くなったって言ってたんだ」


 感心するリムリアに頷いてから、ラファエルはオロチに視線を戻し。


「正確に言えばマローダー改のステータスの一部なんですけど。で、話を元に戻しましけど、今のトツカさんの耐熱温度はマローダー改の10億分の1なんですよ」


 そう付け加えた。

 このラファエルの説明に。


「10億分の1じゃと!? は! そんなモン、誤差の範囲じゃろうが!」


 オロチは鼻で笑った。

 しかし。


「たしかにマローダー改のステータスから見たら誤差程度ですが、トツカさんの耐熱温度は5000万度なんですよ」


 ラファエルが口にした数値を耳にして。


「5000万度じゃと!」


 オロチは絶叫した。


「なんじゃ、そのデタラメなステータスは! そんなとんでもないステータス、林業師でもおらんぞ!」


 口から泡を飛ばすオロチに、ラファエルは平然と続ける。


「マローダー改の耐熱温度は5該℃。だから1万分の1でも、その耐熱温度は5京℃になるんです。1憶分の1でも5兆℃、そしてトツカさんの耐熱温度は10億分の1なので5000万℃。簡単な計算でしょう?」

「という事は、トツカの親になったカズトの耐熱温度は5該℃ちゅう事か?」


 震える声で問うオロチにラファエルが首を横に振る。


「いえいえカズトさんのステータスはマローダー改の3割ですから、カズトさんの耐熱温度は1該5000京℃です。ね、カズトさん」

「なんでそんなに詳しいんだよ」


 和斗のボヤキも無視して、ラファエルは改めてオロチに視線を向ける。


「で、オロチさん、どうします? ついでに言えば、力、防御力、速度などもマローダー改のステータスの1部をトツカさんは得ています。そのトツカさんに勝てると思いますか? というより」


 そこでラファエルの目に、鋭い光が浮かぶ。


「まだトツカさんに勝てると思っているようなら、ここで死んでください。そんな愚かな組長、ここで死んだ方が組の為でしょう」

「うぬぅ……」


 オロチはラファエルにスパッと言い切られて、しばらく唸っていたが。


「グワハハハハハハハハハハ!」


 突然笑いだした。

 そしてオロチは獣人へと姿を変えると。


「儂の負けじゃ。ウェポンタイガー一家達がインフェルノ連合会を名乗る事に文句など無いわい! というよりウェポンタイガー一家の組長さんよ、いやトツカの姉御!」


 トツカの前で膝を着き。


「ヒドラ一家もインフェルノ連合会に加えて貰えんじゃろうか?」


 思いもしなかった事を口にした。


「盃を交わすだけでステータスがアップするじゃと!? そんな素晴らしい盃、欲しくないモンなぞおるワケ無いじゃろ! それに儂は役に立つぞ! もちろんヒドラ一家もじゃ! どうじゃトツカの姉御、ヒドラ一家をインフェルノ連合会の末席に加えてくれんか!?」

「ええと……」


 思いもしない展開に、トツカは困った目を和斗に向ける。

 そのトツカに、和斗は大きく頷く。


(トツカの判断に任せる)


 という意を込めて。

 それをキッチリと察知したトツカは、その場で決断する。


「了解したでござる。ではカズト殿から親子盃を降ろしてもらい次第、ヒドラ一家はインフェルノ連合会の一員でござる」

「うむ、有難い。では宜しくお願いする」

「承知」


 というコトで、またしても和斗の子分が増えたのだった。

 と思ったら。


「その盃、ジブンにもお願いしたい!」

「アタシにも降ろしてよ!」


 2人の獣人が観客席から大声で訴えた。

 頭が鷲の獣人と、髪の毛がドラゴンの女性だ。


「誰?」


 リムリアの呟きに、またもやドウジが答える。


「あれはグリフォン自警団の団長であるトライと、ゴーゴン連合の連合長であるステンノです。つまり辺獄に存在する全ての組が、カズト様の傘下に入る事を望んでいるようです」

「それって何のメリットがあるの? 連合って、敵対する組織と戦う為のモンだよね?」

「それはですね」


 リムリアの疑問に、今度はラファエルが説明を始めた。


「それぞれの組織は辺獄で様々な商売をしていますが、彼らの目的は仲間の安定した生活なのです。今までの小さな衝突は、互いの商売が重なって利益を奪い合った結果、争いに発展したものなのです。しかしカズトさんの名の元に集まり商売の住み分けが出来たらなら、どの組も利益の奪い合う事なく、効率的に儲ける事ができるのです」

「あれ? それってカズトがいなくても、組長同士で話し合えば事だよね? ナンで今までやらなかったの?」


 首を傾げるリムリアに、ラファエルが微笑む。


「曲者揃いの組長達が、この人の言う事ならば聞き入れても良い、と思える強者がいなかったからです。自分より弱い者の言う事なんか聞けるか! という人ばかりですから」

「で、トツカを自分より強いと認めたから、言う事を聞く気になった、ってワケなんだね?」

「そうです。トツカさんの活躍によって、効率的に辺獄の経済を回せそうです。これにより、やっとインフェルノに生まれてくる全ての種族が、平和で幸せに生活できる環境を整えるメドが立ちました」

