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   第百九話  天上鋼





「ナニ?」


 吼えるウェポンタイガーを、リムリアがポカンとした顔で見つめる。

 今のリムリアの戦闘力にとって、ウェポンタイガーなど子ネコみたいなモノ。

 だから危機感がないのだろう。

 

 しかし、そんな事、ウェポンタイガーに分かるワケがない。

 結果。


「言ってる事、分かんねェのか!? 失せろって言ってんだよ!」


 ウェポンタイガーは怒鳴りながらリムリアを突き飛ばそうとした。


 仮にウェポンタイガーに突き飛ばされたとしても。

 リムリアはビクともしなかっただろう。

 しかし、リムリアが突き飛ばすのを黙って見てる和斗ではない。


「おい。か弱い女の子に何する気だ?」


 静かな、しかし身の毛がよだつような殺気に満ちた声と共に。


 ガシ!


 和斗はウェポンタイガーの腕をガッチリと握り止めた。


「痛ぇぇぇぇぇぇぇ!」


 絶叫を上げるウェポンタイガーを無視して、和斗はラファエルに尋ねる。


「なあ。コイツを殺したら何かマズいか?」


 殺す気満々の和斗に、ラファエルが即答する。


「全く問題ありません」

「ひ! お、おい!」


 ラファエルの答えにウェポンタイガーが真っ青になる。

 和斗の手から伝わってくる圧倒的な力に、格の違いを思い知ったのだろう。


「まさか、いきなり殺したりしないよな!? ちょっと突き飛ばそうとしたダケじゃねぇか! 実際のとこ、まだ何もしてないだろ!? ってか土下座でもナンでもするから勘弁してくれぇぇ!」


 必死に騒ぐウェポンタイガーを無視すると和斗は。


「そうか」


 ラファエルにそれだけ答え、ウェポンタイガーの首を掴むと。


「リムに手を上げた事を後悔しながら死んでいけ」


 掴んだ手に、ユックリと力を込めていった。

 ウェポンタイガーの首を、ワザと時間をかけて引き千切る気だ。


「ひぃぃぃぃ! マジかよ!? ホントに殺す気……がぁ?」


 じわじわと首が伸びていき、言葉をまともに出せなくなるウェポンタイガー。

 あと数ミリで、ウェポンタイガーの首は千切れてしまうだろう。

 という所で、ラファエルが穏やかな声で語りかけてくる。


「でもカズトさん、できれば殺すのは勘弁してやってくれませんか? そのまま首を引っこ抜いたら、この店は吹き出した血で大変な事になってしまいますから。それにウェポンタイガー一家が逆恨みして、この店に何をするか分かりませんし」


