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   第百三十七話  枝打ち






 和斗達が草刈りの訓練を終えて立ち去った後の第4圏では。


「さっきの見たか……」

「おう、噂のカズトだろ……」

「第3圏を支配してた邪悪な手首を瞬殺したと聞いてたけどよぉ……」

「噂は本当だったんだな……」

「アタシは話がデカくなってるダケだと思ってたんだけど……」

「でも実物を見て心の底から理解させられたぜ……」

「その通りだ。ありゃあバケモンだよ……」

「そうだな、噂の方が控えめだったんだ……」

「俺なんか、カズトが視界に入った瞬間、死を覚悟したぜ……」


 アーマーミノタウルス達が顔を青くして震えていた。

 が、その中の1人が。


「それにナンだよ、あの草刈りの威力!」


 ヤケクソ気味に声を張り上げると。


「そうだ、尋常じゃねェぞ!」

「あれほどスッパリと切断された金剛水晶、オレ初めて見たぜ!」

「しかも射程範囲5キロって、ナンの冗談だよ!」

「最強の林業師でも500メートルが限界なのに!」

「それに精度もとんでもなかったぞ!」

「おう! 俺の体から数ミリのトコを斬り裂いていったぞ!」

「アタシなんかコンマ数ミリだったっての!」


 次々と興奮した声を上げていった。

 しかし。


「しかも神霊力ブレーカーを使って、あの威力だぞ! 信じられるか!?」


 この1言でシンと静まり返る。


「し、神霊力ブレーカーだと……」

「神霊力ブレーカーを使って、あの威力なのか……」

「じゃあブレーカー無しだったら、どれ程の威力を発揮するんだ……」

「おいおいおい、今でさえ林業師を遥かに超えてるんだぞ……」

「なのにソレがブレーカーを使った状態だとぉ……」

「シャレになんねぇぞ……」

「オレ、自分の装甲にゃあ絶対の自信があったんだけど……」

「ああ。あの神霊力に耐える自信、オレには無ェよ」

「ってか、アルテマ級でも間違いなく真っ二つにされるな……」

「でもムルオイ組長なら耐えられるんじゃないか?」


 最強の防御力を誇るゴッドアーマーと呼ばれるアーマーミノタウルス。

 それがアーマーミノタウルス一家の組長、ムルオイだ。

 経験値を表示するとこうなる。


            アーマーミノタウルス種


 ハードアーマー                 1000万

 ヘビーアーマー                 2000万

 グレートアーマー                4000万

 アルテマアーマー                6000万

 ゴッドアーマー(ムルオイ)          15000万


 つまり数字上、とんでもない防御力の誇るムルオイだったが。


「バカ言うんじゃねぇよ」


 そのムルオイは、青い顔で首を横に振った。


「オマエらの実力じゃ分からねぇかもしれねぇが、アリャあ本物のバケモンだ。辺獄の林業師全員を瞬殺できるぐらいのな」

「ホントですか!?」

「ま、まさか……」

「信じられねぇ……」


 言葉を失う組員に、組長が自嘲的な笑みを浮かべる。


「仮にワシが1万人並んで立ってても、簡単に撃ち抜かれる。それくらいヤバい攻撃力をアイツは持ってるぜ。いや、それ以上だな。おそらくアイツがその気になった瞬間、辺獄は消滅するだろうな。それくらいトンでもないヤツだぜ、あのカズトってヤロウはよぉ」


