第十三話 いいから撃ってみろ
和斗が感心している間にもリムリアは狙撃を続けていた。
ド! ド! ド! ド!
「が!」
「ご!」
「ぎ!」
「ひ!」
Ⅿ2重機関銃が火を吐く度に、ワーウルフが千切れ飛んでいく。
が、最初は何が起こっているか分からなかったワーウルフ達も、8人が撃ち倒されたところでマローダー改によって狙撃されている事に気付いたらしい。
城壁に設置された巨大な鉄の扉が開き、ワーウルフの群れが飛び出してきた。
「ドラクルの聖地を攻撃してきた愚か者め、覚悟しろ!」
「仲間の仇だ、ぶち殺してやる!」
「見慣れぬ鉄の塊だが、ハイ・ワーウルフの爪は鉄でも引き裂くぞ!」
口々に叫びながら一直線に突進してくるハイ・ワーウルフの1人に照準を合わせながら、リムリアが冷めた口調で呟く。
「ハイ・ワーウルフ20人による突撃か。人間の兵士2万人くらいなら簡単に殲滅できる戦力だけど……残念だったね。絶好の的だよ」
ド! ド!
「ぎゃ!」
「ぐわ!」
先頭を切って走っていた2人のハイ・ワーウルフが、胸を打ち抜かれて地面に倒れ伏した。
しかし敵の反応も早い。
「直進するな!」
「ジグザグに進め!」
「一ヶ所に集まるなよ!」
銃など知らないくせに、的確な判断で突撃してきた。
「カズト! 動きが速すぎて、上手く当たらないよ!」
焦った声を上げるリムリアに、和斗は冷静に指示する。
「チェーンガンに切り替えたらいい」
「ええ!? チェーンガンだって当たらないよ!」
「いいから撃ってみろ」
「わかったよ!」
ヤケクソ気味にリムリアがチェーンガンを発射した。
やはりハイ・ワーウルフに命中させる事はできなかったが。
「うわ!」
「ぐお!」
「ぎゃ!」
「これは爆裂の魔法!?」
直撃していないにも関わらず、ハイ・ワーウルフがバタバタと倒れていく。
「どうなってるの?」
理由を教えて、と目で問うリムリアに、和斗はニヤリと笑う。
「チェーンガンが発射する弾丸は、ベレッタやⅯ16と違って小さな爆弾みたいなものなんだよ。つまり着弾すると爆発して、沢山の破片を撒き散らすんだ」
その破片により、着弾点の半径4メートルは殺傷圏内となる。
ましてや30倍に強化された今のチェーンガンなら、少々狙いが外れても簡単に撃ち倒せるワケだ。
「チェーンガンって、そんなに恐ろしい武器だったんだ。ちょっと気の毒になってきたな」
リムリアはそう口にしながらも、チェーンガンのコントローラーを握り直す。
「でも、ごめんね。ヴラドに味方する以上、キミ達を倒すしかないんだ」
ガガガガガガガガガ!
『ぐわぁぁぁぁぁぁぁ』
リムリアがチェーンガンで薙ぎ払うと、ハイ・ワーウルフ達は爆発による破片を浴びて倒れていった。
それでも、さすがはハイ・ワーウルフ。
倒れた半数くらいは、血塗れになりながらも立ち上がってこちらに向かってくる。
しかし動きの鈍ったハイ・ワーウルフなど射撃の的と変わらない。
結局。
ド! ド! ド! ド! ド!
