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   第百十八話  ボク達、ここにナニしに来たんだっけ?


 



 マローダー改のステータスなら、どんな相手でも無敵。

 和斗はこの瞬間まで、そう考えていた。

 しかし至高神の防御フィールドは。


「しッ!」


 ぶにょん。


 和斗とマローダー改の全力攻撃にもビクともしなかった。

 しかも跳ね返すでもなく、優しく受け止める感じ。

 これなら誰が殴っても、拳を痛める事などないと思われる。


 もちろんケルベロスが噛み付いても、牙を傷めたりしないだろう。

 カムラに相応しい防御フィールドだと、素直に思う。

 だが、それはそれとして。


「攻撃が全く通用しないのは、ちょっとショックだな」


 和斗は、ふと不安に思った。

 マローダー改の全力でも、カムラに傷を追わせる事はできなかった。

 もちろん傷いたら、それはそれで大事なのだが。

 問題は、チート転生者だったらどうなのか、という事だ。


 カムラが40年もかけて苦労した元凶、それがチート転生者の手首だ。

 その手首の主であるチート転生者の強さは、どれ程のモノだろうか?

 ひょっとしたらカムラ同様、マローダー改の攻撃にもビクともしないかも。

 実際のところ、カムラを守る力にはマローダー改のパワーが通用しなかった。

 なら他にも同じ防御力を持つ者がいても不思議ではない。


 考えただけで、冷や汗が流れてくる。


「これは真剣にレベルアップに励まないとな」


 和斗は装鎧を解除すると、そう呟いた。

 と、そこでカムラが変わった石をポケットから取り出す。


「ところで、話をもとに戻そう。ケルベロス一家を許してくれないか? わび替わりと言っちゃナンだが、無条件で1つレベルがアップするアイテムをプレゼントするから」


 カムラの言葉に、リムリアが大声を上げる。


「レベルアップするの!? 無条件で!?」

「そうだよ。必要経験値が何憶、何兆あってもレベルアップする。しかし逆に言えば、経験値1でレベルアップする時点で使用しても1しかレベルアップしない。使うタイミングを考えないと、もったいないよ」

「そうだね。あと1でレベルアップするんなら、ゾンビを1匹倒してレベルアップしてから、そのアイテムを使った方がお得だよね!」


 リムリアがウンウンと何度も頷くが、そこで。


「あれ?」


 リムリアは、カムラが差し出した石を見て首を傾げる。


「どっかで見たような……どこだっけ」


 そのリムリアの呟きに答えたのは。


――神の雫です。


 サポートシステムだった。


「神の雫? って何だっけ?」


 どうやら思い出せないらしく、テヘヘと笑うリムリアに。


――ヒヒイロカネゴーレムのドロップアイテムです。


 サポートシステムが付け加えた。


「あ、そうだった! って、神の雫ってレベルアップアイテムだったの!?」


 目を丸くするリムリアに、カムラが頷く。


「その通り。経験値を得てレベルアップしていく、というキミ達だけに効果を発揮する、特殊なアイテムだよ。もちろん他の者にとっても、超貴重なアイテムではあるのだがね」

「でも、どうしてそんなコト知ってるの?」


 首を傾げるリムリアに、カムラが微笑む。


「カズトくんがブラック・ケルベロスとシルバー・ケルベロスを全滅させた時、至高神様が教えてくれたんだよ。事態を丸く収める為、カズトくんに神の雫の事を教えた上で渡すといい、ってね」

