第百二十九話 ってマジかよ!
思い通りに動き回る50機のF15と100機のアパッチを見上げながら。
「想像してたより簡単に操れたな」
和斗は呟いた。
それを聞きつけたリムリアが。
「当然じゃん」
なぜか自慢げに胸を張る。
「だってマローダー改が操れるドローンの数は3800もあるんでしょ? そしてカズトのステータスはマローダー改の30パーセントなんだから、1140機までなら操れて当たり前だもん」
「まあ、そんなに単純なモンでもないけどな」
苦笑する和斗の背中を、リムリアがパァンと叩く。
「でもたった30分で完璧に操れるようになったのは、自慢できるコトだと思うケド?」
リムリアのセリフに、和斗は肩をすくめてみせる。
「だったらイイんだけどな」
そんな和斗の答えに、今度はリムリアが苦笑する。
「心配性だなぁ」
「武道ってモンは、そんなモンさ。100点満点なんかない。常に極限の更に先を求めて鍛え続けるのさ」
「ストイック過ぎ」
リムリアがウェ~~、と声を漏らすが、そこで。
「そんな性格だからこそ、カズトさんは至高神様の目に敵ったのですよ」
ラファエルが穏やかな声で割り込んできた。
「神を超える力を得ても、その力に驕る事なく更なる高みを目指して修練を重ねていける人物と見抜いたからこそ、無限に進化するマローダー改の持ち主に抜擢したのです」
「え!? そ、そうなの!?」
目を丸くするリムリアに、ラファエルがヘロッと笑う。
「じゃないかな~~、と私は考えてるんですけどね」
「なぁんだ」
リムリアが興味をなくすが、それを気にする事なくラファエルは。
「ではカズトさん。そろそろアークハンドとアークヘッドのセットとの戦いに向かいましょうか」
和斗に爽やかな笑顔を向けたのだった。
「武道に100点満点などないという考えは、私も素晴らしいと思いますが、カズトさん。出来る事は全てやったのでしょう?」
ラファエルの言葉に和斗が答えるより早く、リムリアが胸を張る。
「もちろん! 今できる事は全てやったよね、カズト」
リムリアはニッと笑ってから、表情を引き締めた。
「じゃあもう1回確認すとくけど、アークハンドとアークヘッドのセットとの戦いはカズトが先頭に立つ。ボク等は防御に専念。ボクは防御魔法と神霊力の組み合わせで、キャスは神霊力もプラスした防護フィールド、ラファエルは何かワケ分からない守る力で」
「ワケ分からないって、天使の力ですよ」
苦笑するラファエルを無視して、リムリアはヒヨに目を向ける。
「次はヒヨだけど、ヒヨはボクの指示で攻撃してみて。暴食の力で、かなりの力を貯め込んだでしょ?」
そう。
暴食の力の事を聞いて以来、ヒヨには膨大な量の料理を食べさせていた。
おそらくだが、前回発揮した力の10倍以上はチャージしている筈だ。
「もちろんボクもキャスも、隙があったら攻撃してみるけど、とりあえずは安全を第一に。でイイよね、カズト」
「そうだな」
リムリアの確認に、和斗は頷く。
ここでどれ程考えようが、どんな戦いになるか全く予想も付かない。
敵の能力も戦闘力も、全く分かってないのだから。
だから細かな役割など決められないし、決めても仕方ないだろう。
そんなワケで今出来る事は、大まかな役割を決める事くらいだ。
という状況を十分に理解しているのだろう。
ラファエルが全員を見回しながら声を上げる。
「つまり準備万端というコトですよね。では第3圏へと向かいましょうか。転移先は、アークハンドとアークヘッドのセットの手前30メートル地点です。いきなり戦闘が始まる事になると思いますが、皆さん。心の準備はイイですか?」
そしてラファエルは、誰も反対の声を上げない事を確認すると。
「ではいきますね」
転移を発動させたのだった。
「ってマジかよ」
第3圏に転移するなり、和斗は呟く。
『考えうる最悪の状態は、アークハンドとアークヘッドのセット17組と、レッサーハンドとレッサーヘッドのセット20組が現れる事です。あ、カズトさんが1体倒したから、レッサーハンドとレッサーヘッドのセットは19組と半端が1組ですね』
というラファエルの言葉通り。
73の手首と37の頭が、臨戦態勢で待ち構えていたからだ。
「転移がバレてたの!?」
リムリアが叫びながらも、神霊力と防御魔法を展開する横で。
「いえ、あれからずっと臨戦態勢で待ち構えていたのでしょう! なにしろコイツ等は戦闘の為だけのパーツみたいなモンですから!」
ラファエルも叫びながら天使の力で防護フィールドを展開する。
もちろんキャスもだ。
その直後。
ドカドカドカドカドカドカドカドカン!
