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   第百十六話  恐ろしい事を平然と口にしますね


 



 ケルベロス一家の押し売り店を叩き潰した後。

 和斗はインフェルノの第3圏に戻りリムリア、ヒヨ、キャスと同流した。

 と同時にリムリアが和斗にリムリアが駆け寄る。


「あ、カズト。どこに行ってたの?」

「ああ、ティアの店でトラブルが発生したんでな。ちょっと行って解決してきた」


 そう和斗は口にするが、そこでラファエルが表情を硬くする。


「どうやら私の考えが甘かったようですね」

「どういうコトだ?」


 初めて目にしたラファエルの表情に、和斗が困惑の視線を向けると。


「やられました」


 ラファエルは前方を指差した。

 その指の先には。


「ケルベロス一家を敵に回していながら第3圏にいるとはナメられたもんだな」


 1匹の金ケルベロスが立っていた。


「? 金ケルベロスなら、さっき倒した筈なのに?」


 首を傾げる和斗にラファエルが囁く。


「さっき倒したゴールド・ケルベロスとは別の個体ですよ。それより問題なのはヤツが手にしている通話の指輪です」

「通話の指輪? それがどうかしたのか……!」


 そこまで口にして和斗はハッとなる。

 まさか、その持ち主は?

 それを口にする前に、金ケルベロスが怒鳴る。


「アクセサリー職人の娘を預かった!」


 そして金ケルベロスは、ピィンと指輪を弾く。

 ラファエルは、その指輪をキャッチして確認すると。


「やはり間違いないですね。ティアさんに渡した通話の指輪です」


 苦々しい声を漏らした。


「くそ、まさかいきなりティアを攫うなんて思わなかったぜ。なあラファエル。ケルベロス一家って、そんなに凶悪な組織だったのか?」

「そこまででは無かった筈なのですが、最近の縄張り争いの影響で凶悪化しているのかもしれません」


 ラファエルが、そう口にしたところで金ケルベロスが声を張り上げる。


「娘を無事に返してほしかったら、この第3圏にあるケルベロス一家の本部まで来い! 分かったな!」

「くそ!」


 和斗はギリッと歯を食いしばると、金ケルベロスを睨む。

 が。


「早く来ないと娘がどうなるか、分かるよな」


 金ケルベロスはその言葉を最後に、悠々と引き揚げていった。

 そんな金ケルベロスの後ろ姿に、リムリアがため息をつく。


「あ~~あ、カズト相手に人質を取るなんて。ケルベロスてバカなの?」

「カズトさんの事を知らないのだから、仕方ないでしょう」


 苦笑するラファエルに、リムリアが真剣か顔で囁く。


「どっちにしてもケルベロス一家はお終いだよ」


 というリムリアの言葉に、和斗は感情のない声を漏らす。


「ああ。後悔するのはドッチか、死ぬほど思い知らせてやる」


 その和斗の言葉に、リムリアは。


「ちょっとだけケルベロスが可哀そうになってきたかも」


 これから起こる事を想像して、ブルッと体を震わせたのだった。







 インフェルノ第3圏の深奥部に、ケルベロス一家の本部は築かれている。

 その軍隊の砦のようなケルベロス一家の本部まで500メートルほどの場所。

 そこに和斗は、ラファエルと共に転移した。

 もちろんリムリア、ヒヨ、キャスも一緒だ。

 そんな中。


「凄い数の魔獣姿の黒いケルベロスと灰色のケルベロスが本部の周りをうろついているけど、アイツらってケルベロス一家の番犬なの?」


 リムリアの質問に、ラファエルが説明を始める。


「ケルベロスという種は、第3圏の煉獄力が集まって実体化して生まれます。まあこれはケルベロスに限った事ではありませんが。そして『ある事情』により進化する個体も発生します」


