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   第百三十八話 訓練開始なのである!





「訓練開始なのである!」


 バオウの声が響き渡ると同時に。


 ビュビュビュビュビュビュビュビュビュビュビュビュビュビュビュビュ!!


 700キロ級ケンタウルス100人が放った矢が、和斗に降りそそいだ。

 矢は普通、放物線を描く。

 だが、ケンタウルスが放った矢の軌道は一直線。

 つまり、あり得ない速度の矢だというコト。


「いきなりマジかよ」


 和斗は、思わず呟く。

 しかし最初は驚いたが、飛んでくる矢の速度は音速を僅かに超えた程度。

 和斗には、止まって見える速度だ。

 だから。


 ぱしぱしぱしぱしぱしぱしぱしぱしぱしぱしぱしぱしぱしぱしぱしぱし。


 和斗は100本の矢、全てを指で摘まみ止めた。

 その光景に。


『な!?』


 700キロ級ケンタウルス100名は言葉を失い、その場に立ち尽くした。


「まさかこれ程とは……」


 バオウも、目を見開いて固まっている。

 そんなケンタウルスの組長にラファエルが声をかける。


「バオウ組長にはカズトさんの事は説明しておいた筈ですが……これで納得しましたよね? では訓練の本番、お願いしますね」

「うむ、承知したのである」


 バオウは顔つきを変えると、命令を下す。


「総員、1200キロ級と交代! 1200キロ級の戦士は、3段の弓を装備するのである!」


 バオウの言葉でケンタウルスが入れ替わった。

 明らかに今までの者より格上のケンタウルスだ。

 手にする弓も、一回り以上、大きい。

 700キロ級ケンタウルスが装備していた弓よりも強力に違いない。

 それを眺めながら、リムリアがラファエルに質問する。


「3段の弓ってナニ? ってか、これってどういう訓練なの?」

「ああ、3段の弓というのは、音速の3倍の速度で矢を射る事ができる弓の事ですよ。で、今回の訓練は……」


 ラファエルの説明によると。


 降り注ぐ多数の矢を、神霊力の鞭で斬り落とす訓練らしい。

 草刈りでは、切断力を持たせた神霊力の鞭を使用する訓練をした。

 枝打ちでは、その神霊力の鞭の切断力を更に強化。

 と同時に、より精密に操作する訓練を行うらしい。


「矢を見てください。1本1本、場所は違いますが、太さ1ミリほどの線があるでしょう? その線に沿って正確に矢を切断する。それが今回の訓練です」


 そう締めくくるラファエルに、和斗が苦笑する。


「そういうコトは先に言ってくれ」

「すみません。まあ神霊力の訓練だ、というコトは分かっている筈ですので、カズトさんがどんな反応をするのか興味があったのですが……まさか指で摘まんで止めるとは思いもしませんでした」


 ラファエルも苦笑で返すが、直ぐに真顔になる。


「でもカズトさん。今の攻撃にも反射的に神霊力で対応できるようになって貰う必要があります。マローダー改のレベルアップによって、カズトさんが光速で動けるようになる前に」

「あ」


 ラファエルの言葉に和斗はハッと気が付く。


「なあラファエル。チート転生の手首を全て倒したんだから、そのまま一気にチート転生者を倒すのが最善の策だったってコトだよな?」


 そう。

 和斗はチート転生者の手首と頭を全て倒した。

 というコトは、チート転生者の戦闘力は大幅に下がっている筈。

 それはチート転生者を倒す、絶好のチャンスだったのではなかろうか。


「でもそうなったら多分、俺の最高速度はマローダー改のレベルアップによって光速になるだろ? でも俺はまだ光速に対応できてないから、チート転生者より俺の訓練を優先してくれてるんだよな?」


 真顔で問う和斗に、ラファエルが微笑む。


「まあ、チート転生者を直ぐに倒しにいかない理由の1つはそうですね。でも直ぐに倒しに行かない理由は他にもあるんです。だからそんなコトは気にせず訓練に励んでください」

「それでイイのか?」


 尚も問う和斗にラファエルが笑みを深める。


「それでイイのです」

「分かった。じゃあ訓練を再開してくれ」


 和斗が答えると同時に。


「では訓練再開なのである!」


 バオウの号令が響き渡り。


 ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!!


 闘技場の縁に並んだ、100人のケンタウルスが走り出した。

 が、さすが1200キロ級。

 当然ながら700キロ級よりズット速い。

 その速度から。


「放つのである!」


 バオウの命令と共に、音速の3倍の速度の矢が発射された。

 全方向から撃ち込まれる、100本のマッハ3の矢。

 それはベテラン林業師でも対応できない攻撃だったが。


 ヒュオン!


