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   第百二十話  何用でござるか?


 



 マローダー改が116にレベルアップした日の午後。


「ウェポンタイガー一家に話を聞きに行くのは明日と言いましたが、2つもレベルアップした事ですし、今から行きませんか?」


 というラファエルの提案に。

「いいぞ」

「いいね」


 和斗とリムリアは即答し。


「行くですぅ!」

「……」


 ヒヨを肩車したキャスと共に、出発したのだった。

 ちなみにヒヨは……やっぱり何も分かってないんだろうな。




 他の組同様、ウェポンタイガー一家も幾つもの事務所を構えている。

 そんなウェポンタイガー一家の事務所の1つを、リムリアは見上げた。


「5階建てのビルか。ふうん、1階が酒場で2階がギャンブル場、3回が娼館で4階から上が事務所になってるんだね」


 そしてリムリアは、ラファエルに視線を移す。


「でもラファエル。アンダーグラウンド組織って、こんな大きな建物を建てれるくらい儲かるモンなの?」

「林業士はブラックタワーをクリアした者ですから、その過程で山ほど金を稼いでいます。そして植物系モンスターのドロップアイテムも高価で取り引きされる物ばかりなので、金に困る事はない。となれば、パァッと使おうか、と考える林業士も多いんですよ。特に酒や女やギャンブルなどに、ね」

「そういや天上鋼って何億ユルもするんだったっけね。そりゃあ遊ぶ金には困らないよね」


 リムリアが納得したトコで、ラファエルは1階の酒場に足を踏み入れる。


 かなり広い酒場だ。

 6人がけのテーブルが18も並んでいる。

 20人が座れそうなカウンターには3人のバーテンダー。

 まだ昼間なのにウエイトレスが忙しそうに酒や料理を運んでいる。

 なかなか盛況だ。


 壁際には、何匹かのウェポンタイガーの獣人が壁際に立っている。

 もちろんウエイターには見えない。

 そんなウェポンタイガーの獣人の1人にラファエルが。


「この事務所の責任者の方に合わせてもらえませんか?」


 爽やかな笑みとともに話しかけた。


「ああん、アニキに? なんだテメエは?」


 ウェポンタイガーの獣人が、鋭い目でラファエルを睨む。

 が、すぐに驚きに目を見開く。


「あ、あんたはラファエル……さん」

「おや、私の顔を知ってるようですね。では責任者に取り次いでくれますか、ラファエルが話を聞きたい、と」

「へ、へぇ、ちょっと待っててもらえますかい?」


 急に威勢が悪くなったウェポンタイガーが、階段を駆け上がっていく。

 そして数分後。


「どうぞ、コチラに」


 戻って来たウェポンタイガーの獣人は、そう言って歩き出す。

 その後に続いて階段を登っていく。

 2階のギャンブル場も、3階の娼館も盛況だった。


 そして辿り着いた4階は、殺風景な場所だった。

 何の仕切りもないワンフロアで、柱だけが並んでいる。

 床も天井も壁も打ちっぱなしのコンクリートのような感じ。

 まるで倉庫みたいだ。

 という状態の広間の奥に、机や椅子が雑然と置かれている。

 その椅子の1つに座ったウェポンタイガーが。


「ラファエル殿、何用でござるか?」


 変わった口調で問いかけてきた。


「コテツさんの口から直接、今のウェポンタイガー一家の状況を聞きたいと思いまして、お邪魔しました」


 ラファエルが口にした、コテツという単語。

 このウェポンタイガーの獣人の名だろうか。

 かなり変わった名前だ。


 いや、この世界で耳にするとは思いもしなかったという方が正確かも。

 コテツ、すなわち虎徹。

 新撰組の局長、近藤勇の愛刀だったと言われる刀の銘だ。


「コテツ? まさかな……」


 思わず呟いた和斗に、ラファエルが説明を始める。


「ウェポンタイガーの前足は4本あり、その内の2本に武器が生えているのは知っていますよね。その武器は刀である事が殆どなので、その刀のランクにより、ウェポンタイガーはクラス分けされているのです。カズトさん、前に見せたウェポンタイガーのクラス表を覚えていますか?」

「ええと、たしか……」


 さっきラファエルに見せてもらった紙には、こう書かれていた筈だ。


 クラス                      経験値

 数打ちクラス   (魔獣)              5万

 業物クラス    (獣人化可能=下っ端)      25万

 大業物クラス   (中堅)            200万

 銘刀クラス    (幹部)           1500万~


 と心の中で確認する和斗、ラファエルが続ける。


「生まれたばかりの時。数打ちと呼ばれる1番ランクが低い刀が生えています。そして進化すると刀も業物と呼ばれる優れた刀に進化します。その次の進化では大業物、そして最終的には『銘』を持つ刀、銘刀となります。この刀の銘が、そのウェポンタイガーの名前になるのです」


