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   第百二十六話  レッサーハンド





 チート転生者の手首を倒した後。


『カズト殿!』


 和斗の前に、ウェポンタイガー一家がひれ伏した。

 その1番前で、トツカが片膝を地面に付く。


「此度は我らをパンデミック・ウィードから解放していただき、感謝の言葉もござらぬ!」


 そしてトツカはキラキラした目を和斗に向けた。


「このご恩に報いる為、ウェポンタイガー一家はカズト殿に終生変わらぬ忠誠を誓うでござる!」

「いや俺には俺の理由があってしたコトだから、そんなに恩に着なくてもイイんだけどな」


 照れ臭そうに頬を掻く和斗に、トツカがズイッと迫る。


「いえ、助けて頂いた事は同じでござる! どうか我らが刀を捧げる事を、お許しくだされ!」

「ええと、まあ、俺が困った時は助けてくれる、ってコトでどうかな?」


 必死に妥協点を探る和斗に、トツカが忠犬のような眼で頷く。


「御意! その時はカズト殿の為に、この命を捧げるでござる!」


 僅かに頬を染めているトツカに、リムリアが呟く。


「ねえキャス。あれって忠誠を誓ってるダケなのかな? なんかボク、面白くないんだけど」

「トツカの言葉に嘘はない。でもカズト様に発情してる」

「発情!? な、なにソレ!」


 詰め寄るリムリアに、キャスが冷静な声で答える。


「命の危機を救ってくれた絶対的強者に発情するのは、強さを重んじるウェポンタイガーにとって自然な事」

「言い方!」


 ツッコむリムリアの目を、キャスが覗き込む。


「トツカがカズト様に発情する事、リムリアは気に食わない?」

「だから言い方!」


 またしてもツッコみながらも、リムリアは赤い顔でゴニョゴニョと呟く。


「カズトが浮気するとは思わないけど、トツカはキレイだし、やっぱ嫌かもしれない……ボクって、こんなに嫉妬深かったんだ……」

「分かった、なら追っ払う」


 キャスは即答すると、トツカの前に立つ。


「カズト様の役に立ちたいなら、まずウェポンタイガー一家を立て直す」


 そのキャスの言葉に、トツカはカッと目を見開く。


「そ、そうでござるな。今の我々ではカズト殿の足を引っ張るだけでござるな。分かったでござる! 今よりウェポンタイガー一家を立て直し、鍛錬し直してからカズト殿のもとに駆け付けるでござる!」


 トツカは、そう自己完結すると。


「全員、我に続け!」


 ウェポンタイガー一家の本部に向かって駆け出した。

 そんなトツカに。


『承知つかまつった!』


 全てのウェポンタイガーが続く。

 そして最後のウェポンタイガーが本部へと姿を消したところで。


――レッサーハンド1体を倒しました。 


 と、サポートシステムの声が響いた。


「今ごろ!?」


 反射的にツッコむリムリアに、サポートシステムが声を上げる。


――取り込み中だったようなので、話が終るまで待っていました。


 この答えに和斗は呟く。


「今まで気が付かなかったけど、そんな心遣いが出来るなんて、マローダー改のレベルアップと一緒に、サポートシステムも進化してるのか?」


 まさか、こんな気使いが出来るようになっているなんて思いもしなかった。

 それはリムリアも同じだったのだろう。


「そ、それは……気使いアリガトゴザイマス」


 複雑な顔で、そう口にした。


――どういたしまして。

  では残りを告げて良いでしょうか。


「は、はい、お願いします」


 リムリアが目を白黒させながら答えると、サポートシステムが続ける。


――ではあらためて。

  レッサーハンド1体を倒しました。

  経験値       200億

  スキルポイント   200億

  オプションポイント 200億

  を獲得しました。


 さすがチート転生者の手首。

 200億もの経験値を稼げたようだ。

 それはイイのだが。


「レッサーハンド!? これが!?」


 サポートシステムが告げた内容に、和斗は思わず大声を上げた。

 レッサーデーモンとかレッサータラテクトなど。

 レッサーとは『劣った』という意味合いを持つ。

 マローダー改の打撃だけでは、チート転生者の手首を倒しきれなかった。

 それほどの力を持つ手首が、まさか『レッサー』!?