 和斗が神霊力の鞭を一閃させると。


 パララララララララララララララララララララララララララララ。


 100の矢は綺麗に切断されて、地面に舞い落ちたのだった。


「ほう。まさか1回目で完璧に神霊力の鞭を使いこなすとは……やはりチート転生者の手首との戦いによるレベルアップの成果は、私の想像以上に大きかったみたいですね」


 ラファエルが、驚くというより呆れるが、その横で。


「20段のボウガンに装備を変更するのである!」


 バオウが、引き攣った顔で叫んだ。

 20段というコトは、音速の20倍の速度で矢を撃ち出すのだろう。


 ところで。

 マッハ20で矢を撃ち出す為には、それ相応の力で弓を引き絞る必要がある。

 しかし1200キロ級ですら、20段の弓を引き絞る力は持っていないらしい。

 だから予め矢がセットされたボウガンを使用するのだと思われる。

 弓矢とは、片手で弓を持ち、残った手で矢を引き絞る。

 いわば腕力で使いこなす武器だ。


 それに対して ボウガンを足で踏んで、弦を両手で引き絞り、矢をセットする。

 つまり全身の力で使いこなす武器だ。

 当然、発射できる矢の威力は、弓よりボウガンの方が遥かに強い。

 そのボウガンに矢をセットできる限界が、マッハ20なのだろう。

 そのケンタウルスが使用できる最強の武器から。


「放つのである!」


 バオウの号令と共に、100の矢が発射された。

 だが。


 ヒュオン!


 和斗の神霊力の鞭が一閃すると。


 パラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラ。


 切断された100の矢が、地面へと降り注いだ。

 それを目にしたバオウは、暫く立ち尽くしていたが。


「見事なのである!」


 クワッと目を見開くと、声を張り上げた。


「20段のボウガンとは、最強の林業師でも対処不可能な速度で矢を撃ち出すのである! なのに、こんなに簡単に、しかも100の矢全てを切り落とすとは驚きなのである! 口惜しくもあるが、天晴れなのである! 我らの完敗なのである!」 


 パン! パン! パン! と手を打つバオウに、ラファエルが声をかける。


「バオウさん、まだ終わりではありませんよ。カズトさんが、頭で考えるのではなく脊髄反射で矢を切り落とせるくらいまで、訓練を続けてください」

「むう、鬼であるな。しかし仕事で手を抜く事などあり得ないのである! こうなったらトコトン付き合うのである!」


 バオウが吹っ切れた顔で、そう口にした。

 と同時に、ボウガンを手にしたケンタウルスが現れた。

 そして、そのボウガンを1200キロ級ケンタウルスに手渡す。

 走りながらボウガンに矢をセットし直すのは不可能。

 だから矢をセットする者と、実際にボウガンを操作する者に分かれたのだろう。


 このやり方なら、1200キロ級ケンタウルスは、ボウガンを連射できる。

 発射したボウガンとセットされたボウガンを交換するだけでイイのだから。

 こうして、和斗の100の矢を切り落とす訓練が再会された。

 と思った瞬間。


「あ、そうそうカズトさん」


 ラファエルが、和斗に向かって声を上げた。


「今からは、体に神霊力を纏った状態で神霊力の鞭を操ってください。本来、枝打ちの訓練は、そうやって行うものですので」


 なるほど。

 和斗の防御力なら、マッハ20の矢などそよ風みたいなもの。

 何があってもダメージなど受ける心配など皆無だ。

 だから防御する必要など無いのだが、標準的な林業師は違う。

 したがって林業師が枝打ちの訓練を行う時。

 矢が当たっても怪我しないように、神霊力の鎧を身に纏うのが普通らしい。


「神霊力を纏った上で、飛来する矢も意識する前に切り落とせるようになれば、無意識のうちに神霊力を纏えるようになる日がグッと近づきます。さあ、頑張りましょう」


 というコトで。

 和斗は矢を切り落とす訓練をひたすら続けるコトになったのだった。


 そんな和斗を眺めながら、リムリアがラファエルを突く。


「ねえラファエル。ボクも枝打ちの訓練、したいんだけど」


 そんなリムリアに、ヒヨとキャスも声を上げる。


「ヒヨもするですぅ!」

「ワタシも」

「そう言うと思いました。でもリムリアさんやキャスさんやヒヨなら、直ぐに出来るようになるでしょう。リムリアさんは魔力操作に慣れているし、キャスさんは最初から操作する機能を持ってますし、ヒヨもベールゼブブの能力の一部を持っているのですから。だから皆さん、今はカズトさんの訓練を優先させてください」

