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   第百二十二話  カズト、デレデレし過ぎ


 



 コテツの舎弟たちは意識を取り戻すなり。


「死ぬかと思った……」

「助かったのか?」

「おお、体が動く!」

「アニキのお蔭ッス!」

「あざーっす!」


 一斉にコテツに頭を下げた。

 ちなみに彼らは業物クラス。

 まだ『銘』はない。

 だからカ、キ、ク、ケ、コと呼ばれているらしい。


「意識はあったんッスけど、体がいう事を聞かなかったんッス!」

「そうそう、まるで他人に体を乗っ取られたみたいでした」

「操り人形になった気分でやした」

「自分の体が勝手に動くのを見てるだけ。悔しかったっす」

「かといって自害する事すら叶わず。地獄でした」


 口々に訴える弟分達に、コテツが和斗を指し示す。


「カ、キ、ク、ケ、コよ。其方達を救ってくれたのは拙者ではない、あのカズト殿でござる。意識があったのなら分かっているでござろう?」


 その言葉にウェポンタイガー5人は和斗に向かって片膝を突く。


「有難うございました!」

「このご恩、一生忘れやせん!」

「命に替えても、ご恩に報いてみせやす!」

「我が命、ご自由にお使いください!」

「一生ついて行くッス!」


 和斗に忠誠を誓う弟分達に、コテツは苦笑する。


「ウェポンタイガー一家の舎弟でありながら、カズト殿に一生ついて行くのはマズいでござろう。ま、そこは心意気と思うでござるか。まあ良い。オマエ達。拙者はこれからカズト殿達と共に、組長の部屋に乗り込むでござる。この意味が分かるでござるな?」


 会いに行く、ではなく乗り込む。

 それは戦いも辞さない、という事。

 ウェポンタイガー一家への反逆行為とも取れる。

 アンダーグラウンド組織において、絶対に許されない行為だ。


 しかしカ、キ、ク、ケ、コは、コテツの言葉に即答する。


「お供しやす」

「前々から組長の様子がおかしいとは思ってやしたが……」

「今回の事でハッキリ分かったッス」

「組長は、以前の組長じゃありやせん」

「オレ達に、こんなモノを植え付けるなんて……」


 その言葉を耳にしたコテツの顔が厳しいものに変わった。


「今、何と言ったでござるか? ひょっとしてオマエ等にパンデミック・ウィードを植え付けたのは組長なのでござるか?」


 口調まで厳しくなったコテツに弟分達が訴える。


「そうっす。ある日、組長に呼ばれて部屋に行ったんす。そしてら不気味な手から何かが飛んできて、それが頭にめり込んで、そしたら体が思うように動かせなくなったんす」

「それ以来、勝手に動く自分の体を、ただ見てるしかありませんでした」


 シュンとなる弟分達を見つめながらラファエルが呟く。


「これはチート転生者の仕業で間違いないようですね」


 その言葉を聞きつけたリムリアが首を傾げる。


「コテツの舎弟にパンデミック・ウィードを植え付けて操ってたのが、その手首なのは間違いなさそうだけど、それだけじゃチート転生者のモノって言い切れないんじゃないの?」

