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   第百十四話  これが『苗植え』の訓練です

誤字脱字のご指摘、とても助かっています。

ありがとうございます。





 和斗がコキュートスで広大な土地を更地にした翌日。

 和斗、リムリア、ヒヨ、キャスは。


「では『苗植え』の訓練を行いましょう」


 嬉し気なラファエルによって、第3圏に連れてこられていた。

 そんなラファエルに、リムリアが不機嫌な目を向ける。


「ラファエル。ナンでそんなに嬉しそうなの?」

「おやおや、そう言うリムリアさんは、どうしてそんなに機嫌が悪いのです?」


 ノホホンと言い返すラファエルに、リムリアが目を吊り上げた。


「あたりまえじゃん! 地拵えをやったのは和斗だけで、ボクもヒヨもキャスも地拵えの実習無しで苗植えの訓練って、どゆコト!?」

「ああ、そのコトですか。皆さんの実力が想像以上だったので、皆さんの地拵えのスピードに苗植え班の作業が追いつかないのです。ですので、皆さんには苗植えの訓練を受けてもらって、地拵えと苗植えをセットにして実習訓練を行ってもらう事にしました」


 ラファエルの説明によると。


 昨日、苗植えをした30名には、やらねばならない作業が別にあるらしい。

 つまり和斗たちが更地を作っても苗植えをする人手が無いワケだ。

 結果、地拵えしても1日で元通りになってしまう。

 だから苗植えが出来るようになるコトを最優先にしてほしい。

 地拵えの直後、苗植えが出来るように。

 とのコト。


「なら、しょうがないか」


 まだ不満そうなリムリアに、ラファエルが微笑む。


「まあまあ、リムリアさん。苗植えの練習は、憂さ晴らしに持って来いだと思いますよ。ほら」


 ラファエルが指差した方向からは。


「「「ガルルルルルルル!!!」」」


 三つ首の猛犬、ケルベロスが襲いかかってくるところだった。


 インフェルノの第3圏は、見渡す限りの荒れ地だ。

 砂、砂利、石に埋め尽くされた大地に岩が立ち並んでいる。

 立ち並ぶ岩のサイズは10メートルから50メートルほど。

 だが、遠くに見える岩の高さは1キロ以上ありそうだ。


 そんな岩影から今。

 1匹のケルベロスが、こちらに向かって突進してきた。

 体長は7メートルほど。

 真っ黒な体毛は針金のようだ。

 その真っ黒なケルベロスを見て、キャスが声を上げる。


「マスター。実験して良いでしょうか?」


 キャスが何をしたいのか分からない。

 何を言いたいのかも。

 しかし自発的に行動する事は、和斗にとっても望ましいコトだ。

 だから和斗は。


「ああ。キャスの好きなようにしたらいいぞ」


 そう答えた。

 と同時に。


 ガシャン!


 キャスは手の甲から銃身を出現させると。


 ドガガガガガガガ!


 目の前に迫っていたケルベロスを撃ち倒した。

 撃ち込んだ弾丸の数は、ざっと50発。

 絶命したのは間違いない。

 と思ったのがだ。


「「「グルルルルルルル」」」


 ケルベロスは3つの口から唸り声を漏らしながら、ムクリと起き上がった。


「え!? 間違いなく致命傷だったのに!?」


 リムリアが大声を出すが、それを気に留めた様子もなく。


 ドガガガガガガガ!


 キャスは再びケルベロスの体に銃弾を叩き込んだ。

 またしても撃ち込まれた50発の弾丸に。


「「「ギャン!」」」


 ケルベロスは撃ち倒されて地面に転がるが。


「「「ガルルルルルルル」」」


 数秒後、再び身を起こした。


「なんで? ゾンビ……じゃなさそうね。でも何で死なないんだろ?」


 不思議がってるリムリアを、やっぱり無視してキャスは。


 ガガガン!


