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   第百十一話  ラファエルって天使だったの!?





 辺獄の街を見て回った翌日の朝。


「ではカズトさん、リムリアさん、ヒヨさん、キャスさん。神霊力の初歩の訓練を行いに、インフェルノの第2圏に向かいましょうか」


 ラファエルはそう口にすると、人差し指を立てた。

 同時に、またしても和斗達4人の足元に魔法陣が光り、そして次の瞬間。


「お!?」

「わ!」

「凄い風ですぅ!」

「……」


 和斗、リムリア、ヒヨ、キャスは暴風が吹き荒れる荒野に立っていた。


「な、なに、この風!?」


 悲鳴をあげるリムリアに、ラファエルが答える。


「これは煉獄力の風です」

「煉獄力?」


 その言葉に和斗は顔をしかめた。


『煉獄力とは、上級以上の悪魔が持つ、神霊力と相反する力』


 べリアルがそう言っていたコトを思い出したからだ。


 ただ、インフェルノとは地獄という意味もあったと思う。

 なら煉獄力が吹き荒れる場所があっても不思議ではないのかも。

 と考え込む和斗にラファエルが口を開く。


「煉獄力について誤解しているみたいなので説明しましょう。煉獄力も神霊力も霊的力の最上級に位置する力です。神に属する力といってもいいでしょう」

「神霊力は分かるけど、煉獄力も神に属する力なのか?」


 驚く和斗にラファエルが頷く。


「はい。ただ、どちらも巨大な破壊力を発揮しますが、神霊力による攻撃は、何かを護る為に発揮される。対して煉獄力は、許しがたいモノに罰を与える為の力なのです。言い換えれば愛が根本の攻撃力と、怒りが根本の攻撃力です」

「う~~ん、大して違わないような気がするな」


 和斗の感想に、ラファエルがキッパリと言い切る。


「大きな違いです。例えばリムリアさんがモンスターに襲われたとしましょう。その場合、もちろんカズトさんはモンスターを倒しますよね」

「勿論だ」

「でもその場合、リムリアさんを助ける為であって、モンスターが憎いからではありませんよね?」

「う~~ん、そう言われてみたらそうかも」

「ではリムリアさんが暮らす街を侵略しようとする敵がいたらどうします? カズトさんなら怒りに燃えて、敵を全滅させるのではありませんか?」


 ラファエルの質問に和斗は、クーロンを想い出しながら即答する。


「当たり前だ。そんなヤツがいたら消滅させてやる」

「へへ」


 嬉しそうに笑うリムリアに目を細めてから、ラファエルが続ける。


「つまり同じように攻撃するにしても、その攻撃の元になる感情は全く違うという事です」

「神霊力と煉獄力の違いがそれだけなら、ワザワザ言い換える必要ないような気がするけどな。行使する理由が違うだけで、けっきょくどっちも神に近い力による攻撃ってコトだろ?」


 そう口にする和斗に、ラファエルが真顔で答える。


「いいえ、大きな違いです。私たち天使にとっては」


 その言葉に。


「ええ!? ラファエルって天使だったの!?」


 和斗より早く反応したのは、リムリアだった。


「うわぁ、天使ってホントにいるんだ。初めて見た」


 珍しいモノを見る目のリムリアに、ラファエルがわざとらしい声を上げる。


「おや不思議な事を言いますね、リムリアさん。アナタは悪魔を見た事あるじゃありませんか。というより戦った事がありましたよね。悪魔がいるのです。天使が存在してても、何の不思議もありません」

「そ、そりゃそうだけど、やっぱりビックリした」


 ほえ~~、息を吐くリムリアだったが、そこで。


「ヒヨは知ってたですぅ!」


 ヒヨが元気な声を上げた。


「え!?」


 目を丸くするリムリアに、キャスが追い打ちをかける。


「ワタシも知ってた」

「ええ!? じゃあ気が付いてなかったのはボクだけなの!?」


 呆然とするリムリアの肩に、和斗がポンと手を置く。


「安心しろリム。俺も全然、分からなかった」

「うう、そうは言ってもヒヨでさえ気が付いてたってのに……」


 シュンとなるリムリアに、ラファエルがとんでもない事を言い出す。


「あ、私が天使である事をヒヨが知っていても不思議ではありませんよ。なにしろヒヨは堕天使ベールゼブブの分身なのですから」

「「ええええええええええ!!?」」


 目が飛び出して見えるほど驚く和斗とリムリアに、ラファエルが続ける。


「おや、気が付いてなかったのですか? 2人とも見た筈ですよ。ヒヨがベールゼブブの『暴食』の力を使って粗悪な核兵器を食べてしまうところを」


 確かにヒヨはクーロン帝国との戦いで原爆を食べていた。

 しかしそれがベールゼブブの能力だったとは思いもしなかった。

 まあ確かにベールゼブブは『暴食』の名を冠する悪魔だ。

 その『暴食』の能力が、原爆すら飲み込むモノであっても不思議ではない。


「ルシ……ケーコ様は堕天使ベールゼブブと堕天使ベルフェゴールの力を借りてチャレンジタワーを建設し、運営しています。その過程でベールゼブブは自分の力の1部を切り離しました。それがヒヨなのです」

