第百十九話 レベル上げをしませんか?
「ところでカズトさん。もし良ければ、今日のところはコキュートスに向かってレベル上げをしませんか?」
というラファエルの言葉に、和斗はカムラをチラリと見て考え込む。
「そうだな。マローダー改の全力にもビクともしない防御力が存在する以上、ステータスは上げれるだけ上げておくのも悪くないな。よし、じゃあ今からコキュートスに向かうとするか」
今の時刻は昼の4時頃。
そして林業作業は普通、5時まで行っているらしい。
なら1時間ほどコキュートスで林業をするのも悪くない。
和斗が、そう考えて頷くと。
「その言葉を待っていました」
ラファエルは満足そうな笑みを浮かべ。
「じゃあ、さっそく行きますか」
コキュートスに転移したのだった。
移転した先は、和斗が地拵えした場所だった。
「不気味な植物系モンスターが生い茂る中、10キロ四方だけ綺麗に苗が植えられてるのは不思議な光景だね」
コキュートスを見回すリムリアに、ラファエルが頼み込む。
「リムリアさん。今回はカズトさんが地拵えをした場所に、苗植えをして欲しいのです。キャスさんとヒヨと共に」
「苗植えかぁ。ま、かまわないけど、ナンでボクとキャスとヒヨが苗植えなの?」
尋ねるリムリアに、ラファエルが山のように積み上げられた苗を指差す。
「カズトさんは地拵えで広大な更地を作り出せますが、その後の苗植えには、物凄く時間がかかってしまうからです。なにしろ苗は1メートル間隔で植えるのですから10キロ四方に植え付ける苗の数は1億。1秒で1万植えたとして3時間近くかかってしまう数です」
「そんなに!?」
目を丸くするリムリアに、ラファエルが大袈裟に頷く。
「ですのでカズトさんは、力をセーブして貰って前回と同じく10キロ四方の地拵えをしください。そしてその後は、全員で苗植えをしてもらいたいのです。私の計算では1時間で終わる筈ですので」
「俺はそれでいいぞ」
和斗がそう答えると。
「カズトがイイならボクもそれでイイ」
「カズト様に従います」
リムリアとキャスが即答した。
「イイですぅ!」
意味が分かっているか不安な声も混ざっているが、それはおいといて。
「じゃあ、まずは地拵え、いくぞ」
和斗は前回と同じ程度に手加減した神霊力を撃ち出した。
その神霊力の巨大な刃は、今回も10キロ四方を更地にし。
――キラー・ウィード 4198652匹
を倒しました。
経験値 2099億3260万
スキルポイント 2099億3260万
オプションポイント 2099億3260万
を手に入れました。
パラパパッパッパパーー!
――累計経験値が4000億を超えました。
装甲車レベルが115になりました。
最高速度が350万キロになりました。
質量が1億トンになりました。
装甲レベルが鋼鉄4500万キロメートル級になりました。
ⅯPが127万になりました。
装鎧のⅯP消費効率がアップしました。
1ⅯPで180秒間、装鎧状態を維持できます。
サポートシステムが操作できるバトルドローン数が850になりました。
神霊力が恒星150万個級になりました。
耐熱温度 80兆 ℃
耐雷性能 8000京 ボルト
になりました。
簡単にレベルアップを果たした。
このままマローダー改のレベルを、ドンドン上げたいトコだが。
「皆さん、ではこれが初めての苗植えの実習ですね。がんばってください」
ラファエルが言ったように、これから苗植えをしなければならない。
というワケで。
「まずは1万から初めてみるか」
和斗は1万本の苗を神霊力でコーティングすると。
シュパパパパパパパパパパパパパパパパ!