 考えてみたら、その通りだった。

 血とは、想像以上に掃除が大変なモノだ。

 そんなモノは撒き散らされたら、この店に大打撃を与える事になる。

 でもクリーニングの魔法で綺麗にできるから、それは大きな問題ではない。


 問題は、このならず者の仲間だ。

 逆恨みで、この店に何かするかもしれない。

 もちろん和斗がいればウェポンタイガーなど何匹いても瞬殺だ。

 しかし永遠に、店のガードマンをするワケにもいかない。


「そうだな」


 だから和斗はラファエルの言葉に頷くと。


「おい。2度とこの店に迷惑かけるな。もしもナニかしやがったら地の果てまでも追い詰めて、拷問を繰り返してから殺すからな」


 本物の殺気を込めて、ウェポンタイガーの目を覗き込んだ。

 その人間なら即死しているレベルの殺気を浴びたウェポンタイガーは。


「は、はぃ……」


 それだけを辛うじて口にすると。


「きゅぅぅぅ……」


 首を掴まれたまま気絶したのだった。

 そんなウェポンタイガーをブランとぶら下げながら、和斗は。


「コレどうしよう?」


 困った顔をラファエルに向けた。


「そうですね。そのまま表に放り出しておけばイイと思いますよ」

「そんなモンでいいのか?」

「わざわざ送り届けてやる義理などありませんよ。それどころか気絶させた相手をウェポンタイガー一家の事務所に引きずっていったらケンカを売りに来たと思われかねません」

「それもそうだな」


 和斗はラファエルの説明に納得すると、店の入り口に向かう。

 そして店を取り囲んでいた野次馬が慌てて立ち去るのを確認すると。


「まったく迷惑なヤローだぜ」


 気絶したウェポンタイガーをポイッと放り出した。

 そして和斗は、改めて店内へと視線を向ける。


「騒がせてすまなかったな」


 と、そこで初めて、この店が生活雑貨の店である事に気が付く。

 というよりアクセサリーの店と言うべきか。

 シルバーのモノが多いみたいだ。

 だが、ミスリルやアダマンタイトのアクセサリーも販売している。

 そして1番の特徴は身に飾るタイプではないモノが多い事だろうか。

 武器の柄を飾るモノや防具にセットするモノなどが殆どだ。


「わぁ~~、キレイですぅ!」


 ヒヨがアクセサリーを1つ1つ見てまわりながら歓声を上げている。

 和斗の目から見ても綺麗だと思う。

 丁寧で精緻で、卓越した技術を感じさせるアクセサリーだ。

 そんな個性的な品揃えにリムリアが反応する。


「へえ、珍しいね」


 というリムリアの言葉に店員らしき少女がコクリと頷く。

 16~7歳くらいの可愛らしい雰囲気の女の子だ。


「はい。剣とか槍とかハルバードとか、あるいは盾とか兜とか鎧とかガントレットとか、愛用の武具には思い入れがあると思うんです。その思い入れのある武具に世界で1つだけのアクセサリーをセットすれば、愛着も一層深いものになると思うんです」


 なるほど、全て違うデザインだ。

 一通り見て回ると、確かに似たモノもあった。

 が、アレンジして別のテイストの作品に仕上げられている。


「あ、あと特注品もお受けしますよ」


 少女がニコリと笑う。

 営業スマイルとは違う、心からの笑みだ。


「こう見えても腕の良い職人なんですから」

「え? このアクセ作ったのアナタなの?」


 目をパチクリとさせるリムリアに少女が腕まくりしてみせる。


「辺獄でも名の通ったアクセサリー職人、ティア・ドロップ。それがワタシの名前なんですよ」

「そうなんだ。あ」


 そこでリムリアはポンと手を叩くと、キラキラした目を和斗に向けた。


「ねえカズト! マローダー改を飾るアクセ、頼んでみない?」

「そうだな」


 和斗は考え込む。

 今までマローダー改と共に戦い、そして世界を見て来た。

 そして和斗のステータスが高いのはマローダー改のお蔭だ。

 ここまで来ると、愛着どころの話ではない。

 もうマローダー改とは一心同体と言ってもいいだろう。

 そんなマローダー改を世界に1つのアクセサリーで飾る。

 実に良いアイデアだ。


「そうだな。飛び切りのヤツを頼むとするか」

「ありがとうございます!」


 ティアが満面の笑みを浮かべるが、そこで和斗は思い出す。


「あ、でも俺、この世界の金、持ってなかった」


 あっちゃー、と和斗が声を上げたところでラファエルが口を開く。


「お忘れですか? ここはチャレンジ・シティーの1部なのですよ。つまり冒険者認識票に入っているお金、そのまま使えますよ」

「なら安心だ」


 和斗はパアッと顔を輝かせると。


「装鎧」


 マローダー改を身に纏った。

 そしてティアに改めて依頼する。


「この鎧の胸の部分を飾るエンブレムを頼めるかな?」

「素材はどうします?」


 ティアの質問に和斗は即答する。


「可能な限り頑丈なもので頼む」

「となると……」


 ティアはちょっと考えてから一覧表を取り出す。


 オリハルコン      100万ユル

 ヒヒイロカネ      500万ユル

 究極鋼        1500万ユル

 天上鋼           1億ユル


「ヒヒイロカネはオリハルコンの10倍の強度。究極鋼はヒヒイロカネの更に10倍の強度。天上鋼はインフェルノでしか手に入らない金属で、究極鋼の30倍もの強度を持ってるんです。でもその分、加工が難しいから値段も桁違いになってしまうんだけど、どうします?」

「もちろん天上鋼で作ってくれ」

「やったぁ!」


 即答する和斗にティアが喜びを露わにする。


「天上鋼って仕入れ値も桁違いだから、めったに扱う事、出来ないんです。だからスッゴク嬉しい! で、どんなデザインが好みです?」


 ウキウキを隠せないティアに、和斗はアクセサリーの1つを指差す。

 鎧と兜を美しい花が取り囲んでいるデザインのエンブレムだ。

 兜と鎧。

 装甲車であるマローダー改に相応しい。


「あのアクセサリーが好みかな。リム、どう思う?」


 そう聞かれたリムリアは一通りアクセサリーを見て回ると。


「う~~ん、そうだね。ボクもそれが1番だと思うよ」


 ニカっと笑って和斗が選んだアクセサリーを手に取った。


「でもマローダー改に付けるのなら、もっともっと手の込んだデザインにして欲しいかな? 他の職人では絶対に出来ないような、ううん、ティアでも2度と作れない程の銘品を」