「ぐ!」
「が!」
「ひ!」
「ご!」
「ちくしょう……」
リムリアの機械のように精密な狙撃によって頭を撃ち抜かれ、ハイ・ワーウルフの群れは僅か5分で全滅したのだった。
「さてと。次はどう出て来る?」
ドラクルの聖地を守っているワーウルフは100人くらいだ、とリムリアは言った。
そのリムリアの考えが正しかったなら、まだ70人のワーウルフが残っている筈だ。
まだ半分も倒していない。
勝負はこれからだ。
そう和斗が気を引き締めた直後。
1人の男が鉄扉から姿を現した。
年齢は30歳くらいだろうか。
野生的で暴力的な空気を身に纏っており、獰猛そうな目は血走っているが、ワーウルフとも思えない。
「あれはひょっとして、ドラクルの一族?」
思わずそう漏らした和斗に、リムリアが緊張した声で答える。
「うん。しかも正ドラクルだよ」
「それって、つまり?」
「世界最強クラスの魔法の使い手、って事だよ」
そう口にすると同時にリムリアがⅯ2重機関銃を発射するが。
バキン!
弾丸は目に見えない何かによって跳ね返されてしまった。
「思った通り、凄く強力な魔力障壁を展開してる。ヴラドの手下の中でも、かなり高位の正ドラクルだと思う」
悔しそうなリムリアに、和斗が鋭い声を上げる。
「チェーンガンだ!」
「うん!」
しかしリムリアがチェーンガンで狙うよりも早く、正ドラクルの男が叫ぶ。
「我が名はバーニー! ヴラド様の直属戦闘部隊の第5席だ! オレが守っている街を攻撃してきた事を後悔するがいい! ファイヤーボール!」
バーニーが『ファイヤーボール』と口にすると同時に、焔の玉がマローダー改に向かって撃ち出された。
「お! これが魔法か、初めて見た!」
和斗が大声を上げる間にも、火の玉はかなりの速度で迫ってくる。
が、マローダー改の装甲にダメージを与える程とは思えない。
だから和斗が、敢えて焔の弾を受けてみると。
ぼふん!
マローダー改に着弾した焔の玉は、アッサリと消滅した。
「やっぱりか。マローダー改の耐熱温度は、限界までアップさせているから大丈夫と思ってたけど、少しドキドキしたぜ」
ホッとする和斗の耳に、バーニーの取り乱した声が飛び込んでくる。
「鉄すら溶かすオレのファイヤーボールを受けたのに平気だと!? なら今度は、鉄すら蒸発させる攻撃魔法を叩き込んでやる! ファイヤーアロー!」
バーニーが今度は焔の矢を放ってくるが、これもマローダー改の装甲に当たって呆気なく消滅した。
ちなみに鉄が溶ける温度は1535度で、蒸発する温度は2863度だ。
そしてマローダー改の耐熱温度は300万度にアップさせている。
鉄を溶かす程度の温度でダメージを負う筈もない。
「ファイヤーランス! ファイヤーキャノン! ファイヤーストリーム!」
バーニーが様々な攻撃魔法を連発する。
魔法の名前からすると、魔法の威力はどんどん強力になっていってるみたいだが。
「よし、完璧に焔の攻撃は防御してるな」
ビクともしないマローダー改に、和斗は満足そうな声を漏らした。
「うん。これなら心配いらないね」
リムリアも感心するが、そこでバーニーがニチャリとした笑みを浮かべる。
「成程なァ。焔に対する耐性が異常に高いというわけか。しかし焔に耐性を持つモノは冷気に弱いのは常識だ! 食らえ、アブソリュートブリザード!」
バーニーが放ったのは、かなり強力な冷気の攻撃魔法だったのだろう。
しかし耐寒性能もアップさせているマローダー改はビクともしない。
「チクショォォォォォォォォ! 焔だけでなく冷気の攻撃魔法も無効だとぉ、ふざけやがってぇぇぇぇぇぇぇ! クソォ! クソォォ! クソォォォォォォォ!」
バーニーは何度も地面を蹴りつけた。
が、そこでバーニーが不意に笑い出す。
「くく……くくくく……くくくくくく。良かろう。オレが使える最強の攻撃魔法を食らわしてやる。行くぞおおおおおおおおお! メガサンダー!」
バーニーが叫び、そして天から稲妻がマローダー改に降りそそいだ。
「ソレは金属で出来ているのだろう? もしもソレが雷撃に耐えたとしても、電撃は中の者を直撃する! 金属を伝った雷撃で、黒焦げになるがいい!」
バーニーが勝ち誇るが、普通の雷は数千万ボルトから2億ボルト。
それに対してマローダー改の耐雷性能は100億ボルトにアップさせている。
この程度の落雷でダメージを受ける筈がない。
もちろん絶縁性能も完璧だ。
なら、このままバーニーの魔力が尽きるまで攻撃させておいてもイイ。
イイのだが、勝ち誇ったバーニーの顔が気に入らない。
ここはサンダーの魔法など全く効いてない事を思い知らせてやろう。
「リム、Ⅿ2重機関銃で狙撃してくれ」
「了解」
ドドドド!