「おや、カムラさんが言ってた事を忘れました? コキュートスの植物系モンスター全てはチート転生者が生み出したものですよ」

「あ、そういやコキュートスで大発生してる植物系モンスターは、チート転生者の眷属だったけ。じゃあ、やっぱり?」

「はい。パンデミック・ウィードを生み出して操る。これはチート転生者にしか出来ない事です」

「なら、やる事は1つだね」


 ニイッと笑うリムリアに、ラファエルが妙に迫力のある笑みを返す。


「そうです。チート転生者の手首を消滅させましょう」

「だよね!」


 リムリアは弾んだ声を上げると、入り口に視線を向けると。


「じゃあ、乗り込も!」


 威勢よく駆け出そうとしたが。


「ちぇ!」


 直ぐに足を止めて舌打ちした。

 次々と出て来るウェポンタイガーの獣人を目にして。

 その数、20人ほど。

 やはり、その眉間にはパンデミック・ウィードが生えている。


「パンデミック・ウィードに操られているのはあ、彼らだけではない、という事ですか。想定内ではありますが、厄介な事には変わりませんね。はぁ」


 溜め息をつくラファエルをリムリアが押しのける。


「ああもう、邪魔だなぁ!」


 リムリアは、そう口にするなり、20を超える光る矢を作り出すと。


「いけ!」


 ウェポンタイガーの眉間に撃ち込んだ。

 その光る矢は正確にウェポンタイガーの眉間に命中し。


『ギャオウ!』


 全てのウェポンタイガーを撃ち倒した。


「ま、まさか全員を射殺したでござるか?」


 声を震わせるコテツの背中を、リムリアがパァンと叩く。


「そんなワケないだろ! カズトがやったように、神霊力でパンデミック・ウィードを消滅させたんだよ!」


 そう。

 リムリアの放った光る矢は攻撃魔法ではなく、神霊力の矢だった。


「ええ!?」


 リムリアの説明を聞いて、ラファエルがウェポンタイガー達に駆け寄った。

 確かに神霊力の矢ならパンデミック・ウィードを消滅させる事が出来る。

 しかし僅かにでも根が脳内に残っていたら、再び目を出してしまう。

 かといって威力が強すぎたら、脳が損傷してしまうだろう。

 だからラファエルはウェポンタイガー1人1人を確認する。

 そして全員の脳を、丹念に調べた後。


「驚きましたね。完璧にパンデミック・ウィードだけを滅ぼしています。とんでもない精度の苗植えですね、リムリアさん」


 気絶して倒れているウェポンタイガーの数は22。


 その全員に寄生したパンデミック・ウィードを、リムリアは一瞬で滅していた。

 それはラファエルでも困難なレベルだ。

 だからラファエルは、素直に賞賛の言葉を口にする。


「パンデミック・ウィードだけを滅ぼす神霊力を調整するのに、カズトさんがあれ程の時間を必要としたというのに、まさか一瞬で全員のパンデミック・ウィードを消滅させるなんて、本当にリムリアさんは、才能の塊みたいな人ですね」

「当~~然じゃん! だってボク、カズトと出会う前から、魔力じゃドラクルの一族最強って言われてたんだよ? 慣れたら神霊力でも同じコト出来るに決まってるじゃん」


 リムリアは胸を張ると、和斗にキラキラした目を向けた。


「最初は無理だと思ってたけど、カズトが1回やってみせてくれたから出来るようになったよ。どう? 1度見ただけで同じコトが出来るようになるなんて、ボク凄いんじゃない?」


 なにしろ和斗があれほど苦労した調整を一瞬でやり遂げたのだ。

 正直に言うと、少し悔しい。

 でも素直に凄いとも思う。

 ラファエルも1番才能だあるのはリムリアだと言ってたし。

 だから和斗は、わだかまりなくリムリアを褒める。


「ああ、凄いぞリム」

「へへ」


 和斗に頭を撫でられたリムリアが、嬉しそうに目を細めるが、そこで。


「そのくらいワタシにも出来る」


 キャスがそう口にした。

 そして、その直後。


 パパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパ!


