第百二十七話 ステータス上昇率がアップしました
「でもラファエル。左右のアークハンドとアークヘッドって、見た瞬間、転移して逃げ出さないといけないくらい危険な相手だったの?」
リムリアの疑問にラファエルが頷く。
「はい。もしも敵がアークハンド片手だけだったとしたら、間違いなくカズトさんが勝つでしょう。でも両手となると、その戦闘力は倍どころか4倍にも5倍にもなる筈。リムリアさんだって片手で戦うのと両手で戦うのでは、戦闘力が何杯も違うでしょう?」
ボクサーで考えると。
両手で戦うボクサーと、片手だけで戦うボクサー。
どちらが強いか、など子供でも分かる。
「ましてやアークヘッドと両手のセットとなると、どのような戦い方をしてくるか分かりません。攻撃魔法をも使いこなすアークヘッドが、人間以上の判断力で2つのアークハンドを操るのですから、厄介さは別次元になるでしょう。しかも」
「しかも?」
聞き返すリムリアに、ラファエルは深刻な顔を向けた。
「アークハンドとアークヘッドは突然現れました。ならもっと沢山のチート転生者の手首や頭が出現するかもしれません」
「「げ」」
和斗とリムリアの声が重なったのも無理ない。
残った手首と頭の全てが出現する可能性だってあるのだから。
もしもそうなった場合。
おそらく勝てないだろう。
マローダー改の防御力なら負ける事はないのかもしれない。
しかし99の手首と100の頭を相手にして勝つビジョンが浮かんでこない。
なにしろ経験値20兆なんて化け物までいるのだから。
おっと。
それについて、確認しておかないといけないコトが。
というワケで和斗は、ラファエルに質問する。
「なあラファエル。チート転生者の手首って100あるらしいけど、どの種類が何体いるか分かってるのか?」
「もちろんです」
ラファエルが、いつものように取り出した一覧表によると。
レッサーハンド 40体
アークハンド 34体
ロードハンド 16体
カイザーハンド 8体
ゴッドハンド 2体
というコトだった。
「で、こいつら全部が現れるかもしれない、ってコトなんだよな?」
和斗の確認に、ラファエルが慎重にッ言葉を選ぶ。
「いえ、チート転生者にとってもゴッドハンドは最強の切り札。自分の手元に置いておくと思われます。しかし身を守るのがゴッドハンド1組というコトはないでしょう」
「どーしてそんなコトが言い切れるの?」
リムリアの質問に、ラファエルが口元を歪める。
「チート転生者の本性が、セコくて自分の身の安全を1番に考える、小心者だからですよ」
「うわ~~、サイテー」
「だからゴッドハンドだけでなくカイザーハンドとロードハンドも送り込んでくるコトはないと思います。なので考えうる最悪の状態は、アークハンドとアークヘッドのセット17組と、レッサーハンドとレッサーヘッドのセット20組が現れる事です。あ、カズトさんが1体倒したから、レッサーハンドとレッサーヘッドのセットは19組と半端が1組ですね」
「つまり73の手首と37の頭と戦う事を前提にした準備が必要、と考えたらイイんだよな?」
確認する和斗に、ラファエルが真剣な顔で頷く。
「はい。でもこれはある意味、幸運かもしれません。チート転生者と戦う前の、練習試合みたいなモノとも考えられますから」
「ポジティブだな」
苦笑する和斗に、ラファエルがニッコリと笑う。
「天使ですから」
「その答えはおかしい」
リムリアのツッコみにも笑みを返すと、ラファエルは和斗に向き直る。
「ではコキュートスに行って、経験値を稼いで、レベルアップしましょうか」
「気が早いな」
和斗は苦笑するが、直ぐに顔を引き締めた。
「この状況でノンビリなんかしてられないよな。じゃあラファエル、コキュートスに転送してくれ」
「了解です」
ラファエルが、そう口にすると同時に。
和斗、リムリア、ヒヨ、キャスはコキュートスに立っていた。
と、そこでリムリアが、キョロキョロと周りを見回す。
「あれ? カムラさんは?」
「第3圏に残りました」
平然と答えるラファエルに、リムリアが慌てて詰め寄る。
「大丈夫なの!? まだアークハンドとアークヘッドがいるんだよね!」
「心配いりません。忘れたのですか? カムラさんは至高神様の防御結界に守られているのですよ」
「あ! そーいやそーだったっけ」
「ではリムリアさんが納得したトコロで、カズトさん」
そこでラファエルは和斗へと向き直ると。
「さっそく経験値稼ぎを初めてください」
植物系モンスターが生い茂る平野を指差した。
「よし、キラー・ウィード狩りだな」
ニッと笑う和斗に、ラファエルが首を横に振る。
「いえ、キラー・ウィードではありません。これから倒すのは……」
ラファエルが何かを言いかけるが、その前に。
ビシュシュシュシュシュシュシュ!