 今度はケルベロスの3つの頭に銃弾を撃ち込んだ。

 そして。

 3つの頭を撃ち抜かれたケルベロスは、2度と起き上がるコトはなかった。


「頭を破壊しないと何度でも蘇る、ってコト?」


 というリムリアの言葉にキャスが付け加える。


「しかも同時に頭を撃ち抜かないと蘇るようです」


 と、そこで。


 パちパチパチ。


 ラファエルが手を打ち鳴らした。


「その通りです。素晴らしい観察眼ですね、感心しました」


 そしてラファエルは笑顔で続ける。


「この第3圏に生息するケルベロスは、3つの脳を同時に破壊しないと何度でも蘇って襲いかかってくるのです。つまりケルベロスの3つの頭を同時に、神霊力で撃ち抜く。これが『苗植え』の訓練です。あ、もちろん神霊力の訓練ですから、武器ではなく神霊力で攻撃してくださいね」

「カズトにレベルアップして欲しかったんじゃないの?」


 まだ不機嫌なリムリアにラファエルがピッと指を立てた。


「確かにそれも重要ですが、植物系モンスターの進攻を押し返すのは、それ以上に急務なんです」

「なんで?」

「植物系モンスターがインフェルノから溢れた場合。植物系モンスターは現世に出現し、人間を食い散らかすからですよ」


 尚も食い下がるリムリアに、ラファエルが思いもしなかった事を言いだす。


「植物系モンスターはコキュートスから第9圏、第8圏、第7圏へと侵食していこうとしています。そして辺獄に辿り着いたら、間違いなく次元通路を通ってチャレンジ・シティーを飲み込むでしょう」

「チャレンジ・シティーとの次元通路を壊したらイイじゃん」


 簡単じゃん、と付け加えるリムリアに、ラファエルが首を横に振る。


「チャレンジ・シティーとインフェルノを結ぶ次元通路は煉獄力によって強化されています。その次元通路を破壊するより、コキュートスの植物系モンスターを全滅させる方が遥かに簡単なのですよ」

「ちぇ。イイ方法だと思ったんだけどなぁ」


 舌打ちするリムリアに、ラファエルがニッコリと微笑む。


「それよりも。ほら次のケルベロスが現れましたよ。さあ練習の時間です」

「え? うわわわわわ!」


 ラファエルが指差した方を見たリムリアが慌てた声を上げる。


「何て数なんだよ!」


 リムリアが悲鳴のような声を漏らしたように。

 押し寄せて来るケルベロスの数は50を超えていた。


「いきなりハードル高すぎじゃない!?」

「喋るヒマがあったら神霊力を放ったほうがイイのでは?」

「ああ、もう!」


 呑気な声のラファエルをキッと睨んだ後。

 リムリアは神霊力を操って狙撃を開始した。

 もちろん和斗、ヒヨ、キャスも。


 そんな4人に、ラファエルがノンビリとした声で助言する。


「地拵えと同じように神霊力を放出してもケルベロスは倒せます」

「え? そうなの?」


 すかさずリムリアが神霊力を放出してケルベロスを攻撃すると。


 グシャ!


 ケルベロスは跡形もなく吹き飛んだ。


「なるほど。頭なんか狙わなくても体ごと消滅させればイイんだ」


 ニッと笑うリムリアに、ラファエルが続ける。


「でもそのやり方では効率が良くありません。必要な量の神霊力を圧縮してピンポイントで3つの頭を同時に撃ち抜く。これが1番省エネの戦法です。そしてこれが第3圏で習得すべき技術なのです」

「分かったよ、もう!」


 それだけ口にすると、リムリアは神霊力の操作に専念する。

 和斗もヒヨもラファエルが言った事を実行しようと集中するが、その目の前で。


 ガガガ! ガガガ! ガガガガガガ!


 キャスが、たった1人でケルベロスを全滅させてしまった。


「……凄いなキャス。でも今のは神霊力なのか?」


 尋ねる和斗に、キャスが答える。


「はい。ワタシは状況に合わせて進化する兵器です。神霊力が有効なら神霊力の兵器を開発して実戦に投入します」


 その声はいつも通り、感情に乏しいものだった。

 しかし和斗は、その声に誇らし気なモノを感じて思わず笑みを浮かべる。


(いい感じだな)


 和斗は本気でそう思った。

 キャスが兵器として生まれたのは知っている。

 けどそれは、楽しく人生を過ごしてはいけない理由にはならない。


(こうやってキャスの感情が少しずつでも豊かになってくれたらイイな)


 そんな和斗の眼差しに気付いたのだろうか。

 キャスは和斗に向かって微笑んだ。

 他人の目には無表情と映ったかもしれない。

 しかし和斗には、ハッキリとキャスの微笑みが見えた。

 だから和斗はグッと親指を立ててみせると。


「キャス、凄いな」


 キャスに微笑み返したのだった。 

 そんな和斗に、キャスも親指を立ててみせる。

 またキャスとの距離が1つ、近くなったような気がする和斗だった。

 がそこで。


「はい、キャスさんは第3圏での実習終了です」


 ラファエルが声を上げた。


「なぜ?」


 シンプルな質問を口にするキャスに、ラファエルが頭を下げる。


「キャスさんは神霊力を圧縮させて、多数の敵を同時攻撃する技術をマスターしました。マスターした以上、ケルベロスを攻撃するのは他の人に譲ってください。カズトさんやリムリアさん、ヒヨが早く神霊力による同時多数攻撃をマスターできるように」