更地と植物系モンスターとの境に、1列に撃ち込んだ。
その綺麗に植えつけられた苗を目にして、和斗は呟く。
「上手くいったな。じゃあ次は2万本にトライしてみるか」
2万本も成功。
3万、4万、そして5万と増やしていき。
「どうやら今コントロール出来るのは7万ってトコか」
和斗は1度に7万本の苗をコーティングして撃ち出せるようになった。
もちろんこれは正確にコントロールできる数。
少しくらい的を外してもイイなら15万くらいは撃ち出せそうだ。
そしてリムリアの上達も早かった。
最後には3万を撃ち出せるようになる。
キャスも1万に成功するが、驚いたのはヒヨだ。
なんと5万もの苗を1度にコントロールしている。
「まさかヒヨに負けるなんて……」
「自己改造を急ぐ」
などとリムリアとキャスが声を上げる中。
1時間かかると思われた苗植えは、たった10分で終わったのだった。
「さすがですねカズトさん。これほど急激に上達するなんて、私の想定を遥かに超えています。リムリアさんも凄いですよ。神霊力量ではカズトさんに負けていますが、正確さではリムリアさんの方が上です」
というラファエルの賞賛に。
「へへ、そうかな」
リムリアは一瞬だけ顔を輝かせるが、直ぐに曇らせる。
「でもヒヨに負けちゃった。まさかヒヨに負けるなんて思わなかったよ」
悔しさを隠そうともしないリムリアに、ラファエルが微笑む。
「その心配はいりませんよ。もうヒヨに苗植えをする力は残っていませんから」
「え? どゆコト?」
首を傾げるリムリアに、ラファエルが説明を始める。
「ヒヨが『暴食』の力を持っている事は説明しましたよね。その暴食の力によって蓄えたエネルギーを神霊力に転換して苗植えをしたのです。でもヒヨは、今回の苗植えによって蓄えた力は使い果たしました。もう5万どころか10本の苗植えも出来ないでしょうね」
ラファエルの説明に、和斗は疑問を口にする。
「ちょっと待った。なあラファエル。ヒヨは原爆を何個も食べてるんだ。その強大な核エネルギーが、たかが苗植えでなくなってしまうモノなのか?」
「そうですね。神霊力ではなく煉獄力に転換したのなら、まだまだ残っていた事でしょう。ヒヨは暴食のベールゼブブ、つまり堕天使の力を受け継ぐ者ですから。でも、だからこそ暴食で得たエネルギーを神霊力に転換するには膨大なロスが生じてしまうのです」
神霊力は天使の領域の力。
対して煉獄力は堕天使の力。
言い換えれば愛と赦しの力と、必罰と破壊の力。
その必罰の破壊の力を、愛と赦しの力に無理やり変える。
大きなロスが生じるのが自然です。
そう締めくくったラファエルに、リムリアが質問を重ねる。
「でもそれってヒヨが、もっと沢山の物を食べたら、もっと大規模な神霊力が使えるってコト?」
「まあ、そうとも言えますね」
「なんかズルい」
唇を尖らせるリムリアに、ラファエルが苦笑いを浮かべた。
「それをリムリアさんが言いますか? どんどんレベルアップしていって際限なく強くなっていくのに」
「際限なく強くなってくのはマローダー改とカズトだよ。ボクはオマケみたいなモンだもん」
本気でそう口にするリムリアに、ラファエルは苦笑を深くする。
「自覚が無い強者ほど手に負えないモノはありませんね。困ったものです。今のリムリアさんの戦闘力は……」
ゴァアアアアアアアア!
ラファエルの言葉で遮ったのは、人のシルエットをした木だった。
樹高は30メートルくらい。
脚に見えるのは絡み合った根で、腕に見えるのは太い枝だ。
頭にあたる部分からは、葉を付けた枝が空に向かって伸びている。
ちょっとスリムなウッドゴーレムに見えなくもない。
「バトル・トレントですね。龍樹により聖なる結界は雑草くらいなら侵入不可能ですが、苗植え直後の幼い龍樹では、巨大な植物系モンスター相手の侵入を防ぐには力不足なのです」
バトル・トレントの数は20体ほど。
和斗ならば瞬殺できる相手だ。
しかし植えたばかりの龍樹にとってバトル・トレントの巨体は驚異。
簡単に踏み潰されてしまうだろう。
そう考えたリムリアがラファエルを見上げる。
「始末しちゃう?」
「いいえリムリアさん、それには及びませんよ。苗植え直後の龍樹を守るチームが存在しますから」
ラファエルがそう口にした直後。
シャシャシャシャシャシャシャシャ!