 つまり生まれた時は黒いケルベロス。

 この黒いケルベロスは、灰色のケルベロスに進化する。

 続いて銀ケルベロス、金ケルベロスへと進化していく。

 全てのケルベロスが進化できるわけではないが、進化するほど強くなる。


 そしてケルベロス一家の主な構成員は銀と金のケルベロス。

 つまりケルベロスの上位種だ。

 だから黒ケルベロスや灰色ケルベロスを従える事も可能らしい。


「最後には白銀に輝くケルベロスへと進化するらしいのですが、それ以上に進化した個体がいるかもしれません」


 ラファエルが、そう締めくくったトコで。


「構わない。どんなヤツが出て来ようが、人質を取るようなクズは皆殺しにしてやるだけだ」


 和斗は鋼鉄のような声で言い切った。

 続いてアパッチ10機をポジショニングで呼び寄せると。


「サポートシステム。全機の武装を最高まで強化してくれ」


――了解


 和斗は、アパッチの武装を1000万倍に強化した。

 そしてアパッチで、黒と灰色のケルベロスを一掃しようとした、その時。


「カズトさん、ちょっと待ってください」


 ラファエルが声を上げた。


「アパッチで攻撃したら、物凄く大きな音しますよね? 当然、ケルベロス一家に私達がやって来た事に気付かれてしまいますよ」

「そうだな。できれば奇襲を仕掛けて、まずティアを助けたいトコだな」


 頷く和斗にラファエルがピッと指を立てる。


「そこで、です。神霊力でケルベロスを攻撃してみませんか? これなら静かにケルベロスを倒せます」

「失敗してもアパッチで攻撃したらイイだけだしな」


 和斗はラファエルに、そう答えると。


「とりあえずチャレンジしてみるか」


 足元に転がる小石に意識を集中させた。


「神霊力でコーティングして、狙って飛ばす、と……あ!」


 アパッチを操作しながら、神霊力を操作したからだろうか。

 自分でも驚く程、簡単にコーティングしていた。

 ……3306個もの小石に。


「敵の数まで正確に認識できるのか。不思議な感覚だぜ」


 和斗はそう呟くと、ケルベロスの眉間に狙いを定める。

 すると、1102匹のケルベロスの眉間に、赤く光る天が出現した。


 ああ、あの赤い点に命中するんだな。


 そう本能的に悟った瞬間。

 和斗は神霊力でコーティングした小石を撃ち出した。

 その小石は音速を遥かに超える速度で命中し。


 ドパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパ!!!


 1102匹のケルベロスの頭で打ち抜いた。


「うーわー。悲鳴1つ上げさせないでケルベロスを倒しちゃった」

「ご主人様、凄いですぅ!」


 リムリアとヒヨが歓声を上げるのを聞きながら、和斗は自分の手を見つめる。


「なんだ、こんなに簡単な事に、何を手間取ってたんだ、俺」


 確かに、出来て見れば簡単だった。

 この感覚。

 例えるなら、自転車みたいなものだろうか。

 乗れるようになるのは大変だが、乗れるようになったら簡単。

 そんな感じだ。

 ……微妙に違うかも。


 まあ、今はそんなコトを考えている場合じゃない。

 和斗は残ったケルベロスに意識を向けると。


「残り4937匹か。……1度でいけそうだな」


 14811の小石を神霊力でコーティングして打ち出した。

 もちろん、この攻撃でケルベロスは全滅だ。

 そんな圧倒的な光景を目にして、リムリアが騒ぐ。


「何コレ!? 上達、速すぎない!? コーティングして撃ち出す数が、いきなり1万を超えるってワケ分かんない!」


 悔しそうなリムリアに、和斗は真面目な顔で答える。


「アパッチを操作しながら小石を神霊力でコーティングしたから、神霊力を操るコツを掴んだんだと思うぞ。でもリムもドローンを操作できるんだから直ぐに出来るようになるんじゃないか?」

「そ、そうかな?」


 一転、嬉し気な顔になるリムリアに、和斗は力強く頷く。


「ああ。ってか魔法が使える分、俺より上手に使えるようになると思うぞ」

「そっかぁ。じゃあボクもガンバル!」


 とリムリアが両手をグッと握り締めたトコでサポートシステムが告げる。


――ブラック・ケルベロス    4066匹

  グレー・ケルベロス     1973匹

  を倒しました。


  経験値          10億9715万

  スキルポイント      10億9715万

  オプションポイント    10億9715万

  を手に入れました。


「うわ~~。一度の戦いで10億って、遠いトコに来たモンだな」


 もう理解できない範囲なので、和斗の言葉は、もはや他人事レベルだ。


「そーだねー。以前だったらマローダー改のレベル、幾つ上がったか分からない経験値だね~~」


 リムリアも、とっくに理解しようとは思わなくなっている。


「でも経験値は手に入ったんだから、いつかはレベルアップするだろーねー」


 というリムリアの言葉に。


――次のレベルアップは4000億です。


 サポートシステムが律儀に答えた。

 その必要経験値、にリムリアが呑気な声を上げる。

「次のレベルアップは4000億か~~。ってコトは、あと2000億くらいでレベルアップかぁ。以前なら気が遠くなってた数字だけど、今の和斗なら地拵えを1回したらクリアできる数字だね」