リムリア達が張り巡らせた防護フィールドに隕石が降り注いだ。
レッサーハンドが撃ち出した、10メートル級の隕石だ。
が、降り注ぐのは、それだけではない。
ドカンドカンドカンドカンドカンドカンドカンドカン!!
直径40メートルを超える隕石が混ざっている。
アークハンドが撃ち出した隕石だ。
ちなみに直径10メートルの隕石の質量は1万トンほど。
対して直径40メートル超の隕石の質量は100万トンもある。
つまりアークハンドの攻撃力はレッサーハンドの100倍だ。
「さすがアークの名が付いてるだけあって、レッサーとは格が違うかぁ」
リムリアの呟きに、ラファエルが苦笑を浮かべる。
「でも、この程度の攻撃ならリムリアさん1人でも平気なレベルですよね」
そう。
マローダー改のレベルアップにより、リムリアのステータスもアップした。
単純な力比べなら、ラファエルを一蹴できるほどのレベルに。
「いくら至高神様のお決めになった事とはいえ、少し嫉妬してしまいますね」
ラファエルは小さく呟いてからブンブンと頭を振る。
「いやいや、いけませんね。与えられた役目をキッチリとこなしもしないで不満を口にするなど、天使にあるまじきコトでした。反省しなくてはなりませんね」
そしてラファエルは、視線を和斗へと移す。
「私は私の役割を果たします。カズトさんはカズトさんの役割を、存分に果たしてくださいね」
という言葉など聞こえる筈もないが。
「おらぁ!」
その時にはもう、和斗はマローダー改を身に纏って攻撃を開始していた。
今のマローダー改のステータスは、とんでもない。
装鎧状態で殴れば星すら打ち砕くだろう。
というコトで和斗は。
「むん!」
まずは手加減無しの正拳を叩き込んでみたのだが。
ドッカァン!
「うお!?」
和斗は側面からの衝撃によって、弾き飛ばされてしまった。
正拳突きが命中する前に。
「装鎧状態で放つ正拳突きよりも速い?」
和斗は思わず呟くが、直ぐに有り得ないと結論する。
なにしろレベル130のマローダー改の最高速度は時速3億キロメートル。
秒速にすると8万3333キロメートル。
これは光速の27パーセントに達する速度だ。
そんな超高速の1撃よりも速く攻撃する。
などという事が可能とは、とうてい思えない。
どういう事だろう?
という考えが一瞬で頭の中を駆け巡るが、そこに。
――装鎧状態の視界は360度と伝えましたよね?