「なんか嬉しそうだね」


 リムリアの言葉に、ラファエルが何度も頷く。


「それはそうでしょう。ワタシも天使の端くれ。人々には平和に暮らして欲しいと思ってますから」

「ならさっさとやれば良かったのに」


 アッサリ言うリムリアに、ラファエルは微笑みを苦笑に変える。


「今回の事はカズトさんのお蔭でトツカさんがとんでもなく強くなったから出来た事なんです。でもワタシに他人を強くする力はありません。カズトさんがいたからこそ、組を1つにまとめる事が出来たんです」

「あれ? ひょっとしてカズトって凄い?」


 意外そうな表情のリムリアに、ラファエルは苦笑を深める。


「ひょっとしなくても凄いですよ。凄いとか、とんでもないといった言葉では表現できない程」

「へーえ」


 リムリアが気のない返事を口にした、その時。


「カズト殿。ヒドラ一家だけでなくグリフォン自警団とゴーゴン連合にも、カズト殿から親子盃を降ろして頂く事になってしまったでござるが、宜しかったのでござろうか?」


 トライとステンノを引き連れたトツカが、和斗の前で膝を着いた。


「もしもカズト殿に僅かでも躊躇する気持ちがござるなら、直ぐにこの話、水にするでござるが、いかがでござろう?」

「いや、今さらそれは困る!」

「そうよ! 親子盃を降ろしてもらえるように説得してよ!」


 騒ぐトライとステンノに、トツカは鋼鉄のような視線を向ける。


「親が黒と言えば、白いモノでも黒。ウェポンタイガー一家のシキタリくらい、存じておるでござろう? ここはカズト殿のお言葉を待たれよ」

「ぐ……」

「あう……」


 トツカにピシャリと言い切られてトライとステンノが黙り込む。

 それを確認してから、トツカは和斗へと向き直る。


「して、カズト殿。どうされるでござる?」


 トライとステンノに向けていた鋼鉄のような眼は、どこにいったのだろう?

 トツカはキラキラした目で和斗に伺いを立てた。

 まあ、トツカの豹変はともかく、和斗の答えは決まっている。


「何度も言うようだけど、判断は俺の1番の配下であるトツカに任せる。トツカが思う、最善を行ってくれ」

「ありがたきお言葉」


 感極まった、という言葉通りの顔で、トツカは頭を下げると。


「ドウジ、オニマル、ミカヅキ、デンタ、ジュズ!」


 5強に視線を向けた。


「其方達は大急ぎで、オロチ一家、グリフォン自警団、ゴーゴン連合との盃の準備を整えるでござる」

「「「「「は!」」」」」


 こうして和斗は、辺獄の全ての組を配下に治める事となったのだった。






 そして翌日の朝。


「昨日は盃を交わした後の大宴会で訓練どころではなかったので、今日こそは枝打ちの訓練を、シッカリやりましょう」


 そう言って微笑むラファエルに、和斗がため息をつく。


「しかし全員が、俺と酒を酌み交わしたいと言い出すとは思わなかったぜ」


 和斗のグチに、リムリアが頷く。


「うん、それにはボクもビックリした。でも、それも仕方ないかも。だってカズトが使った盃で酒を飲んだらステータスがアップするんだもん。そりゃダレでもカズトの盃で呑みたいと思うに決まってる」


 リムリアの言葉に、和斗はラファエルに冷たい視線を向ける。


「それもこれもラファエルが……」

「あ、関節キスの事ですか? あの時はつい、勢いで口を滑らせてしまいました」

「だから言い方!」


 大声を上げる和斗を気にする素振りも見せず、ラファエルが続ける。


「でも、そのお蔭で辺獄が統一されました。結果オーライです」

「何でそんなに、日本の言葉に詳しいんだよ……」


 2回目の溜め息をつく和斗の後ろには。

 ウェポンタイガー一家の組長トツカ。

 ケルベロス一家の組長ザガン。

 アーマーミノタウルス一家の組長ムルオイ。

 ケンタウロス一家の組長バオウ。

 ヒドラ一家の組長オロチ。

 グリフォン自警団の団長トライ。

 ゴーゴン連合の連合長ステンノ。

 このインフェルノ連合会の幹部7人が付き従っている。


 ちなみにインフェルノ連合会内での地位は盃の順。

 だからトツカが、1番格上である最高幹部。

 2番目のザガンが最高幹部補佐。

 その次が、大幹部であるムルオイとバオウ。

 オロチ、トライ、ステンノは幹部だ。


 ちなみに強さも、この順番となっている。

 本来なら、種族間には超えられない戦闘力の差がある。

 しかし盃が早い者ほど和斗の神霊力の影響によって強くなっていた。

 だからインフェルノ連合会の地位と強さが、ほぼイコール。

 誰も文句を口にする者はいなかった。


 もっとも。


「第1幹部はワシじゃな」

「いや、自分でしょう」

「なに言ってんのよ、私に決まってるじゃない。なにしろ私は髪の毛がドラゴンというグレートゴーゴンなんだから」

「それを言うならヒドラの最上位種ヤマタノオロチであるワシじゃ」

「いえいえ、最上位種というなら頭が3つ、前足が6本、3組の翼を持つ、グリフォン最強変異種トライヘッド・グリフォンであるジブンでしょう」

「いやいや……」

「いえいえ……」


 幹部の順位を巡って。

 オロチ、トライ、ステンノの言い争いは延々と続いたのだったが。







2022 オオネ サクヤⒸ

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[一言] 「関節キス」って、顔面にエルボーを食らわすことかと思いました。白鵬の十八番!
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