第十二話 じゃあドラクルの聖地に乗り込むか
「凄い! ホントに九つ首ヒドラだって簡単に倒せちゃった!」
あれほど手こずった九つ首ヒドラに完勝して、飛び上がって喜ぶリムリアに和斗も笑顔で返す。
「だろ?」
が、すぐに和斗は顔を曇らせた。
「でも、これほど強力なゾンビを配置しているって事は、ドラクルの聖地そのものにも強力なゾンビがいるって事だよな?」
ドラクルの聖地そのものを護っているゾンビが、聖地に続く道を護っている九つ首ヒドラゾンビより弱い筈がない。
ひょっとしたら、10首ヒドラとか11首ヒドラなんてモノがいるかも。
などと心配する和斗にリムリアが首を横に振る。
「ううん、聖地の中にゾンビはいないと思う。ドラクルの一族が正ドラクルになる為の大事な場所だから、ヘタに暴れられて壊されたら大変だもん」
「そ、そうか……そうだよな」
ホッとする和斗に、リムリアは難しい顔で付け足す。
「だから、ヴラドは配下のワーウルフに聖地を守らせてると思う」
「で、そのワーウルフってのは……」
「当然、九つ首ヒドラより厄介だよ」
ま、そうなるよな、と苦笑してから和斗は質問してみる。
「そういや聞いてなかったけど、聖地ってどんなトコなんだ?」
「ドラクルの民が正ドラクルになる為の魔法陣がある街だよ。その魔法陣を使う順番を待つ人が滞在する街でもあるから、多い時は1万人くらいが滞在するかな」
「1万人!? そんなに?」
どうやらドラクルの聖地というのは、和斗が想像していたよりも、ずっと大きいようだ。
「もちろん魔法陣はドラクルの一族にとって凄く大事なものだから、周囲を城壁で取り囲んで守ってるの。だから見た目は要塞都市って感じかな」
「その要塞都市を、今はワーウルフが守っている、ってワケか」
「うん」
「あれ? でもワーウルフって、生涯に一度だけしか生み出せないんじゃなかったっけ?」
「あ、それは正確にいうとオンリー・ワーウルフって言われる特別なワーウルフのコトだよ。ワーウルフやハイ・ワーウルフ程度なら幾らでも生み出せるの」
「なるほどな。そのワーウルフって、どのくらいの強さなんだ?」
「正ドラクルは魔法なら世界一だけど、物理攻撃力は殆どないんだ。だからその物理攻撃を担当するのがワーウルフなの。戦闘力は普通の人間の100倍くらい」
「そりゃあ手強いな」
顔をしかめる和斗に、リムリアが続ける。
「でもワーウルフは九つ首ヒドラゾンビより弱いよ。でも、聖地を知り尽くしているワーウルフが様々な攻撃を仕掛けてくるんだから、その手強さは九つ首ヒドラとは比べ物にならないだろうね」
「だろうな」
顔をしかめる和斗に、リムリアが続ける。
「で、もっと厄介なのは、ワーウルフの10倍の戦闘力を持つハイ・ワーウルフだね。九つ首ヒドラゾンビと同じくらい強いと思う」
「マジかよ。で、何人いるか分かるか?」
「ヴラドほどの魔力があれば、10000人のワーウルフを生み出してても不思議じゃないけど……全部で100人くらいじゃないかな。そして多分、ハイ・ワーウルフの方が多いと思う」
「なるほど。九つ首ヒドラゾンビより強いかもしれないハイ・ワーウルフが、100人も立て籠もっている要塞に勝利するだけの戦闘力が必要って事か。となると他の搭載武器も購入しておきたいな」
Ⅿ2重機関銃もチェーンガンも30倍に強化している。
その威力はとんでもないレベルなのだが、戦車砲塔に搭載されている120ミリ滑空砲の砲弾のエネルギーは、強化していない段階でもⅯ2重機関銃重の400倍もある。
戦車砲塔を購入して強化したら、想像を絶する戦闘力を手に入れた事になるだろう。
そして戦車砲塔の装甲貫通力は600ミリ前後といわれているが、ヘルファイアの装甲貫通力は1350ミリ。
破壊力だけなら戦車砲塔を遥かに超える。
しかし4基を撃ち尽くしてしまえばⅯPを消費してリロードしないと使えないという欠点がある。
しかしそれでもハイ・ワーウルフの戦闘力を考えると、戦車砲とヘルファイアを購入して、強化しておいた方が良いだろう。
