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第十四話  やっぱり本質は装甲車


  



「これが戦車砲の威力か。頭じゃ分かってたけど、実際に目にすると身の毛がよだつな」


 ブルリと身を震わせる和斗にリムリアが頷く。


「うん。もしコレで撃たれたらと思うと、震えが止まらないよ」

「この破壊力を目にしたら、いくらワーウルフでも心が折れ……るんじゃないかと思ったけど、そうはいかないのか」


 和斗はドラクルの聖地を指差す。


「リム、戦いはまだ終わらないようだ」

「え?」


 和斗が指差した方向に、リムリアが視線を向けてみると。


「正門の扉を外せ! この扉を盾にして突撃するんだ!」


 ハイ・ワーウルフ達が、城壁に作られた門から鉄扉を外していた。

 扉の大きさは高さ15メートル、幅7メートル、厚さ1・5メートルというところか。

 そんな巨大な鉄扉に隠れて、5人のハイ・ワーウルフがマローダー改へと突撃してくる。

 鉄扉は2枚あるから、合計10人の突撃部隊だ。


「あんなデカい鉄扉を5人で動かすなんて、凄い力だな」


 たった5人で巨大な鉄扉を軽々と扱うハイ・ワーウルフの怪力に、和斗は目を丸くする。

 しかしリムリアは冷静だ。


「ハイ・ワーウルフの戦闘力は人間の1000倍あるから、あのくらいの重さなら動かす事は簡単だよ。でも」


 そこで言葉を切ったリムリアに、和斗が頷く。


「ああ、そうだな。鉄扉なんか、戦車砲の前じゃ何の役にも立たない」


 何度もいうが、戦車砲塔に搭載されている120ミリ滑空砲の装甲貫通力は600ミリを超える。

 その滑空砲を30倍に強化したのだから、今の滑空砲の装甲貫通力は、単純計算で18メートルを超えている。

 たった1・5メートルの鉄扉で防御できるモノではない。


「じゃあ、撃つよ」

「ああ、リム。無駄な努力だ、という事を思い知らせてやってくれ。できればコレで戦いを諦めて逃げ出してくれたらイイんだけど」

「そうだね」


 リムリアは一瞬だけ悲しそうな目をした後、戦車砲塔のコントローラーを握り締めると。


「いくよ!」


ドカァァァン!


 戦車砲塔をぶっ放した。

 装甲貫通力18メートルもある滑空砲は、鉄扉を易々と貫く……と思いきや。


 ガコォン!


 鉄扉に深い穴を穿ったものの、砲弾は止められてしまった。


「たった1・5メートルしかない鉄扉が、滑空砲を防いだ!?」


 思わず大声を上げる和斗に、リムリアが大声を上げる。


「カズト、あれは鉄扉じゃなくてミスリル製だよ!」


 リムリアによると、ミスリルの強度は鋼鉄の20倍もあるらしい。

 つまり1・5メートルのミスリルは厚さ30メートルの鋼鉄に匹敵する。

 そして繰り返すが、30倍に強化された120ミリ滑空砲の装甲貫通力は18メートル。

 これでは撃ち抜けないのも当然だ。


「ち! まさか戦車砲でも撃ち抜けないとは思わなかったぜ!」


 和斗は舌打ちするが、直ぐに冷静さを取り戻す。


「ま、戦車砲が通用しないとは思わなかったけど、マローダー改の最強武器は戦車砲じゃない。リム、ヘルファイアだ」

「うん、分かった!」


 リムリアはコントローラーを握り直すと、戦車砲塔を操作してヘルファイア対戦車ミサイルの照準をミスリル扉に合わせた。


「照準よし! じゃあカズト、撃つよ」

「ああ、やってくれ」

「ヘルファイア発射!」


 リムリアはそう鋭く口にすると、ヘルファイア2基を発射した。


 ヘルファイア対戦車ミサイルの装甲貫通力は1・35メートルだ。

 その威力が30倍に強化されているのだから、理屈上は厚さ40メートルの鋼鉄を撃ち抜ける計算になる。

 そしてヘルファイア2基は計算通り。

 

 ドグワァアアアアアアン!