 おびただしい数の、光る矢を放った。

 おそらく神霊力の矢だろう。


「除去完了」


 無表情で言い切るキャスに、リムリアが詰め寄る。


「今、ナニしたの!?」

「この建物に潜むウェポンタイガー全員の眉間に生えたパンデミック・ウィードを全て除去しました」

「全て!? 今キャス、全てって言った!?」


 信じられない、と目を見開くリムリアに、キャスが無表情のまま答える。


「サーチ&デストロイ。惑星間戦闘対応型破壊兵器であるワタシにとって、搭載されてて当然の機能。1秒で1京の対象を分析して攻撃できる」

「うわ~~、ナニそれ怖い。って、ナンでワザワザ今、そんな能力を披露するんだよ! せっかくカズトに褒められたのに」


 唇を尖らせるリムリアを無視して、キャスが和斗の前に立つ。


「ワタシもカズト様に褒められる為」


 これはひょっとして、頭を撫でて欲しい、という事だろうか。

 他人には、今のキャスは無表情に見える筈。

 しかし和斗には、期待に目を輝かせているように見えた。

 だから和斗はキャスの頭を優しく撫でると。


「キャス、凄いぞ。よくやった。お疲れさん」


 ニッコリと笑って労いの言葉を掛けた。

 キャスは暫くされるがままだったが。


「満足」


 そう口にして……微かだが、間違いなく笑みを浮かべた。


「なら良かった」


 和斗もキャスに微笑んでみせる。

 ほんの少しだが、キャスの感情が豊かになったみたいだ。

 実にイイ傾向だと思う。

 が、そこで。


「てい」


 げし。


 リムリアが頬を膨らませて和斗の尻を蹴飛ばした。


「カズト、デレデレし過ぎ」

「いや、デレデレなんてしてないだろ」


 抗議する和斗に、リムリアが抱き付く。


「カズトが頭を撫でてイイのはボクだけ。分かった?」

「え~~と?」


 リムリアのいきなりの行動に和斗が戸惑っていると。


「分かった?」


 リムリアに睨まれてしまった。


 ……ここは言う通りにしておいた方が無難だろうな。

 というワケで、和斗は頷こうとするが。


「リムリア横暴」


 意外にもキャスが抗議の声を上げた。


「ワタシだってカズト様に褒められたい」

「ナニそれ!?」

「ワタシは頭を撫でられる喜びに目覚めた」

「ワケわかんない!」

「理解しなくていい」

「なんかハラ立つ!」


 リムリアとキャスがキャイキャイと言い合いを始める……と思ったが。


「落ち着いてください。今はそんな事を言い合ってる場合ではありませんよ」


 ラファエルの言葉で、リムリアとキャスがピタリと口を閉じた。

 そんな事してる状況ではない、という事くらい分かっているのだろう。

 ウェポンタイガー一家の本拠に殴り込みをかけている最中なのだから。


 決まり悪そうなリムリアとキャスにラファエルが微笑む。


「さあ、今は組長の部屋へと急ぎましょう。チート転生者の手首を確認する為に」

「うん」

「……」

「けっこうです」


 ラファエルは、素直に頷くリムリアとキャスに、もう1度微笑むと。


「では皆さん、行きましょう」


 顔を引き締めた。


「では拙者が案内するでござる」


 そしてコテツに続いて霊界樹の入り口を潜ると。

 入り口の先は、トンネル状になっていた。

 窓は1つもない。

 が、壁に埋め込まれている光つ石によって明るく照らされている。


 その樹のトンネルを100メートルほど進んだ先は広間。

 直径50メートルほどの、円形の吹き抜けだ。

 吹き抜けも、壁に埋め込まれた光を放つ石によって明るい。

 風の流れも感じるので、換気も良さそうだ。

 見回すと、螺旋状の通路が上へと伸びていた。

 その螺旋状通路には規則正しく扉が並んでいる。


 コテツによると、それぞれが、かなり広い部屋になっているらしい。


「組長の部屋は1番上でござる」


 コテツに言われるまでもなく、全員が直感している。

 進むごとに邪悪な気配が濃くなっている事に。

 そしてその邪悪な気配の源は、1番上の部屋だと。

 普通の人間なら精神が崩壊するレベルの邪悪な気配の中。


「では参るでござる」


 コテツが歩き出した。

 が、そこで。


「コテツさん、先頭は私に譲ってくれませんか?」


 ラファエルが静かに、しかし凄い圧の声を上げた。


「チート転生者の手首の能力は、まだハッキリと分かっていません。万が一に備えて私が前に立ちます」


 そう口にするラファエルに向かってリムリアが声を上げる。


「万が一に備えるのなら、カズトが先頭の方がイイんじゃない?」

「そうですね。単純な防御力ならカズトさんの方が上でしょうが、神霊力の使い方なら私の方が上です。そして私の予感では、神霊力がカギとなります。ですので先頭は私が務めます」


 ラファエルは、そう言い切ると。


「では踏み込みましょう」


 螺旋階段を上り、そして躊躇する事なく1番上の扉に手を掛けた。


「皆さん、心の準備は出来ましたか?」


 ラファエルは、この確認に全員が頷くのを確認すると。


「行きます!」


 扉に賭けた手に、一気に力を入れたのだった。





はい、天空の城のアニメ映画に出てくる空賊の手下の名前です。

マニアック過ぎですね、すみません。


2021 オオネ サクヤⒸ

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