第百二十五話 決着を付けるとするか
「オラオラオラオラオラ!」
某主人公の真似をした和斗の連打がチート転生者の手首に打ち込まれた。
その10を超える打撃は。
「ギョバ!」
チート転生者の手首を床に叩き付けた。
手ごたえあり。
おそらく10を超える数の骨を砕いた筈だ。
しかし。
「ギョギョギョギョギョォォォ」
チート転生者の手首は、牙の並んだ口から涎を流しながら宙に浮かび上がる。
ダメージは受けているみたいだが、まだ戦う気だ。
が、このままココで戦うのはマズい。
流れ弾がリムリアやヒヨやキャスに当たるかもしれないからだ。
もちろんキャスが『防護フィールドを張る』と言ってくれたのは覚えている。
しかし戦いに、絶対という言葉はない。
危険である分かっているのにココで戦うのは、愚かな判断だろう。
というワケで和斗は。
「そら!」
チート転生者の手首にタックルして、壁の穴から外へと飛び出す。
そしてチート転生者の手首が下敷きになる態勢で、地面に激突した。
「ギョバァ!」
2億tのマローダー改の下敷きになり、チート転生者の手首が血を吐く。
普通の生物なら即死しているダメージだ。
が、チート転生者の手首は戦う力を失っていなかった。
「ギョエエ!」
チート転生者の手首は咆哮を上げると、和斗を宙に跳ね上げ。
ドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカン!!
大岩を連射してきた。
さっきの連射よりも激しい。
3倍くらいの連射速度だ。
でも。
「この程度か」
和斗は余裕で大岩を撃ち砕いた。
というより岩は和斗目がけて飛んでくる。
その岩へと拳を向けておけば、勝手に拳に当たって砕け散っていく。
単純な作業だ。
……単純ではあるが、簡単な作業というワケではない。
もしも神霊力纏ってなかったら、簡単に吹き飛ばされる威力だからだ。
しかし何度も同じ失敗をするワケにはいかない。
和斗は神霊力で体を固定して、連射される岩を迎え打つ。
「このまま耐えてたら、いつかは撃ち出せなくなる……よな?」
巨大な岩を連続して撃ち出す。
それを実行するには、ナニかのエネルギーが必要だろう。
なら、いつかエネルギーは尽きる筈だ……と思いたい。
が、もしも第2圏を吹き荒れている煉獄力からエネルギーを得ていたら?
その時は、かなり厄介なコトになるだろう。
だが、いくら攻撃しても無駄な事を悟ったのだろう。
チート転生者の手首は連射を止めると。
「ギョアアアアア!」
大きく吼えると共に、またしても岩を撃ち出してきた。
「ふん、またかよ」
和斗は再び拳を突き出すが。
「え!?」
撃ち出された岩が巨大化するのを目にして、初めて焦りの声を漏らした。
もちろん撃ち出された岩が大きくなる事は想定していた。
しかし100メートルなんてサイズに巨大化するのは想定外だ。
「マジかよ!」
和斗は叫ぶが、すぐに冷静さを取り戻す。
岩は巨大だが、速度は同じだったからだ。
これなら余裕で対処できる。
「ふう」
和斗は大きく息を吐くと、神霊領でしっかり体を固定し。
「おりゃ!」
巨大岩に正拳突きを放った。
確か岩は巨大だ。
しかしマローダー改の防御力は、鋼鉄6500万キロメートル相当。
100メートル程度の岩などではビクともしない。
結果、当然ながら。
ドッカァァン!
和斗の拳は、簡単に巨岩を打ち砕いたのだった。
「ふん、楽勝だぜ」
さっき和斗は、連射された岩を完全に打ち砕いてみせた。
その和斗に、岩を大きくした程度の攻撃が通用すると思っているのだろうか?
と、この場にいる全員がそう考えたのだが。
バッカァン!
轟音と共に。
「うお!?」
和斗は凄まじい勢いで地面に叩き付けられた。
(な、なにが起こったんだ? 目の前が真っ暗だ。俺、どうしたんだ? 確かに巨大岩を撃ち砕いた筈なのに、どうしたんだ?)
和斗は一瞬、混乱してしまうが。
――マスター、落ち着いてください。
頭上から岩を落とされたダケです。
サポートシステムの声に、和斗は落ち着きを取り戻す。
「なるほど、岩の下敷きになったから視界が真っ暗なのか。しかし手首ダケのクセに考えやがったな。正面からの大岩をオトリにして、上から本命の巨大岩で攻撃してきたのか」
撃ち出す岩は大きくできるが、速度は今が限界。
つまり、いくら岩を連射しても、巨大化させても和斗には通用しない。
チート転生者の手首は、そう判断したと思われる。
そこで正面からの攻撃に注意をむけておいて不意打ちを仕掛けてきたのだろう。
確かに、その戦法は有効だった。
完全に意識の外からの攻撃だったから。
「ヤバいトコだったな。マローダー改の防御力が岩の破壊力を上回ってたから助かったけど、もし敵の攻撃の方が上だったら殺されてたとこだ」
呟く和斗に、サポートシステムが厳しい声で告げる。
――装鎧状態のマスターは、360度の視界を得ている筈です。
注意していれば防げた攻撃です。
反省してください。
なるほど。
あまりにも和斗が不注意なので、叱ってくれてるらしい。
ここは素直に感謝するべきだな。
そう反省した和斗は。
「はい」
サポートシステムに、それだけ答えた。
シンプルな返事だが、心からの反省を込めて。
そんな和斗の想いを察したのか。
――誰でも失敗する事はあります。
重要なのは同じ失敗をしない事です。
サポートシステムの声が、気のせいかもしれないが優しくなった。
そんなサポートシステムに、和斗は直に感謝を伝える。
「ああ、そうだな。気を付ける。ありがとな、サポートシステム。これからも俺を指導してくれ」
――任せてください。
「頼りにしてる」
和斗はサポートシステムに声をかけると。
「そら!」
一気に身を起こした。
最高速度ではないが、それでも時速3000万キロを超える速度で。
そのとんでもないスピードは、和斗の上に乗っていた大岩を砕き。
ドドドドドドドドドドドドドドドドドド!