Ⅿ2重機関銃の弾丸を魔力障壁に受けて、バーニーが目を見張る。
「なんだと! 何故、反撃できる!? ま、まさかヴラド軍のナンバー5であるオレの最強攻撃魔法が、効いていないというのか!?」
今のセリフからして、どうやらバーニーは、メガサンダーより強力な攻撃魔法は使えないらしい。
これ以上バーニーの魔法攻撃を受けても耐久性能の実験にならないだろう。
なら、ここからはマローダー改の武器の威力実験だ。
「リム。チェーンガンを連射してみてくれ」
バーニーの物理障壁魔法は強化されたⅯ2重機関銃の弾丸を跳ね返した。
では強化されたチェーンガンならどうだろう。
「了解」
ガガガガガガガガガガガガガガガ!
「ぬお!」
チェーンガンの攻撃に、バーニーの顔色が変わる。
が、それでもチェーンガンで魔力障壁を撃ち抜く事は出来ないようだ。
「驚いたな。50ミリの装甲を撃ち抜くチェーンガンが30倍に強化されているのに、撃ち抜けないのか。なら」
そう呟きながら、和斗はリムリアに視線を向ける。
「リム、アレを使ってみろ」
「へ? あ、アレか! よーし!」
和斗から手渡されたコントローラーをキュッと握り締めると、リムリアは弾んだ声を上げる。
「戦車砲射撃は初めてだね!」
「そうだ。リム、ブチかませ」
「うん! いっくぞぉ!」
リムリアは戦車砲塔の照準をバーニーに合わせると。
ドカァァァン!
120ミリ滑空砲を発射した。
120ミリ滑空砲のエネルギーはⅯ2重機関銃の400倍もある。
その桁外れの威力を誇る砲弾は、バーニーの魔力障壁に有効だろうか?
と、和斗は興味津々で見つめていると。
パキィン!
120ミリ滑空砲の砲弾は、妙に澄んだ音と共にアッサリと障壁を撃ち砕いたのだった。
「なんだとぉ!? オレは第5席だが、防御魔法に関してなら、直属部隊でナンバー1なんだぞ! そのオレ様渾身の魔法防御壁が、こんなに簡単に!?」
絶叫するバーニーを無視してリムリアが叫ぶ。
「ごめんカズト! 防御壁を破壊した事で、砲弾の軌道がズレちゃった!」
「いいから次弾発射だ!」
「分かった!」
30倍に強化されているのは威力だけではない。
装填速度もアップしている。
だからリムリアは驚く程短い時間で、2発目を発射した。
ドカァァァン!
バーニーは第五席を名乗るだけあって、実戦経験も豊富だった。
だから破壊されると同時に、防御障壁の再構築に取りかかっていた。
が、それよりも早く発射された砲弾がバーニーの体を撃ち抜いた。
リムリアによると、ドラクルの一族の肉体的強度はそれほど高いものではないらしい。
その強度が余り高くない肉体を戦車砲に直撃されたバーニーの肉体は、拍子抜けするほど呆気なく消滅した。
まさに一瞬の事だったので、きっとバーニーは自分が死んだ事にも気付かなかっただろう。
「うーわー。まさしくオーバーキルだな」
和斗はバーニーが立っていた場所を眺めながら、そう呟いたのだった。
2020 オオネ サクヤⒸ