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   第百三十九話 インフェルノ連合会





 和斗が枝打ちの訓練に明け暮れた次の日。

 枝打ちの訓練に向かおうと、和斗が宿から出ると。


「ワシにも親子盃を降ろして貰いたい」


 宿の入り口には、アーマーミノタウルス一家の組長=ムルオイと。


「我輩に親子盃を降ろして頂きたいのである!」


 ケンタウルス一家の組長=バオウが両手をついて待ち構えていた。

 ちなみに和斗は、トツカが営む高級宿屋『皆美』で寝泊まりしている。


「親であるカズト殿のお世話、ウェポンタイガー一家にお任せいただけないでしょうか?」


 というトツカの熱心な願いによってだ。

 まあ、それは置いといて。


「いきなりだな」


 呟く和斗の頭の中を、様々な思いが駆け巡る。


 なんだこりゃ?

 どうしてアーマーミノタウルスとケンタウルスが土下座してんだ?

 確かに林業の訓練で見かけたと思う。

 しかし言葉を交わす事すらなかった筈。

 なのにいきなり盃が欲しい?

 ナニ考えてんだ?


 と困惑気味の和斗だったが、そこに。


「いきなり無礼でござろう! いやそれ以前に、いきなり親子盃を降ろしてくれなど、何を考えているでござる!」


 まず、トツカが声を張り上げた。

 続いてザガンも声を荒げる。


「トツカの姉さんの言う通りだ! アーマーミノタウルス一家もケンタウロス一家も、カズト様の事など、何1つ知らない筈。そんなオマエ等が、どうしてカズト様の盃を欲しがるんだ?」


 トツカとザガンの言葉は、まさに和斗の思いを代弁するモノだった。

 が、それに対して。


「何1つだと!? フン、ワシを見くびるな! カズト様の強さなら一目見ただけで分かる!」

 

 ムルオイが鼻息荒く言い返した。


「ワシは強さを追求する事に人生を捧げるアーマーミノタウルスの漢だ! そのワシが、アーマーミノタウルスなど足元にも及ばない強さを誇るカズト様に惚れるのは当然の事! そして漢が漢に惚れたなら、その惚れた漢の盃を欲しがるのは当然だろう!」


 一気にまくし立てるムルオイに続いて、バオウも声を張り上げる。


「我輩だって、カズト様の強さに惚れ込んだのである! ついでに言えば、カズト様ほどの強者の盃を欲しがらぬ者がいるのなら、逆に会ってみたいのである! オマエ等も盃を降ろしてもらった1番の理由は、カズト様の強さに惚れたからではないのであるか!?」