 

 2枚のミスリル扉を見事に撃ち抜き、完全に破壊した。


 もちろん影に隠れていたハイ・ワーウルフ達も、バラバラになって吹き飛んでいる。

 まちがいなく即死だ。


「うわぁ……120ミリ滑空砲もとんでもない兵器だと思ったけど、ヘルファイアの方がズットとんでもないや……」


 かすれた声を漏らすリムリアに、和斗が頷く。


「ああ。この破壊力を見たら、さすがに逃げ出すだろ」


 そんな和斗の言葉に、リムリアは悲しそうに首を横に振る。


「それはないと思う。ワーウルフは逃げ出すくらいなら死を選ぶから」

「そうか」


 和斗の顔から甘さが消えた。


 リムリアがそう言うのなら、ワーウルフ達は最後の1人までドラクルの聖地を守る為に立ち向かってくるだろう。

 そしてそれは、正ドラクルになる為の魔法陣に辿り着くには、聖地を守っているワーウルフを皆殺しにする以外、方法はない事を意味する。

 リムリアが悲しそうな顔をするワケだ。しかし避けて通れない。


「なら、最後の1人まで倒すしかない、って事だな」

「うん」


 残酷な事を口にした自覚はある。

 しかしそんな事は、とっくに覚悟していたのだろう。

 和斗の言葉に、リムリアは迷いなく頷いた。


「じゃあ、あいつらを殲滅しなきゃならないな」


 和斗は扉を失った門から飛び出してきた、ハイ・ワーウルフとワーウルフの大軍を指差す。


「そうだね。でも、多分これが最後の突撃だと思う。残った全員で特攻して、命と引き換えにボク等を倒す気だよ」


 ハイ・ワーウルフ達も、チェーンガンやⅯ2重機関銃の銃口から何かが発射されている事に気付いたのだろう。

 隊列を組む事をやめて距離を取り合い、チェーンガンやⅯ2重機関銃で狙いにくいようにジグザグに突進してきた。


 ハイ・ワーウルフが20人、ワーウルフが40人というところか。

 おそらくコレが、ドラクルの聖地を守っていたハイ・ワーウルフの残り全員だろう。


「最後の戦い、ってトコだな。出来れば逃げて欲しかったけど、こうなったら仕方ない。殲滅するぞ! リムはチェーンガンで攻撃してくれ!」

「わかった!」


 射撃の才能は、和斗よりリムリアの方が遥かに上だ。

 だからリムリアにチェーンガンで動きの速いハイ・ワーウルフを射撃してもらい、和斗はⅯ2重機関銃で、動きが鈍った敵に止めを刺す役にまわる。


 ガガ! ガガガ! ガガ! ガガガガ!


 ド!  ド!   ド! ド!  ド!


 計画通り順調にハイ・ワーウルフの数を減らしていくが、このペースでは何人かのハイ・ワーウルフがマローダー改に辿り着くだろう。

 そうなった場合、かなり厄介な問題が発生する。

 マローダー改に搭載された武器では、ピッタリと車体に引っ付いた敵を攻撃出来ないのだ。


「ペースを上げるぞ!」


 和斗はリムリアそう叫びながら狙撃速度を上げるが、焦れば焦るほど命中率は下がってしまう。

 その結果、7人のハイ・ワーウルフがマローダー改に辿り着いてしまった。


「おおおおおおお!」

「ここで仕留めるぞ!」

「殺せ!」


 7人のハイ・ワーウルフはマローダー改に飛び乗ると、フロントガラス越しに和斗とリムリア目がけて殴り掛かってきた。

 もちろん今のマローダー改の装甲レベルならハイ・ワーウルフの拳や爪など痛くも痒くもない。

 しかし迎撃方法がない。


 ハイ・ワーウルフが取りついているボンネットの上は、チェーンガンからもⅯ2重機関銃からも死角になっている。

 もちろん戦車砲からも、ヘルファイアからも死角の位置だ。


 リムリアが正ドラクルになったなら、その一族有数の魔力でハイ・ワーウルフを撃退できるのだろう。

 しかし正ドラクルになる為の魔方陣を使用するには、マローダー改の外に出る必要がある。

 だが、今の状況で外に出たなら、瞬殺されるのは間違いない。

 なにしろ人間の1000倍もの戦闘力を持つハイ・ワーウルフが7人もいるのだから。


「さて、どうしたモンかな?」


 和斗は運転席からハイ・ワーウルフを眺めながら、ボソリと呟いた。


 マローダー改の中にいる限り、間違いなく安全だ。

 しかしこれではギムレットリムリアが正ドラクルになれない。

 どうやってマローダー改に取りついたハイ・ワーウルフを倒す? 