「なるほどね。ドラクルの一族最強の魔力を持つボクでもチャレンジタワーを建設して維持するなんて不可能。それをケーコがどうやって可能にしたのか不思議だったけど、ベールゼブブとベルフェゴールから力を借りたからだったんだね。でもナンで力の1部を切り離してヒヨにしたの?」

「それはベールゼブブに直接聞かないと分からないでしょうね。もちろん私も知りません」

「そっかぁ。ま、そうだろね」


 リムリアが黙り込んだところで、ラファエルは話を元に戻す。


「では説明を再開しますね。この訓練の第1の目的は、煉獄力の暴風に晒される事により、自分の中にある神霊力を見つけ出すことです。そして自分の神霊力を操作して暴風に打ち勝ち、先に進む。この2つが、このインファイト第2圏での訓練なのです」


 ちなみに先に進めば進むほど風は強くなります。

 ラファエルはそう付け加えると、ニッコリと笑った。


「ではカズトさん、リムリアさん、ヒヨさん、キャスさん。神霊力を高めて、どんどん先に進んでください。今から昼ごはんまで2時間ほどでしょうか。なので、まずは2時間ほど頑張くださいね」


 という事で。

 さっそく神霊力の訓練が始まった。



 第2圏に来た時は、吹き荒れる風に驚いた。

 が、落ち着いてみれば和斗にとって大した風ではなかった。

 なにしろ和斗のステータスはマローダー改の3割。

 つまり。


 最高時速          8万7千 キロ

 重量(質量)        135万 トン

 防御力(鋼鉄相当)      66万 キロメートル

 神霊力         恒星1万5千 相当

 

 このステータスの前では、この程度の風などそよ風にみたいなモンだ。

 と言うコトで和斗は。


「さすがカズトさん。まさかいきなりそこまで進めるとは」


 ラファエルが驚きの声を漏らすほど、第2圏の奥深くへと到達したのだった。


「ふむ。ここまで進めば、かなり風の圧を感じるな……これが煉獄力か」


 ワーウルフロードでさえ潰れてしまう風圧である事は分かる。

 しかし普通の風とどう違うか、と聞かれたら答えようがない。

 つまり煉獄力を感じ取れていない、という事だろう。


「さて、どうしたモンかな」


 そう口にしながら和斗はラファエルが言っていたコトを思い出す。


「煉獄力を感じる事によって、自分の体内の神霊力を感じろ、か」


 言われてみれば、神霊力をハッキリと感じた事はなかったように思う。

 気合いさえ入れれば使えるような気はする。

 しかし体内の神霊力を感じ取る、というのは簡単なものではないらしい。


「ラファエルの話をまとめると、煉獄力と神霊力は力を発揮する心が違うけど、どちらも神の領域の力ってコトだよな?」


 和斗はラファエルの言葉を、そう理解した。

 なら、今吹き付けている煉獄力と同じような力が体内にある筈だ。

 その体内にある力を、煉獄力を道しるべにして探す。

 これが今、やるべき事なのだろう。


「ふ~~~~~~~」


 和斗は大きく息を吐くと、まずは体の力を抜いてみた。

 まずは吹き付けてくる煉獄力の暴風に身をゆだねる為だ。

 1分……5分……10分……そして20分が経過しようとしたところで。


「……ゼンゼン分からないな」


 和斗は呟いた。

 煉獄力が叩き付けられているらしいのは分かる。

 だが、それだけだ。


「そう簡単に出来るのなら苦労はしない、ってコトか」


 空手の稽古も、そうだった。

 誰もが最初から上手くできるワケではない。

 いや、上手くできていると思っても、それは出来ているつもりなだけ。

 見る人が見れば、未熟な技でしかない。

 だから稽古する。

 出来ない事を、出来るようになる為に。


「ようは空手と一緒ってコトだな」


 和斗は焦る心を押さえつけると。

 とにかく煉獄力を感じる事だけに集中する事にしたのだった。

 そして2時間後。


「お昼になりました。昼ごはんを食べて休憩しましょう」


 ラファエルが声をかけて来た。


「どうですカズトさん、自分の神霊力を感じ取れるようになりましたか?」


 という質問に、和斗は正直に答える。


「いや、ゼンゼン分からない」

「はは、そうでしょうね。ブラックタワーをクリアした者が1番苦労するのが、この神霊力を感じ取る事ですから。でもステータスが高い者ほど体に宿す神霊力も大きいので、カズトさんならブラックタワーをクリアした者より早く神霊力を感じ取れると思いますよ」