 最後には空を仰ぎ見るムルオイに。


「それってマズイんじゃねぇッスか?」


 1人のアーマーミノタウルスが声を上げた。


「その辺獄じゃあ誰1人として敵わねぇ最強のカズトに、ウェポンタイガー一家とケルベロス一家は親子盃を降ろして貰ったんスよね?」

『!』


 その1言で、アーマーミノタウルス一家全員が凍りつく。

 親子盃を降ろして貰う、というコトは親子になる、というコト。

 それはアンダーグラウンド組織において特別な意味を持つ。


 子は親の為なら命を賭す事も厭わない。

 が、子が忠誠を尽くすぶん、親は子を全力で護る。

 つまり子と敵対する、というコトは親と敵対する事を意味する。

 だから。


「もしまたウェポンタイガー一家が縄張り争いを仕掛けてきたら……オレ達、瞬殺されるんじゃねぇッスか?」


 誰かが漏らした言葉に、アーマーミノタウルス一家は立ち尽くしたのだった。








 なんて出来事が第4圏であったコトなど知る筈もなく。

 昼食を終えた和斗達は、ラファエルの力で第5圏に転移していた。

 第5圏も第3圏と同じく、荒野が広がる地だ。

 そしてこの地に生息している最強の種はケンタウルスらしい。


 もちろん普通のケンタウルスではない。

 下半身が8歩足の馬=スレイプニルの、オクトケンタウルスだ。

 身長(?)は6メートルくらい、体長は8メートルくらいか。

 人間部分にも馬部分にも鎧を装着しているから、身体つきはよく分からない。

 が、鎧から覗く人の腕も馬の足も、鋼のように鍛え上げられている。


 そんなオクトケンタウルスがズラリと整列しているのは。


「円形闘技場?」


 和斗が呟いたように、直径300メートルほどの円形闘技場だ。

 しかし観客席はない。

 すり鉢状に周囲がせり上がっているだけ。

 そして、そのすり鉢の縁にあたる場所の幅が、やけに広い。

 幅5メートルを超えている。


 変わった造りだが、何か理由があるのだろう。

 とにかく、この円形闘技場が枝打ちの訓練場と思われる。


「で、ここで何の訓練するの?」


 リムリアが呑気な声を上げた。


「枝打ちです」


 即答するラファエルに、リムリアがシンプルな質問を口にする。


「何それ?」

「植えた結界樹の枝を切り落とすのです。この作業によって、結界樹は節のない木材に仕上がるのです。もちろん全ての枝を切り落とすと結界樹といえども枯れてしまいますので、上の方の枝は残しますけど」


 というラファエルの説明に、リムリアが首を傾げる。


「木材? 結界樹って、植物系モンスターの進攻から現世を守る為に植えてるんじゃなかったの?」

「もちろんメインの目的はそうです。でも結界樹は素材としても希少なモノでもあるので、その1部を有効利用するのです」


 ラファエルの説明によると。


 苗植えでは、結界樹の苗を1メートル間隔で植える。

 が、大きく育てば、1メートル間隔だと狭くなってしまう。

 そして間隔が狭いと、結界樹は十分に育たない。

 まあ、それはどんな樹木も同じだが。

 だから余分な結界樹は斬り倒して、木と木の間隔を広げていく。


 これを間伐というが、間伐した結界樹は素材として売り払う。

 当然ながら素材の質が良いほど売買額は高い。

 その素材の品質を上げる為に必要な作業。

 それが枝打ちだ、とのコト。


「つまりやってもやらなくてもイイ仕事なんじゃないの?」


 リムリアの素直なツッコミにラファエルは苦笑する。


「まあ、そう言ってしまえばそうなのですが、この辺獄の運営の為の費用を稼ぐ必要もありますので、これも重要な仕事なんです。それに高度な神霊力の使い方を習得する為には欠かせない訓練でもあります。頑張ってください」

「ふ~~ん。で、どんな訓練するの?」

「まあ、オクトケンタウルスの皆さんに集まってもらっているから察しはつくと思いますが、彼らの力を借ります。ちなみに700キロ級のオクトケンタウルス100人に集まってもらいました」


 リムリアの質問に、ラファエルが1枚の紙を差し出した。



               オクトケンタウルス種

    200キロ級                800万

    400キロ級               1800万

    700キロ級               3500万

   1200キロ級               7200万

組長=2200キロ級              13000万



「キロ級? なにコレ? 体重?」


 リムリアの言葉にラファエルが苦笑を浮かべる。


「いえいえ、これは走行速度ですよ。時速200キロで走れるケンタウルスの経験値は800万くらい。時速2200キロで走れるケンタウルス一家の組長なら経験値1億3千万くらい、というコトです」

「つまり速く走れるほど経験値が高い、ってコト?」


 リムリアの言葉に、ラファエルが真剣な顔で頷く。


「当然です。速いというだけで戦いを有利に進める事が出来ますし、速さは破壊力に直結します。そして付け加えると、速く走れるというコトは、その速度まで加速する筋力がある、というコトです。つまりケンタウルスは、とんでもないパワーの持ち主でもあるのです」


 700キロ級について説明してみよう。

 時速700キロといえば、火縄銃の弾の速度に匹敵する。

 そんな速度で激突されたら、人間など一たまりもない。

 走りながら武器を振るわれたら、軍隊ですら壊滅するだろう。


 そして時速1200キロともなると、ほぼ音速だ。

 この速度を相手に戦える生物など、直ぐには思いつかない。

 ましてや時速2200キロ級の組長と戦える生物など存在するのだろうか?