 このムルオイとバオウの言葉に。


「む……」

「ぐ……」


 トツカもザガンも言葉に詰まってしまう。


『和斗の強さに惚れた』


 その気持ちは、誰よりも分かるからだ。


「う~~む、どうしたものでござるか……」

「カズト様の強さに惚れたと言われては、無下にもできないような……」


 トツカとザガンが、思わず顔を見合わせる中。


「お願いします、ワシをカズト様の子分に!」

「お願いなのである! 我輩をカズト様の子分に!」


 ムルオイとバオウが地面に手を突いたまま、和斗ににじり寄った。

 それを困ったような顔で見つめるトツカとザガン。

 という状況の中。


「なあ、どうしたらイイと思う?」


 和斗はラファエルに小声で尋ねた。

 辺獄に1番詳しいのはラファエルだと思う。

 それに中立の立場を取っているように見える。

 なら客観的に判断を下せる筈だ。

 ……と思う。


 だからラファエルの考えを聞くのが1番確実ではないだろうか。

 という和斗の期待に。


「そうですね。親子盃を降ろしてやればイイと思いますよ」


 ラファエルは躊躇なく答えた。


「即答するんだな」


 苦笑する和斗に、ラファエルが続ける。


「アーマーミノタウルス一家とケンタウロス一家がカズトさんの配下になって、何か不都合が発生するとは思えませんから」

「簡潔だな」


 和斗はラファエルの言葉に溜め息をついてから、今度はトツカに尋ねる。


「なあトツカはどう思う? どうするかはトツカに任せる」

「拙者が決めて良いのでござるか!?」


 目を丸くするトツカに和斗は頷く。


「俺にはトツカ達の世界のコトは、ゼンゼン分からない。それにトツカは俺の1番の子分なんだろ? だから判断はトツカに任せたいと思う。トツカの好きにしてくれたらイイ」

「御意!」


 和斗の言葉に、トツカは感無量といった顔で片膝を突いた。

 そして『俺の1番の子分』という単語を噛み締めてから。


「カズト殿には、ムルオイ、バオウ両名と親子盃を交わして頂きたいと思うのでござるが、宜しいでござろうか?」


 トツカは和斗を見上げて、そう口にした。

 もちろん任せると言ったのだから、答えなど決まっている。

 だから和斗は。


「分かった」


 それだけを口にした。

 と同時に。


「ありがてぇ!」

「やったのである!」


 ムルオイとバオウが飛び上がって喜ぶ。

 が、そこでトツカが。


「つきましては!」


 凛とした声を張り上げた。


「ウェポンタイガー一家、ケルベロス一家、アーマーミノタウルス一家、ケンタウルス一家による『カズト連合会』の結成をお赦し頂きたいのでござるが、宜しいでござろうか?」



 おいおい、コレは余りにも想定外だぞ。

 カズト連合会?

 恥ずかしくて死にそうなネーミングだな。

 和斗は心の中でそう呟くと。


「俺の名は出さない方がイイんじゃないかな?」


 何とかトツカを思い止まらせようとする。


「俺のコトを良く知らない者だって多いと思う。だからトツカ達が新たに立ち上げる組織の名前を『カズト連合会』にしてしまうと、戸惑うモノも出て来るんじゃないかな? だから取り敢えず、誰もが『ああ、こういう組織なんだな』と直ぐに連想できる名前がイイと思うんだけど、どうだろう?」


 なんとか『カズト連合会』の名を変更しようとする和斗に。


「カズト殿の名を知らぬ者など辺獄に存在するとは思えないでござるが……」


 トツカは少し不満そうな顔になる。

 が、直ぐに和斗に心酔した表情に戻ると。


「しかしカズト殿が、そう配慮なされたのでござるなら、その配慮に感謝しつつ従うが子の務めでござる。では新たな連合の名はインフェルノ連合会にしようと思うのでござるが、よろしいでござろうか?」


 改めて熱い目を和斗に向けた。

 もちろんカズト連合会でなければ、和斗の文句などない。

 だから和斗は、笑顔で即答する。


「ああ、インフェルノ連合会でイイと思うぞ。なにしろインフェルノに暮らす者達の集まりなんだ、そっちの方が分かり易いだろう」


 ホッとする和斗にトツカは。


「お許し頂き恐悦至極でござる」


 深々と首を垂れてから、ムルオイとバオウに向き直ると。


「アーマーミノタウルス一家の組長ムルオイと、ケンタウロス一家の組長バオウの両名よ! インフェルノ連合会の名の元ならば、カズト殿との親子盃を許可するでごるが、どうするでござる!?」


 高らかに声を張り上げた。

 もちろんムルオイとバオウの答えは決まっている。


「もちろん盃を降ろしてもらいたい!」

「異論などある筈が無いのである!」


 というコトで。

 和斗の元、インフェルノ連合会が結成され事が決定したのだった。


「では善は急げでござる」


 そう口にしたトツカの動きは速かった。

 即座にウェポンタイガー一家が経営する高級宿へと駆けこむと。


「カズト殿と、アーマーミノタウルス一家とケンタウロス一家との親子盃の準備を急いで整えるでござる! コテツ!」

「は!」

「料理の手配は其方に任せる!」

「承知仕った!」


 駆け付けたコテツに命令を下した。

 続いてトツカは。


「ザガン!」

「おう!」

「料理は我らウェポンタイガー一家が手配するでござるので、貴公には酒をお願いしたい!」

「了解だ、トツカの姉さん!」


 テキパキと支持を飛ばし。


「ではカズト殿、準備が整ったでござる」


 驚いた事に、わずか10分ほどで親子盃の準備を終わらせたのだった。


 こうしてこの日。

 インフェルノ連合会という巨大組織が辺獄に誕生したのだった。



 のだが。

 このインフェルノ連合会という名称が気に食わない者達も。


「インフェルノ連合会を名乗るなど、ジブン達を差し置いて、大きく出たものですね。空中を支配するジブン達こそが、このインフェルノの守護者だという事を、その者達に、思い知らせてあげる必要がありますね」