何かが大量に降り注いで来た。
何が起こったのかよく分からないが、取り敢えず神霊力で防いでみると。
それは3センチほどの雑草だった。
形も色も、キラー・ウィードとは微妙に違う。
しかし、どこかで見た事あるような……。
「あ! これ、ウェポンタイガーに生えてたヤツだ!」
リムリアに言われた、やっとで思い出す。
確かにウェポンタイガーの額に生えていたパンデミック・ウィードだ。
「ってコトは、ここはパンデミック・ウィードの群生地か」
和斗の呟きにラファエルが頷く。
「その通りです。林業作業士も油断したら、頭に苗を撃ち込まれて体を支配されてしまう、危険度最高ランクの場所です」
「そんな危ない場所に、いきなり転送するな!」
怒鳴るリムリアに、ラファエルがにこやかに答える。
「心配いりません。リムリアさんの防御を突破できる力などありませんよ。だから安心して苗植えに専念してください」
「苗植え? どゆコト?」
「今回はカズトさんにレベルアップしてもらう事を最優先します。だからカズトさんには『地拵え』でパンデミック・ウィードを倒しまくってもらいます。苗植えに時間を割く事なく。でも地拵えした更地を放置するのも勿体ないので、可能な限り苗植えをお願いします。いいですね、キャスさんも」
「カズト様の命令なら」
ラファエルは、即答するキャスに苦笑しながら和斗に目を向ける。
「カズトさん、キャスの説得、お願いします」
「分かったよ。キャス、できる範囲でイイから苗植えを頼む」
「喜んで」
以前なら『了解』と答えた筈。
それが今『喜んで』と答えた。
やっぱり少しずつだけど、キャスはイイ方に変わっているみたいだ。
と、小さく微笑んでから、和斗はパンデミック・ウィードに視線を向けた。
「じゃあ始めるか」
そして和斗は神霊力を思いっ切り高めると、右手に集め。
「せりゃぁあ!」
右手を振るって神霊力を放った。
その放たれた神霊力は光の津波となってパンデミック・ウィードを襲い。
ドパァ!!!
一瞬で消滅させた。
これによって出来上がった更地の広さは10キロメートル四方ほど。
それを目にして、ラファエルが簡単の声を漏らす。
「素晴らしい。レッサーハンドとの戦いで、操れる神霊力がとんでもなくアップしていますね」
「とんでもなくアップって……最初に言ったと思うけど、カズトが本気出したらこんなモンだよ」
呆れ声のリムリアに、ラファエルが更地を指差す。
「あそこを覆い尽くしていたのはキラー・ウィードではなくパンデミック・ウィード。つまり10倍以上の防御力を持つ相手だったのですよ」
「あ!」
リムリアはラファエルが口にした意味を理解して息を呑んだ。
それはつまり和斗が操る神霊力が10倍になったという事なのだから。
と同時にリムリアは、ある事に気付く。
「じゃあひょっとして、物凄い経験値を稼いだんじゃない?」
とリムリアがドキドキする胸を押さえながら和斗に目を向けると。
――パンデミック・ウィード 25128693匹を倒しました。
経験値 12兆5643億4650万
スキルポイント 12兆5643億4650万
オプションポイント 12兆5643億4650万
を手に入れました。
サポートシステムが、初めて耳にする数値を口にした。
「兆キターー!」
リムリアが大騒ぎしていると。
――パラパパッパッパパーー!
パラパパッパッパパーー!
パラパパッパッパパーー!
パラパパッパッパパーー!
パラパパッパッパパーー!
パラパパッパッパパーー!
6回もファンファーレが鳴り響き。
――累計経験値が11兆5千億を超えました。
装甲車レベルが122になりました。
予想を超えたレベルアップを果たした。
が、予想を超えていたのは、それだけではない。
――レベル120を超えましたのでステータス上昇率がアップしました。
最高速度が4200万キロになりました。
質量が200億トンになりました。
装甲レベルが鋼鉄40億キロメートル級になりました。
ⅯPが340万になりました。
装鎧のⅯP消費効率がアップしました。
1ⅯPで5分間、装鎧状態を維持できます。
サポートシステムが操作できるバトルドローン数が2200になりました。
ドローンのレベルアップが第18段階まで可能となりました。
神霊力が恒星5000万個級になりました。
耐熱温度 2400兆 ℃
耐雷性能 24該 ボルト
になりました。
武器強化が2000万倍まで可能になりました。
レーザー砲焦点温度が500兆℃までアップが可能になりました。
ステータスも予想以上にアップしたのだった。
いつも思うコトだが、数値が大き過ぎてワケ分かんない。
いや、ちょっと待て。
以前のステータスと比べても、ステータスが高過ぎる気がする。
「なあサポートシステム。ちょっと聞きたいんだけど、急にステータスが上がった気がするけど、気のせいかな?」
――いいえ気のせいではありません。
先ほど報告したように、レベル120からアップ率が上昇しました。
1部を表示してみましょう。
マローダー改 レベルごとのステータス
経験値 ⅯP 速度 防御力 質量
(時速) (鋼鉄km相当) (t)
『115』
4000億 127万 400万 4500万 1億
『116』
8000億 143万 520万 6500万 2億
『117』
1兆5千億 170万 650万 9000万 4億
『118』
2兆5千億 190万 800万 1億2千万 7億
『119』
4兆 210万 1000万 1億5千万 12億
『120』
6兆 250万 2000万 10億 50億
『121』
8兆5千億 290万 3000万 20億 100億
『122』
11兆5千億 340万 4200万 40億 200億
「なるほど。確かにレベル120から速度、防御力、質量の増え方が一気にアップしているな。特に防御力と質量が。……でも、強くなるのは嬉しいけど、レベル120から急激にアップするのは、何か理由があるのか?」
――この辺りからチート転生者との戦いが始まるだろうからだ、と至高神様から伺っています。
「いつの間に!? って今さらか」
と、そこで和斗はある事に気付く。
「もしかしてドローンも、急激に強化率がアップするのか?」
Ⓒオオネ サクヤ 2021