無数の剣閃が走り。
パラララララララララララ!
バトル・トレント20体は無数にスライスされて地面に降りそそいだ。
それを成したのは……鎧を身に纏った、6人の天使だった。
「あれってラファエルの仲間?」
リムリアの問いに、ラファエルが頷く。
「はい、苗植えを終えた地を巡回する天使チームの1つです」
「チームの1つ? 天使のチームって、幾つもあるの?」
「30チームが3交代制で巡回しています」
「6人のチームが30ってコトは、全員で180人いるの?」
「そうです。ちなみにチームは力天使で構成されています」
「力天使?」
聞き慣れない単語にキョトンとなるリムリアに、ラファエルが説明を始める。
「天使には9つの位階があります。9位の天使、8位の大天使、7位の権天使は主に人間界を活動の場としています。そして……」
位階の第6位である能天使
位階の第5位である力天使(ヴァ―チューズ)
位階の第4位である主天使
これらの天使は人間界と神界の中間が活動の場。
すなわちインフェルノも活動の場の1つであるらしい。
「これらの中でも霊的戦闘力が高い力天使を、至高神様は派遣されたのです。このコキュートスに」
「なら天使の大軍団でコキュートスを薙ぎ払ったら終わりじゃん」
リムリアの簡潔な感想に、ラファエルは苦笑する。
「そう簡単な話ではないのですよ。なにしろルシ……いえ、この話は後にしましょう、長くなりますから」
ラファエルは、大きなため息をついてから、話を元に戻す。
「とにかく。林業作業を行うメインは、インフェルノでの訓練を終えた林業師の皆さんにお願いするしかないのが現状なのです。しかし天使にも、その特性、すなわち飛行能力を生かして龍樹を守ってもらっています。残念ながら、その数はたった180人しかいないのですが」
「じゃあ林業師は苗を守る為に戦ったりはしないの?」
更に尋ねるリムリアに、ラファエルは首を横に振る。
「いえいえ、もちろん林業師にも植物系モンスターと戦ってもらいます。モンスターが襲いかかってきた現場に居合わせた場合は、ですけど」
「つまり林業師は龍樹を植えて育てる事がメインの仕事ってワケ?」
「はい。それが林業ですから。その過程で植物系モンスターを倒す必要があるんですけどね」
ラファエルは、そう口にしてから和斗に視線を戻す。
「ではカズトさん。まだ時間が余ってますので、もう少し地拵えと苗植えをやりませんか?」
「そうだな。まだ昼まで少し時間があるもんな。それにできればレベルアップしておきたいな」
という事で。
和斗達は、更に3回、地拵えと苗植えを行ったのだった。
その結果、累計獲得経験値は1000億を超え。
――パラパパッパッパパー!
マローダー改は116にレベルアップしたのだった。
最高時速 520万 キロ
車重 2億 トン
装甲レベル(鋼鉄相当) 6500万 キロメートル
ⅯP 143万
操作可能ドローン数 1000機
耐熱性能 90兆 ℃
耐雷性能 9000京 ボルト
神霊力 恒星200万個 相当
装鎧 ⅯP1=190秒
「うん、やっぱりどれだけ強くなったのか実感わかないな」
というマローダー改のステータスを確認した和斗の後ろで。
「神霊力が恒星200万個相当に増えましたか。これならウェポンタイガー一家に向かっても大丈夫でしょうね」
ラファエルが呟く。
が、それに気が付く者は1人もいなかった。
2021 オオネ サクヤⒸ