「そうだな。ティアを助け出したら、さっそくレベルアップしにいくか」


 和斗も呑気な声で答えるが、その目は鋭い光を放ったまま。

 どうやらティアを人質に取られた事に、かなり腹を立てているようだ。

 そんな和斗の横顔を眺めながらリムリアが呟く。


「カズトを怒らすなんてバカなヤツ等だなぁ」


 この呟きを聞きつけたラファエルが何度も頷く。


「そうですね。動物ならば本能的に『敵に回してはいけない相手だ』と察知するのでしょうが、ケルベロスはちょっと特殊な魔獣なのでカズトさんとの力の差に気が付かないのでしょうね」

「特殊な魔獣? ケルベロスって他の魔獣とは違うの?」

「それは……」


 首を傾げるリムリアに、ラファエルが答えようとした、その時。


「ふん、どうやらケルベロスを静かに倒す必要なかったみたいだな」


 和斗の獰猛な声が響き、本部からケルベロスの獣人がゾロゾロと出て来た。

 その数、700から800くらい。

 ほとんどが銀ケルベロスで、金ケルベロスが50ほど混じっている。

 この2種の他に、白銀のケルベロスの獣人が10匹ほど。

 この白銀ケルベロスが最上位種なのだろう。


 どうやらコチラの出方を伺っているみたいだ。

 が、そんなコトなどどうでもいい。

 和斗の目はティアだけを捕らえていた。


「よかった、ティア無事みたいだね」


 リムリアが口にしたように、ティアに怪我はないようだ。

 しかし両手を縛ったロープの端を、金ケルベロスがガッチリと掴んでいる。

 その金ケルベロスを睨み付けながら、リムリアが小さく尋ねる。


「ねえカズト、どうするの? 前みたいにアパッチで上空から狙撃する?」

「そうだな。狙撃用のM2重機関銃を強化して狙撃するのも悪くないな」


 考え込む和斗に、キャスが声を上げる。


「カズト様。ワタシが片付けましょうか? 標的はシルバー・ケルベロス718匹にゴールド・ケルベロス57匹にプラチナ・ケルベロス12匹。0・17秒で抹殺してみせますが?」

「ありがとうな、キャス」


 平然と言い切るキャスに、和斗は礼を言った後で、表情を引き締めた。。


「でも、せっかく敵が目の前に並んでくれたんだから、さっきやった『苗植え』の応用で、一気に全員を倒してしまおうと思う」


 ケルベロス一家に知るどう目を向ける和斗にリムリアがウンウンと頷く。


「そうそう。ま、万が一を考えたら一瞬で皆殺しにするのが1番だもんね」

「恐ろしい事を平然と口にしますね」


 苦笑するラファエルに、リムリアがフンと鼻を鳴らす。


「なに言ってんの? 人質を取るような犯罪者に譲歩しても、際限なく付け上がるだけじゃん。こういった世の中をナメてるアホは、思いっ切りブン殴るしかないんだよ」

「その通りだ」


 和斗はリムリアの頭にポンと手を置いてから。


「さっきの苗植えでコツを掴めたみたいだし、確実に仕留めるために、今度は本気でやる。キャス、ケルベロス一家は全部で何匹だ?」


 キャスにケルベロスの総数を尋ねた。


「787匹です」

「分かった。ってコトは、コーティングする小石の数は……」

「2361です」

「さすがキャスだ」


 和斗は、即答したキャスに苦笑してから。


「よし、やるか」


 膨大な量の神霊力で2361個の小石をコーティングした。

 そして、その神霊力を一気に圧縮して強度を上げる。


「とんでもない神霊力ですね。それ、コキュートスで最強の植物系モンスターを1撃で倒せるレベルですよ。たかがケルベロスにソレを放つなんて、オーバーキルもいいところですね」


 苦笑するラファエルに、和斗は獰猛な笑みを浮かべる。


「そりゃあイイ。思わぬトコで、コキュートスでの林業作業の練習ができるワケだな」


 この言葉を境に、和斗の声から感情が消えた。


「全部で787匹だったよな。それじゃあ、ブチ殺すか」


 と同時に全てのケルベロスの眉間に赤い点が浮かび上がった。

 後は放つだけ。

 その瞬間、ケルベロス一家787匹は全滅する。

 そして


「死ね」


 和斗が『苗植え』を開始する……直前。


「バカ野郎!!!」


 和斗が顔をしかめるほどの大声が響き渡ったのだった。






2021 オオネ サクヤⒸ

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