「となると暫くポイント稼ぎをする事になるな。……リム、それでいいかな?」
和斗の問いに、リムリアは迷う事なく即答する。
「うん。厳しい戦いになる事は間違いないと思うから、ボクも攻撃力をアップさせておいた方がイイと思うよ」
戦車砲塔とヘルファイア4基を購入するのに必要なオプションポイントなら溜まっている。
だから目標は、購入した戦車砲塔とヘルファイア4基を限界まで強化するのに必要なスキルポイント59000を稼ぐ事だ。
その過程でマローダー改も何度かレベルアップを果たし、防御力もアップするだろう。
「よし。とにかく九つ首ヒドラでも簡単に倒せるようになったんだ、見つけたヒドラを片っ端から倒していくぞ」
「了解!」
こうして和斗がマローダー改を走らせ、リムリアがチェーンガンで発見した敵を撃ち倒していった結果。
24匹の六つ首ヒドラゾンビ。
11匹の七つ首ヒドラゾンビ。
7匹の八つ首ヒドラゾンビ。
3匹の九つ首ヒドラゾンビを倒したのだった。
これにより累計経験値は13万を超え、21にまでレベルアップしたマローダー改の最高速度は510キロに、加速力は7・4倍にアップした。
登坂性能は90度になっており、車重も360トンになっている。
しかし普通、どれほどエンジンが強力であっても、360tもの車重を時速510キロに加速する事は出来ない。
タイヤが空回りしてしまうからだ。
ましてや90度、すなわち垂直の壁など登れる訳がない。
つまり今のマローダー改の性能は、常識を超えた域に達している事になる。
装甲も、76メートルの鋼鉄に相当する強度になった。
これは核兵器にすら耐える事ができる強度だ。
少なくとも単純な防御力なら、この世界で最強ではないだろうか。
そしてⅯPは380にアップした。
しかし1日に最低限必要なⅯPは燃料満タンに1、消費アイテム回復に1、室内掃除と洗濯替わりのクリーニングに必要な2の、合計4でしかない。
マローダー改が破壊されても元通りに復元できるレベル5のレストアが20。
どんな重傷も癒す事が出来るレベル5のメディカルも20。
マローダー改がひっくり返っても元通りの状態に戻せるポジショニングが1。
これらをを考慮しても、かなりのⅯPを搭載武器のリロードに回す事が可能だ。
なら、そろそろ先に進んでも良い頃だろう。
「じゃあ、戦車砲塔とヘルファイア4基を購入したい」
《了解しました。オプションポイント30000を消費して戦車砲塔とヘルファイア4基を購入します》
購入が決まると同時に、カーナビにマローダー改の見取り図と、戦車砲塔とヘルファイア4基が映し出される。
「さて、どこに設置するかな」
悩んだ結果、とりあえず普通の戦車を基本にする事にした。
なにしろ今の戦車の形は試行錯誤の末、今の形状になったのだ。
素人の和斗がヘタに考えるより良い筈だ。
「戦車砲塔をマローダー改の真ん中にセットして、ヘルファイア2基を収納したミサイルポッドを戦車砲の左右にセットしてくれ」
そう告げた和斗に、サポートシステムが質問する。
《ミサイルポッドは4基がセットです。2基ずつに分けるには1000オプションポイントが必要となりますが?》
「ああ、それくらい構わない」
《了解です》
「で、今までこの位置にあったⅯ2重機関銃の砲塔は、戦車砲塔の上にセットしてくれ。チェーンガンは運転席の天井で」
これで武器の配置は決まった。後は武器強化だ。
「戦車砲塔とヘルファイアを限界まで強化してくれないか?」
《了解しました》
これで戦闘準備は終わった。
「よしリム。じゃあドラクルの聖地に乗り込むか」
「うん!」
和斗の言葉に、リムリアは覚悟を決めた顔で頷いたのだった。
「なるほど、まさしく要塞都市だな」
和斗はドラクルの聖地を遠くの望む小高い丘の上で呟いた。
中世ヨーロッパを思われる美しい街並みを、高さ20メートル、厚さ3メートルもある城壁が取り囲んでいる。
街を取り囲んだ城壁の直径は1キロほどで、その中心にある直径50メートルもある魔法陣が、正ドラクルになる為の魔法陣なのだろう。
