第百十三話 気になるコト
「皆さんも知っての通り、私は天使ですよ? 至高神様の意向に沿って活動するのは当たり前でしょう?」
ラファエルが、当たり前とばかりに言い切ると、和斗に真剣な目を向ける。
「カズトさん。至高神様はカズトさんに、レベルアップは急がなくても良い、と言われましたよね」
「ん? あ、ああ、そんな感じのコト言ってたな」
以前、至高神が言っていたコトを思い出す和斗だったが。
「事情が変わりました」
そんな和斗に、ラファエルがズイッと詰め寄る。
「近いって!」
思わず後ずさる和斗に、ラファエルが更に詰め寄る。
「チート転生者との闘いは、そう遠くないかもしれません。そこでカズトさんには積極的にレベルアップをして貰うように、と至高神様の思し召しです。だからカズトさんはシッカリとレベルアップしてください」
「だから近いって!」
和斗はラファエルの顔をグイッと押し返しながら答える。
「とにかく俺も、どんどんレベルアップしたいな、って思ってる! だから心配いらないって!」
その答えに満足したのか、ラファエルが普段の顔を取り戻す。
「それは結構。ではドンドン地拵えをしてレベルをアップさせましょう!」
急かすラファエルに、和斗は首を横に振る。
「いや待ってくれ。8つもレベルアップしたんだから、現在のステータスを把握しておきたい。それに『気になるコト』もあったし」
「それもそうですね。私とした事が、ちょっと冷静さを欠いてしまったようです」
ラファエルが素直に引き下がったトコで。
「サポートシステム」
――なんでしょう。
和斗はサポートシステムを呼び出した。
「マローダー改のステータスを、表示してくれるかな」
――了解です。
レベル 114
最高時速 350万 キロ
加速力 最高時速到達まで 0 秒
車重 7500万 トン
装甲レベル(鋼鉄相当) 3000万 キロメートル
ⅯP 112万
操作可能ドローン数 750機
耐熱性能 70兆 ℃
耐雷性能 7000京 ボルト
神霊力 恒星100万個 相当
装鎧 ⅯP1=170秒
「やっぱり聞き間違いじゃなかったか」
和斗はマローダー改のステータスを確認すると。
サポートシステムに『気になるコト』を尋ねてみる。
「最高速度到達までの加速時間がゼロになってるケドどういう事なんだ?」
――そのままの意味です。
アクセルを一杯に踏んだ瞬間、時速350万キロで走行します。
「質量保存の法則とか慣性の法則とか、完全に無視してるな」
これは和斗の独り言だったが、サポートシステムが律儀に答える。
――霊的高次元に、トップススピード状態のマローダー改を保存しました。
これによりアクセルを踏んだ瞬間、マローダー改はトップスピードの状態と入れ替わるのです。
「つまり敵に密着した状態でも、アクセルを一杯に踏み込めば、重さ7500万トンの砲弾を時速350万キロで撃ち込んだのと同じ破壊力を敵に叩き込めるってコトか?」
――その通りです。
「なるほど」
和斗はニヤリと笑った。
《密着されると攻撃手段がない》
これがマローダー改の弱点の1つだった。
が、これで密着されても敵を攻撃する事が出来る。
「まあ正面の敵に限ってだけどな」
この独り言にもサポートシステムが反応する。
――マローダー改の側面に密着した敵にも破壊力は及びます。
正面と比較すれば破壊力は落ちますが。
「そうか、サンキュ。あ、後、武器強化レベルも上がったのかな?」
――勿論です。
1000万倍まで強化可能となりました。
レーザーは30兆℃まで強化できます。
ついでにドローンの強化も16段階まで可能になりました。
それぞれの必要スキルポイントは……
「あ、それはイイや。今のスキルポイントからしたら微々たるモンなんだろ?」
――はい、そうです。
では、武器とドローンの強化を行いますか?
「ああ。ドローンはF15タイプもアパッチタイプも最高まで。マローダー改が装備している武器は、今まで400万倍に強化してたヤツだけ1000万倍に強化してくれ。もちろんレーザーは30兆℃に」
――了解しました。
そしてサポートシステムが強化を終えたところで。
和斗は、強化したドローン2種のステータスを確認してみる。
バトルドローン(F15タイプ)
レベル 16
質量 2万 トン
最高速度(時速) 500万 キロメートル
強度(鋼鉄相当) 1000万 キロメートル
航続距離=最高速度維持時間 12 時間
バトルドローン(アパッチ)
レベル 16
質量 460 トン
最高速度
水平 4500 キロメートル(時速)
垂直降下 5000 キロメートル(時速)
横・後進 600 キロメートル(時速)
垂直上昇 5000 メートル (毎分)
強度(鋼鉄相当) 7 キロメートル
と、そこで。
――ドローン2種とも宇宙空間での活動が可能となりました。
サポートシステムが意外な事を告げた。
「宇宙空間? まあ活動の幅が増えるのはありがたいけど、そんな能力必要か?」
和斗の質問にサポートシステムが当然とばかりに答える。
――はい。
今のF15の速度だと、ちょっとのミスで宇宙に飛び出します。
そうなった時の保険です。
なるほど。
今のF15の速度は時速50万キロメートル。
マッハでいえば408。
1秒で139キロメートルも進む。
この速度だと、ハッと気が付いたら宇宙だった、なんて事も十分ありうる。
でも宇宙空間でも活動できるのなら、飛行して帰って来れる。
ありがたい機能が追加されたと、ここは感謝しておこう。
と考えがまとまったトコで、和斗は改めてドローンのステータスに目をやる。
「やっぱ凄いな。マローダー改のステータスも理解できないレベルだけどF15のステータスも、どれだけ凄いか分からないレベルになってきたな。逆にアパッチ程度の方が、凄さが実感出来るかな」
和斗の呟きにリムリアが頷く。
「うん、マッハで飛び回る、鋼鉄7キロに相当する要塞だもんね。これだけで世界を征服できると思うよ。それにアパッチの武器も1000万倍まで強化できるんでしょ? もう向かうトコ敵なし状態だね」
「そうだな」
和斗はそう答えてから、ふと考え込む。
武器は強いほど使いやすい、というワケではない。
全てのアパッチの武装を1000万倍化した場合。
威力が大き過ぎて、予期せぬ被害をもたらすかも。
少なくとも街中で使用すれば一般市民を巻き込む事になるだろう。
「ま、ポイントは初期化できるんだし、状況に合わせて強化レベルを変えるか」
と、そこで和斗の心に疑問がわき上がってきた。
今のアパッチの武器は100倍に強化したいる。
この100倍に強化した武装は、コキュートスに通用するのだろうか。
「これは実験するしかないな」
和斗はそう呟くと。
「ポジショニング!」
1機のアパッチを上空に呼び出した。
そして自分でアパッチをコントロールすると。
ガガガガガガガガガガガガガガガ!