 と驚きを隠せない和斗に、ラファエルが紙を取り出す。


「これがチート転生者の手首の分かり易い一覧です」


 毎回思うコトだが、いつの間にこんなモノを用意してるんだろ?

 という疑問は置いといて。

 その一覧表には、こう記されていた。


  区分         経験値

 レッサーハンド     200億

 アークハンド     1000億

 ロードハンド     5000億

 カイザーハンド       2兆

 ゴッドハンド       20兆


 これを目にするなり、和斗は反射的に呟く。


「1000億に5000億に2兆に20兆?」


 経験値イコール強さの目安である事を考えると。


「アークハンドはともかく、ゴッドハンドどころかカイザーハンド、いやロードハンドにさえ勝てないんじゃないか俺?」


 不安をそのまま口にした和斗に、ラファエルが首を横に振る。


「いいえ、カズトさんの神霊力なら勝てない相手ではありません、ただし使いこなせれば、の話です。だからチート転生者との戦いで勝利したければ、林業作業を極める必要があります」

「極めれば勝てるのか?」


 ゴクリと喉を鳴らす和斗に、ラファエルがニコリと笑う。


「間違いなく。というか今でもアークハンドくらいなら楽勝の筈です」

「ホントか!?」


 食いつく和斗に、ラファエルが頷く。


「本当です。もしもカズトさんにその気があるなら、今すぐにでもチャレンジできますよ」


 和斗は、ラファエルの提案に目を丸くする。


「出来るのか!?」

「はい。インフェルノ第3圏のチート転生者の手首。アレがアークハンドです」


 ラファエルが答えると同時に、景色が切り替わった。

 もうインフェルノの第3圏に転移したらしい。

 しかも100メートルほど先には、チート転生者の手首が浮かんでいる。

 気の早い事だ。

 と、そこに。


「おや、キミはカズトくんだったかな」


 カムラが声をかけて来た。


「ラファエルと突然現れるなんて、どうしたんだい?」


 少し驚いた様子のカムラに、ラファエルが軽い口調で話しかける。


「いえ、第3圏のチート転生者の手首を倒す見通しが立ったので、カムラさんにも話を話を通しておこうと思いました」


 どうやら転移した場所にカムラがいたのは偶然ではないようだ。

 というよりカムラのいる場所に転移したらココだったのだろう。


「では第3圏のチート転生者の手首を倒そうと思いますが、カムラさん。一緒に見届けますか?」


 そう続けるラファエルに、カムラが本当に嬉しそうな笑みを浮かべる。


「そりゃあ願ってもない。なにしろチート転生者の手首を排除する事は、長年の夢だったからなぁ」


 という事で。

 和斗達はカムラと共にチート転生者の手首の前に立った。


「なるほど。こうして直に見てみると、レッサーハンドとは桁が違うな」


 和斗はチート転生者の手首を見上げながら呟く。


 大きさは6メートルほど。

 第2圏で倒したレッサーハンドの2倍のサイズだ。

 つまり体積なら8倍。

 第2圏の手首より、ずっとデカい。

 というより、実際のサイズ以上に大きく感じる。

 きっと纏う邪悪な気が、遥かに大きいからだろう。


 と、そこで和斗は。


「でもカムラさん。このアークハンド、本当に俺が倒しちゃっていいんですか?」


 カムラに遠慮がちに声をかけた。


「カムラさんはケルベロスの為に人生を賭けて取り組んで来たんですよね? なのにアークハンドを倒すという最後の仕上げを俺がして良いんですか? ここまでたった1人で頑張ってきたんだから、最後まで自分1人の力で成し遂げたいんじゃありませんか?」


 という和斗の問いに。


「そんな事、考えた事もなかったな」


 カムラは暖かな笑みを浮かべた。


「大事なのはケルベロスが誰の意思にも操られず、自分の意思で幸せに生きていく事であって、それを誰が成すかじゃない。私よりも早く、それを達成してくれるというのなら、これほど有難い事はないよ」