「そっかぁ。ならカズト、許してやってもイイんじゃない?」


 表情を和らげるリムリアに、和斗は厳しい顔を向ける。


「俺達が得するから、それでイイ、って話じゃない。粗悪品を3億で売りつけようとした上、ティアまで誘拐したんだ。そんな凶悪な犯罪組織を生かしておくワケにはいかない」


 そんな和斗の言葉にカムラが不思議そうな顔になった。


「粗悪品? ケルベロス一家がカズトくんに売りつけようとしたアクセサリーは天上鋼製だよ。3億という値段は適正な価格じゃないかな」

「え!? でもティアは粗悪品って言ってたぞ」


 和斗の言葉に、カムラがティアを呼び寄せる。


「ティアさん。ちょっといいかな」

「は、なんでしょう?」

「貴女はケルベロス一家の店の商品を、粗悪品と言ってたんですよね?」


 ティアがプンプンと怒りながら声を上げる。


「はい、製作技術が未熟極まりないアクセサリーなんて粗悪品です! 最高の素材である天上鋼は、最高の技術でアクセサリーに仕上げるべきです!」


 なるほど。

 アクセサリー職人としてのティアの目から見たら粗悪品。

 だが素材の価値だけで3億の価値はある、という事みたいだ。

 とはいえ和斗の表情は厳しいままだ。


「しかしティアを誘拐した事は、皆殺しにするのに十分な理由だぞ」


 ケルベロス達を睨み付ける和斗に、カムラが苦笑する。


「それは誘拐というより恋人同士ケンカですよ。でしょう、ティアさん。アナタと恋人であるプラチナ・ケルベロスのトレカーネとの」

「「え?」」


 和斗とリムリアが揃って目を向けると。


「もう恋人じゃありません!」


 ティアは真っ赤な顔で否定した。


「あんな不器用で、細工のヘタなヤツなんか知りません! せっかく人が特訓してやるって言ってるのに、急いで金が必要だからと不出来なアクセサリーを売ろうとするなんて! あのバカ!」


 フン! と鼻を鳴らすティアを、カムラが優しい声で諭す。


「ティアさん、トレカーネが金を必要としたのは私の浄化が大成功して、200人ものシルバー・ケルベロスがケルベロス一家に加わったから。つまりそれほどの人数の食費が、急に必要となってしまったからなんだ。生活基盤を整えようと40年も働いてきたのに、増えた人員を食わせる事が出来ないなんて、本当に恥ずかしい限りだよ」

「え?」


 カムラの言葉に、ティアが白銀ケルベロスに目を向ける。


「そうだったの? なんで何も言ってくれなかったの?」

「だってそんな事、本物のアクセサリー職人であるティアに言えるワケないじゃないか。舎弟たちを養う為に不完全なアクセサリーを売りたいなんて」

「バカ! 徹夜してでも仕上げてあげたわよ! トレカーネの為なら!」

「……すまない」

「謝らないでよ……」


 そしてティアとトレカーネはイチャイチャモードに入ってしまう。


「なにコレ? ボク達、ここにナニしに来たんだっけ?」


 リムリアの白けた声に、和斗も体の力が抜けるのを感じた。


「ああ、一体ナニしに来たんだろうな」


 大きなため息をつく和斗に、ラファエルが微笑む。


「新たな神霊力の使い方をマスターして苗植えができるようになった。それでイイじゃありませんか」

「ま、そう考えれば腹も立たないか。いや……」


 そこで和斗はカムラに目を向けた。


「尊敬に値する人が、第3圏で頑張っている事を知る事が出来た。これも大きな収穫だよな。そんなカムラさんが苦労してチート転生者から救い出したケルベロスと戦うのは気が引けるし」


 和斗はそう呟くと、トレカーネに声をかける。


「おい。ティアが細工を担当するのなら、その天上鋼のアクセサリー、3億で買ってやる」

「本当ですか!?」


 慌てて駆け寄ってくるトレカーネに和斗は頷く。


「どうやら今回の事は、互いに誤解があったみたいだ。辺獄の店を潰した弁償と合わせて5億出そう。どうだ、これで和解しないか? まあ仲間を殺されたんだから最後の1人まで戦うというなら、仕方ないが」


 その場合は予定通り、皆殺しにする。


 という和斗の考えを覚り、トレカーネは真っ青になった。

 なぜなら、和斗がカムラに放った1撃を見てしまったからだ。

 惑星の衝突に匹敵する攻撃を。

 あの拳が自分に襲いかかる。

 それを想像しただけで、トレカーネは気が遠くなる思いだった。


 だからトレカーネは、声を裏返して即答する。


「いえ、喜んで和解させて頂きます! でしょう、組長!? 敵対したって何の得もないですよね!? 」


 トレカーネに言われるまでもなく。

 和斗と敵対した瞬間にケルベロス一家は消滅する事は明白。

 いや決定事項に近い。

 もちろん7色ケルベロスは、そんな不幸な最後を迎える気などなかった。

 だから7色ケルベロスは。


「当たり前です! アンタと戦わないで済む上、5億も手に入るなんて最高の手打ちです! 喜んでその御話、受けさせて頂きます!」


 精一杯の愛想笑いと共に和解を受け入れたのだった。

 と、そこでリムリアが疑問を口にする。


「でも天上鋼って高いんでしょ? 普通に売れば、食費くらい簡単に稼げたんじゃないの?」

「辺獄で素材として天上鋼の売買ができるのはチャレンジ・シティーの買い取り所だけです。アクセサリーのように小さなモノには目をつむってますが、素材として天上鋼を勝手に売りさばく者は林業師が抹殺します。たとえケルベロス一家全員だろうと」


 リムリアの問いに、ケルベロスより早くラファエルが答えた。


「林業師って、そんなコワい組織だったの!?」


 ドン引きするリムリアに、ラファエルが真顔で続ける。


「それほど天上鋼は貴重だという事です。悪用されたら世界が揺るぐ程の、ね」


 と、そこで。

 今まで黙って話を聞いていたキャスが、7色ケルベロスに質問する。


「ケルベロスは、カムラの力でチート転生者の眷属から解放されて凶暴ではなくなった筈。なのにどうして辺獄で縄張り争いが起きている?」

「「「あ」」」


 キャスの指摘に和斗とリムリア、そしてラファエルまでもが声を漏らした。

 ケルベロス一家は凶悪な犯罪組織ではなかった。

 ならどうしてケルベロス一家は、他の組織を争っているのだろう?