無数の破片をチート転生者の手首へと飛ばした。
もちろん、その速度も時速3000万キロ以上。
破壊力はメテオの比ではない。
ないのだが。
「ギョガァアア!」
10を超える破片を浴びたというのにチート転生者の手首はまだ倒れない。
まあ、当然といえば当然かも。
なにしろ装鎧状態の和斗の正拳でも倒せなかったのだから。
しかしさっき放ったのは、全力を振り絞った1撃ではない。
だから和斗は。
「なら渾身の正拳突きを放ってみるか」
戦いの構えを取ると、呼吸を整えてから、全身のパワーを正拳に乗せ。
「こぉぉぉ!」
気合を拳に集中させた。
そんな和斗に対してチート転生者の手首も拳を握り締め。
「ギョガァ!」
パンチの形で突っ込んできた。
「面白い、拳と拳の勝負か。その勝負、受けた!」
和斗はギラリと目を輝かせると。
「せりゃ!!」
チート転生者の拳を渾身の正拳突きで迎え打った。
その和斗の正拳は、チート転生者の拳と正面衝突し。
ぐっしゃぁぁぁ!
チート転生者の拳をグチャリと潰した。
が、まだ終わらない。
「ギョガァァァァァァ!」
チート転生者の手首は、またしても岩を撃ち出してくる。
「半分以上が潰れているクセに、まだ戦えるのか」
感心半分、呆れ半分の和斗の耳に、ラファエルの声が届く。
「チート転生者の手首の本体は別の場所にあります! だから消滅するまで戦い続けます! それにその手首は所詮、末端組織です! 完全に消滅させない限り、何度でも元通りの姿に回復してしまいます! 吹き荒れている大量の煉獄力を取り込んで!」
ラファエルの言葉通り。
ぶしゅぶしゅぶしゅぶしゅ。
不気味な音を立てて、チート転生者の手首が回復していく。
「煉獄力を取り込んで回復って、そりゃもう反則だろ」
ここは第2圏。
先に進めば進むほど強力に煉獄力が吹き荒れる場所だ。
その煉獄力があるかぎり何度でも再生する。
そういえば10か所以上の骨を砕いたのに、平然と動き回っている。
これも煉獄力で回復したからだろう。
ホント、反則としか言いようがない。
「ってコトは、一気に消滅させるしかないってコトか」
和斗はラファエルの言葉を繰り返すと。
「なら今度は『地拵え』と『苗植え』を試してやるぜ」
渾身の正拳突きでもチート転生者の手首を倒せなかった。
つまり物理的な力だけでは倒せないようだ。
なら、どうするか。
神霊力を使えばいい。
というより、神霊力を使う以外、思いつかない。
だから和斗は覚悟を決めると、地拵えの要領で神霊力を最大に高めた。
そして苗植えの応用で、その高めた神霊力を拳に纏わせる。
「多分コレが、今の俺が放てる最強の正拳だ。さあ勝負だ!」
そんな和斗に対し。
「ギョロロロロロロロォ」
シャキン!
5本の指全てから、死神の鎌のような爪を伸ばすと。
「シャギャァ!!」
和斗に向かって、指を揃えた。
多分コレが、チート転生者の手首の最強フォームだ。
これから和斗が繰り出す攻撃を、驚異と覚ったからだろう。
これが最後だ、という覚悟が伝わってくる。
「なるほど、一応、そういう判断が出来るワケだ」
和斗は小さく呟くと。
「おおおおおおおおおおお!」
気合いを入れて、正拳に全てを込めた。
それに呼応し。
「シャギャァアアアアアアアア!」
チート転生者の手首も吼え、爪が妖しい輝きを放つ。
和斗同様、渾身の力を振り絞っているみたいだ。
「どうやらそっちの準備も終わったみたいだし、決着を付けるとするか」
和斗はワザと軽い口調で、そう呟くと。
「ふん!!」
今放てる最強の正拳を撃ち出した。
それに対してチート転生者の手首も。
「シャギャ!!」
和斗へと突進して来た。
速い。
さっき撃ち出した大岩の、3倍近い速度だ。
が、マローダー改の最高速度は、もっと速い。
そして和斗の正拳突きは、マローダー改の最高速度より、もっと速い。
足首、膝、腰、体感、肩、肘など。
それらをシンクロさせて最高速度の上に最高速度を乗せていく。
これにより和斗の正拳はマローダー改の最高速度の6倍に達した。
しかも研ぎ澄まして圧縮した神霊力まで纏っている。
その威力たるや。
パキン!
チート転生者の爪を、ツララのように簡単に砕き。
ボキャン!
全ての指を跡形もなく潰し。
バチャッ!
手首そのものをミンチに変えて飛び散らせた。
チート転生者の手首は、煉獄力を吸収すて再生するという。
しかしミンチとなって飛び散っては、それも出来ないらしい。
チート転生者の手首だったモノは、いつまでたっても再生する事はなかった。
それを確認したトコで。
「ふ~~~」
和斗は装鎧を解除して、大きく息を吐いたのだった。
繰り返しになりますが、誤字脱字のご指摘、ありがとうございます。
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