「すみません、失礼な質問でした」


 頭を下げる和斗にカムラの笑みは、更に暖かくなる。


「いや、私を気遣ってくれた事には感謝している。でも本当にイイんだ。倒せるのなら一刻も早く、チート転生者の手首を倒してくれ」

「了解しました」


 和斗はもう1度カムラに頭を下げると。


「じゃあブッ倒すか」


 チート転生者の手首へと視線を移した。

 レッサーハンドとの戦いによって、倒し方はもう分かっている。

 可能な限りの神霊力を身に纏わせて、攻撃すれば良い。

 だから和斗は大量の神霊力を練り上げると。


「こぉぉぉぉぉぉぉ!」


 気合いを入れながら、身に纏わせた。

 そんな和斗を目にしてラファエルが感嘆の声を上げる。


「驚きましたね。レッサーハンドと戦った時よりも、身に纏う神霊力の総量が増えてます」

「そうなの?」


 首を傾げるリムリアに、ラファエルが意外そうな目を向けた。


「おや、リムリアさんには分かりませんか?」

「とんでもない量ってコトは分かるけど、どれ程の差があるかゼンゼン分かんない」

「なるほど。アリに湖と大海の区別がつかないのと同じなのでしょね」

「アリってナンだよ! って、それよりボクの神霊力量はマローダー改の10パーセントなんだから、違いくらい分かりそうなモンなんだけど?」


 唇を尖らせるリムリアに、ラファエルが続ける。


「確かにリムリアさんが身に宿している神霊力はマローダー改の10パーセントかもしれません。でも神霊力を使いこなせてないので、感じ取る能力も低いのでしょうね」

「うわ、悔しいな」


 頬を膨らませるリムリアにラファエルが微笑む。


「焦らなくても、直ぐに感じ取れるようになりますよ。リムリアさんの上達も常識外れですから」

「常識外れって……それ褒めてんの?」

「もちろん大絶賛してますよ」


 などとリムリアがラファエルとじゃれている間に。


「いくぞ」


 十分に神霊力を身に纏わせた和斗が、拳を固めた。

 そして正拳突きを放つ、と思った瞬間。


 もう1つ、手首が出現した。

 今まで宙に浮いていたチート転生者の手首は右手。

 それに対して、新たに出現した手首は左手だ。


「なにコレ?」


 リムリアが声を上げるが、その声に誘われたように。


「キサマ等を駆除対象と認定する」


 左右の手首の間に出現した頭が、軋むような声を上げた。


「なんなのコレ!?」


 大声を上げるリムリアに、ラファエルが冷や汗を流しながら答える。


「ヘカトンケイルは100の腕を持つと説明しましたが、50の頭も併せ持つのです。あれはその50ある頭の1つでしょう」


 さっきラファエルは、こう説明した。

 チート転生者の手首は、プログラムに従って動いてるだけだと。


 しかし今回は頭も一緒。

 判断力もアップするだろうし、攻撃パターンも増える事だろう。

 当然ながら岩を撃ち出す以外の攻撃を仕掛けてくる可能性も高い。


「それってマズいんじゃないの!?」


 焦った声を上げるリムリアに、ラファエルも焦った声で答える。


「もちろん超マズいです」

「アークハンドなら倒せるって言ってたクセに、どーすんだよコレ!」

「そうですね、こうしましょう」


 ラファエルが答えると同時に。


『あれ?』


 和斗達は第3圏の入り口に転移していた。

 もちろんカムラも一緒だ。


「はぁ~~、あせったぁ」


 地面に座り込むリムリアの隣で、キャスが分析を口にする。


「2対のアークハンドとアークヘッド。危険な相手だった」


 どうやらさっきの頭はアークヘッドというらしい。


「アークヘッド? ってコトはロードヘッドやカイザーヘッドやゴッドヘッドもいるのかな?」

「もちろんいますよ」


 ラファエルはリムリアにそう答えてから、和斗へと向き直ると。


「カズトさん、すみません。アークハンドに加えてアークヘッドまで出現するとは思いもしませんでした。が、これで第3圏の事態は、より深刻になりました。そこでカズトさん。レベルアップをしに行きましょう」


 真剣な顔で、そう提案してきたのだった。











Ⓒ オオネ サクヤ 2021

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