しっかり周囲を確認しながら戦ってください。
サポートシステムの声が聞こえてきた。
丁寧だが、額に青筋が浮かんでいるのが目に浮かぶ声だ。
「悪い。頑張る」
刹那を争う状況なので、和斗はそれだけ口にすると周囲に目を向ける。
すると。
「蜘蛛の巣?」
思わず口にしたように、蜘蛛の巣のような何かが体に絡み付いていた。
しかもその先には隕石がくっ付いている。
「ち、やられた」
和斗は一瞬で事態を理解して舌打ちした。
戦闘が始まる前に、蜘蛛の巣を張り巡らせておく。
おそらく煉獄力によって造られた、伸び縮みする糸で。
そのゴムみたいな糸に絡まった相手が高速で動くと。
糸にくっ付いた隕石が、反動で相手に向かってぶつかる寸法だ。
つまり簡単に言うと。
ゴムにくっ付いた石が、動いた反動でぶつかってきたワケだ。
「やっぱり考える頭とセットになると、思いもしない攻撃をしてきやがるな。厄介な相手だぜ」
1度目の戦いを参考にしたのだろう。
しかし糸がくっ付いているのは体だけ。
腕にはくっ付いていない。
いや、よく見たら千切れた糸の端っこが残っている。
というコトは。
「しッ!」
和斗が体にくっ付いた糸に手刀を放ってみると。
スパ。
糸はあっけなくで切断された。
やはりマローダー改の最高速度に耐える強度ではないようだ。
「つまり全速で突進したら、糸が絡み付いても引き千切りながら攻撃できる、ってコトだな」
和斗はニヤリと笑うと。
「そりゃ!」
今度は全速で体当たりを仕掛けた。
目標は正面に浮かぶアークヘッド。
左右のアークハンドと隕石をバリケードにして身を守っている。
「ふん、そのバリケードごと砕いてやるぜ!」
和斗は隕石を砕きながらアークヘッドに体当たりした。
と思ったのだが。
「うお!?」
隕石の先には何も散在しなかった為、体当たりは空振りに終わった。
「どうなってるんだ?」
和斗は一瞬戸惑うが、すぐにサポートシステムの言葉を思い出す。
「全方位を確認しながら、もう1回やってみるか」
和斗は360度の視界を他乗ったまま、再びアークヘッドに突進する。
このアークヘッドも隕石をバリケードにしていた。
そして和斗が隕石に激突した、その瞬間。
アークヘッドとアークハンドのセットは和斗の真後ろに出現した。
「ち、そういう事か」
和斗は、またしても舌打ちする。
おそらくだが、隕石が攻撃されると同時に転移するプログラムだ。
隕石に衝撃された瞬間、転移。
その瞬間転移に要する時間は、和斗の拳が届く時間より短い。
しかも。
ドン!
背後に転移したアークヘッドとアークハンドは隕石を撃ち出してきた。
もちろん。
ズガン!
和斗は易々と隕石を撃ち砕いた。
今までの和斗だったら食らっていただろう。
しかしサポートシステムに言われて視界を360度に保っている今。
こんな攻撃など和斗には通用しない。
まあ命中しても、この程度の攻撃でダメージなど受けないが。
「でも。俺の攻撃を無効にしたと思ってるんだろうな」
和斗は呟きながら周囲を見回す。
全てのアークハンドとアークヘッドのセットが……。
めんどくさい、アークセットと呼ぼう。
その全アークセットが、隕石をバリケードにして和斗を取り囲んでいる。
レッサーセットも同様だ。
和斗の攻撃は無効化した。
後はユックリと時間をかけて倒せば良い。
「と考えてるんだろうが、残念だったな」
和斗はニヤリと笑うと。
「じゃあな」
上へと視線を向けた。
普通の人間には、ただ空が広がっているだけに見えるだろう。
が、和斗の目は上空5万メートル地点を捕らえていた。
その遥かな高みから。
ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ!
100機のアパッチが4000万倍強化チェーンガンを発射した。
4000万倍に強化。
言葉にすれば、単なる記号みたいなモンだ。
だが、その威力はとんでもない。
たとえばM16を4000万倍に強化したなら。
1発で4000万人を殺せる威力を持つ事になる。
まあ実際は、そんなに単純な話ではない。
が、今のアパッチならアークセットすら瞬殺する筈だ。
なにしろ隕石のバリケードは和斗に対してだけ。
つまり上からの攻撃には無防備なのだから。
ということで。
「じゃあな、アークセット、レッサーセット」
和斗は勝利を確信した呟きを漏らしたのだった。
Ⓒオオネ サクヤ 2022