 そう息巻いたのはグリフィン自警団の団長、トライ。


「インフェルノ連合会ですって? あらあら、ウチが前から連合を名乗ってるっていうのに連合会とは困ったコ達ね。これはちょっと、身の程を思い知らせないといけないわね」


 ゴーゴン連合の連合長であるステンノも、お怒りのようだ。

 しかし1番腹を立てたのは、ヒドラ一家の組長、オロチだった。


「インフェルノ連合会じゃとぉ? おいおいおい、インフェルノを支配してるのは自分達だ、って言いたいのかのう? ふざけおって。こりゃあチィと挨拶せねばならんようだのう。おう! イエロー以上のモンに集合をかけるんじゃ!」


 ヒドラ一家の構成員は、インフェルノ・ヒドラ。

 5つの首を持つドラゴンのような姿をしているが、ドラゴン種ではない。

 体長は15メートルほど。

 鋭い爪の生えた、頑健そうな4本の脚で移動する。

 尾の数も5つ。

 鋼鉄以上の強度を持つ鱗が、全身を覆っている。

 翼は無く、空を飛ぶ事はできない。

 これは、全てのインフェルノ・ヒドラに共通する特徴だ。


 では、レベルによって何が違うかといえば、ブレスの温度と体の色。

 体が赤いヒドラはレッドと呼ばれ、ブレスの温度は2000℃。

 体が橙色のヒドラはオレンジと呼ばれ、ブレスの温度は4000℃。

 と言う具合に分類されており、一覧表にするとこうなる。



          インフェルノ・ヒドラ 


 体色        ブレス温度    参考経験値    組員数

 レッド       2000℃    1000万   417人

 オレンジ      4000℃    2000万   202人

 イエロー      8000℃    5000万    51人

 ホワイト     15000℃       1億    12人

 ブルーホワイト     3万℃       3億     4人

 組長=オロチ     10万℃      10億     1人


 つまりオロチが集合をかけたのは。


「オヤジ! 4天王のブルーホワイト4名、12人衆のホワイト12名、上級幹部のイエロー51名、総勢67名、全員集合しやした!」


 4天王の1人が報告したように、イエロー以上の組員67人だ。


 ちなみにレッドのブレスの温度、2000℃についてなのだが。

 大した温度じゃないな、と思う人も多いだろう。

 しかし2000℃とは鉄がドロドロに溶ける温度だ。

 ついでに言うと、たった250℃で木は燃え出す。


 そしてイエローのブレスは8000℃。

 これは地球上のあらゆる物質が蒸発する温度。

 ヒドラ一家の攻撃力は、インフェルノ屈指だろう。


 ましてやオロチのブレスは、人が想像する以上に凄まじい。

 10万度という温度は、2キロも離れている人間すら灰にする。

 5キロ先の人間でも、体が沸騰して死んでしまう。

 90キロ先ですら、大火傷を負わせる。

 つまり直撃しなくても、ブレスから5キロ圏内の人間は即死。

 殺傷範囲は90キロ。

 これが10万℃のブレスの威力だ。


 付け加えるとオロチはヒドラの変異種で、8つの首を持つ。

 そして8つ口の全てからブレスを吐く。

 だからオロチの戦闘力はブルーホワイトを遥かに超える。

 その、とんでもない戦闘力の化け物は。


「ヤロウども! インフェルノ連合会とやらに挨拶に行くぜ!」


 高い殺傷力を持つ手下を引き連れて、辺獄へと向かったのだった。








2022 オオネ サクヤⒸ

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