 狙撃スペースを上昇させて一人ずつ撃ち倒していくか? 

 しかしゾンビと違ってハイ・ワーウルフの知能は高い。狙撃スペースの隙間から槍で刺されるかもしれないし、何かを投げつけられる可能性だってある。

 人間の1000倍の戦闘力で投げられたのなら、石だって十分な殺人兵器だ。


「どうしたらいんだよ、くそ…………あ!」


 和斗は悩んだ後、ふとスッキリした顔になった。


「何だ、簡単な事じゃん」

「ど、どしたのカズト?」


 不安げな顔を向けて来るリムリアに、和斗はニヤリと笑う。


「やっぱりマローダー改の本質は装甲車なんだから、その頑丈さが一番の武器って事さ」

「?」

「ま、見てろって」


 キョトンとするリムリアの頬にそっと触れてから、和斗はマローダー改のアクセルを踏み込んだ。

 その直後。


 ガォン!


 巨大な獣の咆哮のようなエンジン音を轟かせるとマローダー改は、レベル21になって8倍にアップした加速力により、アッという間に最高時速である510キロに達した。


 そして僅か30秒後。

 10キロの距離を駆け抜けたマローダー改は、地を揺るがす轟音と共に、ドラクルの聖地を取り囲む城壁に激突したのだった。


 現在のマローダー改の総重量は、レベルアップと共に360tに増えている。

 その大質量の装甲車と、堅牢な城壁との激突に巻き込まれたのだ。

 人間の1000倍もの戦闘力を持っているハイ・ワーウルフといえども、とても耐えられるものではない。


「ぐは!」

「げあ!」

「うわ!」


 悲鳴を上げてマローダー改から転げ落ちたハイ・ワーウルフ7人は全て、身動きできない程の重傷を負っていた。

 そして。


「悪いな、止めを刺させてもらうぞ」


 和斗はⅯ2重機関銃を操作し、ドラクルの聖地を守っていたワーウルフを全滅させるとリムリアに真剣な顔を向ける。


「リム。これで安心して魔法陣を使えるぞ」

「うん。沢山の犠牲を出したけど、これでやっと正ドラクルに……」


 様々な感情が渦巻く表情でリムリアが呟いた瞬間。

――ハイ・ワーウルフ49匹、ワーウルフ50匹、正ドラクル1匹を倒しました。

  経験値59万

  スキルポイント59万

  オプションポイント59万

  を獲得しました。

  累計経験値が69万を超えました。

 

 カーナビに、とんでもない数値が表示されたのだった。


「経験値59万だって!? 一体どうやったら、そんな天文学的な経験値を稼げるんだよ!」


 自分の目が信じられないでいる和斗に、最近カーナビ操作に慣れてきたリムリアが声を上げる。


「あ、ほらカズト。ここをクリックしたら詳細が出るみたいだよ」


 リムリアの言う通りカーナビをクリックしてみると、


  獲得ポイント


 ワーウルフ        1000

 ハイ・ワーウルフ    10000

 正ドラクル・バーニー  50000


「ウソだろ……いや、九つ首ヒドラゾンビが7500なんだから、その九つ首ヒドラゾンビより強いハイ・ワーウルフが10000なのは普通か。とにかく、こんな大量に経験値を獲得したって事は……」


 そう和斗が呟いた直後。


 パラパパッパッパパ――! パラパパッパッパパ――! パラパパッパッ……。


 レベルアップのファンファーレが何度も鳴り響き、そしてマローダー改のレベルは21から31へと、大幅にアップしたのだった。





2020 オオネ サクヤⒸ

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