 というリムリアの言葉にティアが鼻息荒く答える。


「もちろんです! なにしろ1億ユルもの代金を頂く天上鋼ですからね。持てる技術の全てをつぎ込んだ、私の最高傑作にしてみせます!」

「スゴイですぅ!」


 ティアの勢いにヒヨまで歓声を上げている。

 が……きっとナニも分かっていないんだろうな。

 と思いながらも和斗はティアに冒険者認識票を差し出す。


「じゃあ代金を支払っておく」

「え? いえ、お代はエンブレムが完成してからで結構です」


 パタパタと手を振るティアに和斗は冒険者認識票を押し付ける。


「天上鋼って仕入れ値も桁違いなんだろ? だからこその前払いだ」


 天上鋼が高価な事くらい和斗にも見当がつく。

 この店の経営状況は分からないが、けっして楽な仕入れではないだろう。

 ティアには何の心配もなく制作に没頭して欲しい。

 そう考えての提案だ。

 という和斗の思いを理解したのだろう。


「では遠慮なく。その分、一生懸命作りますね」


 職人の顔で笑うティアに和斗は頷く。


「ああ、期待している。おっと、もしもヤツ等に何かされたら俺を頼ってくれ。林業師の宿舎にいるから。って、それだけじゃ分からないか。ラファエル、ナニかイイ方法ないかな?」


 いきなり話をフラれたにも関わらず。


「そうですね。コレなんかどうでしょう」


 ラファエルは即座に、ポケットから指輪を取り出した。


「ティアさんには、この通話の指輪をお渡ししておきましょう。何かあったらこの指輪に神霊力を込めてください。私と話ができます」

「神霊力を込めるって、そんなコト出来るの?」


 首を傾げるリムリアに、ラファエルが微笑む。


「辺獄で暮らす者は全員神霊力を使えますよ。まあ人によって、かなりの差があるでしょうが、通話の指輪を起動させる程度の神霊力を使えない者などいないでしょう。ですよねティアさん?」

「あ、はい。この程度なら楽勝です。なにしろ天上鋼の細工は神霊力を使わないと出来ませんから」


 そう答えるとティアは、通話の指輪を指にはめた。

 和斗は、それを確認してからティアに笑いかける。


「これで安心だな。じゃあエンブレム、楽しみにしてる」

「はい。ご注文、ありがとうございます!」

「じゃあ、よろしく」


 創作意欲が溢れ出てるティアに頷き返すと。

 和斗達はティアの店を後にしたのだった。







 ティアの店を後にした直後。


「しかし初めて聞いたな」


 和斗は呟いた。

 ヒヒイロカネはオリハルコンの10倍の強度。

 究極鋼はヒヒイロカネの10倍の強度。

 そして天上鋼は究極鋼の30倍もの強度を誇るという。


「天上鋼か。とんでもない強度だな」


 感心する和斗にリムリアが口を開く。


「あ、知らなかった? まあボクも殆ど見たコトないけど。なにしろ天上鋼で造られた剣なんて国宝級なんだから。でもボクも驚いたよ。天上鋼が辺獄で生み出されてたなんて」


 はあ、と息を吐くリムリアから、和斗はラファエルに視線を移す。


「なあラファエル。辺獄で天上鋼が生み出されてるのなら、もしかしてココでは天上鋼で造られた武器が手に入るんじゃないのか?」

「もちろんですよ。林業師が使う武器の殆どは天上鋼製です」

「そうだろうな」


 和斗はそう答えてから、ハッとなる。


「ちょっと待て。今、林業師が使う『武器』と言ったよな? 伐採道具じゃなくて『武器』と」

「当然でしょう。林業師はブラックタワーをクリアした戦士、つまり武器を振るうのが体に染み込んでいる人達です。そんな人達に、無理やり斧やノコギリを使わせる必要もないでしょう」

「なるほどな」


 納得する和斗に、ラファエルが付け加える。


「まあ、インフェルノがどのような場所か理解すれば、全てが理解できる筈ですので、予定を変えて林業の現場を見学したいと思いますが、いかがでしょう?」


 このラファエルの提案に。


「ぜひ」

「もちろん」


 和斗とリムリアは、即答したのだった。







2021 オオネ サクヤⒸ

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