「分厚い城壁だけど、マローダー改の突進ならブチ抜けるだろな」
感想を漏らす和斗に、リムリアがやる気満々の笑みを浮かべる。
「じゃあ、このまま突っ込む?」
「いや、ドラクル一族の聖地を破壊したくない。再建するのに多大な時間と費用が必要だろうからな」
そんな和斗の言葉に、リムリアが意外そうな顔になる。
「あの程度の街なんて簡単に建設できるよ」
「そうなのか!?」
目を丸くする和斗にリムリアがクスクスと笑う。
「正ドラクルの魔力なら作業ゴーレム100体くらい操れるから、この程度の街を再建するくらい簡単な事だよ。必要資金は、ボクのお小遣いくらいだし」
「……ドラクルの一族って凄いんだな」
リムリアがシャワートイレをマローダー改ごと金100キロで買い取ると言いだした事があったが、城塞都市を楽々と再建できるのなら金100キロなど微々たるモノだろう。
「じゃ、何の遠慮も要らないってワケだな」
ニヤリと笑う和斗に、リムリアが慌てて付け足す。
「あ、でも正ドラクル化の魔法陣だけは壊さないでね! ボクが正ドラクルになる為に必要だから」
「分かった。けど、それでもマローダー改で突入するのはマズイだろな」
ゾンビ程度なら轢き殺せばいい。
しかし人間の100倍もの戦闘力を持っているワーウルフなら、簡単にマローダー改の上に飛び乗ってくるだろう。
そしてマローダー改には、搭載武器では攻撃できない死角もある。
マローダー改を破壊される事はないだろうが、こちらから攻撃できないのでは膠着状態に陥ってしまう。
「ってコトは遠距離攻撃がベストだろな。リム。魔方陣さえ無事なら、要塞都市を破壊し尽してもイイんだよな?」
「うん。さっき言ったように、再建するのは簡単だから」
アッサリと言い切るリムリアに頷くと、和斗はマローダー改をドラクルの聖地から10キロ地点に移動させた。
ドラクルの聖地に続く道の左右には畑が広がっているだけなので、非常に見通しが良い。
そしてⅯ2重機関銃の有効射程距離は2000メートルで、最大射程は6770メートルもある。
そのⅯ2重機関銃が30倍に強化されているのだ。
敵がどれほど大軍だったとしても、マローダー改に辿り着くまでに倒せるだろう。
ちなみにⅯ2重機関銃は、1発ずつ発射する事も可能だ。
機関銃という言葉から連射しか出来ないと思い込んでいたのは失敗だった。
「さてと」
和斗はⅯ2重機関銃やチェーンガン、戦車砲塔とリンクしているヘッドセットを装備すると、ズーム機能を操作してドラクルの聖地を偵察する。
「城壁の上をワーウルフが巡回してるな。ざっと数えて30人ってトコか」
和斗が使っているヘッドセットと同じモノを被ったリムリアが呟く。
「じゃあ、まずは見える範囲で敵の数を減らすね」
Ⅿ2重機関銃のコントローラーに手を伸ばしたリムリアに、和斗は真剣な顔で頷く。
「ああ、初めてくれ」
「了解!」
ド!
「ぐはッ!」
Ⅿ2重機関銃から発射された弾丸を食らって、ワーウルフがグシャグシャになって飛び散った。
ハイ・ワーウルフだったのか、ワーウルフだったかのか、それは分からない。
しかし仮にワーウルフだったとしても、人間の100倍以上の戦闘力を持っているのだから防御力も高いと思われる。
だがⅯ2重機関銃は、たった1発でワーウルフを消滅させた。
30倍に強化しただけあって、とんでもない破壊力だ。
が、そこで和斗は不思議な現象に気が付く。
「……ちょっとまて。何で撃たれたワーウルフの悲鳴が聞こえたんだ?」
マローダー改を停めたのは、城壁から10キロは離れた場所の筈。
そんな遠くの声が、なぜ聞こえたのだろう?
と、そこにサポートシステムの声が響く。
《Ⅿ2重機関銃、チェーンガン、戦車砲塔には、情報を得る為の集音装置が装備されています。これによりズームしている場合の音を、聞き取る事が可能です》
「そりゃ凄いな」
和斗は心の底からそう思ったのだった。
2020 オオネ サクヤⒸ