「ならイイんだけどな」


 和斗はそう答えたが、それほど楽観はしていない。

 でも難しいからこそ稽古だ。

 粘り強く、根気よく、出来るまでやる。

 それが、和斗が空手の稽古でやってきた事だ。

 その空手の稽古と同じようにやれば、いつか出来るようになる。


「さて、何日でも何か月でも、たとえ何年かかってもやってやるぜ」


 しかし。

 夜までかかっても、和斗は神霊力を感じ取る事ができなかったのだった。






 そして次の日の朝、第2圏での午前の訓練が終わった後。


「神霊力って、こうやったらイイのかな」


 リムリアは自分の神霊力を感じる事に成功したのだった。

 いや、リムリアだけではない。


「出来るようになったですぅ!」

「簡単」


 ヒヨとキャスなどは、神霊力によって煉獄力を押し返す事に成功していた。

 しかし。


「マジかよ」


 和斗だけは煉獄力を感じる事すらできずにいた。


「リムやキャスは分かるが、ヒヨにまで負けるとはな」


 少し、いやかなりの精神的ダメージを受けつつも。


「焦るな、俺。コツコツ地道に、でもしつこく丁寧に。それが空手の稽古だったろ」


 和斗は自分に言い聞かせながら、訓練に集中する。

 とはいえ何も考えずに挑むのは時間の無駄だ。


「考えろ。マローダー改のステータスの1部を得てるんだから、俺はかなりの神霊力を持ってる筈だ。なのに上手くいかないのはなぜか? 煉獄力を感じとる能力が低いのか? もし低いのなら、どうしたらいい?」


 昨日1日、無心になって煉獄力を感じる事に集中した。

 しかし煉獄力を感じとる事はできなかった。

 なら今日は別のアプローチをしてみよう。

 と考えたトコで、和斗はある事に気が付いた。


「そういや俺が戦っている時、戦いの対象以外のモノに被害が出ないように神霊力が作用してたよな。だから俺が全力で踏ん張っても地面がえぐれる事もないし、道を破壊する事もない。でも俺が敵を踏み付けたら、ちゃんのステータス通りの破壊力が発揮される。って事は神霊力の使い分けは出来てるんじゃないのか?」


 という事で。

 和斗は敵と攻撃する気で、正拳突きを繰り出してみた。

 すると。


 ゴオッ!


 叩き付けていた煉獄力の暴風が押し返されるのを感じた。


「あれ? 簡単に煉獄力を跳ね返せたけど、コレでイイのか?」


 よく分からないが、分からないなら実験を繰り返したらイイ。

 今度は手の平でグイっと煉獄力を押し返してみる。

 手加減したせいだろうか。

 煉獄力がユックリと押し返されていくのが、感覚として伝わってきた。


「ひょっとしてコレか?」


 和斗は色々繰り返す事にする。

 まずは手の平で押した分だけの量の煉獄力を押し返す。


「うん、上手くいったみたいだな」


 なら次は、押し返す煉獄力の量を調整してもみる。

 まずはバスケットボール大から。

 成功。

 そして少しずつ量を増やしていく。

 これも成功。

 最後は津波並みの量にまで押し返せるようになった。


「これでイイのかな?」


 これは只の独り言だったが。


「というか、これ程の量の煉獄力を押し返した人は初めてですよ」

「うわ!」


 いきなり耳元で囁いたラファエルに、和斗は飛び上がった。


「脅かすな!」

「いえ練習の邪魔になったらいけないと思ってコッソリ見ていたのですが、私の想像を超えてましたね。というか伝えた練習法が間違っていました。カズトさんの神霊力は膨大過ぎて、第2圏程度の煉獄力など簡単に跳ね返してしまうので感じ取る事自体が不可能だったみたいです」

「そうか。って、そこまで分かってたんなら無駄な事させるんじゃねぇよ!」


 和斗はラファエルを睨み付けるが。


「まあ、終わり良ければ総て良しと、カズトさんの世界のことわざにもあるじゃないですか」


 ラファエルは笑顔で、そう答えたのだった。

 そして小さく、口の中で呟く。


「これならひょっとして本当にヤツを倒せるかも」


 が、その呟きは誰の耳にも入る事はなかった。







2021 オオネ サクヤⒸ

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