 という疑問に、7色ケルベロスがオズオズと説明を始める。


「実は最近ウェポンタイガー一家が、やたらと好戦的になってきたんです。その影響か、他の組もピリピリしてまして、小競り合いが絶えないんです。いや小競り合いだけじゃ終わらない雰囲気なんで、いつでも一家を上げてケンカできるように準備してたトコなんです」

「そこで俺とトラブルになった、ってワケか」


 和斗の呟きに7色ケルベロスがブンブンと頷く。


「はい、このところ気が立ってるトコに揉め事が起こったので、つい過激に反応してしまったんです」


 7色ケルベロスの説明にラファエルが考え込む。


「そんな事態になっていたとは初耳です。やはり様々な情報はアンダーグラウンドの方々の方が早いみたいですね。で、具体的には、どんな様子なんですか?」

「具体的に言うとウェポンタイガー一家の組長と幹部の数人が、やたらと凶暴になってるみたいです。以前はドッシリ構えた親分だったのに、最近はやたらとケンカを売ってきやがるんです」

「ふむ。辺獄の治安を考えると、放置しておいて良い問題ではなさそうですね」


 ラファエルは少し考え込んでから、和斗達へと目を向けた。


「カズトさん、リムリアさん、キャスさん、ヒヨ。少し私に付き合ってもらえませんか?」

「どうする気だ?」


 和斗の問いに、ラファエルは何の迷いもなく言い切る。


「ウェポンタイガー一家に、直接話を聞こうと思います」

「そりゃあ分かり易いな」


 苦笑する和斗に、ラファエルが微笑む。


「裏から手を回すとか、腹の探り合いとか、交渉の場で駆け引き、といった面倒な事は苦手なんですよ」

「奇遇だな。実は俺も得意じゃない。やっぱ話はシンプルなのがいい」


 和斗の言葉に、今度はラファエルが苦笑いを浮かべる。


「カズトさんのは話し合いじゃないでしょう」

「それは相手の出方次第だ。話し合いで終わるか、それ以外を選ぶのか、な」


 和斗がグキキッと拳を握ったトコで、ラファエルが天を仰ぐ。


「ああ、可哀そうなウェポンタイガー一家」

「ん? 話し合いで終わらないコト確定なのか?」

「できれば話し合いで解決したいと思ってますが、無理だろう、と私のカンが告げてます」


 残念ですけど、と付け加えたラファエルに、和斗は聞いてみる。


「ところでウェポンタイガー一家って、どんなヤツ等なんだ? やっぱり色々な種類がいて、強さも色々なのか?」

「ウェポンタイガーとは前足が4本ある虎で、その前足のうち2本には武器が生えていて、それで敵を攻撃します。その武器のランクがそのままウェポンタイガーの強さです」


 和斗の質問にラファエルが1枚の紙を取り出す。

 そこに書かれていたのは。


         ウェポンタイガー

 数打ちクラス   (魔獣)              5万

 業物クラス    (獣人化可能)          25万

 大業物クラス   (中堅)            200万

 銘刀クラス(幹部)               1500万~


 だった。


「ウェポンタイガーもケルベロス同様、煉獄力が収束して生み出され、より強い個体へと進化していきます。生まれた時は武器のレベルは低く、知能も低い只の魔獣でしかありませんが、武器が業物クラスに進化すると知能を得、獣人化できるようになります」


 そしてラファエルは、紙を指差しながら続ける。


「で、大業物クラス、銘刀クラスと進化するに従って、更に強くなっていくんですけど、この銘刀とは文字の通り『銘』を持った武器です。マサムネとかエクスカリバーなどですね。そしてこの武器の『銘』が、そのままそのウェポンタイガーの名前となります」

「なるほど。だから銘刀クラスの経験値が決まってないのか」

「はい。武器のレベルによって2000万の個体もいれば、3000万の個体もいます」


 と、そこでラファエルは急にパンと手をうち合わせると。


「まあ、それはそれとして。カズトさんは苗植えもマスターした事ですし、ウェポンタイガー一家に乗り込むのは明日にして、今日のトコロはコキュートスに向かいませんか」


 そう提案してきた。







2021 オオネ サクヤⒸ

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