「まあ、拙者なら時速1000キロであろうが時速3千キロであろうが、一刀両断にしてみせるでござるが」


 おっと、ここにいた。

 トツカが、自信満々でそう口にしている。


「オレだって、時速2千キロ程度に負ける気しないぞ」


 張り合うザガンに、リムリアがツッコむ。


「そう? ザガンって、そこまで強かったかな?」

「いやリムリアの姉御、以前はそうでしたけど最近、自分でも驚くほど強くなったんですよ」

「へえ。何でだろ?」

「いや、それをオレに聞かれても……ただオレに分かるのは、以前よりもズット強くなった、って事です。絶対にカズト様のお役に立てると確信するほどに」


 というザガンの言葉にトツカが反応する。


「ほう、ザガンもでござるか。実は拙者もそうなのでござる。以前の自分を遥かに超える戦闘力を得たでござる」

「トツカの姉さんもそうか。何でだろな?」

「どうしてでござろう?」


 仲良く首を傾げるトツカのザガン。


 ついでに言っておくと。

 トツカもザガンも和斗の子なので2人の関係は姉弟、とのコト。

 和斗に仕える姉弟同士、仲良くやるのが当然らしい。

 だからザガンはトツカを姉さんと慕い。

 トツカはザガンを頼りになる弟分として可愛がっている。


「ま、理由なんかどうでもいいよな」

「そうでござるな。ケンタウルスなど敵ではないほど強くなった。それだけで十分でござろう」


 などと軽い口調で言い合うトツカのザガンだったが、そこに。


「言ってくれるではないか、ウェポンタイガーとケルベロスごときが」


 威圧的な声が割り込んできた。

 整列しているケンタウルスの中で、1番立派な鎧を装備した男だ。


「まず名乗らせてもらうのである! 我輩はケンタウルス一家の組長、バオウなのである!」


 このバオウと名乗った男が、ケンタウルス一家の組長らしい。

 ……妙に暑苦しい喋り方だが、これがケンタウルスの話し方なのだろうか?

 まあ、それはさて置き。


「我輩の参考経験値は1億3千万! ウェポンタイガー一家の組長やケルベロス一家の組長よりも、遥かに高い数値なのである! 負ける気がしないのは、我輩の方なのである!」


 尚も暑苦しく言い放つバオウに、トツカがフンと鼻を鳴らす。


「今、其方も『参考』経験値と口にしたでござろう? 経験値はあくまで参考。実際の強さとは別物でござる」

「ほう。それはケンカを売っていると解釈していいのであるか?」


 トツカの挑発に、バオウが身に纏う圧を高める。

 が、そこに。


「まあまあ、落ち着いて下さいバオウさん。アナタ達オクトケンタウルス族の1番重要な仕事は、林業師の訓練に協力する事でしょう?」


 ラファエルが穏やかな声で割り込んだ。


「まずは、このカズトさん達の訓練に手を貸してくれませんか?」

「うむ。オクトケンタウルスが、何もかもが不足している第5圏でも生活していられるのは、林業訓練に協力する事によって得られる物資があるからなのである。よって林業訓練を最優先するのはケンタウルス一家の組長の務めなのである」


 バオウはアッサリと言い争いを止めると、仲間へと向き直る。


「では戦士達よ! 枝打ち訓練の準備に取り掛かるのである!」


 その一言で、ケンタウルス100人は速やかに移動を開始。

 闘技場の縁部分に駆け上がった。

 そして一定間隔に整列すると、弓を構え。


 ドドドドドドドドドドドドドドドドド!


 間隔を保ったまま、闘技場の縁を駆け巡る。


 なるほど。

 どうして闘技場の縁の幅が5メートルもあるか不思議だったが。

 どうやらケンタウルスが駆け巡る為らしい。

 まあ、それはイイとして。

 このドコが枝打ちの訓練なのだろう? 

 と不思議に思う和斗に。


「ではカズトさん、あそこに移動してください」


 ラファエルが闘技場の中心を指差した。


「あ? ああ……」


 とりあえず言われた通りにしてみると。


「訓練開始なのである!」


 バオウの声が高らかに響き。


 ビュビュビュビュビュビュビュビュビュビュビュビュビュビュビュビュ!!


 100本の矢が和斗へと撃ち込まれたのだった。






2022 オオネ サクヤⒸ

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