チェーンガンでキラー・ウィードを薙ぎ払ってみた。
100倍強化したチェーンガンによる掃射。
それは毎分650発も発射される爆弾の嵐だ。
その絨毯爆撃に匹敵する破壊力はキラー・ウィードをなぎ倒した。
しかし。
「サポートシステムが何も言わない。ってコトは1匹も倒してないってコトか」
そう。
戦闘が終了した時、サポートシステムは必ず告げる。
倒したモンスターの名前と数、そして獲得した経験値を。
しかし数分待っても。
サポートシステムが獲得経験値を告げる事はなかった。
「ってコトは、倒してないってコトか」
和斗の呟きに。
「え? クーロン帝国軍を一掃したアパッチの攻撃でも倒せなかったの?」
リムリアがキラー・ウィードに目を向ける。
「ホントだ。薙ぎ倒しただけで、傷を負わせてないや。あ、直ぐに起き上がって元通り生い茂ってる」
リムリアの言葉通り。
地面に倒れ伏していたキラー・ウィードが、ムクムクと起き上がってきた。
どうやら爆風で押し倒されたダケで、ダメージは負わなかったらしい。
「つまり100倍強化程度じゃ、コキュートスの植物系モンスターには通用しないってコトか」
という事で。
「サポートシステム。今、俺が操作しているアパッチ1機だけの武装を1000万倍に強化して貰えるか?」
――了解。
和斗はアパッチの武器を1000万倍に強化すると。
ガガガガガガガガガガガガガガガ!!
もう1度、キラー・ウィードをチェーンガンで薙ぎ払った。
「今度はどうかな?」
和斗が、そう口にした直後。
――キラー・ウィード57匹を倒しました。
経験値 285万
スキルポイント 285万
オプションポイント 285万
を獲得しました。
サポートシステムの声が響いた。
「なるほど、さすがに1000万倍に強化した武器なら通用するみたいだな。でも他のモンスターだったらどうなんだろ? 確かキラー・ウィードは1番弱いモンスターだったし。ん?」
そこで和斗は、異常に気が付く。
和斗が創り出した更地の端に、キラー・ウィードが生い茂り出したのだ。
しかも速い。
この速度で生えていったら、雑草は1日で更地を覆うだろう。
そんな信じられないキラー・ウィードの繁殖力に。
「おいおい、マジかよ」
和斗は掠れた声を漏らした。
「10キロ四方の更地でさえあっという間に元に戻るのなら、ここで林業なんて出来るのか?」
「だから地拵えをしたら直ぐに『苗植え』をする必要があるのです」
ラファエルは、和斗の感想にそう答えると。
「見ててください」
和斗達の背後を指差した。
「「え?」」
和斗とリムリアが、その方向に目を向けると。
「野郎ども、苗植え開始だ!」
30人ほどの戦士を引き連れた男が吼えていた。
そして30人の戦士は。
『おう!!』
気合いの入った声を上げると、一斉に光る矢のようなものを放った。
その矢のようなモノは更地と雑草の境に撃ち込まれ、一直線に並ぶ。
1メートル間隔に並んでいるから、その数は1万ほどだろう。
と思ったら、第二派が発射された。
その矢も最初の列の後ろに、またしても綺麗な列を作る。
続いて第三派、そして第四派、第五派……。
それぞれが見事に列をなして地面に並んでいく。
見とれてしまうほど、見事な光景だった。
「なにアレ? 攻撃魔法?」
首を傾げるリムリアに、ラファエルが穏やかな声で答える。
「いえ、神霊力でコーティングした木の苗ですよ。なにしろ苗を1本1本手で植えるよりも、雑草が生い茂る速度の方が遥かに速いのです。そこで痛まないように神霊力でコーティングした苗を、一気に大量に打ち出して植え付ける。これがコキュートスで行われる『苗植え』の作業です」
「でもキラー・ウィードが生い茂る速度の方が早いよ? 苗を植えても、直ぐにキラー・ウィードに覆い尽くされて枯れちゃうんじゃないの?」
リムリアの疑問に、ラファエルが笑顔を浮かべた。
「大丈夫です。植えた木は龍樹。神霊力を放って植物系モンスターが生い茂るのを防ぐ、結界樹です」
ラファエルが説明した通り。
龍樹が植えられた地には、キラー・ウィードは侵入できないようだった。
そんな龍樹の植え付けが終わった土地を眺めながら。
「では『地拵え』が出来るようになったのですから、今度は『苗植え』の練習を始めましょうか」
ラファエルは、ニッコリと微笑んだのだった。
2021 オオネ サクヤⒸ