「カズト様の為なら依存はない」

「ありがとうございます」


 ラファエルは、即答したキャスに礼を言うと。


「ではカズトさん、リムリアさん、ヒヨ。練習を再開してください」


 3人に向かって笑顔を向けたのだった。

 とそこに、またケルベロスの群れが出現する。

 今度は10匹ほどの群れだ。


「よーし、ボクもさっさとマスターしてしまうからね!」

「がんばるですぅ!」


 リムリアとヒヨが、さっそく神霊力を放ち始めた。

 和斗は、そんな2人をチラリの視線を送ると。


「こりゃあ俺も頑張らないといけないな」


 そう呟きながら訓練に取りかかった。


「まずは神霊力を集めて矢の形にするんだよな? こうかな?」


 そんな和斗に、ラファエルが慌てて駆け寄る。。


「神霊力を集め過ぎです! 大陸ごと吹き飛んでしまいますよ!」


 そしてラファエルは、足元から小石を拾い上げて和斗に手渡す。


「カズトさん、ここに3つの小石があります。この3つの小石に、出来るだけ薄く神霊力でコーティングしてみてください」

「こうか?」


 和斗は金メッキをイメージしながらコーティングしてみる。


「う~~~ん、まだ分厚いですね。まあ、ブラックタワーをクリアしたばかりの者よりも、遥かに薄くコーティングできていますが、カズトさんの神霊力の質と量だと、明らかにオーバーキルです。戦艦の主砲でネズミを撃つようなモノです」

「う~~ん、難しいな」


 唸る和斗にラファエルがニッコリと微笑む。


「難しいから良い練習になるのです。カズトさんは既に、大量の神霊力を圧縮して放つ事ができるようになりました。今度は、その神霊力を更に圧縮し、かつ必要最低限の神霊力を放てるようになってもらいます」

「それが当面の課題ってコトか」

「はい。それが出来たら次は、その緻密に集約させた多数の神霊力を同時に、しかも正確に放つ練習です」

「道のりは遠いな」


 溜め息をつく和斗にラファエルは首を横に振る。


「いえいえ、とんでもない速さで上達していますよ」

「だったらイイんだけどな」

「本当です。カズトさんの才能は、私が知っている限り2番目です」

「そこは普通、1番って言うトコじゃないのか」


 苦笑する和斗に、ラファエルは真面目な顔で答える。


「習得する速さではキャス、リムリアさん、ヒヨですが、才能となると1番はリムリアさんになります。なのでカズトさんは、残念ながら2番目という事になってしまうのです。もっとも神霊力量ではカズトさんが圧倒的に上なんですけど」

「ならキッチリと操れるようにならないと宝の持ち腐れになってしまうな」


 肩をすくめる和斗にラファエルが頷く。


「はい。だからカズトさんには神霊力の使い方を完璧にマスターしてもらいたいのです。どんな強敵を相手にしとも勝てるように」


『強敵』という単語を口にした時、ラファエルの目がギラリと光った。

 ……のだが。

 和斗は神霊力を操る事に集中していた為、それに気付く事はなかった。

 そんな和斗の横顔にラファエル付け加える。


「優秀な林業師は1度に500の苗をコーティングして撃ち出す事ができます。ですので、まずは500を目標にしてくださいね」

「そうだな……って最初の目標にしちゃハードル高すぎだろ」


 呆れ気味に言い返す和斗にラファエルが首を横に振る。


「いえいえ、直ぐに出来ますよ」

「えらく簡単に言ってくれるけど、その根拠は?」


 和斗の疑わし気な問いに、ラファエルが笑顔で答える。


「だってF15を操ってたでしょう? あれって基本は苗植えと同じですよ。神霊力でコーティングして強度をアップさせて飛ばすのですから」

「そういえばそうかもな」


 という事で。

 和斗は3個の小石をF15のミニチュアだと思って操作してみた。

 すると、3個の小石は。


「あ、何だ簡単じゃないか」


 和斗の思い通りに空を飛び回ったのだった。


「これなら直ぐに500も達成できそうですね」


 ラファエルがノンビリとした口調でそう口にした時。


『助けてください!』


 ラファエルの指輪からティアの声が響いた。








2021 オオネ サクヤⒸ

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