 そしてラファエルは、和斗からコテツに視線を移す。


「彼の刀は、コテツという銘を持つ名刀。だから彼の名前もコテツなのです。そして銘刀クラスに至ったウェポンタイガーは、不思議とあのような喋り方になるのですよ。あ、ちなみにコテツさんの経験値は1800万くらいです」


 そう口にしてからラファエルはコテツに微笑む。


「すみませんね、内輪話が長くなって。で、今のウェポンタイガー一家はどんな具合なんです?」


 というラファエルの問いに暫く考え込んだ後。

 コテツは重々しく口を開く。


「組長が黒と言えば、例え白いモノでも黒、というのが、この世界の決まりなのでござるが……正直、もう組長に付いていけないと思っているのでござる」


 コテツの話によると。


 ウェポンタイガー一家の組長の名はドウタヌキといったらしい。

 そのドウタヌキの名が、ある日『ヨミのケン』に変わった。

 つまり腕に生えた刀の『銘』が急に変わった、との事。


『銘』を持つに至った刀が、更にクラスアップして新たな『銘』になる。

 これは偶に起こる事だから、この事自体に問題はない。

 しかしヨミのケンに銘が変わって以来、組長は一変した。

 穏やかにして重厚だった性格が、残虐で凶暴な性格へと。

 そして今まで、それなりに上手くやって来た他の組と対立するようになる。

 誰にも通用しない屁理屈で縄張りを主張し、縄張りの強奪を始めたのだ。


「ラファエル殿も知っての通り、他の魔獣は獣人化すると戦闘力は低下するでござるが、ウェポンタイガーは獣人化した方が刀を上手く扱えるでござる。それゆえ辺獄において組同士でケンカするとなると、ウェポンタイガー一家の方が有利なのでござる。さすがに魔獣の姿に戻ってケンカすると、林業師や天使が黙っていないでござるから」


 と、そこでコテツは、思いもよらない事を口にする。


「やはり突然現れた、邪悪な気を纏う手首の影響でござろうか?」

「「「邪悪な気を纏う手首?」」」


 コテツの言葉にラファエル、和斗、リムリアの声が揃った。


「邪悪な気を纏う手首って、それってもしかして……」


 悪い予感に顔を曇らせているリムリアに、ラファエルも厳しい表情で頷く。


「はい。チート転生者の手首である可能性が高いと思われます。一刻も早く確認しないと大変は事になるかもしれませんね」


 その話の内容に、和斗は顔を曇らせる。


「インフェルノの第3圏じゃ、ケルベロスはチート転生者の眷属として生まれてしまうんだよな、チート転生者の手首の影響で。ってコトは、もしもその突然現れたという手首がチート転生者のモノだとしたら、これから生まれるウェポンタイガーもチート転生者の眷属として生まれてくるんじゃないか?」

「え、マズいじゃん! どうすんの!?」


 声を上げたリムリアにも、答えは分かっている。

 もし、その手首がチート転生者のものならば。

 ウェポンタイガーもケルベロスと同じ道をたどるだろう。

 すなわちチート転生者を強くする為だけに動く、道具にされてしまう。

 それだけは阻止しなくては。


 というリムリアの考え通り。


「その手首を見に行き、そしてチート転生者のモノだったなら手を打たないといけないでしょうね」


 ラファエルは鉄のような表情で答え、そしてコテツに視線を向けた。


「で、コテツさん。その邪悪な気を纏った手首は、どこにあるのですか?」

「ウェポンタイガー一家本部の、組長の部屋でござる」


 コテツの答えにリムリアがニッと笑う。


「分かり易いね。じゃあさっそく行こう!」


 やる気満々のリムリアに、ふと思いついたようにラファエルが質問する


「ところでリムリアさん。どうしてアナタは手を貸してくれるのですか? ウェポンタイガーがどうなろうと神霊力を学ぶ事に支障はありませんよ?」

「悪いヤツが好き勝手してるのは、すんごく気に食わない。だからブチ倒す。それだけだよ」


 即答したリムリアに、ラファエルは笑い声を上げる。


「はは、ははは、はははははははは! いやぁリムリアさん、最高です。悪いヤツを倒すのに微塵も躊躇いが無いなんて。いやぁ本当に私、感動しましたよ。もう1回言います。リムリアさん、アナタ最高です」


 涙をぬぐうラファエルに、リムリアがフンと鼻を鳴らす。


「人に害を加えないなら放置してあげたけど、悪いヤツって必ず善良な人に酷いコトすんだよね。しかも絶対に反省しないし、自分さえ良ければ、って言う考え方も変えない。なら滅ぼすしかないじゃん」