「ご主人様の為ならイイですぅ!」

「カズト様の為なら」


 ヒヨとキャスが声を揃えるが、リムリアだけは、更に質問する。


「でもナンで? 交代で訓練したって問題ないんじゃない?」


 首を傾げるリムリアに、ラファエルが耳打ちする。


「チート転生者を倒しにいかない理由は、ホントの事を言うと、やっぱりカズトさんが光速に対応できないからです」

「あ、やっぱり?」


 何となく分かっていたのだろう。

 リムリアは、その一言で納得した。

 そのリムリアに、ラファエルが更に続ける。


「カズトさんが言ってたように、チート転生者を倒してマローダー改がレベルアップしたら、カズトさんの最高速度は光速を超える筈です。なのでカズトさんには一刻も早く光速で動けるようになっても周囲に被害を出さないよう、神霊力を無意識で纏えるようになってもらう必要があるのです」

「それってとんでもなく難しいんじゃない?」


 眉間にシワを寄せるリムリアに、ラファエルが微笑む。


「いえ、物凄く簡単な事です。カズトさんは既に、とんでもない神霊力を持っています。その神霊力を、ほんの少しだけ体から滲み出すようにすればイイだけなのですから」

「そ、そうなの?」


 目を丸くするリムリアに、ラファエルは真顔で頷く。


「はい。カズトさんが体内に宿す神霊力は、リムリアさんが想像しているより遥かに大きいのです。というより、そのとんでもない神霊力を全く体の外に漏らさないコトの方が、驚きなんですけど」

「へ、へえ、カズトって凄いんだ」

「そりゃあそうですよ。なにしろ至高神様が選んだ人なんですから」

「へへ、ちょっと嬉しいかも」


 などと話すリムリアとラファエルから少し離れた場所では。


「これってヤバいんじゃないか?」


 ケンタウロス一家が、顔を青くしていた。


「話には聞いてたけど、あのカズトってヤツ、とんでもないぞ!」

「ああ、100本のマッハ20の矢にも平気な顔してるなんてな」

「というより、ナンだよ、マッハ20の矢で訓練するって!?」

「普通、音速でも手こずるだろ!?」

「それを言うなら、超一流の林業師でも、訓練で使う矢は30本くらいだぞ!」

「有り得ない戦闘力だぜ」

「なあ。ひょっとしてオレ達全員で矢を撃ち込んでも平気なんじゃないか?」

「いや、ひょっとしなくても平気だろ」

「ってか見れば分かるだろ、とんでもない戦闘力だってくらい」

「いや、逆にどれほど差があるか、凄過ぎて理解できないわ」

「そうだな。アリに湖と海の違いなんて分かんないもんな」

「でもそれって、ケンタウロス一家総出でも勝てない、ってコトだよな?」

「そりゃあそうだろ、邪悪な手首を瞬殺したんだから」

「しかも100もの手首を相手に」

「どんだけ強いんだよ……」

「それに、ウェポンタイガー一家とケルベロス一家の話、聞いただろ?」

「カズトから盃を降ろして貰ったんだろ?」

「って事は、その2つの組と揉めたらカズトを敵に回すって事か?」


 何気ない一言に、その場の全員の顔から血の気が失われる。


「それって激ヤバだよな?」

「ウェポンタイガー一家とケルベロス一家だけでも手強いのに……」

「カズトまで加わったら、負け必至じゃねぇか」

「いや、カズトに逆らった時点で一家は消滅するだろ」

「つまりウェポンタイガー一家とケルベロス一家には逆らえない、ってコトか」


 沈んだ声と共に、ケルベロス達が黙り込んでしまう中。

 1人のケルベロスがバオウに尋ねる。


「組長。これってケンタウロス一家最大の危機なのではありませんか?」

「うむ。実はアーマーミノタウルス一家の組長からも同じような話を聞いておるのである。このままではウェポンタイガー一家とケルベロス一家に頭が上がらなくなるのではないか、と」

「アーマーミノタウルス一家の組長と? ひょっとして組長はアーマーミノタウルス一家と手を組む気ですか? ウェポンタイガー一家とケルベロス一家に対抗する為に」

「ウェポンタイガー一家とケルベロス一家だけが相手なら、それでも良いのであるが、カズト殿がいる時点で対抗する事など不可能なのである。それはお前も分かっている筈なのである」

「そ、それはその通りですが……なら組長は、どうするツモリなんです?」


 一層心配そうな顔になる組員に。


「うむ。それをアーマーミノタウルス一家の組長と相談するのである」


 バオウは、それだけを口にして黙り込んだのだった。








2022 オオネ サクヤⒸ

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