 というリムリアの言葉に、ラファエルの表情に様々な感情が混ざった。


「そうですね。我々天使は愛と赦しをもって行動します。しかし、どうしても許せない者が存在するのも事実です。その、どうしても許せない物と相対した時、天使は堕天するのです。その許せない者を滅ぼす為に」


 身に纏う空気が一変したラファエルに、リムリアが遠慮がちに声をかける。


「それってベールゼブブやベルフェゴールのコト?」

「え? いや、まあ、それはその、え~~と、私が勝手に語って良い内容ではありませんから……それにいつの日か、本人から直接聞けると思いますよ。リムリアさんとカズトさんなら」

「ボクとカズトなら?」


 キョトンとなるリムリアに、ラファエルは意味深な笑みで頷く。


「そうです、リムリアさんとカズトさんなら、です」


 そしてラファエルは、話は終わりとばかりにパチンと指を鳴らす。


「では第2圏にあるウェポンタイガー一家の本部に向かいましょう」


 と、ラファエルが言い終えた時。


 和斗、リムリア、ヒヨ、キャス、ラファエル、そしてコテツは転移していた。

 転移した先は、もちろんインフェルノの第2圏。

 吹き荒れる煉獄力に逆らって前に進む事により神霊力を鍛える場所だ。

 だが。


「煉獄力に邪悪なモノが混ざってる」


 リムリア言った通り、吹き付けてくる煉獄力は以前のものではなかった。


「これって第3圏に漂っているモノと同じモノだよね? じゃあやっぱりウェポンタイガー一家の本部にある手首はチート転生者のモノってコト?」


 表情を引き締めるリムリアに、ラファエルも厳しい顔で返す。


「そう考えた方が良いでしょうね」

「ってコトは、ウェポンタイガー一家との戦いは避けられないってコト?」


 声に殺気が混じるリムリアに、ラファエルが首を横に振る。


「いいえ。いや、ひょっとしたらそうなるかもしれませんが、まだチート転生者の眷属として生まれて来たウェポンタイガーはいない筈です。だから問答無用でいきなり戦闘に、なんて状況にはならないと思いますよ」

「つまり話し合いで何とかなるかもしれないのか?」


 希望を口にする和斗に、ラファエルが困ったように笑う。


「そう願いたいものです。お互いの為にね」


 ふう、とため息をつくラファエルに、和斗も苦笑を返す。


「そうだな。お互いの為にも平和的に解決したいもんだな」


 そう口にしてから和斗は、第2圏を見回す。


「さてと。ウェポンタイガー一家の本部ってドコにあるんだ?」

「拙者が案内するでござる」


 和斗の呟きに答えたのはコテツだ。


「ウェポンタイガー一家の本部は、林業師訓練場から歩いて10分ほどの場所でござるから、ラファエル殿に転移してもらう必要もないでござろう」


 という事で、10分ほど歩き。

 辿り着いたのは、とんでもない大木だった。

 今立っている場所は、大木から500メートルほどの地点。

 なのに、首が痛くなるほど見上げないと天辺が見えない。

 高さ1キロメートルを超えているのではなかろうか。


「あれがウェポンタイガー一家の本部?」


 巨大樹を見上げるリムリアに、コテツが答える。


「インフェルノでもめったに見かけない、霊界樹という樹でござる。地下深くにまで根を張って大地の気を吸い上げ、大気に漂う霊力をも糧にして育つらしいのでござるが、本当の事は何も分かっていないのでござる」


 そしてコテツは霊界樹に向けって歩き出す。


「では拙者が先導するでござる。先頭を歩くのが拙者ならば、いきなり攻撃される事もないでござろう」


 霊界樹の根本には大きな穴が開いていた。

 縦横共に20メートルほど。

 このくらいないと、獣化した時に不便なのだろう。

 なにしろ魔獣姿のウェポンタイガーのサイズは7メートルを超えるのだから。

 その穴の奥がウェポンタイガー一家の本部なのだろう。


 もちろん本部の入り口なのだから、当然ながら見張りが立っている。

 獣人化した5人のウェポンタイガーだ。

 そのウェポンタイガーの獣人にコテツが声をかける。


「客人でござる。通してもらうでござるよ」


 さきほどコテツはこう言った。

 先頭を歩くのが拙者ならば、いきなり攻撃される事もないでござろう、と。

 しかし。


「「「「ゴァアアアアアアアア!」」」」


 5人の獣人は、いきなり襲いかかってきたのだった。







2021 オオネ サクヤⒸ

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